20
「んー、こいつはデンリュウナイト。デンリュウに持たせると、メガデンリュウにメガシンカするためのメガストーンやね」
「デンリュウ用の石なんだぁ」
橋の上、僕たちは隅で道具を囲みながら会話をしていた。
勝負が終わってすぐのこと、それぞれに自己紹介を済ませていた。男の名はサンクといった。歳は十九歳であるらしく、僕からすれば年下だが、緑葉にとっては同い年。まあひとつだけ年代が違うのだろうけれど、ほとんど同じようなものだった。お兄さんお兄さん、と僕を呼んでいたのでもっと年下なのかと思っていたが、それはどうやら、彼の日本語が少々独自であるからであるようだった。つまり、初対面の人間に対しての呼称が、お兄さん、お姉さん、おじさん、おばさん、お爺さん、お婆さん、の六通りしかないとのことだった。彼に日本語を教えた人間が、相当に適当な人間だったのだろう。
言われてみれば、バトルの最中、彼の日本語に多少なりとも違和感を覚えたような気もするが――そのときは戦いに専念していて、深く考えてはいなかった気がする。
「メガデンリュウはねえ、すごく強い。総合的に能力が向上するってのもあるけど、それより何より、ドラゴンタイプが追加されるからね」
「うっそ、マジ?」僕は思わず口を挟んだ。「電気とドラゴンってこと?」
「ほんとほんと。お兄さん、ポケモン強いし、詳しいから、楽しいんじゃない? 未知の領域が開けたって感じでさ」
「そりゃもうまさにその通りだけど……へえ、そうなのか、デンリュウ……あれ、ってことはデンリュウってもしかして、電気の龍なのか」
「んー、マチスさんは電気が流れる方が語源だって言ってた気がするけどなあ。体内の構造が同じなんだって」
「へー……まあそうか、デンリュウって名前を見るに、明らかに日本産のポケモンだもんな。その辺はただの偶然の一致か……しかし、へえ、ドラゴンか。電気とドラゴンなんて言えば……抜群なのは、地面、氷、ドラゴン、かな? んー、逆に弱点は増えるのか」
「だねえ。でも抵抗がー……」緑葉は細い指を親指から順番に折っていく。「炎、水、草に強くなるのかな。計六タイプ」
「得意が三タイプ増えて、苦手が二タイプ? んー、数だけ見れば良い変更か」
「あー……それにもう一つ」と、サンクが指を立てる。「メガシンカすると、『フェアリー』がね、効果抜群になる」
「え、『フェアリー』って、『ドラゴン』にも強いわけ?」
「というか、そっちがメインかなあ」サンクはバッグの中から、手帳サイズだがハードカバーの本を取り出した。「これ、カロスで割とメジャーな本。ていうか、絵本かな」
「それがさっき言ってた『妖精神話』ってやつ?」
「あ、そうそう、そっか、さっき言ったっけ。人間と妖精とドラゴンが争っている、おとぎ話の絵本。力関係とか、分かりやすいかもね。まあ、興味があったら一冊どうぞ」と言って、彼は僕に本を渡した。「布教用だから」
「ああ……ありがとう。そういう活動でイッシュにいるわけ?」
「まー言ってみればそういう感じかな。これから日本にも行くつもりだけどね。自分みたいな活動家が何人かいて、それぞれのルートでのんびり日本を目指してるよ」
「ふうん……みんな『フェアリー』タイプを布教してるのかな」
「んー、つーか、理解を広めようとしてるんだ。情報をもっと伝達したいっていうかさ」
その言葉に、僕は数年前の青藍兄さんとの会話を思い出した。青藍兄さんは確か、『情報を規制する機関』と言っていただろうか……もしその機関が政府直属のものだとすれば、サンクのしていることは違法行為なのかもしれない。僕はそれ以上、突っ込んだ質問をしないことに決めた。どうせすれ違う人間関係だ。適当に流しておいた方が良いだろう。
「ありがとう。いくら?」
「基本無料。けど、お気持ちは欲しいかな」
僕はトレーナーカードから、彼に三千円を支払った。無駄にアイテムを使わせたという負い目もあったので、その値段を妥当なラインと設定した。
