プロローグ
「…これじゃあキリがねぇな…」
少女らしくもない口吻で、そう言葉を口にする。追われている身である彼女は、耐え難い焦燥を覚えていた。
人を隠すくらいに生い茂る草叢に身を潜め、苦しく呼吸する様に ぜえぜえと喉を鳴らしている。倦怠の色が全身を薄雲のように包み、気力も然程残ってはいない。
不自然な程に続く辺りの静けさが、さらに少女の不安を煽る。
「見つけたぞ!!」
大きな蛮声が、先程までの静寂を断ち切った。
「ったく…面倒なんだよ…!」
僅かに残る力を使い、ふらりとよろめく不安定な体で立ち上がる。少女の目は反抗的な鋭さを持ち、せめてもの抵抗をと、枝木にも似た杖を精一杯に振ってみせた。
「───!?」
一閃の光。瞬く間にして、相手の姿が消え去る。しかし、正確には一時的に別の空間に移動させただけで、一定の時間が経てば元に戻ってしまう。
それが、限界に近い少女にとっての、最後の足掻きであった。
「…今の内に…っ」
まどろんだ意識の中、弱々しくも、少女は歩み進む。