5
目を覚ましたのは、不可解な音を、すぐ近くで耳にしたからだ。
そこがどこなのか一瞬分からなかった。たっぷり五秒間考えて、リーチェがいた部屋だと思い出す。洋燈も持たずにいたせいで、部屋の中は真っ暗だった。つまり夜だ。日差しはない。僕はそこで、すすり泣きの音を聞いた。
「……」
恐怖、ではない。
不可解さが僕を支配する。
冷静な足取りで、正確に屋敷を移動し、洋燈を探す。とても時間がかかった。しかし、それでもすすり泣きの音は消えようとしない。僕は洋燈に明かりを灯して、再び部屋に戻った。
鳴き声は止まない。発信源はどこなのだろう。ベッドは僕が寝ていた。ベッドの下もない。昨晩と同じように、室内を探し回る。
そして最後に、部屋にある数少ない家具であるデスクに触れた。デスクに備え付けてある引き出しを、ゆっくりと開ける。
中から、黒く染まった綿が、溢れだしてきた。