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「それでですね、したい話というのが……以前の質問の回答、是非おきかせ願いたいのですが」
「え?えっと……」
「メガシンカはすべてのポケモンや人に可能性があるのか、選ばれた存在のみに秘められているのか……何を意味しているのか、その答えです」
「……ああ、あのホロメールの」
そんなもん、知らんがな!!!って思ったアレだね。
キズナの力がどうのこうのとか言っていた気がするけども、あたしの体感では流れに沿ってやっていたら、なんか出来たって感じだったから可能性とか意味とかまったく考えてないんだけど。
よくわからないけど、ノリでできました!って言ったら、失望してくれないかなぁ。それとも、ノリでやってしまうなんてさすが選ばれし者だ!って流れになるのかしら。うん、後者は嫌だね。
ふと雨音が小さくなったように感じて、再度窓を見る。空は曇ったままだが、少しずつ上がってきているのがわかった。
フラダリさんを見るのはやっぱり苦手だと、意味も無く視線を床に這わせる。どこを見ても真っ赤っ赤で、目に痛い配色だ。燃える情熱だかなんだか知らないが、やりすぎのように思う。
あぁ、あんまり視線が定まってないと、挙動不審かな……よし、ココアでも見ておこう。
「……うーん、やっぱり今までの進化のことから考えて、一部のポケモンなんじゃないでしょうか」
「ほう」
「今までのポケモンも、進化しない子はいた。これから発見されるポケモンにも、進化できない子はいると思います……それと同じように、メガシンカする子もしない子もいるんじゃないですか」
「なるほど、それの意味していることは何だと思います?」
「え!…ええっと、みんな違ってみんな良い!です、かね…」
人差し指をピンと立てて言ってみる。あんまり難しい質問をしないでほしい。
あたしだって今他の緊張や考え事でアタマがいっぱいいっぱいなのだ。主にフレア団とかフレア団とか、フラダリさんのせいで。
あたしの推理上、めちゃくちゃ怪しいフラダリさんはやっぱり真顔。なにを言えば正解なのかわからない。
「ポケモンの多種性によるもの、ですか……確かに、変化の無い所に発展は無いものだ」
フラダリさんは腕を組んで、真剣に考えているようだった。適当に思いついたまま言っちゃっただけに、この人怪しすぎるとはいえなんか申し訳ない……
「うーん、我ながらしっくりこない、ですね……すみません、やっぱり博士とか、専門家に…」
「いいえ。メガシンカを成功させたのはキミなので。キミの意見が知りたかったのです」
どのような言葉が正解だったのか?それは重要じゃない。大事なのは、何を言えばこの人が納得したか?だ。
眉をひそめたり、いぶかしげな表情はしていなかったからおそらくトンチンカンだとは思われなかっただろう。
雨音はもう聴こえない。空はまだ灰色だったけれど、とりあえず雨は上がっていた。
よっしゃあ!いち早くあたしは反応する。勢い良く立ち上がった拍子に、ガタッと赤椅子がうしろに下がった。
「あっ、雨やみましたよフラダリさん!あたし、もう行きますね!」
窓を指させば、フラダリさんの青い視線もまた窓へと注がれる。少々驚いているようにも見えた。
「そうですね。ですがまだ曇っている…念の為にカサを」
「いえ、今日は近くのポケモンセンターで休むつもりですから!お気遣いありがとうございます!あっ、あとココアごちそうさまでした、美味しかったです!」
あたしはさっさと床に置いていたバッグをひったくるようにして手に取る。精いっぱいの愛想笑いを顔にひろげ、フラダリさんに一礼をした。
フラダリさんは一瞬あたしから視線を外す。なにを見たのだろうか?いいや、気にしている場合じゃない。
「………それは良かった。お気をつけて」
「はいッ!」
フラダリカフェから足早に去っていく。
整備された道に溜まった雨が、走るたびにビチャビチャと跳ねているのがわかった。
さっさと、ポケモンセンターに向かう。軽く呼吸が上がったが、ここまで来ればもう大丈夫。
中に入ったらジョーイさんが笑顔で声をかけにきてくれた。ほんのわずかな距離だったけど、日常が戻ってきたように感じて心からあたしは安堵する。