第四話 炎
…ここは、どこだ?
……体がうまく動かない。
…縄で縛られているのか…?
…目隠しまで。
…何故だ?
…くそっ。技出そうとしても口もか。
…どうなってるんだ?
…あの時、確かクローゼットを開けて、それから…
その時、視界が急に広がる。まぶしい。
目隠しがとられ、視界も回復した。
目の前には、ゴーリキーが3体立っていた。
そしてその奥には一際威圧を放っているポケモン、カイリキーがいた。
「よう、兄ちゃん。ようやくお目覚めかい?」
「あの時はよくもやってくれたなぁ。あ?」
あの時…?そうだ、僕は…
(3時間程前)
スターはいつもより早く目覚めていた。
「う…ん?」
そのためまだ日が出ておらず、暗闇だった。これでは流石にリーフィは起きてはいない。
「なんだよ…」
しょうがないので、静かに顔を洗いに行こうとした。しかし今日はいつもと違い、タオルが置いてあるべき場所にタオルがなかった。そのためクローゼットにあるタオルを取りに行こうとした。
クローゼットを開けると、そこにあったのはタオル等ではなかった。
暗い穴…ブラックホールのようなものだった。
「うわっ!」
スターは吸い込まれる直前、首にしていたネックレスを咄嗟に床に投げた。これに誰かが気づいてくれれば…
…………
………
……
…
…
……
………
…………
「う…ぁ…?」
スターは目を覚ました。
先ほど起きたばかりということもあり、まだ寝ぼけていた。
スターは目の前に広がる光景が夢にしか思えなかった。
なぜなら、さっきまでいたのは自分の部屋。なのに今は森の中に居る。四方八方を樹に囲まれているのだ。
「…どこだ?ここは。」
スターは状況がつかめず、少しぼーっとしていた。
その時、近くから声が聞こえた。これは…悲鳴だ!
スターは咄嗟に立ち上がり、悲鳴のした方へ走った。起きたばかりの自分の体に鞭を打って。
しばらく走っていると1匹のポケモンを囲うようにして3匹のポケモンが立っていた。
囲まれているのは、メスのロコン。囲っているのはゴーリキーだった。
「やめてください!これは…私がおばあちゃんのために採ってきたものなんです。」
そのロコンの手には、薬草があった。
「しらねえな、そんなこと。俺らはそれが必要なんだ。な?くれよ嬢ちゃん。」
なんだ?あのゴーリキーたちは。
「嫌です!それなら自分たちで採ってくればいいじゃないですか!」
「そうか…嫌、か…。ならしょうがない。」
何をするきだ?あいつら。
ゴーリキーたちは身構える。
これはどう見てもあのロコンを襲うつもりだ!まずい!
「やめろっ!」
自分でもわからないうちに飛び出していた。
「なんだ、てめぇは?」
スターは目の前のゴーリキーを無視してロコンのほうへ振り返った。
「今のうちに逃げて!」
「えっ、で、でも…」
ロコンは少し動揺しているようだ。それもしょうがないか。急にあらわれたからな。
「いいから!」
「は、はい。」
ロコンは少し戸惑いながらその場を去ろうとした。しかし行く手を阻むようにゴーリキーが立っていた。
「おっと、行かせはしないぜ?」
「あ…」
ロコンはその場に立ち止った。
「そこをどけっ!」
それを見るや否や、スターはそのゴーリキーに火炎放射を放った。
「ぐあっ!」
ゴーリキーはその火炎放射の威力で後ろに吹っ飛んだ。
「さあ、今のうちに!」
「はい!」
ロコンは勢いよく走りだし、森の奥の方へと消えて行った。
「さて…」
「おい、てめぇ。誰か知らねえが何してくれてんだ?コラァ!」
こんなことは慣れてる。昔っからこんなことばっかりだったからな。少しだけ腕には自信があるんだ。
スターは戦う態勢に入る。
「ほう?やる気か?いいだろう。」
そういうとものすごい速さで、と言ってもゴーリキーにしてはというだけだが。
この程度のスピードはまだまだ遅い方だ。ほぼ毎日のようにサン兄ちゃんに追いかけられていたからね。
スターはあっさりとゴーリキーの攻撃をかわすと懐に入り込み、火炎放射を放った。超至近距離で。
「ぐはぁ!」
その巨体は先ほどと同様に宙を舞った。
スターは間髪置かずにもう一体のゴーリキーに向かって走って行った。体に炎を纏いながら。
ゴーリキーはおどおどしていたので、あっさり倒すことが出来た。
「ふう、これでいいだろう。」
このとき、スターは完全に油断していた。敵は目の前のゴーリキーだけだと思っていた。
後ろにカイリキーがいたのに。
「よくも俺の部下を。」
「えっ…?」
後ろから声が聞こえた。振り返った瞬間、拳が飛んできた。
「うぁっ…!!」
その拳はスターの頭に直撃した。スターは、たったその一撃で気絶してしまった。
…………
………
……
…
…
……
………
…………
…その後の記憶がない。おそらくそのあとここに連れて行かれてこうなったんだろう。
しまったなあ。何て運がない日なんだ、今日は。
変なところに来たと思ったら即行で捕まるなんて。
しかもまだ頭痛いし。
いやいや、そんなことよりなんとかしなきゃな、この状態を。
そんなことを考えていると、一体のゴーリキーが口を開いた。
「さて、さっきのお返しだ。」
そういうと、ゴーリキーのパンチが飛んできた。
「………!!」
そのパンチは容赦なく僕の頬を打った。
その瞬間、少し僕の口をふさいでいたものが剥がれた。しかもそのことにゴーリキーたちは気づいていない。
意識が薄まる中、チャンスは訪れた。
「そらっ!これで最後だ!」
ゴーリキーが思いっきり腕を振り上げた。ここしかない!