「しかしメガシンカかあ……これ、メガリングだっけ? どのポケモンのメガシンカにも対応出来るのかな」
「キーストーン自体はどれに対しても使えるね。それに、当然使用者の制限もないから、お姉さんが指輪を嵌めれば、メガデンリュウになれるよ」
「あ、そっか、そもそも指輪がないとメガシンカは出来ないのか……」少し残念そうな緑葉。「むむむ……でも、カロスって、イッシュよりもっと日本から遠いもんね。買いに行くのは至難の業かなあ」
「だねえ……輸入、ってわけにもいかないんだろうなあ。それが出来るなら、イッシュや日本で買えないわけがないし」
「キーストーンはね、そもそも数が作れないんだよ。かなりのレアもの。値段とかの問題じゃなくて、希少価値が高いってこと。メガストーンはそこそこ手に入るんだけどねえ。だから、メガリングは持ってないけど、キーストーンはたくさん持ってるって人、多いよ。それを、メガリングを持ってる人に売ってたりね」
「へえ、そういうお国事情があるのかあ」
なんだか、青藍兄さんとの関係を思い出すための道具になりかけていた指輪だったけれど、『メガリング』という役割を与えられると、なかなかどうして、輝かしく見えて来るものだ。大事にしよう、と心に誓って、ひとまず手に入れた『妖精神話』をバッグにしまおうと、バッグを開けた。
「うおーう」
「ん?」
「お兄さん、バッグの中身、すごいね」
「え? ああ……」
言われて、バッグの中身を見る。何か変なところでもあるのかと思ったが……確かに、初見では僕のバッグは狂っているようにしか見えないだろう。何しろ、『技マシン』のデーターカードがプラスチックケースに入って、百以上保管されているのだ。ちょっとしたコレクションである。
「すげー……お兄さん、技マシンコレクター?」
「いやいや、実戦用。僕のパーティは知っての通りバランスが偏ってるからさ、道中有利不利を明確に感じる場面とかがあって……特に電気や水に乏しいから、海辺や洞窟は厳しいんだよね。そんなときに、手っ取り早く技マシンで有利な技を覚えさせる」
「ほー……」
「へー……」
なんで緑葉まで一緒になって頷いているのか。知っているだろうに。
「あとは、ポケモンの技構成も日ごとに見直したりね。というか、ほとんど日替わりに近いかな。最近は固定化された技もあるけど……何匹もポケモンを育てる余裕がないから、メインのポケモンに色んな技を使わせてみて、それを体に馴染ませてるって感じかな。固定化して、その技を研ぎ澄ませていく……っていうスタイルもいいと思うけど、僕は色んな技を使っていきたいタイプ。ポケモンだって、色んな可能性を試したいだろうし」
「なあるほど。そう言われると、プクリンちゃんはここ何年かずっとこの構成のままだなあ」
「それはそれでいいんじゃない? 緑葉だってそうだもんね」
「んー……まあ確かにねー。いまいち技マシンを使いづらいのは、昔からトレーナーやってる反動だったり?」
「ああ、それは確かにありそうだ……うん、近年の法改正がなかったら、僕も技マシンをこんなに活用してなかっただろうなあ」
「法改正って?」
「あー、カロスはまた違うのかな。日本だと、数年前まで、技マシンは使い切りだったんだ。だからここ一番ってときとか、この技はずっと使わせる、ってときくらいしか技マシンは使わなかったらしい」
「私なんて未だにその感覚が抜けきらないから、技マシンを買うことにすら抵抗感あるよー……いい時代になったんだけどねえ」
「ああ、なるほど。カロスは随分前から使い放題。そこら辺のお店で買えるしね。その代わり昔は随分高かったけどね。今は落ち着いたかな、値段も」
「まあ何にせよ、使ってみて使用感を確かめて、忘れさせてみてその存在感の大きさに気付いてみて……とかやっていくと、どの技が合ってるのかどうかも見えやすいし、どの組み合わせが強いのかとかも分かるしね。もっとも、流石に自力でしか覚えない技とかは忘れさせないようにはしてるけどね……」
