70話 親子喧嘩
「オラアッ!!」
ルーファが右ストレートを打った。俺はしゃがんで避け、続けて敵の腹に左ストレートを喰らわす。
「がふっ……!」
体をくの字に曲げて呻くルーファ。小さくジャンプして体を捻ったアイアンテールを叩きつける。
種族柄に軽い彼は派手に吹っ飛び、地面を転がった。
「んだよ……。こんなもんかよ、当時のナンバーワンは──!?」
舌打ちした、その刹那、俺は宙を舞っていた。何が起きたか分からなかった。
地面に背中から激突して呼吸できなくなる。
「どうした? もうおしまいか?」
ルーファは、俺が見せた一瞬の隙を逃さなかった。凄まじい速度で起き上がり、何らかを投擲してきたようだ。
「うるせえ!」
リミッターを解き、《氷雪剣》を造る。右手に持ち、ルーファ目掛けて走る。
ルーファが反撃にでた。右足を振り上げてパリィしようとする。
遅い! ルーファの蹴りよりも一瞬速く、刃は左足を切り裂いた。
「あああッ!!」
苦痛で叫ぶルーファ。ゴロゴロ転げ回っていて超がつくほど無防備だ。
いっそ、一思いに終わらせるか……。氷雪剣の柄を両手で握り、頭の上に掲げる。
そして、ルーファの眉間に一気に降り下ろす。
「二度目だぞ」
ルーファの口から龍の波導が発射された。剣を振り上げていた俺の顔面に直撃した。
更に足を払われ、不様に尻餅をつく。
「《リミット=カタストロフ》!」
立ち上がりながら技を発動する。これは、リミッターの上限値を無くす禁術だ。デメリットは、数日間力が出なくなることだ。
体中にリミッターを解除した時よりも更なる力の奔流が俺を包む。
「せいッ!」
音速に等しい速度で踏み込み、氷雪剣を水平に薙いだ。
反応しきれなかったルーファの腹を浅く抉る。
まだ、まだ止まらない!
右に振り抜かれた剣は、血の飛沫を刀身に宿らせながら左上に跳ね上がった。次いで、俺自身も飛び上がり、脳天から垂直に叩き切る。
この三連撃の時間、僅か三秒。一撃一秒の計算になる。
深傷を負った彼は額から股の所までに直線の傷が走っている。何故、半分に切断されていないのか?
それは最後の一撃の時、数センチ後退することでルーファは真っ二つになる、ということは免れたようだ。
「ぐ……ぅ……」
苦しそうに呻き、方膝をつくルーファ。今度こそは心の底からの声のようだ。
「流石に、殺しまではしない」
言うとしゃがんでいて丁度良い位置にいるルーファの頬を蹴っ飛ばした。
歯が二、三本抜け落ちた。
「まだまだッ!!」
首を掴み、地面に押し倒す。ギリギリと絞首する。
「やめてッ!!」
背後から女性の声。振り返らずとも分かる耳障りな声。
「何の用だシルク」
「やめて……ルーファが死んじゃう!」
シルクの頬を涙が伝う。雫が地面に落ちた瞬間、ルーファの右手が俺の手首を掴んだ。
「ッ!」
空いている左手でマッハパンチを腹に喰らわせる。続いて首から右手を離し、《シャイニングブロー》をルーファの顔面に当てる。地面にめり込み、動かなくなる彼。
その姿を見たシルクは声を上げて泣いた。
「…………」
目眩がする。地震の時のように上手く立っていられない。
「げん……かい……か」
仰向けに倒れ、死んだように眠る俺。
〜☆★☆★〜
次に見たものは、真っ白い天井だった。いつもの二段ベッドではない。それと薬臭い。
病院か?
右を見ると、窓からさんさんと暖かい陽射しが降り注いでいる。左を見れば、ルーファが林檎を食べていた。
「生きてたのか……」
「ああ、死んだかと思ったけどな。……なあ、何でお前は俺達と一緒に住みたくないんだ?」
短い沈黙が始まった。
「……助けてやったのにお礼も言わないから。それと金欠だから」
「そうか、悪かったな。……じゃあ改めて、ありがとう」
「どういたしまして。ま、まあ一緒に住んでも良いんだけどさ、本当に金欠なんだ。だから、ジャローダの家に居候してもらいたいんだ」
「そうかぁ、分かった」
「あ、でも今度ジャノビーとルミナが家を建てるからそれが完成したら一緒に住もうぜ」
「……分かった。楽しみに待ってる」
俺とルーファ──いや、父さんは目を合わせて微笑んだ。
丁度その時、母さんが病室に入ってきた。
「シルク、朗報だ。暫くしたら家族プラスお友達で暮らせるぞ」
「本当に!?」
母さんは俺を見詰めた。少し照れ臭かったけど頷いた。
「やった───!」
はしゃぎながら母さんは俺に抱きついてきた。ピシッ、という骨が軋むような音が聴こえた。
「いっでえええええ!!」 この後、俺は肋を二本折った。
【完】
《探検隊ツヨイネの航空録》
to be Continued