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フラダリカフェは、再び静寂を取り戻していた。
その静寂をうちやぶったのは、客として入ってきていたフレア団のしたっぱの女性だ。
「ココアがおいしいなんて!ワタシはエスプレッソを勧めたのに!」
ぶー、とわざとらしく頬をふくらませ、店員に向かってそう愚痴を吐く。
黙りこくっていた男性店員も、そこでようやく口を開いた。
「はっ、あはははー!ココア美味しかったんだって。当然ですね、オレの入れたココアなんだから!あんな子供なんて滅多に来ないし、このオトナの味わかるかなーと思ったんだけど…」
男の店員――…フレア団したっぱがそう自慢気に話すと、それに呼応するかのように女の店員も笑う。ウェイトレス姿の彼女もまた、れっきとしたフレア団したっぱだ。
さきほどの少女がいなくなった今、店内にはフレア団しかいない。
「確かに此処ってココアもちょっと苦めだものね。あの味が良いだなんて、あの子もなかなかスマート…」
「お前たちは何を言っているんだ」
目線を誰に向けることもなく、フレア団のボスが語る。
「彼女にココアの味がわかるハズが無い」
男は、1度も口をつけられなかった其れを見つめていた。湯気はもう、たってはいない。―――…最後まで受け取られなかった、彼の施しだ。
どうやらウソをつくのは下手らしい。わかりやすく両頬がこわばっていた。目に見えて、自分を不審がっている。
けれども心は落ち着ききっていた。動揺や吃驚など、何も無い。まるでさざ波1つ立たないかのように……そう、決して予想外では無かったのだ。
「え!?ええっ、フラダリさま…あの子供のお世辞だったってことですか…そんなぁ…」
「やっぱりエスプレッソが良かったのね!うんうん。遠慮しなくても良かったのに!」
「何なのあんたの謎のエスプレッソ推しは……確かにサイコーだけどさ」
トンチンカンなことをのたまい続けている部下たちを尻目に、彼は冷めきった其れを見続ける。
1つ、思うところがあるとすれば。決定的な対立する前に、選ばれし者かもしれぬ彼女の意見を、もう少しきいてみたかったのだが――…これもわたしへの1つの答えなのだろう、致し方ない。
「さて」
男は立ち上がる。カサはテーブル付近に置かれたままだ。
向かう先は、異様な存在感を放つ、あの食器棚の前。
「アレの調整に入るとしよう」
【終】