二章『水曜日は恨めしい』
『改行されていく自由』
 1

「こんなことを頼んで申し訳ないとは思うんだけど……」
「いえ、構いませんよ。今は丁度……そうですね、調べ物が上手く行っていないので」
「調べ物?」
「ええ。いえ、個人的なことなんですけどね」
「ポケモンに関すること?」
「いえ、人間関係です」
「あそう。じゃあ僕は役には立たないな」
「そちらの用件は、僕なら役に立てますか?」
「うん、そういうことを言って欲しかった」

 2

 季時九夜は、夜遅くに地元の駅に来ていた。ある人物との待ち合わせがあった。とある縁で親交を持つようになった人物だ。物質的な手紙でのやりとりをしたくらいで、直接会うのは実は二度目だった。最初に会った時から、どれくらい経ったのだろう。少なくとも、一ヶ月くらいだろうか。
 誰かを待つ、という経験は、季時にとっては珍しいことだった。同時に、誰かを呼び出すという行為も。基本的に時間に縛られずに生きていたいし、時間という概念を忘れて生きていたい。煙草でも吸いたい、という気持ちになった。けれどもちろん吸おうとはしない。酒を飲みたい気分、あるいは、体に悪い食べ物をお腹いっぱいに食べたい、という気分でも言い換えが効いた。
 季時にとって、友人と呼べる人間関係は極端に少ない。学生時代から知り合いの、今は喫茶店を開いている男くらいだ。今日呼び出した男を友人と呼んで良いのか、季時は考える。恐らく、彼は喜ぶだろうとは思った。だが、自分の中では、友人という枠で片付けてしまうのはもったいない人物のようにも思えていた。
 歳はそれなりに離れている。
 生徒と教師とまでは言わないまでも――いや、季時が新任の頃を考えれば、あり得ない年齢差でもないのか。
 電車がやってきて、二十三人の人間が改札を通った。それを正確に観察していたのは、季時が単純に暇だったからだ。そして二十三人目に、その人物はやってきた。細身のパンツに、薄手のシャツという出で立ちだ。パートナーの存在は見当たらなかった。
「こんばんは、季時先生」
「突然悪いね」
 お互いの言葉使いや上下関係は、もうほとんど確立されていた。軽く手を挙げて、季時は彼を迎え入れる。
「じゃあ、ちょっと、ついてきてもらっていいかな」
「ええ」
 季時が呼びつけたのは、立花戦という男だった。
 彼をどのような分類にわけるべきかは明確ではないが、それでも彼に何らかの特徴的な呼び名をつけるとするなら、『獣払い』という言葉が似合う。先天的な体質で、立花はポケモンを寄せ付けない、あるいは自動的に忌避させる。『獣払い』という名称は、立花の親戚にあたる人物が『人払い』という上位互換の体質を持っていることに準じてつけられたものだったが、季時はそれを割と気に入っていた。ポケモンを『獣』や『動物』と分類してしまえる立花という男は、季時にとっては珍しい人種だったからだ。
「あの、お金は払うつもりだから」
「別に構わないんですけどね」
「電車賃とか、色々……まあ、これは僕のわがままだと思って、受け取ってもらえれば」
「……ありがとうございます」
 会話が少ない、というわけではない。
 ただ、不必要な会話をしなくても居られる、という関係だった。
「ところで、そろそろ詳しく伺っても?」
「どこから話そうかな」
 季時は白衣のポケットに両手を突っ込んでいる。
 現時刻は、夜の八時。
 本来なら、人を呼びつけるような時間ではないのだが、平日の日中は仕事をしている季時にとって、自由時間はあまりない。それに、今回の件に関しては、あまり悠長に構えてはいられない。一応にして、姫川にはじっとしているようにという約束をとりつけはしたが、いつ感情的になってもおかしくない。それだけの状況に、彼女は立たされている。
「簡単に言うと、いじめが起きてね」
「なるほど」立花は表情を変えずに言った。「僕も幼い頃にそういう経験があります」
「いじめられる経験?」
「ええ、体質が体質ですからね」
「なるほどね」
「そのいじめで、何が?」