そんな会話を一通りして、僕は『妖精神話』とやらを、バッグに詰めた。回復系アイテムをほとんど持ち歩かない僕なので(ネットには預けてあるけど)、バッグにはスペースがたくさんあった。詰め込むスペースがたくさんあることは、良いことである。
「よし、ノートもまとまった」
サンクから聞いたメガデンリュウの情報をノートにまとめたらしい緑葉は(やはり真面目だ)、丁寧にサンクに向き直り、「ありがとう」とお辞儀をした。奥ゆかしい大和撫子ここにあり、である。
「勝負の対価だからね。でもまあ、こちらこそ」そう言って、彼も不慣れなお辞儀をした。
「君はこれからどうするの?」
「んー……場所を替えてまたトレーナーを待とうかな。あっと、その前にポケモンセンターに行かないと。それにそろそろお腹が空いてきたなあ」
「そうだね……ポケモンセンターは大事だよ、ほんと。僕もこの歳になってもまだ痛い目を見るからね……」
「何が?」
「いや、なんでもない」と、緑葉から視線を逸らす。「とりあえず僕らはホドモエだね」
「ほんじゃ自分は反対方向へ。いやー、白熱したバトル、どうもでした」
「こちらこそありがとう。『フェアリー』との対戦、良い経験になったよ」
いそいそと荷物をまとめる僕と緑葉。サンクはポケットから小型の通信端末を取り出して、何やら操作した――かと思うと、小型装置から空中に向けて映像が放出された。
映し出されているのは、人間。
ビデオチャットでもしているような感覚だ。
「うわ、すげえ」
「何が?」
「緑葉、あれ見てみなよ」
「えー? ……うわ、本当だ、すごい」
ディスプレイに映像を映し出す、というものではなく、あれは明らかに空中に映し出している。ポケギアとか、ポケッチとか、そういうタイプの道具ではなかった。
サンクは何やら、女性と会話をしているようだった。お国柄、とでも言うのか――日本人だったら、不特定多数に見られる可能性がある場所で、ああいう機器を使えないことだろう。いっそ、誰にも見られないとしても、遠くにいる人間に、今の自分の姿を見られることすら、嫌だと思うかもしれない。
「はいはい、ほんじゃーアネキ、ライモンで。んー、ポケセン寄りたいからさ、ちょっと待っててよ、うん。あ、あと朝食兼のお昼も食べたいかなあ」
サンクの声はよく聞こえたが、通話相手の声は聞こえなかった。まあ、聞くつもりもないのだが。ただ、別れの挨拶くらいはしようと思って、通話が終わるのを待っていた。
「ほいほい、ほんじゃまたー」サンクがそう言って端末を操作すると、映像は消えて、そこには空間が戻った。「あ、もしかして待たせました?」
「ああいや、一応挨拶してから行こうかなと思って。今のは?」
「これ? ああ、ホロキャスターって言って、んー、電話みたいなものかな。テレビみたいなものとも言えるけど。けどテレビ電話とは違うんだなあ」
「はあ……便利そうだね」
「カロスの人はみんな持ってるよ。これもこっちには来てないみたいだけどね」
「ふうん……関東やら上都は未だにポケギアだもんなあ。多少遅れてるのかもしれない」
「ホテルにあったやつでも十分に進んでるのにねー」
「本当にね……ま、とりあえずそんなわけで、僕らも行くよ。またいつか会ったら、対戦しよう」
「今度は私とも対戦してくださいねー」
「こちらこそどうも。まあ、今度会うとしたら日本かなあ。イッシュはそろそろ出るんでね。ほんじゃあ、これで」
サンクと別れ、僕たちは橋をまた歩き始めた。橋の上ではやっぱりポケモンバトルが行われていて、賑わっていた。サンクとのバトルからその後の会話まで含めて、意外にも、一時間近くが経過していた。これはホドモエで軽くランチでもするパターンかな……と考えつつ、そんな話を緑葉としながら、橋を渡りきり、ホドモエに到着したのは、十一時頃だった。一回りしてからレストランでも探せば丁度頃合い、というような時間だ。
