壱ノ章 仁ノ巻
暗く深い森の前にリーフがいた。
リーフ「ここがそうかな?」
リーフが受ける試練の場所は、選ばれしポケモンしか入ることが許されない森。通称、『サイレントフォレスト』。
ダンジョン内はひんやりしていて、なぜか風も吹かない。そのため、草木が揺れることもなく、本当に無音の状態になっている。
また、ダンジョン内のポケモン達もかなりの手練れで足音すらたてない。なので気配を感じない限り、相手の技をかわすことは出来ない。
しかも相手は容赦無しに攻撃を仕掛けてくる。
リーフ「ま、いいや。行こう。」
覚悟を決め(?)、森の中に入っていくリーフ。
ーサイレントフォレストー
リーフ「寒っ!やだもう、帰りたい。」
グチグチと文句を言いながら進んで行くリーフ。
まだまだ序盤で敵は出てこない....と思った矢先、リーフの斜め後ろの草村から音もなくポケモンが現れ、“リーフブレード”を繰り出した。
リーフ「あっ、かわいいお花。」
リーフは道のわきにあった小さく赤い花に目がいき、花に向かって歩み寄る。その時
ドォン!
という音がしたことに気がついたリーフ。振り返って見てみると、さっきまで自分がいた場所に一匹のポケモンがいた。しかも地面が少し削れ、凹んでいる。
ツタージャ「....あなたが初めてよ。私の不意打ちをかわしたのは。」
リーフ「かわした?わたしはただ、、」
ツタージャ「まあいいわ。これから始末するから。」
リーフ「!?」
リーフは今の一瞬、何があったのか理解出来なかった。
ツタージャが喋り終わった後、一瞬でリーフとの間合いを詰め、“リーフブレード”を繰り出したのだ。
リーフは吹っ飛ばされた。
だが、ツタージャの猛攻は止まらない。また一瞬で間合いを詰め、尻尾でリーフを薙ぎ払う。一応リーフはガードしたのだが、あまり意味がなかった。
ツタージャの猛攻を受け、地面に叩き付けられるリーフ。
砂煙が立ち込む。
ツタージャ「....まだ生きてるでしょ?」
リーフ「.............。」
ツタージャ「?あら、何?死んじゃったの?」
リーフ「....ふふ♪」
ツタージャ「!!!」
リーフ「....う〜ん。ん?あれ?私、何してたんだろう?確か....」
リーフは思い出せる範囲で思い出した。
リーフ「!そうだ、私、ツタージャにボコボコにされて....」
だが、辺りを見回してもツタージャの姿はなかった。
リーフ「その後の記憶がないんだよな〜。ま、いっか。」
いつものリーフに戻り、先に進んで行く。
ツタージャ「ハア....ハア....ハア....何だったのあの子。思い出しただけでも身震いするわ。あの時の顔、そしてあの強さ。あれじゃあ、まるで....」
ーーーー“悪魔”じゃない....
リーフ「ん〜。なんか静かで嫌なんだよね〜。かといって私自身何か出来る訳でもないし。ん〜。」
何か暇つぶし的なことを考えているが、何も浮かばない。
考えながら進むものだから木にぶつかってしまった。
頭を押さえ、痛そうにしているリーフ。
そんなときまた敵がやってきた。キモリだ。
さっきのツタージャとは違い、堂々と正面から歩いてきた。
キモリ「お前、この森のポケモンじゃないな。誰だ?」
リーフ「ん〜?私はリーフ。ブイズ組のリーフ。」
キモリ「ブイズ組....そういうことか。なら話は早い。」
リーフ「?........!!」
リーフはキモリの“はたく”を喰らった。背後から。しかもキモリは目の前にもいる。と思ったが、消えた。どうやら“かげぶんしん”だったようだ。
軽くぶっ飛ばされたリーフは受け身をとり、戦闘体制にはいる。
だが、キモリの速さは普通じゃなかった。
リーフが戦闘体制にはいり、キモリの姿を捉えようとしたが、キモリの姿はどこにもなかった。
いつの間にかリーフの背後に周り込み、またもや“はたく”を繰り出した。
リーフはまたぶっ飛ばされる。
キモリ「....手加減してやってんだ。少しは反撃してこいよ。」
リーフの顔には痣ができ、鼻血も軽く出ている。
キモリ「こねーのか?じゃ、もうさよならすっか。思ったより歯ごたえなかったがな。....折角だからあれで終わらせるか。」
キモリが何かを繰り出そうとした時
ツタージャ「待って!」
キモリ「あん?ツタージャじゃねーか。悪いが後にしてくれ。先にこいつを仕留めてから」
ツタージャ「それを待ってって言ってるの!今すぐ逃げて!」
キモリ「なんだ?こんなボロボロの奴が怖いのか?」
そう言ってリーフの方を見る。
だがそこにリーフの姿はなかった。
キモリ「?あいつどこ行った?」
ツタージャ「わ、わからないわ。でも絶対に油断しないで。あいつは....ヤバいから。」
ーーーーウフフ、ウシロノショウメンダ~アレ?
