第一話 知らない世界へ
夜が明ける。山と山の間から太陽が顔を見せる。
「やっぱりこの景色は最高。」
そんな景色を毎朝のように見ているポケモンがいる。
そのポケモンはいつものように太陽へ体中にある葉を向ける。
耳が大きく、顔の真ん中あたりからも葉が伸び、しっぽも葉でできている。リーフィアである。
近くにある時計の針は6時30分を指していた。
「リーフィ、ごはんだよ。」
「はーい。」
リーフィと呼ばれたリーフィアは声のするほうへ向かった。
そこは食卓であり、リーフィの家族と思われるポケモン達がすでにいた。
リーフィを待っていたようだ。
いつもと同じように左側から長女のレイ、種族はグレイシア。
食いしん坊の次女シャズ、種族はシャワーズ。
ほぼ無口のムーン、種族はエーフィ。
家族の中のムードメーカー的な存在の長男サン、種族はサンダース。
いつも見かけないので何をしているのかわからない三男ダーク、種族はブラッキー。
そしてリーフィとなり、その横にはリーフィの仔イブがいる。種族はイーブイ。
しかし、その日はいつもと少し違っていた。
そこにブースターのスターがいなかったのだ。
「あれ、スターは?」
それにサンが反応した。
「何だ、スターと一緒に居なかったのか。てっきり二匹でイチャイチャしてると思ったんだが…」
リーフィの顔が赤くなる。
「からかわないでよ!サン兄ちゃん!…って、部屋にはいなかったの?」
「ああ。」
一瞬、部屋が沈黙する。
『ええ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」
全員が一斉に声を上げる。といっても、イブだけはポカンとしている。
「ちょ、ちょっと!スターはどこへ行ったの!?」
レイがあわててサンに聞く。
「知らねえよ!俺がさっきダークと一緒にスターの部屋に行ったら居なかったから、てっきりリーフィと一緒にいると思ったんだよ。」
「それ本当?ダーク。」
リーフィがダークに確認する。
「うん、本当だよ。」
この時サンは「俺のコト信用してないな?」とか思ったに違いない。
「ねえ、イブ。お父さんがどこに行ったか知らない?」
今度はイブに聞く。大抵朝はサンたちと居るかイブと一緒にいるからだ。
「ううん、知らない。」
「そう…。どこいっちゃったんだろ…。」
リーフィが心配そうな声を出す。
「一旦スターの部屋に行ってみましょう。何かあるかもしれないわ。」
と、レイが提案する。
「そうだな、そうするか。」
一同は席を立つ。
「ええ〜、朝ご飯は〜?」
「シャズ!!ごはんよりもスターの方が心配でしょ!」
レイの一喝が入り、ゴネていたシャズもしぶしぶ席を立ち皆の後について行った。
カチャ。
リーフィがスターの部屋の戸を開けた。するとリーフィは、いつもとは違う異様な雰囲気を感じた。何かこう、危険なものが目の前にあるような…。
その時、シャズが遅れて部屋に入ってきた。
「どう?何かあった?」
「いや、何もない。ただ、何か異様なんだよな…。」
「きゃあ!!」
皆がシャズのほうを見ていたとき、リーフィの悲鳴が聞こえた。
「リーフィ!!」
しかし、皆が振り返った時にはリーフィの姿はなかった。イブとともに。
「リーフィ!どうした!!返事しろ!!」
サンが慌てて部屋の中を探した。
「ねえ!これって…」
ムーンが何かを見つけたらしく、皆が近寄ってくる。
「これは…、イブの毛?」
「じゃあまさか、リーフィたちは…」
イブの毛が落ちていたのはクローゼットの前だった。
サンは何かあると感じ、恐る恐るクローゼットを開けた。
クローゼットの中には、ブラックホールのようなものがあった。
開けた瞬間、サン達はそのブラックホールのようなものに吸い込まれた。
「うわっ!!」
