プロローグ
「つかまれ!」
岸壁に波が打ち寄せる。雷鳴が空にとどろく。嵐だ。くそっ、こんな時に……!
「離すなよッ! もう少し、もう少しだ」
振り続ける雨で、あいつの声がかすむ。手が滑る。あいつは崖の上で、オレは崖の下。
このままだとどうなるかは、想像に難くない。
一緒に落ちるか、一人で落ちるか。オレの頭は、場違いなほどに、冷静だった。
――おまえはアイツと頑張れよ。
心であいつに語りかける。もう、オレはいい。手を振りほどいく。
「ツバサ――!!」
背中であいつの声を聞きながら、オレは嵐の海へ飛び込んだ……。
世界が、真っ白に輝いた。