54話 三匹目の王族
エルフーンに見つめられているルカリオは、小刻みに震えている。
「貴方は……、ルカリオね?」
彼はこくりと頷いた。
「どうしたのよルカリオ?」
ゾロアークがルカリオの肩に手をかけた瞬間、ビクンッと飛び上がった。
「ひぁッ!? ……ゾロアークか……。吃驚させないでよ……」
ルカリオの呼吸は荒く、額には脂汗が浮いている。
「僕は、君を、知らない、のに……何で、こんなにも……怖いんだ?」
「あ、記憶を封じたんだっわ」
エルフーンは手を口に当ててクスクス笑った。
「この天空城はその子の祖父の時代から始まったわ。つまり、ルカリオは三代目の王様なのよ」
「違う、僕は知らない……」
「覚えてるわけないじゃない。記憶を封印されているの。だから、思い出させてあげるわ」
そう言ってエルフーンは語り始めた。
〜☆★☆★〜
──あれは、十年前のこと。私は天空城に住まう米の神だった。
ある時、中年のルカリオがやって来た。そいつは衛兵に、私を摘まみ出せ、と命令した。
当時の私は何がなんだか分からなくて、そのまま追い出された。
でも、ある宣言をした。
『百年後、再びこの城に戻ってくる! その時が貴様らの最期だ!』、と。
そして、月日は流れ、約束の百年がきた。初代の王は既に亡くなり、息子のウォッカが王になっていた。
私は、城に入るやいな、米を乱射した。米は駆けつけた兵士を蜂の巣にした。
白いカーペットには血が飛び散り、赤く染め上げた。
『百年前の約束、果たさせて貰うぞ!』
私が叫ぶと、王子を守るために兵士達が襲いかかってきた。けど、米で心臓を貫いて殺した。
『さあ……新たなる王よ。祖先の無礼を悔いるのだな!』
私が指先をウォッカに向けた時、ルカリオが前に立ちはだかった。
当然、射つつもりだった私は、──それでも少し軌道を変えたが──彼の肩を射ち抜いてしまった。
『ルカリオ! 頼む! 息子だけには手を出さないでくれ!』
『……私には一生理解することが無いもの。それは、愛。良いでしょう。その子の記憶は封じておきます。ただし、条件が一つあります。何を訊かれても真実を話してはいけません』
『分かりました。ありがとうございます』
『太陽の国付近に住みなさい。あそこならば快く受け入れてくれるでしょう……。さあ、行きなさい。二度と来るのではないですよ』
ウォッカは傷ついたルカリオを抱えて、大急ぎで逃げ出した。
〜☆★☆★〜
「嘘だ……。そんなの嘘だ!」
ルカリオが殴りかかった。心が乱れているせいか、動作が荒々しい。
「嘘をついて、何の意味があると言うのかしら?」
エルフーンはふわりと跳ぶと、ルカリオの肩に座った。
「今のは全て本当の事。きっとあのくだらない本にも書いてあるわ」
エルフーンが俺を横目に見た。
流石、神。何でもお見通しかよ。と苦笑する俺。
「米の神、米の神……。あ、あった。えーっと──」
皆に聞こえるように、読み上げる。
──エルフーン。通称、米の神。こいつは出会った中でも最悪の部類にはいる。
百年の呪いで祖父の築いた王国を破壊した。恐ろしい奴だ。
しかし、長年の研究でエルフーンの弱点が解った。
ルカリオの肩に突き刺さったままの米を栽培して、実験した。何が有効なのかを知るために。
結果から、効果的なのは水、火。この二つぐらいだろう。
火は、吹き掛ければ消し炭にできる。水を浴びせればふやけて無害となる。が、気持ち悪いので気を付けるべし。
「な!? 私の弱点が!」
今度ウォッカに会ったら礼を言おう、と心の中で誓う俺だった。
「そうと分かれば恐くない!」
ブースター兄ちゃんが《火爪》を装備した。
「弱点が分かったぐらいでいい気になるな! 何個もある型を知らないくせに!」
「兄ちゃん、待って!」
しかし、彼は聞く耳を持たずに走り出した。《火爪》から放たれる業火によって床に焦げ跡の軌跡をひく。
「ショット」
エルフーンが手で丸を作った。そこから、大量の米がドバッ、噴出した。
「うおっ!?」
鋭い反射による、火炎車で事なきを得たが、エルフーンは様々な銃の型を持っていると見られる。
ショット、が散弾ならば、他には何があるのか?
慎重に攻めねばならぬだろう。