「きゃぁ!!」
「なんだ!!」
「いやー!!」
…………
………
……
…
ゆっくりとクローゼットの戸が閉まり、サン達がいたところにはもう誰の姿もなかった。
…
……
………
…………
「…ん、ここは?」
リーフィが目を覚ます。リーフィの目の前には見たことのない広大な草原が広がっていた。膝(?)ぐらいまでしかない芝、それに所々樹が生えていた。
ただ一つだけわかること。それはリーフィが知らない場所であるということだった。
「ここは…どこ?」
リーフィはとにかく今自分がどこにいるかを知るため、周りを見渡してみた。
すると、リーフィの足元にはイブが横たわっていた。
「…!イブ!!」
「ん?…お母さん…?」
イブはリーフィの問いかけで目を覚ました。
「良かった、無事ね。」
リーフィはイブが無事であったため、安堵の表情をした。しかしそれもつかの間、リーフィは一瞬で恐怖の顔に変った。
その母の一瞬の変化にイブは気づいた。
「どうしたのお母さ…」
「下がって!!イブ!!」
イブが話しかけた瞬間、リーフィによってイブの小さい体はリーフィの後ろへと飛ばされた。
「どうしたの、お母さん。」
そういいながらイブは母のほうへ振り返る。そこには今まで見たことのないような怒りに満ちた表情の母がいた。全身の毛は逆立ち、体にある葉でさえも上に向いていた。
そしてその母の目の前には見たことのない大きな体のポケモンがいた。
「お母さん!!」
イブは必死に母の名を呼んだ。しかし母はその言葉を無視するように大きなポケモンの目の前に悠然と立っていた。
その時、母の周りに生えていた芝が浮かび始めた。そしてその葉は鋭くなり、大きなポケモンのほうへ向いた。
そして、大きなポケモンが母を襲った。
「お母さん、危ない!!」
イブが叫ぶのとほぼ同時に宙に浮かんでいた鋭い葉が大きなポケモンに襲い掛かった。
その時初めて、母の闘う姿を目の当たりにした。いつも見せるあの優しい母の姿はそこにはなかった。
そこにあったのは、わが仔を守るために自分の何倍も大きな体を持つポケモンに挑む、勇敢な姿だった。
鋭く尖(とが)った葉は大きなポケモンの体を少しずつ切り裂いていった。そのポケモンは屈せずにリーフィのもとへ走っていく。
だが、すぐその場に倒れた。一本の葉がそのポケモンの体を貫いたのだ。
それをみたリーフィは興奮を解き、いつもの姿に戻った。
「ふぅ…」
「おかあさ〜ん!」
イブは心配そうに母のもとへ駆け寄った。
「お母さん、大丈夫?」
「大丈夫だよ。」
母は思ったより落ち着いて答えた。その顔には、いつもと同じ優しい表情があった。
「でも、ここはどこだろう?」
リーフィは周りを見渡す。それを見て、イブも同じように周りを見渡してみた。そこにははるか先まで広がる草原があった。
その草原のはるか先に緑色(と言っても草原自体緑だけど)が濃い部分があった。森のようだ。
「まずはあそこに行ってみましょう。」
「うん!」
よほど冒険のようなことが好きなのか、嬉しそうに答えた。
リーフィはその表情を見ながら多くのことを考えていた。もしかしたらまた今みたいにポケモンに襲われてこの仔を危険な目にあわすことになるかもしれない。次もこういくとは限らない。まだこの仔につらい思いをさせたくない。守りきれるだろうか。そんな不安に駆られていた。
もう一つ気にかかることがある。やはりスターのことである。リーフィたちがここに来たから恐らくスターもこの世界にいるのだろう。もしかしたらリーフィたちだけがこの世界に来ただけでほかの皆は別世界にいるかもしれない。
とにもかくにもここに留まっていては危なすぎる。まずはあの森へ行ってみよう。誰かいるかもしれない。そんな小さな希望を胸に、2匹は歩き始めた。