三話
「ライチュウ、ガ―ディ……」
翔は、二匹をぐっと抱きしめた。ニ階から飛び降りた時、大きな怪我はなかったが、強く打った右肩がまだ疼くようだ。
目の前には、街が広がっている。翔たちは、街のすぐ横にある森の中。
「怖い……。あんなに、たくさん」
街には、当然のごとく、人々がいる。が、翔は父と母以外の人間を見た事がないのだ。おびえるのも、仕方がないだろう。
しかし、翔のその判断は、ある意味正しい。
彼はエリトルだ。街の警備兵などに見つかりでもすれば、瞬殺である。
『チュ〜』
『グゥゥー』
「やっぱり行った方がいいのかなぁ?」
そんな風につぶやく翔の声は、まだ明るい。両親が死んだかもしれないという事実を、あまり実感できないのだろう。
「……やっぱり、いこ」
翔は、街へ踏み出した。
〜〜
「? 何なんだろう?」
翔が歩くと、周りの人々がざわめく。それは当り前の反応だったのだが、翔にはわからない。
「なに、あれ?」
「変な耳と尻尾が付いてるぜ?」
「あれ、まさかエリトルじゃあ……」
そんなざわめきの中、翔はひょいひょいと進んでいく。まだ若干恐怖心があったが、大丈夫と自分に言い聞かせていた。
しかし、それも長くは続かなかった。
「へ?」
人が周りからいなくなる。その代わり、前から大勢の人が来た。
彼らは、動きにくそうな服、帽子、銃を持っていた。
警備兵、である。
「お前、エリトルだな?」
「えりとる……?」
聞き覚えのない言葉に翔が首をかしげる。警備兵のリーダーらしき人物が、聞くまでもないとばかりに銃を構えた。その後ろの兵たちも一斉に銃を持つ。
「え?」
銃を見た事がない翔でさえ、たたきつけられた殺気に肌が泡立った。
(なに、何? 怖い、怖い!)
『チューっ!』
『ガーグゥゥ!』
歯をむき出して威嚇する二匹を、腹に抱えて銃から遠ざけた。せめて、ライチュウとガ―ディだけは……!
「撃て!」
「!」
目の前に、青い閃光が走った。