決断するや否や、少しできた隙間から火を出す。
すると、瞬時に口をふさいでいたものが消える。
その瞬間にゴーリキーに向かって火炎放射を放つ。
「ぐあっ…!?」
ゴーリキーの巨体が軽く後ろに吹き飛んだ。
「てめぇっ!」
後ろにもう1体いたようだ。スターはそれに気づくとすぐさま顔をそちらに向けて火炎放射を放った。
そのゴーリキーも同じように吹き飛んだ。
その様子を見ていたカイリキーは、もう一体のゴーリキーが僕に襲い掛かるのを止めた。
そしてその口を開いた。
「…何故貴様は俺らに牙を向ける?」
溢れる感情を抑え込んだ、小さい声だった。
スターは答えるまでの間に、自分を縛っていたロープを炎で焼き切った。
「何故って…あんたたちが襲って来たりポケモンを苛めていたからだろ。」
「そうか…」
カイリキーはそういうと、急に襲ってきた。スターはあまりにも突然すぎるその攻撃を回避できず、頭に直撃した。今度は体を逸らすことが出来たために気絶するまでには至らなかった。
「ぐっ…」
スターは意識が飛びそうになるのを抑えて体を翻す。今の攻撃でカイリキーの方から確実に攻撃が当たる近距離まで接近してくれた。
今度はちゃんと狙いを定めて一点集中型の火炎放射を放つ。思い切り力を込めて。
その火炎放射は見事なまでにカイリキーの顔面に直撃した。その隙をついて体当たりし、背の方向にあった出口へ走って行った。
そんな光景を見ていたもう一体のゴーリキーは呆然としていた。
そんなゴーリキーを尻目に出口へ着く。
扉は…当然ながら閉まっている。
しかもドアノブ式!四本足を馬鹿にしてんのか!
…まあそんなことはいいとして。しょうがない、炎で焼くか。
再び火炎放射を打つべく、息を吸い込んだ瞬間、後ろからとてつもない殺気を感じた。
カイリキーが起き上がったのだ。
「うぅ…兄ちゃん、よくもやってくれたな。」
まずい。今もう1発あんな攻撃喰らったら…
そんなこと考えている間にもう目の前に居た。
「うぉっ!」
やばっ とか言ってる間にパンチが…まぁ、当たらないけど。
目が慣れてきたから、寸でのところで回避した。
カイリキーはそのままの勢いで床を殴った。とてつもなく抉れたけど…。そんなものを見ながら必死にまた火炎放射を放った。
今度も直撃してカイリキーの体はグラついた。
そこに間髪置かずに火炎放射を放つ。
そして最後の一撃と題して1番の必殺技、炎の牙を打ち込む。
「ふぅ…」
これで流石のカイリキーも倒れるだろうと思い振り返ってみる。
するとカイリキーは立っていた。
スターはまた火炎放射を放つ準備をする。
すると、カイリキーは膝から崩れその場に倒れた。
ではでは、逃げますか。
スターは扉に向かって火炎放射を放つ。するとあっさりと扉は焼き消えた。
さて、こっからどうするかな。
「お、おい!待て!」
その声に振り返ると、そこにはゴーリキーがいた。
そういえばまだ居たっけ。
ははっ、少し脅かしてみようかな。
「…何、やるの?」
「ひっ…」
かなりおびえた様子だった。そりゃそうだよね。カイリキーがやられたんだもん
スターはゴーリキーに向かって煙幕を張り、その場から抜け出した。
さて、こんなところはもうおさらばだ。
あいつらの家的なところを出てからかなりたつけど、これからどうしようかな〜。
…さっきのところまで行ってみようかな。たぶんそんなには遠くないはずだから。
ん?あれは…さっきのロコンかな?
