一話
『そうして、少年アスターは今や勇者アスターとなり、国の平和を永遠に守るのであった……』
「おもしろかったぁーッ!」
今まで読んでいた本を投げ出して、少年はベットに寝転んだ。
つやのある黒髪、わずかに藍色がかった瞳。ただ、特殊な『耳』と『尾』がある以外は、彼は普通の少年だった。
そう、彼はエリトルなのである。
名は翔。明日で十三歳になる。にもかかわらず、彼がこの年まで生きているのはなぜか? エリトルは、生まれてすぐ、消されるのではないのか?
答えは、すぐ明らかになる。
「翔! 下りてきなさい!」
下の階から翔の母親の声が聞こえる。翔はベットから飛び下りた。
「はーいっ」
〜〜
居間の雰囲気は、どことなく暗い。それは、窓がすべて閉め切られ、カーテンが閉じられているからだろう。
「いっただっきま〜す」
しかし翔は、そんなことは気にも留めず、昼ごはんにかぶりついた。
隣でにこにこと笑っているのは、翔の母と父だ。
――もうここでいってしまおう。翔は、世界から隔離されているのである。
翔は、外の世界を知らない。外の世界があることさえ知らない。
父と母は、エリトルが生まれてすぐ殺されることを知ってた。だからだ。
偽りの幸せだと、思うかもしれない。だけど、彼らはこれが幸せだった。幸せだったのだ。
ずっと、これが続けばと、思っていた。
だが、この幸せが続かないのも、真実であった。
現実は無情にも、彼らを突き放すのだ。