「そう言えば、ホドモエのジムリーダーって地面タイプなんだって。フリーザーで無双出来るんじゃない?」
「ん、んー……それは確かにそうだなあ。せっかくだし挑戦するのもありかな……けど、僕も先にポケモンセンターに寄らないと」
「あ、そっか、ハッサムとゾロアークが大変だもんね。えーっと、ポケセンはーっと……」
橋を越えたところは噴水のある広場になっていて、とても小さなスペースだった。そこからさらに架け橋を渡って――そこからが、ホドモエシティの中心地であるようだった。
まず第一に、ホテルが見えて来た。『グランドホテルホドモエ』という大きい看板が掛けられている。と思えば、すぐ近くに『ホテルリッチホドモエ』があり、『ゴージャスホドモエ』という看板も、遠くに見えた。街の中心に位置する場所には、『ホドモエマーケット』という大きなショッピンセンターらしきものがある。なるほど、場所も近いし、ここに泊まってライモンシティで遊ぶ、というのが、正しいイッシュの歩き方なのかもしれない。
「うわー、なんかすごい発展してる感じだね、お土産とか買うのはここがいいのかなあ」
「みたいだね。あそこの中もあとで覗こうか。それに……んー、北の方には何やらまた物々しい施設があるなあ。『PWT』……ポケモンワールドトーナメント、か。ポケウッドといい遊園地といい、本当に各所に色んなものがあるなあ、イッシュ地方」
「だねー。そっちもあとで行ってみようよ」
「そうだね、そうしてみよう」
街の中を散策しながら、僕たちは満を持してポケモンセンターを発見した。驚いたことに、その隣にもホテルがあった。今度のホテルは『オリエンタルホテルホドモエ』である。うーん、完全にライモンシティへ行く客目当てのホテルだろう。名前負けしているホテルがいくつかあるけれど……贅沢は言えまい。少なくとも、ヒウンにあったホテルよりは、立地条件が良さそうだ。あそこは観光というよりは、どちらかと言えば仕事での宿泊というイメージが強かったからなあ……もちろん、その中でもビジネスホテル色の薄いホテルを選んだつもりではあったけれど。
いや、色々言ったところで、ライモンのVIPホテルに比べたら、全てが小さく見えてしまうのかもしれない。慣れって恐ろしい。何せ、一泊百万円だものな……。
僕と緑葉はポケモンセンターに寄り、ふたりで一緒にポケモンを預けた。これは旅をしてから知ったことだが、案外、お昼前の時間帯は、ポケモンセンターが込む。これは、トレーナーというより、その周辺で暮らす民家の人たちが、自分のポケモンの体調管理を兼ねてポケモンを回復させにくるからだった。当然、お昼前が多いのは、ポケモンセンターにポケモンを預けてそのままお昼を食べに行く、という家庭が多いからである。
「というわけで、僕らもそれに倣おう」
町中でのバトルは基本的には御法度とされているので、ポケモンを後生大事に持っている必要はない。僕と緑葉はお互いに、メインポケモンであるダークライとキュウコン(ニックネームはこんこん)だけを所持して、ポケモンを預けておくことにした。順番待ちがかなりあるようで、すぐに受け取ることは無理そうだったからである。
「うーん、遊んでる、って感じするね!」
「ポケセンの預け方で?」
「いつもはポケモンと肌身離れずだからねー。なんだか不思議な感じだなあ、ぶらぶらするのって」
「それは分かる。言われてみれば、ダークライ一匹、ってのは、久しぶりかもなあ。意識的にやったのは、下手したら二年ぶりか」
僕と緑葉は受付を済ませ、受け取りのためのチケットをバッグにしまうと、そのままポケモンセンターを出て、まずは『ホドモエマーケット』を覗いてみることにした。
「おお……」
「おー!」
