52話 異常気象
四神器を集めた俺達は【エリアルハート】を求めて天空城に行くことになった。
現在時刻は午後二時。今ぐらいの季節ならば丁度いい気温のはずだが、城に近づくにつれ、寒くなっていく。
「ぶえっきしっ!」
ド派手なくしゃみをかます。この気温で平気なのはロコン、ブースター兄ちゃん、グレイシア姉ちゃんだけだろう。
ルカリオは見栄はって「波導の力があれば大丈夫さ!」とか言って歯をガチガチ鳴らしている。
「兄ちゃーん。暖をとらせやがれ」
兄ちゃんの部屋に入ると──先客がいた。
「あれ? お兄ちゃん。一足遅かったね」
リーフィアが憎たらしいほどの笑顔で俺を見る。
「悪いな、他を当たってくれ」
兄ちゃんも兄ちゃんで満更でもなさそうだ。イラッときた俺は《氷雪剣》をだす。それを床に突き刺し、一言。
「冷気よ、吹き荒れろ!」
びゅおおお、と剣から凍てつく風が発生する。
「おい! てめえ何すんだ!」
「リーフィアの笑顔にムカついた。数分したら消えるから我慢しな」
それだけ言い残して部屋からでた。
「しょうがない……ロコンを頼るか」
が、ロコンにも先客がいた。アブソルと抱き合って暖まっている。
「あ、イーブイも来る?」 ロコンに尋ねられたが首を横に振る。
「いや、遠慮する」
「いーからおいで!」
立ち去ろうとしたところをアブソルに捕まった。
俺はアブソルとロコンが抱き合う間に挟まっている。
暖かいには暖かいのだが、恥ずかしい。女子に抱えられている俺。
ああ、何と情けないのだ!
「そういえばミミロップはどうしてるの? ずっと操縦席にいるけど」
「なんかハイテクマシンがあるって」
ハイテク。この単語が俺のハートに火をつけた。
「俺、ミミロップの所に行くわ」
二匹の間から抜け、操縦席へ走る。その後ろにロコンとアブソルもついてくる。
「おーい、ミミロップー」
「や、何か用かな?」
「寒くないのかなって」
「ご心配なく。大股三歩、前に来てごらん」
言われた通り進む。
「あったけえ!」
「そうでしょそうでしょ。実は暖房を改造して設定した範囲内に暖気を送り込むのよ」
──うーむ、ちんぷんかんぷんだ。けど、凄いことは凄いのだろう。
「ンあ?」
ポツリと頭に何か降ってきた。空を見上げると、無数の雨粒が落ちてきている。
「うわっ! 雨だ!」
手で頭をガードするが、とても防ぎきれる量ではなく全身びしょ濡れになる。
「うわッ! 暑ッ!?」
さっきまでの雨は止み、冷気も消え去った。
しかし、代わりに真夏の陽気を思わせる熱気が降りかかってくる。
「おかしい! おかしいよこの天気!」
そう叫びながらシャワーズ姉ちゃんが走ってくる。
「天空城に近づくにつれて天気の代わりかたが変になってる。まるで、行く手を阻むかのように……」
ミミロップが真剣な表情で呟く。そして今度は潮の香りがしてきた。
「海?」
くんくんと辺りの匂いを嗅ぐ。新鮮な潮の香り。さっきみたいに暑ければ最高なのに……。
「また寒くなってきたよ……」
アブソルが身震いした。あれ? ここは、暖房圏内なのに……?
そう言われれば俺も背筋がぞくぞくしてきた。
「ミミロップ、どういうこと?」
俺が肩越しに尋ねると彼女は申し訳なさそうに答えた。
「先程の雨と潮で暖房がぶっ壊れました……」
「ええッ!?」
一同、絶叫。漸く暖まれると思った矢先にこれだ。
人生楽ありゃ苦ある、って言うけど、探検隊って《苦》ばっかりだなあ……。
「でも、安心して。見えてきたから」
ミミロップの指差す方向に目を凝らす。その先にはゼクロムの時よりも酷い黒雲が浮かんでいる。
時折、雲の切れ目から稲妻が輝く。
「あの中に突っ込むの?」
「それしかないでしょ」
ロコンの泣きそうな顔に、ミミロップは冷たくあしらった。
「そうだ! 皆待ってて!」
俺は駆け出した。電気に強い奴がいる場所へ。
「兄ちゃん!」
「お、何か用?」
サンダース兄ちゃんの手を引っ張って連れていく。
いや、引きずって行く、の方が正しいな。
「兄ちゃん、ごめんよ」
俺は兄ちゃんに本気の往復ビンタを喰らわせた。
ゲーム的な表現をするのならば、彼のヒットポイントは危険域を示すぐらいに減っているだろう。
「一番高いとこ、一番高いとこ……。あった!」
ぐるぐる周りを見て、空賊旗を見つけた。
そこに兄ちゃんの部屋に行く前に、エーフィ姉ちゃんの部屋から除いていた赤い紐──一体何に使うんだ?──でサンダース兄ちゃんを括りつけた。
「完璧!」
急いで全員に指示をだす。
──貴金属は外して、姿勢を低くしろ! と。
「雲に入るよ!」
ミミロップが叫ぶ。それに合わせて、全員が身を寄せあって屈む。
ビシャアアンッ!
凄まじい閃光と衝撃音。尻目にサンダース兄ちゃんを見ると、雷に撃たれて徐々に回復している。
抜けきれるか?