「ねぇ、そこの君〜。さっきのロコンだよね〜?」
「えっ…」
ロコンは少し驚いたような表情をする。
「あのさっきゴーリキーたちに囲まれてた…」
「あっ、はい。」
やっぱりそうだ。あそこまで行く手間が省けたよ。
「僕はさっきのブースターです。」
「あっ、さっきの方ですか。先ほどはありがとうございます。私はフランと申します。」
よかった、覚えててくれた。しかも礼儀正しい…。
「『フラン』さんですね。スターです。よろしくっ!」
…もうどれくらいたつのだろうか。
ムーンお姉ちゃんとのテレパシーが終わってからすぐ歩き始めた。
ようやく樹を拝むことが出来たのは、陽が傾きもうすぐ沈むという時だった。
「お母さん、お腹…空いた。」
そういえばここに来てからまだ食事という食事はしていなかった。
途中に樹が生えていて、その実を食べたがそれもかなり前の話。
リーフィが草タイプということでその実が食べられることが分かったから良かったものの。
しかし流石に夜までもつほどの量ではなかった。
「う〜ん、困ったなぁ…」
と、ここでリーフィはあることを思い出した。確かあの時に…
「あ、あったあった。はい、これ食べよ。」
とリーフィが背中の毛の中から取り出したのはスターの部屋にあった木の実である。
よかった、咄嗟に取れて。しかも袋ごと。
スターには悪いと思っているけど、あの時咄嗟に取ったものだし、状況が状況だから許してくれるでしょ。
しかし袋の中には意外と木の実が入っていた。
いつの間に、と思ったがいないポケモンのことを言ってもしょうがない。
袋の中にはオレンの実をはじめ、生で食べられるようなものが大半であったからそのまま食した。
「ん〜、おいしい!」
イブも喜んでいるから良かったが、心配なのはこの後だ。
もう夜になる。
寝床はいくらでも作ることが出来るが、夜襲が心配だ。
流石に頑丈に作れないし、寝てる間にポケモンに囲まれているなんてことは勘弁してほしい。
どうにかしないと…
いっその事土の中に…。
いや、やめとこう。
ムーンお姉ちゃんに聞いてみようかな。
『呼んだ?』
「うわっ!早っ!」
つい声が出てしまった。
イブが首をかしげながらこちらを見る。
『ふふっ、いつでもテレパシーは繋がっているわよ。』
「そうなの…」
心の中で思っていることが全部ばれていると思うと…ちょっとやだな。
『大丈夫よ、基本的には遮断してるから。それよりも寝床よね。う〜ん…。』
ここでムーンが考えるため、少し無言が続いた。
『そうね、近くに樹はある?』
「樹?」
そういわれてリーフィは周りを見渡す。…ちょっと行った先に1本の樹が生えていた。
『あるのね。じゃあその上で寝れば大丈夫よ。』
…本気なの?一瞬そう思った。
『…何か問題でも?』
「いや、別にないけど…」
『まあ心配なのはわかるわ。でも下で寝るより安全だと思うわ。あとは…その樹には木の実は生ってない?』
実、ですか。なるほど。鳥ポケモンがよって来るからね。
…特に実は生ってなさそうだ。
『そう、良かった。良かったと言えばさっきスターと連絡取れたわよ。無事よ。どこかの村にいるみたい。』
無事…良かった。
ムーンのその一言でリーフィの体の緊張が解けた。
『ふふっ。じゃあね。また会いましょう。』
「うん。」
ふう…。では、あの樹に行きましょうかね。
「イブ、あの木の上で寝るけど大丈夫?」
それを聞いた瞬間、イブの顔に喜びの色が一気に広がった。
その理由が一瞬わからなかった。
「樹の上で寝るの!?やったー!」
…そうだ。この子はスターと一緒に時たま樹の上で寝ることがあった。
なら問題はないだろう。
「じゃあ、行きましょうか。」
今日はもう寝ることにした。夜に、ポケモンに襲われないことを祈って。