第三話 暗氷水
ダークは考えていた。ナゼこの2匹といるんだ?
「な〜に考えてんの、ダーク?どうせ『なんでよりにもよってこの2匹と一緒にいるんだ〜?』みたいなことでしょ?」
レイはまるで心の中を見透かしたかのようにダークが思っていることを言ってのけた。
「そ、そんなこと思ってないよ。」
ダークは慌てて弁解する。
「本当〜?目が泳いでるけど?」
「うっ…。」
そう、ダークは答えるときに視線がうろちょろしていた。
どうもダークは隠し事が得意じゃなく、本人はばれないようにしているが周りは気づいているなんてことは昔からよくあることだった。
グゥ〜 と、その場の空気を無視するような謎の音が聞こえた。
「そんなことよりお腹すいたぁ〜。朝ご飯食べてくれば良かった〜。」
いわずもがな、音の正体はシャズの腹の音だった。
相変わらずの食いしん坊なシャワーズのお腹は、中途半端だった朝ごはんで耐えられるはずもなく、彼女の言葉を具現化するような音を奏でていた。
「そんなこと言わないの。誰もこうなるとは思ってなかったでしょ。少しは我慢しなさい。」
むぅ… とシャズが膨れたが、そんなことは気にしないような態度をとるレイ。
そんな光景を見ていたダークはどうしようか困っていた。喋りにくいし…
するとダークはあるものを見つけた。
「ねぇ、シャズ姉。あれたぶんオレンの実だよ。」
「えっ!」
ダークが「オレンの実」というと同時に、恐らく正確には「オレ」ぐらいで反応したと思う。要するに、速い。
「う、うん。僕が見間違えなければ…」
あまりの速さに少し驚き気味だったダークは少したどたどしく言った。
「ありがとー!いや〜、いい弟を持ったねぇ〜♪」
シャズはうれしそうにオレンの実があるほうへ歩いて行った。
「ありがとう、ダーク。」
レイはダークのほうへゆっくり近づいてきた。
「いや、ただ目に入ったから…」
少し謙遜しながら言う。
「まあともかく、静かになって良かったわ。」
レイは、むしゃむしゃオレンの実を食べているシャズのほうを見ながら言った。
「うん。あのままだと手に負えなくなってたかもしれないからね。」
その時、ダークはどこからか殺気を感じた。レイのほうを見ると、レイも気づいていたらしく険しい顔をしていた。
「レイ姉、もしかして…」
「ええ、誰かに狙われているわね。」
2匹は殺気のする方を探した。相手は素人なのか、姿を隠していても殺気が丸見えである。
2匹は慎重かつ急いで探す。シャズに気づかれてしまっては確実に騒がれ、かえって危険になってしまうからだ。だからと言ってゆっくり探していては手遅れになる。速く見つけなければ。
その時、レイがシャズのいる方に誰かを見つけたようだ。
「居たっ!!」
そういうと同時にレイは冷凍ビームを放つ。その極寒の光線は、確実にそのポケモンを捉えた。
「うわっ!」
シャズは自分の真横を通った冷凍ビームにたじろぐ。レイはそんなシャズを飛び越え、そのポケモンに近づく。そこに倒れていたのはズバットだった。
「…こいつが?」
違う。さっきまで感じていた殺気はこいつだけのものじゃない。もっといるはずだ。もっと…
するとシャズがレイのほうへ寄ってきた。
「何々?何があったの?」
シャズが慌てて、しかし少し興味ありげに聞いてきた。
「私たちはこのズバット達に狙われているみたいよ…」
「ズバット『達』?」
「ぐぁっ!」
その時、後ろからダークの声がした。
「ダーク!」
しかし振り返った時には、ダークが2匹のもとに吹き飛ばされた後だった。
「うっ…」
ダークはシャズに衝突し、2匹ともに後ろの樹に叩き付けられていた。
「ダーク!シャズ!」
レイはダークたちの近くに駆け寄った。2匹とも意識があるためそこまでのダメージではなさそうだ。しかし、レイは後ろからの異常な殺気に驚いていた。レイは振り返る。数匹何てもんじゃない。10?いや、軽く見ても15匹は居る。そこはポケモンの巣の近くなのだろうか。
「マズイわねぇ…」
最低15匹いる敵の中、こっちはたったの3匹。圧倒的に不利な状況。ここは…逃げるしかない!
