68話 帰還
「じゃあ、俺達は帰るから」
サタンに別れを告げ、来た道を戻ろうとする俺達。
「ねえ、永久の旅路と亡者はどうすんのよ」
師匠に訊かれる。
しまった。そのあたりの対策を練っていなかった。「俺が送ってこうか?」
サタンが乗り物のような物を持ってきた。
「何それ」
エルとルカリオが興味津々に近づく。
「これはな、対亡者専用の車だ。ほら、先端に槍がついてるだろ?」
ゴツくて大きくな黒い車体の、本来ならばランプがあるはずの場所に厳つい槍が設置されている。
「こいつで亡者を、串刺しだ」
槍をポンポンと叩く。切っ先に触れただけで切れそうなその刃はサタンに応えるかのようにキラリと輝いた。
「いつでも行けるけど?」
「ああ、頼む」
「よっしゃ! 全員乗れぃ!」
ずかずかと皆で乗り込むがスペースが沢山あり広々としている。
「なあ、船までどれぐらいかかるんだ?」
サンダース兄ちゃんが尋ねた。サタンはうーん、と少し唸って答えた。
「三十分くらいかな?」
アクセルを踏み、爆発じみた音を鳴らして出発する。
亡者が唸り声を上げながら車に近づいてくるが、無慈悲にもサタンは撥ね飛ばして行く。
「イーブイ。シナリオのこと、秘密だからな」
サタンが俺の耳元で囁いた。俺は、楽しくはしゃぐ皆をちらりと見てから、頷いた。
「分かった」
「そんな落ち込むなって、未来がどかーんと変わってるんだから、俺の言った決断も来ないかもしれないぜ?」
急カーブに差し掛かり、サタンはハンドルを右に回した。
「だよな……」
励まされてもやっぱり不安は拭えず、溜息をついた。
〜☆★☆★〜
「じゃあな。気をつけて帰れよ」
「ああ、お前もな」
サタンは車のフロントガラス越しに手を振った。そして方向転換して、亡者を轢きながら帰っていった。
「さあ、帰ろうぜ」
ミミロップが舵を握り悠久の航路へと旅立った。
「エル、太陽の国に回廊を開いてくれないか? その後、月、星、風もな」
「いいよ」
エルが《空間回廊》を開く。回廊を通って太陽の国の王城に入る。
「ラグラージ王、只今戻りました」
「おお! 久し振りじゃな。ルミナは元気かの?」
「ええ。俺達はポケトピアに帰ります。ルミナはどうしますか?」
「彼氏がいるんじゃろ? ポケトピアで住ませてやってくれ。これであの子達の家を建ててやってくれ」
王はポケがぎっしり詰まった袋をくれた。
「わかりました。では、さよなら」
回廊を通り船に戻る。
「じゃあ次は月に」
「はいよ!」
十分程度で国を回りつくした。風の国は前よりかは更正されていた。
国のポケモン達と農業をするエンニュートにあったのを見たからだ。
エンニュート曰く、「ま、まあこれからは仲良くするわ!」だそうだ。
「……スカイランドでも色々あったな」
無限の青空に聳える島々を見ながら俺は言った。
「また来る?」
「さあ、な」
エルと顔を合わせてにひひ、と笑う。
「まあ、残る問題は後一つ……。ルーファとシルクをどうするか、だ」
「君はどうしたいの?」
「別居」
「即答だね……。何がそんなに嫌なの?」
「急に親面されること」
「……僕は君の家族じゃないから何とも言えないけど、確実に反対されるね」
「そこが問題なんだよ。あ、ジャローダに任せようぜ」
「ええ!? 絶対ジャローダに殺されるよ!」
「知ーらね!」
俺はルーファとシルクの元へ走っていった。
「ルーファ、シルク! お前らの家を見つけてやったぞ!」
「住ませてあげるの!?」
シャワーズ姉ちゃんとグレイシア姉ちゃんの顔が輝いた。
「いや、ジャローダの家に住んでもらう」
えー? と不満の声が上がる。ルーファとシルクは無言のまま俺を見つめている。
「……分かった。父さん達はジャローダに頼んでみるよ。イーブイ、これがお前の選択なんだな」
『お前は決断をすることになる』
サタンの警告が頭の中で再生される。
「ああ、そうしてもらう」
「たまには帰ってきてね」
エーフィ姉ちゃんが涙を目に浮かべながら両親に抱きついた。
「もちろんだとも」
俺はすたすたとその場から離れ、ジャノビーの部屋に行く。
「おい、これ、ラグラージ王からの結婚祝いだ」
貰った袋をジャノビーに投げる。
「サンキュー。……うおッ! 一万ポケ札がぎっしり!」
開けてビックリとはまさにこの事だろう。
俺も覗いてみたがこの金額だと豪邸を建ててもお釣りが還ってくるぐらいだ。
「でっかい家を建てろとさ」
「分かってるよ」
じゃあ、とジャノビーに告げ、部屋を出る。
空を見上げると、スカイランドが離れていく。当分来ることもない世界。
船は雲に入り、いよいよポケトピアが近づいてきた。