日常Y 〜ナギと夢〜
ナギ「ふふ、今日もいい天気ね。」
一足先に準備を済ませ、意気揚々と散歩をするナギ。
雲一つない青一色に染まった空が広がり、太陽が自信満々に顔をだしている。
何も考えず、ただひたすら足を進めているナギ。
歩いているうちに小さな滝壺が近くにある小川に出た。
森も近くにある為、とても涼しい場所だ。
不意に吹く風が草木を揺らし、静かで落ち着ける場所だ。
ナギ「....ちょっとお昼寝でもしようかしら。」
近くの木陰で寝る体制に入り、数分後、この場所で一匹のポケモンの静かな寝息が聞こえた。
ー????ー
表現し難い不思議な空間にナギが一匹でいた。
ナギ「....ここは?........夢の中かしら?」
ナギが困惑している中、ナギに近づく者がいた。
???「八ブイ士のなかで最も能力(ちから)の弱いナギ。」
ナギは声のする方へ振り向いた。
その瞬間、ナギは驚きを隠せなかった。
ナギ「人....間....!?」
そこには真っ黒なローブに身をつつんだ人間が立っていた。
フードで顔を隠しているが、声からして男性だろう。
落ち着き始めたナギは、人間相手に冷静に話し始めた。
ナギ「あなたは一体....」
人間「俺のことはどうでもいい。それよりいいのか?仙降地にいる人間は見つけ次第殺すんじゃなかったのか?」
ナギ「ふふ、ここは“仙降地”じゃなくて私の“夢の中”よ。殺したりなんかしないわ。」
人間は少し考えたあとに言葉を発した。
人間「やっぱり甘い。」
ナギ「?」
人間「相手に対して優しくすることは俺も否定はしない。だが、相手は選べ。その優しさが戦場では命取りになることもある。」
ナギは真剣な面持ちで話を聞く。
人間「お前の先祖も昔はとても優しく、敵に甘かった。だが....」
その瞬間人間の姿が消えた。
ナギ「!!」
ナギの周りには無数のナイフが向けられていた。
不思議と、地面につかず空中をフワフワと浮かんでいる。
急にどこからかパチンと指を鳴らす音が聞こえ、その瞬間無数のナイフがナギに向かって飛んできた。
ナギ「サイコキネシス!」
瞬時に“サイコキネシス”を繰り出し、全てのナイフを止めたが
ナギ「!」
気がつくと首もとに刀の峰が当てられていた。
さっきの人間がいつの間にかナギの後ろに周りこんでいた。
人間「仲間を守る為に優しさという感情を捨て、数多くの人間を葬ってきた。周りからは“無情の念力”なんて呼ばれてたし、八ブイ士の中でも冷酷な奴だったな。」
そっと刀をナギから離し、しまった。
ナギ「........私は私。先祖は先祖。」
いつもニコニコしている優しいナギとは違い、キリッとした表情で人間を睨み付けている。
人間「....そうだ。その表情だ。だがまだ弱い。」
ナギ「なんのことか知らないけどさっきからべらべらとうるさい。」
人間「............俺と勝負をしないか?」
ナギ「勝負?なんで急に?」
人間「お前の実力を見たいからだ。」
ナギ「........人間如きが。」
初めに動き出したのはナギのほうだった。
警戒しながら様子見の“たいあたり”。
徐々にスピードをつけていき、人間との距離が近くなったところで人間が動き出した。
腰元に差してあった鉄製の何かを取り出し、ナギを迎え撃とうとした。
ナギは目くらましとして“フラッシュ”を繰り出した。
そしてそのまま人間に突っ込み、“たいあたり”を食らわそうとした。
だが、甘かった。
鉄製の何かは2つあり、1つは開き“フラッシュ”をガードする形となり、もう片方はナギめがけて振られてきた。
ナギ「ぐっ!」
鉄製の何かはナギに直撃し、ナギは吹っ飛ばされた。
ナギ「ハア....ハア....鉄製の....扇子?」
人間が持っていたのは陰陽勾玉が描かれている黒い鉄扇だった。
人間「この鉄扇....お前は知ってるか?」
ナギ「........鉄扇については詳しくは知らないけど、あなたの正体ならわかったわ。この地に降り立ちポケモン達を数々の苦痛から守ってきた仙人、〈百目鬼 雅〉。」
雅「............。」
ナギ「流石に仙人相手に私一匹じゃまるで歯が立たないわね。」
雅「確かにな。お前達の先祖は協力して暴君を倒したからな。それにあいつ等はお前達程強くはなかった。もう少し弱かった。だが、あいつ等は“力”で押し切るタイプではなく、戦略を考え相手を惑わす、いわば“頭脳派”だった。」
ナギ「........さっきも言ったわよね?先祖は先祖だ、って。今は昔。私達には関係ない。」
雅「そうか。」
そして雅は動き出す。
片方の鉄扇をナギに向かって投げつけてきた。
ナギは覚えていた。仙人の鉄扇は切れ味が良いものだと。下手をすれば首を切られる。
なんとかかわしたが、かわした先に雅がもう片方の鉄扇を構えていた。
ナギはすかさず“サイコキネシス”を繰り出し、動きを封じた。
雅「....弱い。」
ナギ「!?」
雅はナギの“サイコキネシス”をもろともせずに動き出した。
ナギはまだ滞空していて隙だらけだ。
左手にある鉄扇がナギの首めがけて振られてきた。
絶対絶命だった。
鉄扇が首に当たる瞬間、ナギは目を覚ました。
辺りは少し暗くなっていて少し肌寒い。
ナギは冷や汗をかいていて、呼吸も乱れている。
落ち着きを取り戻そうと深呼吸をしているが途中で近くに誰かがいることに気がついた。
攻撃体制に入るナギ。
近くにいたのはスリープだった。
スリープ「待って待って。僕は君の敵じゃないよ。あるポケモンからの伝言を君に伝えにきただけだよ。」
ナギ「....誰から?」
スリープ「それは....ちょっと....本人も内緒にしてくれって言ってたから。」
ナギ「そう....それでその伝言は何かしら。」
いつものナギに戻って笑顔で接する。
スリープ「“お前には足りないものがある。力もそうだが、それではない。お前に足りないもの、それは〈相手の裏をかくこと〉だ。”って言ってた。」
ナギ「相手の裏をかくこと?」
スリープ「うん、そう言ってたんだよ。僕にはなんのことかよくわからないけど。」
ナギ「....そうありがとう。」
そう言い残すと、ナギは家路へと足を運んでいった。
ナギ「相手の裏をかく....か....」