五話
「エリトルって何? だって?」
青い瞳が丸くなる。彼の首すべてを覆っている、耳と同色の薄手のマフラーがふわりとゆれた。
「お前、エリトルを知らないのか? エリトルなのに?」
「だから何、それって――」
「いたぞー!!」
「チッ」
太い声が翔の言葉を制す。警備兵が追いかけてきたのだ。
「そこに隠れてろっ」
「え、うん」
三人の兵が現れ、青年の前に銃を突き付けた。
「めんどくさい事やらせやがったなあ?」
「んー、しゃべってる暇ないんじゃない?」
突然視界から青年の姿が消える。兵の裏に回った彼は、鮮やかな蹴りで三人を地に伏せた。
「手ごたえねー」
軽く足を振る青年はどこか不服そうだ。
翔の近くに来て、手を差し出す。
「大丈夫か?」
「うん」
「う……お前、は」
「あれ、まだ起きてた」
一人がうめきながらも声を発した。
「まさ、か、むら――」
「言わせるかっての」
ガン。男の顎めがけて容赦ない蹴りを下す。今度は声もなく倒れた。
「こっちにいたぞー!」
「げ、まだいる。隠れてな」
頼むというよりは無理やり翔を気の影に押し込み、自分は敵の真正面に立った。
「はい、『サイコキネシス』ー」
「グア!」
青年は何かしているようには見えないのに、やってきた男たちは言葉をいうまもなく倒れていく。翔には、手品のようにしか見えなかった。
「ここまで数多いとさすがに面倒だな」
まだまだ兵はやってくる。すると彼は、右手をひねる不思議な動きをした。
「これでいいか」
行くぞ。青年に手をひかれて翔は走りだした。後ろが気になって振り返ると、後から来た兵は、何やら幸せそうな顔をしながらふらふらとさまよっていた。