リーフ「あ〜、う〜。頭がクラクラする。ん〜、また記憶が。私何してたんだっけ?....ま、いいや。進もうっと。」
陽気に鼻歌をしながら進んで行くリーフ。近くの草村にボロボロになった二匹のポケモンがいるとも知らずに。
リーフ「れ〜い〜こく〜な悪魔のモーぉゼ♪」
歌いながら歩くリーフ。
先ほど負った傷はいつの間にか完全に治っている。
そんなことには全く気にしないリーフ。
ツタージャやキモリとの戦いを見ていたのか、周りにポケモンがいてもびびって出てくる気配もない。
勿論そんなことは全く気にしないリーフ。(安定)
だが、ある意味勇敢な戦士(?)がリーフの前に立ちふさがる。
キマワリ「そこのきみー!止まりたまえー!」
リーフ「ん?私?」
キマワリ「そうだ!この先に進みたければこの最強の草タイプにして“冬の枯れ葉”の異名を持つ私を倒してからにしなさい!」
リーフ「?」
モブ1「あのバカ....あの戦いをみてないのかよ。」
モブ2「あーゆー奴だから仕方ない。」
周りからはモブの声がするが、二匹には聞こえてない。
リーフ「よくわかんないけど、あなたを倒せばいいのね?」
キマワリ「そのとおーーーーり!!」
キマワリは話し終わったと同時に“はっぱカッター”を繰り出した。
それを難なくかわすリーフ。
そしてすかさず間合いを詰め、“リーフブレード”を繰り出した。
結構ぶっ飛ばされ、受け身を失敗するキマワリ。
キマワリ「痛たたた....こうなったらあれを使うしか....」
リーフ「あれって?」
キマワリ「私の最終奥義、ソーラービームよ!」
リーフ「ソーラービーム!?」
モブ1「なんで一々敵に教えるかなー、あいつは。」
モブ2「しかもソーラービームを撃つには時間がかかるぞ。ここでやったら。」
キマワリ「はぁーーーーー!」
キマワリは太陽の光を吸収している....かなり微量だが。
リーフ「撃たれる前に倒す。」
リーフはキマワリに向かって突っ込む。
キマワリ「え、ちょ、ま、待って待って!早いよ!」
リーフ「もらった!」
リーフの渾身の“たいあたり”が炸裂(?)
キマワリ「あ〜〜れ〜〜!」
キマワリは星になった....