「いじめられていた子のポケモンが、まあヒメグマなんだけど、死んでしまった」
「それは因果関係があることですか?」
「それを、今から調査するんだけどね」
 向かっているのは、学校の裏手にある森だった。そこはやはり現在も立ち入り禁止ではあるが、名目上そうであるだけで、誰でも立ち入ることが出来る。鍵を持っている季時なら尚更だ。
「遠いところから僕を呼び出したというところを考えると、この体質がお役に立てそうですか?」
「うん、まあ……本当に、申し訳ないとは思っている。今夜はうちに泊まって行ってくれると、僕も気を揉まなくて楽なんだ」
「ではそうさせていただきます」
 季時は、昨日そうしたように、また鍵を開ける。夜の森は、日中に比べて明らかに危険だ。夜にしか能動的に活動をしないポケモンというのも、事実として存在している。
「夜の森が危険だから僕を呼んだ……ということではありませんよね」
「まあ、そういう少しへたれた理由でもいいんだけどね」扉を開け、立花を先に通した。「どうぞ」
「お邪魔します」
『獣払い』という特性を持っているとはいえ、この段階ではそれは発揮されていない。そもそも野生のポケモンは、それほど積極的に人間には寄ってこない。少なくとも、逃げ切れる程度の接触しか生まない。絶対に逃げられない野生のポケモンなど、ほとんどあり得ないと言って良い。しかし、強靱なポケモンとなると、逃げが遅れたり、逃げる前に攻撃されたり、ということがあり得る。そうした不確定要素を防ぐために立花を呼んだというところも、多少なりあったはずだ。
「そう言えば、ジュペッタは?」
「置いてきました。あまり長く外を歩かせるのも、と思って」
「賢明だね。でも、一人は寂しいんじゃない」
「当主に預けてあります。最近、彼女にも慣れたみたいで……まあ、未だに緊張はしているみたいですけどね」
「『人払い』っていう、除霊師の人?」
「ええ」
「へえ。元は人でも、幽霊になったら大丈夫なものなのかな」
「かもしれませんね。先生のカゲボウズは?」
「信頼して、今日は置いてきた」
「信頼ですか? カゲボウズと先生の仲は、かなり信頼関係が築かれていると思っていましたけど」
「いや、君の体質だ」
「ああ」立花は頷いた。「そうですね、僕もこんなに、動生物の多い場所に来るのは、久しぶりです。僕も自分の体質を信頼し直そうかと思います」
 無論――季時と姫川が二人で歩いている最中でさえ、襲いかかってくるポケモンがいなかったのだから、この森は比較的、野生のポケモンが用心深いと言えるだろう。無闇やたらと襲ってこない。それに、人間の危険度を観察出来るのかもしれない。季時は少なくとも、人類の中でも、トップクラスに腕が立つ。
「先生」
「何?」
「世間話でも、と思ったんですが」
「どうぞ」季時は歩きながら、顔も向けずに言う。「世間話は、嫌いじゃないからね」
「ヒメグマが死んでいたと言いましたけど」
「うん」
「殺された、という意味ですか」
「どうだろう。それを確かめに来てる」
「少なくとも自然死ではないと」
「うん、まあ……ボールが破壊されていて、中にいたはずのヒメグマが死んでいた。それも結構、ショッキングな状態でね」
「犯人捜しですか」
「というか、事実確認かな」
 季時は周囲の雰囲気を感じ取る。ああ、どうやら立花の『獣払い』は、獣を寄せ付けないのではなく、敵対させる能力のようだ――と思い至った。周囲から発されているのは、怯えではなく、殺気だ。ただ、立花がそれ以上の行動を起こさない以上、相手方も行動しない、という力関係のようだ。
 あくまで主導権は立花のもの。
 それを、彼は自覚していないようだが。
「当然、ヒメグマの持ち主は悲しんでいるし、憤っている。だから、このまま放っておくと、感情的に、復讐をしかねない」
「復讐……ですか」
「だから、その復讐が正しい復讐になるように、僕は事実確認をしている。間違った争いは良くないからね」
「なるほど。結構、生徒想いなんですね」
「そんなに良いものじゃないよ」
 季時は思う。
「これは、ただの罪滅ぼしなんだ」