中に入って、僕たちはちょっとした感動を覚えた。なんというか、地元の『玉虫デパート』や、『黄金百貨店』とは趣を異にする空間だった。露店がいくつも連なっているというか、なんとなく手作り感のする空間。即売所、というと一番分かりやすいだろうか。長机がいくつも用意されていて、その上に店それぞれが独自の飾り付けをしていた。売っているものも多種多様。デートするには最適な環境だった。
「あ、メール売ってるよ。ブリッジメール……さっきのホドモエの跳ね橋の絵柄だ」
「おお……向こうに漢方屋がある。興味本位でアブソルにあげたらしばらく機嫌悪かったなあ……世界各地にあるんだなああの製法。やめときゃいいのに」
「化学薬品とは違うから体に良い、って言ってる人もいるけど、実際のところどうなんだろうね」
「僕は飼い主に愛想を尽かすほど不味い薬を、ポケモンには飲ませたくないけどね……」
施設の中には話し声やアナウンスの他に、ラジオ放送のようなものが流れていた。お洒落なBGMよりも、こうした地域密着な感じの方がこの施設には合っているような気がした。
「あ、お香あるよ、お香」
「おお……旅人の必須アイテムお香様……ポケセンがない地域において衣類の匂いを消し去ってくれる頼りになるお香様じゃありませんか。その節はお世話になりました」
「本来はポケモンに持たせるアイテムなのにね」
「最近はシルバースプレーで消臭する輩もいると聞くからなあ。まあ死活問題だよ、とくに主要四地方以外を渡る際には」
ふっと過去を思い出してみる。特に、東北のあたりはポケモンセンターがない町が圧倒的に多い。その代わり、学校だったり、運動場だったり、人間のための施設が当たり前に存在している。ああいう地方では、野宿をするのも何となく憚られる雰囲気があった。まるで異世界にいるのではと思うほど、ポケモンと人間のバランスが違った。
「へー、私はその辺行かなかったからなあ」
「トレーナーとして旅をするなら、その方が良いと思うよ。野生のポケモン、ほとんどありきたりなものばっかりだし、トレーナーもほとんどいないしね。まあ、人間同士のコミュニケーションは、逆に取りやすかったけど――」
と、僕がいくつかのお香の匂いを嗅ぎ分けていたとき。
異変が起きた。
地鳴りのようなものが聞こえたかと思うと、一斉に施設内が静まり帰り、ラジオ放送だけが流れる時間が訪れた。
「何……?」
緑葉の声。すぐに方々でも何が起きたのか、という会話が増え始める。
ラジオ放送が通常の内容からニュースに切り替わり、アナウンサーが緊急ニュースを読み上げた。
ライモンシティで爆発。
遊園地周辺である。
被害は現時点では分からない。
ライモンシティの、特に遊園地区域には立ち入らないようにという指示があった。
騒然とする施設内。
僕と緑葉は顔を見合わせると、すぐにホドモエマーケットを飛び出し、走り出した。脚力にはお互い、自信がある。一日中歩き続けることだって出来るのだ、今来た道を全速力で戻るくらい、大した問題ではない。
ポケモンセンターにポケモンを預けっぱなしであることは理解していたが、手持ちのポケモン以外にも、頼りになる仲間が預けてある。ライモンシティで引き出せば、戦力にはなる。とにかく今は、目的地に向かうことが先決だと判断した。
突発的な事件や事故が起きた場合、エリートトレーナーは、ポケモンリーグに協力するのが務めである。
こうした事件に遭遇するのは、双子島での一件以来だった。あのときの僕は、まだポケモントレーナーである自覚すらなかった。けれど今は違う。あのときの青藍兄さんのように、そして淡水晶さんやギンさんのように、エリートトレーナーになったのだ。
そして緑葉もまた、エリートトレーナーになった。
こうしてすぐに行動に移せるようになったのには、色んな人との、色んな出会いがあったからなのだろう。
事件が起きて、それを嬉しいと思うわけでは当然なかったけれど、それでも緑葉とこうして、正式にポケモンリーグと関われていることが、どこか誇らしかった。