先に進むリーフ。
すると目の前に大きな扉が現れた。
その扉のど真ん中にジュプトルが立っていた。
リーフ「あの〜。」
ジュプトル「........何も語るな、分かっている。通れ。」
ジュプトルがその場からどくと扉が開いた。
扉の奥には神秘的な光景が広がっていた。
今までの道のりとは全く違い、太陽光が差し伸べ、風が吹き、草木が揺られて音を立てている。
リーフ「何ここ....凄い....」
ジュプトル「ここが最後の関門だ。引き返すことは出来ないぞ。」
リーフ「わかってる。引き返す訳ない。」
ジュプトル「勇敢なる“仁”よ、健闘を祈る。」
ーサイレントフォレスト 最奥部ー
リーフ「わぁ〜!ここ凄い!気持ちいいなぁ〜。なんか眠くなっちゃった。」
???「....あなたは何の為にここへ来たのですか?」
リーフ「誰?」
重たい瞼を擦りながら声がした方を見る。
そこには妖精のようにふわふわと空中を舞っているポケモンがいた。
セレビィ「私はセレビィ。この『サイレントフォレスト』を管理する者であり、“仁”の才能を引き出す者です。」
リーフ「ふ〜ん。」
セレビィ「....興味なさそうですね。でも仙降地の未来の為にもあなたの才能を引き出させて頂きます。」
リーフ「え?」
セレビィが目を瞑ると周りの草木が激しく揺れ始めた。
セレビィ「エナジーボール。」
セレビィの手から“エナジーボール”がはなたれた。
それだけではなく、色々な所から“エナジーボール”が発射された。
リーフ「え?え?え?」
セレビィ「序盤で使うのはどうかと思いましたが、これもあなたの隠れた才能を引き出す為です。360度、この技に死角はありません。守ることができても決してかわすことは出来ません。」
案の定、セレビィの攻撃はかわせず、モロに喰らってしまった。
神秘的な場所に砂煙が立ち込める。
セレビィ「....恐らくこの程度では死なないはず。さぁ見せて下さい。あなたの心の奥底に秘めている“仁”の才能を、あなたの“本性”を。」
リーフ「............................アハ♪」
リーフ「アハハハハハハハハハハハハハハハハ♪」
セレビィ「それがあなたの“本性”ですか。」
リーフ「ここのやつらは皆相手の背後ばかり狙ってくる。馬鹿の一つ覚えみたいにね!キャハハハハ♪」
セレビィ「....ここまで変わるものなんですね。でも、『あの方』が言っていた通りの画ですね。まさに“狂乱の仁”。」
リーフ「あなたは強そうね。ねぇ、私と遊ぼうよ。」
セレビィ「....殺気が強くなってる。」
そんな中、セレビィはリーフのある変化に気がついた。
リーフの傷口はみるみるうちに塞がっている。自然回復みたいだ。
数秒後、リーフの体は完全に回復した。
セレビィ「その自然回復、厄介ですね。」
リーフ「さっきから無駄口ばっかりたたいてうるさいよ。さっさと死ね!」
リーフは“たいあたり”を繰り出した。
その速さはまるで“でんこうせっか”のようだった。
セレビィはかわすタイミングが少しばかりズレ、右腕に当たった。流石に骨は折れてないが、右腕はほぼ使い物にならなくなった。
セレビィ「っつ!予想以上の強さですね。これは本気で相手をしないとこっちがやられてしまいそうですね。いきますよ、“仁”!」
リーフ「うるさいって言ってんだろ!さっさと消え失せろ!」
もはや口が悪いというレベルではない。無邪気なリーフはどこかへ行ってしまったのか。
セレビィ「その口を黙らせてあげますよ!」
セレビィの周りに木の葉が舞う。
それに対してリーフも構える。
セレビィ「リーフストーム!」
何千、何万、いや何億もの木の葉がリーフを襲う。
セレビィ「更にエナジーボール!」
前からではなく後ろからもリーフを襲う。
先程と同じく死角はなさそうだ。
リーフ「ちっ!」
大きな音を立てて砂煙が立ち込める。
セレビィ「....流石にやり過ぎましたかね?」
リーフ「........何?これで終わり?この程度とは、伝説の名が廃るね。」