「ダーク、シャズ!逃げるわよ。」
そういいながらレイは再び振り返る。その直後、レイは驚愕した。まだ倒れているダークとシャズの向こう、そこにも数多くのポケモンがいた。右にも、左にも。
絶体絶命のピンチ。
いつも冷静のレイでさえパニックに陥った。
「うそでしょ…」
レイがそう呟く。すると、どこからか声が聞こえてきた。
『グレ姉、聞こえる?グレ姉。』
それはまぎれもない、ムーンの声だった。
「聞こえるよっ!ムーン!」
つい大きな声を出してしまったレイ。
『良かった。グレ姉、今どこにいるの?』
「今?ポケモンに囲まれていてどっかの森の中に居る。ダークとシャズ付きで。」
まだ気持ちが落ち着いていず、少し急ぎ目になる。
「レイ姉、『付き』って…」
ダークがようやく立ち上がる。それにつられるようにシャズも立ち上がる。
『ポケモンに囲まれてる!?』
ムーンとは違う声が聞こえる。これは…サンだ。サンも近くにいるんだ。
いつもほかのポケモンの声が聞こえるはずのないムーンのテレパシーに疑問を少し持ったものの、今の状況でそこに突っ込む余裕はなかった。
「とにかくムーン!あんたのテレパスで私たちを見つけて、私たちのところまで来て!」
『…分かった、やってみる。テレパシーはこのままにしておくね。』
「うん…」
レイがそう言いかけた。
「レイ姉!危ない!」
「えっ…」
ダークの叫び声が聞こえる。前を見ると、まさにグラエナが襲ってきたところだった。
レイは、咄嗟に身構えるが遅かった。
「きゃあ!」
グラエナに体当たりされ、先ほどのダーク同様、樹に叩き付けられた。
「うっ………」
目の前の景色がぐらついて見えた。そのまま地面に落下する。しかし、すぐに立ち上がることが出来た。
『大丈夫!?グレ姉!』
ムーンが心配そうに聞く。
「……大丈夫よ。それより、早くお願いね。」
『分かった。じゃ。』
ムーンとのテレパシーを一旦終わらせる。しかし、目の前の光景は依然として変わらない。というより悪化している。
周りのポケモンの数は40ないし50はいる。どうしよう。
暫くの考察ののち、レイは覚悟を決めた。
「…あんたたち。あのころのように技、出せる?」
普段見せないように真剣な顔。事態の深刻さを改めて感じさせる。
その異様さに、ダークとシャズは昔の感じを取り戻し始めていた。
「…うん。あそこまでとはいかないけど。」
「うん、私も。」
「…そう。じゃ、行くわよ。」
そういうと同時に、レイは冷凍ビームを放った。それに合わせて、シャズもハイドロポンプを、ダークは2匹を『手助け』する。
しかし相手の数が数だ。当たるポケモンもいれば、問答無用に襲ってくるポケモンまでいる。
「くっ…」
レイの周りには常に4.5匹の敵がいた。
敵とは完璧な接近戦。四方八方から『ひっかく』、『シャドークロー』がとんでくる。それ一つ一つ回避しつつ、すきを見て冷凍ビームを放つ。
その繰り返しだったが、体力的にも無理があり、ついにシャズが敵の攻撃にあたってしまった。
「きゃあぁぁあぁ!!」
吹き飛ばされ、敵ポケモンの集団から抜けたが、運の悪いことにフシギバナの近くだった。
フシギバナは待っていたかのごとく、瞬間的にシャズをつるで縛り上げた。
「あぁぁあぁぁあぁあ!」
シャズの悲痛な叫びが聞こえる。
「シャズ!!」
レイはそう叫びながら、なにか違和感を感じた。
何故あんなにも早くシャズを捕まえれたの?まるで、そこに来るのがわかっていたかのようだった。
敵は、レイのその一瞬の隙を見逃さなかった。
レイの後ろにいたマニューラが、何の躊躇もなくシャドークローを放った。
「しまっ…」
見事レイに当たり、レイは吹き飛ばされた。しかも、シャズと同じようにフシギバナの近くに。
「おっ、偶然こんなところに敵が…」
わざとらしく言いながら即座に縛り上げる。
「うっ…」
レイは疑問を感じる。
強く縛られていない…?何故?
ま、まさか。
レイが敵の意図を察したとき、目の前に地面が迫っていた。
「うぁっ………………」
レイは頭への強い衝撃を感じた。頭から地面へ叩き付けられた。
その声を聞いたダークは敵の隙を突き、シャズを捕えているフシギバナのほうへ突っ込む。
それに気づいたフシギバナがつるでしならせる。
「くっ…」
当たる寸前に体を翻し、回避した。
しかし、よけた先にカイリューがいた。カイリューは足を上げていた。
「し、しまった。」
そう後悔する間もなく、ダークはカイリューに踏みつけられた。
「かはっ……………」
それをみたフシギバナは、つるでとらえていたシャズをレイのほうに投げた。
レイたちは、完全に敗北した。
すると、ポケモンの大群の奥から、1匹のポケモンが現れた。
体はオレンジ色、右手にはスプーン。
「…連れていけ。」
そのポケモンの命令でレイたちは連れて行かれた。
レイは薄れゆく意識の中、テレパシーでムーンに助けを求めながら、そのリーダーらしきポケモンを見つめていた。