 3

 ヒメグマの死体は、そこにあった。季時が昨日見た場所と同じところに、転がっていた。周辺にはモンスターボールの残骸もある。季時はポケモンの死体というものにそれなりに耐性があった。立花は、ポケモンという意識を持たず、『道路に落ちている猫の死体』と同じような感覚で、それを見ていた。
「なるほどね」季時はヒメグマの死体を触りながら口を開く。「やはりポケモンに殺されたようだ」
「共食いみたいなものですか」
「いや……飼われているポケモンが嫌いなのかな」
「同族嫌悪とは違うんですかね」
「そもそもこの森にヒメグマやリングマは生息していない」
 季時は特殊なモンスターボールを取り出した。市販されているものではない。業務用、と言えば正確だろうか。季時やその周辺の人間は、それを『棺桶』と呼んでいた。ポケモンの死体を運搬するためのモンスターボールだ。既に死体は傷ついていて、腐敗は進んでいたが、それでもこのボールで運搬しようとしたのは、季時なりの、ヒメグマへの礼儀だった。
「あの、気を悪くしたらすみません」
「そんな予定はないよ」
「見分けがつくものですか」
 立花の質問の意味が、季時には一瞬分からなかった。しかしすぐに、「ああ」と答える。
「自分の飼っていたポケモンは、大体、見分けがつくよ。僕もそれは分かる」
「季時先生も、このヒメグマを知っていたんですか?」
「ん、いや……」
 知らなかったと言えば知らなかったが。
 しかしだからと言って、そこまでの偶然が重なることもないだろう。無論、姫川だって、まじまじと観察したわけではないはずだが、ここまでの条件が揃っていれば、疑う余地はないと、季時は考えていた。
「でも、多分、そうだと思う」
「それも含めて事実確認、ですか」
「まあ、そうなるね」
 季時はボールをポケットにしまう。壊れたモンスターボールの残骸も、反対側のポケットに入れた。
「確認はこれで終わりですか?」
「いや、一応この森を見ておきたいんだけど」ぐるりと見回して、季時は言う。「深部は僕もしっかり観察したことがないんだ。特に最奥となると……想像もつかない。だから君についてきてもらったんだけど」
「なるほど。先生でも危険ということですか」
「かもしれない。特に今は、丸腰だしね」
「分かりました。行きましょう」
 立花は全く恐れない。一歩間違えれば、あるいは自分の『獣払い』の体質を、野生のポケモンの敵意が上回れば襲われるかもしれないのだ。季時も立花も、丸腰である。にも関わらず、恐れずに進もうとするのは、立花の精神に、どこかしら欠陥があったからだ。
「この森は危険なんですよね」
「まあね」
「なのに、ボールをここまで運んだいじめっこがいる、ということですか」
「いや……多分、どこかから投擲したんだと思うよ。それが落下したか、転がったか……あるいはどこかにあったボールを、野生のポケモンが移動させたか」
「ああ、そういうのがあるわけですか」
「そしてあの場所で破壊された」
「なるほど」
 立花は生い茂る木々に視線を向けながら、そして歩みを止めることもなく、まるで無感動に言う。
「偽装じゃないですか?」
「偽装」季時は繰り返す。「悪いけど、今、頭が回ってないんだ。自由に話して」
「僕ならそうするかな、と思っただけです。いや……僕の経験上、そういうことをする可能性があるかもな、と思っただけです。つまり……まあ僕がこの体質上、人間以外の生き物をほとんど温厚だと勘違いしているからなのでしょうけれど……わざわざ落ちてきたボールを破壊して、中にいたヒメグマを殺そうとするかとは思えません」
「一理ある」
「そこまで残忍な生き物が、果たしてこの森で大人しくしているか……という気もします」
「まあそうだね」
「そのヒメグマ、偽物かもしれませんね」
 その立花の見方は――決して、的外れというわけではなかった。全ての前提を覆してしまうような話ではあったけれど、それでも、絶対にあり得ないと言えてしまうような話ではなかった。
 季時は認識を改める。