セレビィ「!?」
砂煙が晴れると、そこには無傷のリーフが立っていた。頭と尻尾の葉っぱ(?)が光っていた。
セレビィ「まさかあれを全てリーフブレードで払ったというのですか!?」
リーフ「そうだけど何?予想外でビビってるの?」
セレビィ「確かに予想外でしたが、ビビってはいません。」
リーフ「ヒャハハハハハハ!」
リーフは飛び、セレビィを地面に押し付けた。
リーフ「終〜わ〜り〜だ〜♪」
セレビィ「....仕方ないですね。上手くいくかどうかわかりませんが、一か八か。」
セレビィは左手をリーフの頭に当てて、目を瞑り、精神を集中させ、自らを発光させた。
周りの草木がざわめいた。
セレビィが呪文のようなものを唱え始めた。
セレビィ「汝の裏を表に出し、悪の心を殺し、表裏一体、真の“仁”となれ!」
リーフ「う〜ん。ん?私は、確か。」
セレビィ「お目覚めですか?」
リーフ「あれ?誰だっけ?」
セレビィ「同じことを二度も言うのは正直嫌ですが、セレビィです。」
リーフ「ああ、そっか!これから私達、戦うんだっけ!?」
セレビィ「....まぁ、そうですね。」
リーフ「じゃあ手加減はしないよ!」
セレビィ「望むところです!」
先程の戦いとは一変、少し楽しさが混じった戦いが繰り広げられている。
セレビィ「エナジーボール!」
リーフ「リーフブレード!」
セレビィ「リーフストー....」
リーフ「たいあたり!」
セレビィ「きゃあ!」
裏リーフ戦のときのダメージがまだ残っているのか、セレビィの動きが多少鈍くなっている。
対するリーフはというと、自然回復で直ぐに、完全に回復しながら戦っている。
リーフ「よ〜し!リーフブレー....」
セレビィ「そこまでです。」
リーフ「え?きゃっ!」
急に地面からまるで木の根っこのような太い蔦が出てきた。
そしてリーフの体に巻きつき、動きを封じた。
セレビィ「ここまで出来れば上出来です。まぁ半分は私が手を貸しましたが。」
リーフ「くっ!うっ!」
セレビィ「無駄ですよ。それより、試練はもうお終いです。」
リーフ「え?」
セレビィ「あなたの利点だけを残して表に出しました。後はあなたの使い方次第ですが、もう充分でしょう。」
リーフ「???」
リーフにはちんぷんかんぷんな言葉だった。頭の上に?が沢山できた。
セレビィ「........まあ、早い話が試練は合格という訳です。」
リーフ「え!ホント!?」
蔦はリーフの体から離れ、ゆっくりと地面に降ろされる。
セレビィ「この奥に進めば出られます。」
リーフ「そっか。ありがとう!」
セレビィ「あ、ちょっと。」
リーフ「?何?」
セレビィ「これを。」
セレビィは紐がついている珠玉のようなものを渡された。
緑色の玉で仁と書いてある。
セレビィ「あなた、名前は?」
リーフ「私はリーフだよ。」
セレビィ「ではリーフ、この珠玉を受け取って下さい。」
リーフ「これなに?」
セレビィ「これは由緒ある珠玉です。あなたの先祖が仙人から受け取り、代々受け継がれてきたものです。」
リーフ「これ、どうすればいいの?」
セレビィ「あなたの仲間も同じようなものを集めています。全てが揃えばあのナイトメアを倒すことが出来ます。」
リーフ「ホントに!?」
セレビィ「厳密にはナイトメアの主力を倒すのは仙人ですが、仙人をサポートする方・咲霊奈さんの保護役として活躍してもらいます。」
リーフ「それって大事なこと?」
セレビィ「とても大事なことです。あなた方がいなければ勝つことは出来ません。」
リーフ「そっか。じゃあ私、これからもっと頑張って強くなるね!」
セレビィ「期待してますよ、リーフ。」
リーフ「うん!じゃあね!」
珠玉を受け取って、森の出口に向かうリーフ。
それを見送るセレビィ。
セレビィ「........仙人と咲霊奈さんのことに関しては何も訊きませんでしたね。純粋というか抜けてるというか....。」
セレビィ「....あの子の戦いはどうでしたか?ずっと見ていたんですよね?」
セレビィ「........仙人」