58話 これって……?
「──んー……?」
俺は、寝ていた。レジギガスの上から何者かに連れていかれ、ふかふかのベッドの上で寝ていた。
落ち着いて周りを見ると、ここがどこなのか判明した。
俺とエルの部屋だ。
「あ、イーブイ……ッ。起きたんだね」
右隣を見ると、エルが顔をしかめて言った。まだ痛むのだろう。
「俺達は今どの辺にいるんだ?」
「分からない。でも、サタンのいる【夢幻城】に近づいてることは確かだよ」
「こんなぼろぼろの体で戦えるのか?」
「無理だろうね……。でも、サーナイトの作った薬をエーフィが、あーんして、って飲ませてくれるんだー」
顔を赤らめ、くねくねと気持ちの悪い動きをする彼。
ガチャリ
「ほら、噂をすれば」
ドアを開けてやって来たのはアブソルとエーフィ姉ちゃんだった。
「はい、あーんしてね」
姉ちゃんは薬を匙で掬い、大口を開けるエルに飲ませた。
「イーブイ、あーん」
まあ多少恥ずかしいが、女の子からあーんして貰う機会なんかそうそうないだろう。
「あー──いや待った!」
薬を飲まされる途中、ちらりと匙の上に乗る液体の色を見てしまった。
「な、何?」
アブソルはぎょっとした表情で俺を見る。
「変な色してるけど大丈夫なの!?」
「薬なんてそんなもんよ」
「いつの時代の話だよ! 今はもっと錠剤とかこなぐふッ!!」
抗議している最中に思い切りスプーンを突っ込まれた。
「むー……味は悪くないな。変な物ほど美味いとか言うしな」
「じゃあ、また来るから。大人しくしてるんだよ」
頬に触れるだけのキスをされ、俺はドキッとした。アブソルの顔が紅く色づいている。
「どうだった?」
「え? 何が?」
「キスだよ、キ・ス」
エルがニヤニヤ笑っている。
「よく……分からない。嬉しかったし、恥ずかしかった」
俺は仰向になり、天井を見上げながら言う。
「恋、したんじゃない?」
「んなこたぁねえぞ。俺、別にアブソルのこと好きじゃないし」
「ふぅ……僕は寝るよ。君もいつかは気づくはずさ」
そう言うと、エルはごろんと横になった。そして、直ぐに寝息をたて始める。
「…………」
キスされた頬に手を当てる。家族以外からの……初めてのキス。
「考えてもしかたねえ! 俺も寝る!」
△▼△▼
「びっくりしたね」
ゾロアークが飛行石の前で呟いた。
「うん。エリアルハート近づけた瞬間に紫色になったもんね」
隣にいるのはルカリオ。清らかな水色から透き通るような紫色になった飛行石、改めエリアルハートを見上げる。
「現代科学じゃ証明できないことが起きてるよね」
「まあ、僕達の探検隊が世界一ってとこから非現実的だから今更驚かないよ」
ルカリオは目を細めて笑った。それにつられてゾロアークも微笑んだ。
「今、どの辺を飛んでるのかしら?」
「イーブイの持ってた本を読んだけど、四つの島の中央にある航路は【悠久の航路】って言うんだってさ」
「時間がかかるのかな?」
「いや、エリアルハートのページも読んだけど、これがあれば悠久の航路にかかる時間が二日で済むけど、無しだと一ヶ月かかるんだって」
「それじゃあエリアルハートは必要不可欠って訳じゃないのね」
「んー、まあそういうことだろうね」
ルカリオとゾロアークは議論を終了させるとエンジン室から出た。
〜☆★☆★〜
「はぁ〜い! お薬の時間だよー」
ロコンが塞がった両手の代わりに尻尾でドアを開けて入ってきた。
「ほい、口開けて」
アブソルの時同様に口を開けるイーブイ。見た目最悪の薬を飲み込む。
「アブソルもしたそうだしね」
何をするのかと思っている彼は、ただ呆然と見つめていた。
なんと、ロコンは額にキスしたのだった。
「!?」
「アブソルはほっぺだったんでしょ? 流石に唇はいただかないわ」
驚いた表情のイーブイに背を向けてけらけら笑いながら部屋を出ていった。
「はぁ……早く、夢幻城につかねえかな」
薬のせいか、幾分か眠くなってきた。俺は再び目を瞑り、夢の世界へ旅立った。
「これでイーブイの嫁は確定ね」
アブソルが悪タイプ特有の悪顔をする。
「あーら、それはどうかしら? 私だって嫁候補よ」
アブソルが振り向くと、ロコンが立っていた。
「どういうことよ」
「あんただけだと思った? 残念だけど、私もしたのよ、おでこに」
ツンツンと自分の額を指す彼女。
「私、ロコンとは争いたくないわ……。ならいっそ、一夫多妻になりましょ!」
「いいわね!」
彼女達の笑い声は天高く響いたそうな……。