57話 再生
「諦めてんじゃねえ!!」
飛空艇から見ていた俺は、エルが殺されそうなのをいてもたっても、いられず単身でデカブツことレジギガスに突っ込んでいった。
「エルを離しやがれッ!」
《草双剣》の右手にある剣を垂直に振り下ろす。多少堅かったが、折れる覚悟で切り裂いた。
「ウガァァアアアアッ!」
右手首を切り落とし、エルを救出する。
「イーブイ!」
はっ、と振り返るとエーフィ姉ちゃんが走ってきていた。
「姉ちゃん! エルを頼む!」
姉ちゃんにエルを託し、俺はレジギガスを正面から睨んだ。
地面を蹴り、一気に距離を詰める。
「オラッ!」
二本の剣を水平に振り抜く。狙うは足。機動力を無くしてやる。
それを察知したのか、レジギガスは俺を踏み潰そうとしてきた。
「んな鈍い攻撃あたんねえよ!」
素早い動きでレジギガスを翻弄する。その合間にもきちんと足を切っていく。
そろそろ右足が壊れそうだ。体を捻って渾身の力でアイアンテールを叩きつける。
ビシビシッ! と踵から腿にかけて、亀裂が生じた。
ぐらりと上体が傾き、地面に前のめりに倒れる。
「……動かなく……なったか?」
倒れた直後から、ピクリとも動かないレジギガスを見る。
「戻ろう……」
《草双剣》をしまい、心に微かな不安を残してその場を後にする。コツン、と何かが足に当たった。それはレジギガスの破片だった。
「こんな所までかけ──はあ!?」
──欠片が、動いた!?
破片はカタカタ動いて、レジギガスの元に集まっていく。
奴の体が再構築されていく。十秒後、完璧に直ったレジギガスはゆらりと立ち上がると、俺の方を見た。
「ガァアアアッ!!」
レジギガスが消え去った左腕と直った右腕を広げ、体勢を低くして暴走車の如く、走ってきた。
「うおッ!!」
エルに消されたのであろう平たくなった頭を踏み、跳躍する。
「ぃッ!」
着地の瞬間、でこぼことした地面に足をつき、情けないことに捻挫した。
「ウゴオオォアアアア!!」
「マジかよ!?」
二度目の突進。痛めた足を庇って避けようとする。だが、心なしか、レジギガスの走行速度が上がっている気がした。
タイミングを過った俺は、体格差のせいで三十メートル以上吹っ飛ばされた。
堅い地面への激突の瞬間、左肩を強く打ち付け、頭を大きな岩にぶつけた。
「うぅ……」
──立てない……。体が言うことを聞かない。まるで、死を受け入れたかのような……。
──でも、ここで死ぬわけにはいかないんだ! 動けッ! 動けッ!動けえッ!
脱臼していない方の手で無理矢理立ち上がった。大量出血のせいか、視界がぼやける。
俺は、何かの本でレジ系に関するものを読んだことがあるのを思い出した。
「漸く、分かった……。てめえを殺す方法が……!」
リミッターを解くと、アドレナリンが体内で大量分泌され、一時的に痛みがなくなる。
──レジ系は、何度倒しても復活してくる。
敵の攻撃を紙一重で、時には掠り傷を負いながら避ける。
──しかし、レジ系の胸の中央に埋め込まれているコアを抜き取れば二度と復活することはなく、ただの土塊に戻る。
「笛なんか吹けないけど、あれぐらいならいけるはずさ!」
リミッターの効果か、自信過剰になり、一度たりとも使うことは愚か、触れたことすらない《草笛》を吹く。
「出た!」
耳をつんざくような大音響の後、音の発射口から深緑色の鞭が伸びた。
「届けえッ!」
ビュルルル! と伸びた鞭は長さ制限が無いようで、使用者の意思に影響するようだ。
レジギガスの両足に巻き付いた鞭を思い切り後ろに引っ張った。
ぶつけた左肩がミシミシ嫌な音をたてる。捻挫した足にもかなりの負荷がかかる。
「ぅ……ぉ、オオオオアアアアッ!!」
腹の底から吼え、踏ん張る。レジギガスの足がふわりと浮いた。そのまま、自由落下する巨体は派手な砂煙をあげて仰向けに倒れる。
「させるかああああッ!!」
起き上がろうとする右腕を肩口から氷雪剣で切り落とし、瞬間移動なみの速度で左の肩口から叩ききる。
《氷雪剣》を投げ捨て、《火爪》を両手両足に嵌める。
ぐぶぅ、と胸に燃え盛る爪を刺し込む。レジギガスの堅牢な胸部を溶かして、溶かしつくして、コアを掴む。
目の端で再生しつつあるのを確認する。ここで失敗すれば俺は死ぬ。
コアを一気に引き抜き、地面に叩きつけて粉砕する。
するとレジギガスは再生機能を失い、急速に風化していった。ホワイトカラーの体は土色に戻り、還っていった。
「へ、仇はうったぜ……」
言い終えると同時に、バタンと倒れ、気を失った。
△▼△▼
「あーあ、こんなボロボロになっちゃって……」
戦況を見ようとしたグレイシアだったが、既に戦いは幕を降ろしていた。
「よーい──しょっと」
彼女はイーブイを背中に背負って船まで歩きだした。