 この事件と、同時に立花という男を。
 この男は想像以上に、頭が切れるようだ、と。
「しかし仮に……このヒメグマが偽物だとして、それをする意味は何だろうね」
「逆恨み狙い、とか」
 立花はぽつっと言った。
 まるで身に覚えでもあるように。
「ああ、罠か」
「ですね」
 ようやく季時は、自分自信の思考能力が普段のレベルに戻って来たことを実感していた。そう、そういう考え方も出来るはずだ。
「いじめられっこ……姫川君というんだけど、彼女を刺激することで、彼女に行動をさせようとした、ということか。あり得ない話ではないかな」
「むしろ、僕には現実的かな、と思えます。例えば、誰かに嫌がらせをしたいなら、自分の手を汚さずに、相手に勘違いさせて行動さえる方が、合理的ですよね」
「まあね。もちろん、それが本当だとしても、ヒメグマの死体を運搬したこと、姫川君のヒメグマを盗んだことは、犯罪だけどね」
「まあそれもそうですね」
「その辺も合わせて事実確認をする必要があるか……」
「まあ、僕の考え方なんて、参考程度に留めて頂ければ、とは思います」
「いや、随分参考になった。ありがとう」
「ひねくれてるんです、僕は」
「それはお互い様だ」
 二人はそれから森の中を彷徨っていたが、しかしそれ以上、有益な情報は得られそうになかった。確かに得られたのは、立花の『獣払い』の性能は季時が想像していたよりも高範囲に効果を及ぼし、尚且つ絶対的だということ。そして、森の中にあったのは、ヒメグマの死体と、壊れたモンスターボールだけだった、ということだった。

 4

「オスのヒメグマだ」
 立花と共に自宅に戻り、季時はヒメグマの死体を調べていた。森の中で調べるよりも、もっと正確な調査が出来た。
「オスメスというのは分かりにくかったりするんでしょうか」
 途中、ポケモンセンターに寄って色々なものを調達していた。最近では、ポケモンセンターとフレンドリィショップという二つの施設が一緒になっていることが多く、二十四時間営業のそうした施設は、ポケモン関係だけでなく、日常的にも役に立つことが多かった。季時と立花はそこで夕飯を買い込んでいた。もっとも夕飯を買ったのは立花だけで、季時はアイスコーヒーを一つ買っただけだった。レジカウンターに設置されている、その場で豆を挽いて新鮮なコーヒーを作ってくれる機械は、コーヒー好きの季時には大変好ましいものだった。その機械を、そのまま家と職場に置いておきたいと思うほどだった。
「分かりやすいポケモンもいるけど、ヒメグマは外見的特徴があまりない。しっかり調べないと、あまり分からないね」
「なるほど」
 立花は興味深そうに、背後で弁当を食べていた。敷き詰められた米の上に肉類が乗っているというだけの、体に悪そうなものだった。それに加え、パスタとサラダをミックスしたものと、「念のため」と言って買った菓子パンが未開封で置いてあった。もっとちゃんとしたところで夕飯をごちそうする予定だったので、金銭的な問題は一切ないのだが、カレーパン一つでお腹が膨れる季時は、単純に、「若いなあ」と思っていた。
「その、姫川という子のヒメグマはオスメスどっちなんでしょう」
「大した問題にはならないだろうと思っていて、聞いていなかった。明日質問する予定」
「それで性別が違えば、一安心ですね」
「そうなるね」
 ストローでコーヒーを吸収する。ほとんど解剖みたいなものだったので、食欲はあまりない。むしろ、背後で平気な顔をして食事をしている立花が意外だった。
「死んでから、三日くらい経っているかな」
「分かるんですか」
「元々獣医志望だったんだ」
「へえ、すごい」立花は素直に驚いた。「医療関係という人は、尊敬しますね」
「頭が良さそう?」
「いえ、命を救おうなんて考えは、優しすぎますから」
「……まあ」季時は珍しく、返答に時間を要した。「そうだね、そういう見方も出来る」
 初対面の時にも思ったことだが、やはり季時にとって、この立花という男は天敵と言えた。苦手な相手はいくらでもいるが、それでも天敵となると、この男だけだろう。敵対関係にないのは、本当に幸いだった。
