55話 空の心
エルフーンが両手を合わせて、ハンドガンを持つような構えをとった。
「マシンガン」
「れ、連射だ! 逃げろ!」
ドドドドド、と本物のマシンガンのような音をたてて米を射ってくる。
「《水柱》!」
シャワーズ姉ちゃんが自身の前に水でできた横長の直方体を作成した。
米はその中に入った瞬間、威力を無くし、水中でふやけてしまった。
「《ストップ》!」
俺は当たりそうになるが寸でのところ、回避する。
「おりゃあああッ!!」
ブースター兄ちゃんが火炎車となってエルフーンに飛び込んでいった。
エルフーンは後方宙返りで華麗に躱す──が、兄ちゃんのその後の行動は予想していなかったようだ。
何故ならば、兄ちゃんは避けられた後、自ら壁にダイブして、跳ね返り、上空から俺らを狙い射とうするエルフーンの背中に直撃させた。
「ぐ……ぁ」
エルフーンは腹から床に落ち、呼吸困難に陥る。
「畳み掛けろ!」
宙に浮く兄ちゃんのお陰で、急いで奴を取り押さえた。
「こんな、終わりなんか認めないわ!」
「認めようが認めまいが、勝負はついたんだ。諦めろ」
喚き散らすエルフーンを俺は宥める。
「なあ、縄とかないの? こいつの爪がめっちゃ痛いんだけど」
ブラッキーの腕には深々と爪が食い込んでいる。
「縄ならお任せあれ。これ、覚えてる?」
リーフィアが前に進み出る。手には角笛のような物を持っている。
「いやぁ……?」
「はは、デスヨネー。こんなマイナー武器」
しゅん、とした表情になるリーフィア。
「《草笛》って言って、ほぼ使ってないんだよね」
リーフィアが息を大きく吸い込んで、思い切り笛を吹いた。
ピィ────!
異常に高い、鼓膜を突き破りそうな音が響く。
すると、リーフィアの笛から、深緑色の蔓がびゅるっ、と伸びてきた。
「《草笛》を鞭にできるように改良したの」
ピシャアンと自分の身の丈に合わない鞭を床に打ち付けた。
「多少練習したのよ」
言いながら、鞭を振った。獲物に絡み付くジャローダの如き速度でエルフーンを捕らえた。
「さあ、これで一安心でしょ!」
リーフィアは得意気だ。誉めて、というオーラが滲み出ている。そこをブースター兄ちゃんが誉めた。
「偉いぞ、リーフィア!」
「えへへ〜でしょー」
シスコン、ブラコンはほっといて、この城のどこかにあるエリアルハートを探す。
「あ、地下室だ」
階段を見つけ、皆を呼び集めて地下に降りる。その地下室は教会のようになっていた。
石畳の床。木製の長椅子。そして奥には深紅の輝きを放つ宝石の祀られた祭壇。
「あれが……エリアルハート」
吸い寄せられるように近づく俺ら。まるで、魔性に魅いられてしまったかのように。
「これがあれば、サタンの所に行けるのか……」
宝石を手に取った瞬間、城が揺れだした。
「何てことを!」
口に咥えさられていた蔓を噛み切ったエルフーンが叫んだ。
「どーせ、ベタなパターンで城が崩れるとかだろ」
鼻で笑うサンダース兄ちゃん。
「いや、あんた達は第二の番人、レジギガスを起こしてしまった」
四匹目のレジ系……。きっと体格はポケトピア産とあまり変わらないのだろう。
「早く外に出ろ!」
エルフーンがじたばた暴れる。元、城主がここまで慌てるのだから相当まずい状況なのだろう。
「取り敢えず外に出るぞ」
エルが《空間回廊》を開き、その穴を通って俺達は脱出した。
城の崩壊は中々の見ものだった。
両サイドにある太い塔が轟音と共に崩落していく。次いで、天辺にある寝室のような場所が砕け、破片が広間にぶつかり、破壊が破壊を招き、崩壊が崩壊を促進させる。
城はものの一分で廃墟とかした。
「何だ、レジギガス何ていな──」
フォッコがそう言いかけた時、二度目の震動。
地中から白い指に黄色いリングのような物を巻いた手首、黒色の線が刻まれた腕が伸びてきた。
それは、だんだんと頭部を現し、胴体を出土させた。
草の生えた肩に中央に黄色い出っ張ったライン。そこには七つの黒点がある。
胸の辺りには左右対称の六つの目玉のようなマーク。上から順に赤、青、灰色だった。
「こいつが……レジギガス。正直嘗めてたわ。もっとちっちゃいかと思ってたんだけど……」
身長三十五センチの俺にはでかすぎる相手だ。
でも、こんなところで退いたらそれこそ船を破壊されかねない。
「俺がこのデカブツを食い止める。だから、先に船に乗っててくれ」
「だりゃせい!」
「タオッ!?」
エルに思い切り頬を殴られた。
「いつもいつも君は!」
「何だ? 抱え込みすぎだってか?」
「違うよ……。君はいつも目立ちすぎなんだよ! たまには僕にも戦わせろ!」
エルが怒った。結構本気そうだ。
「ここは僕が食い止めるから。君は手出ししないでよ!」
俺とほぼ身長の変わらない友人は、巨大な敵に向かって走り出した。