であい
「ふぅ」
長髪の男がため息をついた。
彼のいる部屋には、あちこちに分厚い本や走り書きのメモが散らばっていて、それらはどれもポケモンについて事細かに書かれている。
そう、ここは長髪の男…ツバキのポケモン研究所だ。
「今日来るのは、ヤナギくんと、アキメちゃんと…」
パソコンのモニターに映った少年少女のデータを見ながら、ツバキ博士は独り言を呟き続ける。
「あと、シュウスケくんだね」
暖かい日差しが木々の隙間から零れる森の中、一人の少年が…
道に迷っていた。
濃い茶髪に赤い鉢巻きを二重に巻き、左肩にリュックサックを提げている。
少年は辺りをキョロキョロと見渡すが、どこを向いても森である。
「こっちじゃないのかなぁ、どうしよう」
そう苦笑しながら、道を引き返そうとしていたその時。
「あら、どうなさいました?」
透き通るように綺麗な声が、少年の耳に響いた。
振り向くとそこには、長く美しい青髪の少女が立っていた。
暑いのに両腕に長い付け袖を着けている。
「私はアキメ。」
アキメと名乗ったらその少女は非常に整った容貌をしており、少年は一瞬見とれてしまう。
「…俺はシュウスケ、です
ツバキ博士の研究所に行きたいんだけど、迷っちゃって」
「ほんと?奇遇ね、私も今からそこへ行くのよ」
アキメは表情を輝かせ、嬉しそうに続けた。
「折角出会ったのよ、一緒に行かない?」
二人は森を抜けて研究所へ向かった。
道中、少女があまりに美しいので、通行人の視線を集め、シュウスケは始終そわそわしていた…
「おや、二人は知り合いだったのかい」
部屋に入ってきた少年少女を見て、ツバキは驚いた顔をした。
「いえ、ついさっき出会ったんです!」
アキメはまた嬉しそうに笑った。
一方シュウスケは、アキメのお陰で研究所に辿り着けたとはいえ、街行く人の視線や少々強引な彼女に少し疲れてしまったようだ。どことなく力の抜けた顔をしている。
「そんなことより、ポケモンをくださるんですよね?」
シュウスケが急かすように言うと、ツバキは微笑みながらモンスターボールをふたつ、二人の前に差し出した。
「君たちの旅立ちのお伴に。イーブイさ」
「わぁ、かわいい!」
アキメは早速イーブイを抱き上げた。イーブイも甘えた様子で鳴き声をあげている。
「…フレア、よろしくね」
シュウスケはイーブイにフレアと名付け、必ずブースターに進化させる、と意気込む。彼は炎タイプのポケモンが好きなのだ。
「フレア?名前つけたの?
じゃあこの子は…フェアリーちゃん!えへへ」
アキメの微妙なネーミングに、シュウスケは反応に困りつつ、何か感想を言おうとするが
「おい、ツバキ博士!!俺にも、最初のポケモンを寄越せ!」
荒々しい声と共に、バタバタと少年が研究室に飛び込んできた。
薄い桃色のくせっ毛を肩まで伸ばしているが、可愛らしさの欠片もない黒っぽい服装や鋭い目付きをしている。
「はいはい、ヤナギくん。」
モンスターボールを受け取って満足げに頷いたあと、ヤナギはシュウスケたちに気づいた。
「俺はシュウスケ、よろしく」
「私はアキメよ!」
二人の自己紹介に、あからさまに鬱陶しそうな顔をするヤナギ。
「お前らに名乗る気などない…」
だが、アキメの顔を見た途端、態度を変えた。
「ま、まあ一応、俺はヤナギだ。」
「ヤナギか、よろしくね」
シュウスケは明るく話しかけた。
彼はポケモンバトルが大好きな、所謂バトルフリークである。シュウスケは既にポケモントレーナーなのだが、旅をするには博士からポケモンを受けとるのが決まりになっているため、イーブイをもらいに来たのだ。
そして、ヤナギの荒い態度から、バトルができそうな相手だと感じ取ったのであろう。
「よければバトル…」
「俺は急ぐから!じゃな!」
ヤナギはそそくさとその場を立ち去ってしまった。
明らかに残念そうなシュウスケ。そこに、アキメが話しかける。
「私たちも、もう行きましょう
ところでシュウスケ、貴方は旅の目的とか、あるの?」
「決まってる、強いトレーナーと戦いたいんだ!
そして俺も強くなる!それだけだよ」
「実はね、私、なんにも目的ないの。ただ、旅がしたいだけなんだ。
だから、一緒に旅をしてもいいかな」
シュウスケは少し考える。
またさっきのように視線を集めて行動しにくくなるのではないかと…
いや、しかし旅は仲間がいた方が心強いし、なんといっても自分は方向音痴だ。慣れれば人の視線など気にならないだろう。
「いいよ、行こう」
「ほんと!ありがとう、シュウスケ!」
こうして、シュウスケとアキメは旅立った。