3話 空の架け橋
ジャノビーを待つこと約30分。その間にも船は着々とできているのだろう。
「いくらなんでも遅すぎる」
「ねえ……何で僕まで出席しなきゃならないの?」
エルが俺に尋ねてきた。
「だって、副リーダーだもん」
「前はサンダースだったじゃん!」
「何か、兄ちゃんが勝手に変えたらしい」
「ありなの? ねえ、ありな──」
エルの言葉を遮るようにがちゃりと入り口が開き、ジャノビーが帰ってきた。
「お帰り」
「ただいま……って、何でお前らしか居ないんだよ」
「え? 少人数の方が話しやすいかなあ、って思ったから皆は部屋に移動してもらいました」
俺は椅子に座るように促す。ジャノビーは溜め息をつきつつも座った。
「で? 決まったかい?」
「しょうがないから、ツヨイネに入ってやるよ。俺もぶらり放浪の旅にも飽きてきたしな」
この言葉を訊いた瞬間、俺はジャノビーに飛び付いた。
「やったー!」
「やめろ!」
「ごめんごめん」
あはは、と笑い、謝った。
「じゃあ、【空の架け橋】に行こうか」
「もう行くの?」
エルが嫌そうな顔をした。
「早めに行った方がいいだろ?」
「……そうだけど、腰が──」
「だろ? よし、決定だ! 行くぞ!」
俺はエルの意見を無視して、自分の部屋に向かった。
「あいつ、話聞かねえのか」
ジャノビーが腕を組んで呟いた。エルはふっ、と笑って返した。
「まあ、それがあいつだから」
「準備できたか?」
それから約10分後、俺達は家の前に集合していた。
「えーっと、嬉しいお知らせがあります。なんと、ジャノビーがメンバーとなりました」
自分で言って俺だけがパチパチと拍手している。
「登録とかしなくていいのか?」
ブースター兄ちゃんが言った。
「ああ、ギルドに手紙を送ったから大丈夫」
「そうか。じゃ、よろしくな」
兄ちゃんは頷いてからジャノビーに手を差し出し、握手を求めた。
「よろしく」
ジャノビーは照れ気味な苦笑いをして手を握った。
「さて……エルよ。《空間回廊》で神々の山に繋げてくれ」
「了解」
エルに道を創ってもらい、俺はその穴に入っていった。
―神々の山―
「やあ、ジラーチ」
「やあ。行くんだね?」
「うん。いつでも準備オッケーだぜ」
ジラーチがエルの開けた穴に入り、俺もその後に続いて家の前に戻った。
「さて、君達準備はいいかな? じゃ、行ってらっしゃい!」
ジラーチが右手を上げた瞬間、俺達の体が中に浮いた。そして青い光に包まれながら【空の架け橋】まで飛ばされた。
―空の架け橋―
「……ここが、【空の架け橋】」
着地をした俺は空の架け橋の外壁を見上げた。どうやら神殿のような造りになっているようで入り口の両隣に像がおかれていた。
その像はポケモンを型どっているようだが見たこともない種族だ。ただ、片方はスバット、もう片方はレントラーに似ている気がする。
だが、あくまで『似ている』だけであって、別のポケモンであることは間違いないだろう。
と、一匹で考え込んでいると誰かに肩を叩かれた。振り返るとグレイシア姉ちゃんが心配そうな顔で俺の肩を掴んでいた。
「さっきから険しい表情で像を見てるけど、大丈夫?」
「ああ、うん。あの像が気になってね……そういや姉ちゃん、何か落ち着いた?」
「どういうことよ?」
質問したつもりが逆に返されてしまい、回答に悩んだ。
「えー……去年、一昨年ぐらいまでは殺意が沸くほど俺に抱きついてきたけど、今はそんなんじゃなくなったよ」
「あーら、激しいのがお好みだったかしら?」
「べ、別に……」
「冗談よ、冗談。あ、顔真っ赤にしちゃって可愛いわねー」
姉ちゃんはくすくすと笑って俺の頭を撫でた。
「さ、早く行きましょ。皆に置いてかれてるから」
「うん」
俺は姉ちゃんの後ろをゆっくりとついていった。
空の架け橋──内部はきっと難関なダンジョンになっているのだろう。久しぶりのダンジョンにどきどきしながら足を踏み入れるのだった。
しかし、やっぱり像が気になって、最後にちらりと見ることにした。