第一章 〜灯と暗黒〜
五話
「エリトルって何? だって?」
 青い瞳が丸くなる。彼の首すべてを覆っている、耳と同色の薄手のマフラーがふわりとゆれた。
「お前、エリトルを知らないのか? エリトルなのに?」
「だから何、それって――」
「いたぞー!!」
「チッ」
 太い声が翔の言葉を制す。警備兵が追いかけてきたのだ。
「そこに隠れてろっ」
「え、うん」
 三人の兵が現れ、青年の前に銃を突き付けた。
「めんどくさい事やらせやがったなあ?」
「んー、しゃべってる暇ないんじゃない?」
 突然視界から青年の姿が消える。兵の裏に回った彼は、鮮やかな蹴りで三人を地に伏せた。
「手ごたえねー」
 軽く足を振る青年はどこか不服そうだ。
 翔の近くに来て、手を差し出す。
「大丈夫か?」
「うん」
「う……お前、は」
「あれ、まだ起きてた」
 一人がうめきながらも声を発した。
「まさ、か、むら――」
「言わせるかっての」
 ガン。男の顎めがけて容赦ない蹴りを下す。今度は声もなく倒れた。
「こっちにいたぞー!」
「げ、まだいる。隠れてな」
 頼むというよりは無理やり翔を気の影に押し込み、自分は敵の真正面に立った。
「はい、『サイコキネシス』ー」
「グア!」
 青年は何かしているようには見えないのに、やってきた男たちは言葉をいうまもなく倒れていく。翔には、手品のようにしか見えなかった。
「ここまで数多いとさすがに面倒だな」
 まだまだ兵はやってくる。すると彼は、右手をひねる不思議な動きをした。
「これでいいか」
 行くぞ。青年に手をひかれて翔は走りだした。後ろが気になって振り返ると、後から来た兵は、何やら幸せそうな顔をしながらふらふらとさまよっていた。
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アスカ ( 2012/10/22(月) 17:45 )