 ポケモンありきの季時にとって。
 この男は、あまりに危険すぎた。
「やはりポケモンに殺されたようだ。それは間違いない。直接的な死因は、過度な攻撃によるものだね」
「ボールを壊したのもそうですか?」
「多分ね」
「となると、ボールを破壊されてから、ヒメグマは殺された、と」
「となるのが普通なんだけど」
 季時は少し不思議に思うことがあった。
 モンスターボールは、簡単に言えば球体のカプセルだ。それに蝶番があり、開閉する。安価で手に入るがかなり精密に作られているし、投擲することを前提として作られているため、頑丈で、普通の使用で壊れるようなことはない。
 しかし、その蝶番の部分は脆い。そこをこじあけようとすれば、ボールを破壊することは簡単だ。ボールにはいくつも種類がある。単純なボタン押下式のボールもあれば、少しグレードを上げれば、指紋認証でボールを開けられるタイプもある。そして最近のスタンダードなボールは、ほとんどが『人間にしか反応しない』というものだ。昨今のタッチパネル式の機器類に似ている。人間の皮膚の形、温度、静電気……等々、そうしたものを利用して、開閉可能としている。だから、ポケモンはモンスターボールを開けることは出来ない。少なくとも、壊されていたボールは、そうした機構だった。
 しかし疑問は、だからこそ疑問は残る。
 ヒメグマは、殴打によって傷付けられている。
 一方で、ボールは、鋭利なもので――ポケモンを対象とするなら爪で――破壊されていた。
「この辺も事実確認をしないと」
「先生というお仕事は大変なんですね」
「これは仕事じゃないかな」
「何ですか?」
「趣味、というか、贖罪だ」
「……やっぱり、季時先生は優しい方なんでしょうね」
「買いかぶりすぎだ」
「似た人間を知っているので、そう思うんですよ」
「調査はこの辺にしよう」
 季時はヒメグマの死体を『棺桶』に入れると、キッチンへ向かった。薄手のゴム手袋をゴミ箱に捨てて、手を洗う。少し空腹を感じていた。
「お疲れ様です」
「どうも」
「食べますか?」立花は袋から菓子パンを取り出す。「何も食べないのは、多分、大変ですよ」
「いいの?」
「先生が買ったものです」
 季時はそれを素直に受け取った。半分残ったアイスコーヒーは、少しぬるくなっている。
「僕はもっと、季時先生の家は、賑やかだと思っていたんですよ」
「ポケモンで溢れていると思った?」
「ええ」
「寝室にはボールがあるけど、ほとんど預けてある」
「ああ、そういう文化があるんでしたっけ」
「あとは、学校に置いてあるよ」菓子パンの袋を開ける。「カゲボウズだけはいつも一緒だけどね」
「だから姫川さんに協力するんですか?」
「いや、違う。だから、贖罪なんだよ」
「自分の身に置き換えたわけではなくて、ですか」
「もし自分の身に置き換えていたら、誰彼構わず、疑わしきを罰している」
「まあ、そうなんですかね」
 立花は何か考えているようだった。あるいは、自分のパートナーであるジュペッタについて、想いを馳せているのかもしれない。
「先生が僕を呼んでくださったのは、あの森が危険だったからというのもあるのでしょうけれど、それだけだとは思えません」
「うん」
「でも、ただ急に会いたくなった、というわけでもないですよね」
「そうだね。なんて言えばいいかな、君のような……うん、ポケモンとほとんど無縁に暮らしていた人と話がしたかった」
「なるほど」
「僕の暮らす世界では、異端だ」
「僕にとっては、季時先生がそうです」
「そこで聞いておきたいことがある」
 季時はわざと軽薄な笑みを浮かべた。
「君は、ポケモンを殺せるかな。つまり、物理的にとか、無感情に殺せるかという意味ではなく、遊びの延長で、いじめの中で、嘲笑の道具として、殺せるだろうか」
 立花はその質問に、ほとんどのタイムラグなく答えた。
「ええ。僕にとっては、一生物ですから」


戯村影木 ( 2013/07/16(火) 23:53 )