二話
「……くさい」
翔は不快な臭いで目を覚ました。
(母さんが料理の失敗でもしたのかな?)
臭いだけではない。熱い。パチパチと何やら音がする。
『チュ〜ライっ!』
「ライチュウ。どうし――あつッ!」
顔に火花が飛んだ。隣にいる父のライチュウは、体に何か所も火傷を負っている。
(火……!?)
赤々と、下の階が燃えている。チリチリと火花が足元に散る。
こんなに大きな火を翔は視た事がない。視た事があるとすれば、母が間違ってフライパンに火をつけた時くらいだ。
「ど、どうしようっ、ライチュウ、父さんは、母さんは?」
不安を紛らわせるように、ライチュウをぎゅっと抱きしめる。父と母は下の階にいる。
まさか、もう……。そんなことを考える暇も与えずに、火はどんどん翔を追いつめる。
『チューっ!』
『がぅぅッ!』
「ガ―ディ!?」
火の中から、母のポケモン・ガ―ディが飛び出してきた。口に、母のパジャマの切れ端を加えている。
「母さんっ……!」
翔の腕が震える。目の前が真っ暗になりそうになった。
バリン!
窓が割れる。風が吹き込んだ。ガ―ディが『かみつく』で窓を壊したのだ。
(え?)
翔の眼が窓の外の世界をとらえた。外は、不思議なほど静かに暗闇をまとっていた。
「なに、これ?」
見た事のない風景。
見た事のない世界。
(なに、何だ、これは?)
さっきとは別の意味で手が震える。倒れそうだ。
『チュウーっ!!』
『ぐうぅぅっ!!』
「!」
二匹の声で我に返った。生きたいという本能がまず動く。
「どうすればいい? ライチュウ、ガ―ディ!」
その言葉を聞くと、軽快にライチュウは翔の腕から飛び出し、外の世界を指差した。
ガ―ディは翔の足をぐっと押す。
「あっちに……行けばいいの?」
こくん。翔には二匹がうなずいたように見えた。翔もうなずく。もう、決めた。
「行こう」
翔は二匹を抱きかかえ、柵を飛び越えて……外の世界へ、飛び降りた。