第2章
第1話─ポケモン泥棒─上
マニーリ村。

大陸の南西部を支配するデバ海に隣接する村。

人口数は二千五百人とアルク村の人口よりもやや高い人口を持つ。

そんなのどかな村に、ユウとリサが足を踏み入れた。

周辺をグルリと山で取り囲まれており、その為高地と低地で分かれている。

高地に住む者は山で山菜を取ったり木々を程度良く伐採したり、家畜を飼育したり等をしたり、低地に住む者は果実や野菜の収穫、海に隣接している事から魚を獲ったり等其々の土地ごとに臨機応変に収穫物や特産品を変えている。その為、別名【臨機応変村】と呼ばれている。

そんな二つの土地に住む者達は、一ヶ月に一回、【交流祭】なる祭りを行う。

その名の通り二つの土地に住む者達が収穫物や特産品の交換等を行い、交流をする。

二つの土地に住む者達はその地形故余り交流をしたことが無い。

その為に【交流祭】が始まったのだ。

しかし、彼等は知らなかった。【交流祭】を巡り、村全体が揺れ動く事になるとは…………
*
*
一歩足を踏み入れた途端、潮風の香りがユウの鼻腔を擽った。

視線を浜辺に向ければ屈強な男達が汗水を滴しながら漁を行っているのが見える。

数分後、耳を塞ぎたくなる様な轟音と共に大量の魚が水飛沫と共に船の上に叩きつけられた。

銀色に輝く魚の鱗が陽光を乱反射して美しい紋様を作り出している。

そんな光景を眺めながらユウとリサは宿泊施設を探して周囲を散策した。

そんな時だった。

「こらぁ!まてぇ!クソガキが!」

男の怒号が路地裏から聞こえてきた。

数秒後、路地裏からよろける様に一人の少年が飛び出してきた。

歳はユウ等と同い年だろうか。健康的に焼けた肌にボサボサの髪に、蒼い瞳は何処かなしか慌てている様に見える。

ユウを見つけた少年が急にパッと瞳を輝かせると、突然ユウに向かって叫んだ。

「おーい!ちょっと其処の金髪!ポケモン持ってないか?持ってたら貸してくれないか?」

少年の言葉に首を捻りつつも、ユウはモンスターボールからエルレイドを呼び出した。

すると、少年は「あっ。モンスターボールに入ってる状態で良いから。」と言った。

ユウは彼の言動を不審に思いながらも、モンスターボールにエルレイドを入れ、少年に多少躊躇いながらも手渡した。

その時、リサが少年に聞こえない程に声の音量を絞りながらユウに向かって囁いた。

「ねぇ。あの子ちょっとおかしく無い?普通、人のポケモン何て欲しがるかなぁ?もしかしたら、ポケモン泥棒かも知れないよ。もしそうだとしたら、私のアチャモちゃんも危ないよ。」

リサの言葉に、ユウの脳裏を閃光が駆け抜けた。

ポケモン泥棒とはその名の通りポケモンを盗む人々の事だ。

只単純にポケモン泥棒と言っても、奪ったポケモンのその後の所存は各々のポケモン泥棒に委ねられている。

闇のマーケットに流したり、はたまた自分のポケモンにしたり。

また、犯行動機も十人十色だ。

ポケモン勝負に負けた腹いせに犯行をする者。

友人のポケモンに嫉妬して犯行に及んだ者。

世間を少しでも揺るがしたい者──そう、様々な犯行動機をポケモン泥棒等は抱いているのだ。

視線を少年に向けようとしたその時だった。

「エルレイドなんて強いポケモンくれてサンキュ♪お前も持ってるみたいだから貰うよ〜」

少年の言葉と共にリサの悲鳴が上がった。

視線を隣にいるリサに向けると、リサの鞄に大切に仕舞われているアチャモの入ったモンスターボールが件の少年に奪われている所だった。

良く見ると少年の手にはユウ等から奪ったモンスターボールの他に、もう一つモンスターボールが握られている。

───否、只のモンスターボールでは無い。青のスプレーでコーティングされ、普通のモンスターボールよりも一回り大きく、ポケモンを入手する上で重要な要素の一つ、吸引力も上昇している。そのモンスターボールの名前はスーパーボール=B

性能の高さ故に子供達にとって喉から手が出る程欲しい代物だが、値段は高く子供達にとって其は高嶺の花だった。

其をまるで価値の無い物の様に鷲掴みにしながら、少年は鼻歌混じりに東の方角へと立ち去った。

其から凡そ数秒後、路地裏から体躯の良い男が出てきた。

太陽光を防ぐ為か、黒いサングラスを掛け、ハ〇イへの憧れか、パイナップルやヤシの木がプリントされた色鮮やかな服を纏っている。

浅黒い顔を不屈そうに歪ませながら、男はユウとリサに視線を向け、労いの言葉を掛けた。

「どうやらお前達も盗られたらしいな。俺もついさっき出会い頭にぶつかった時、盗られたんだ。追いかけたが、流石に【悪戯小僧】には敵わねえな。」

多少自分への嘲りを含めた言葉に、ユウとリサは最後の言葉が妙に引っ掛かった。

リサが男に向かって質問する。

「【悪戯小僧】って何ですか?」

リサの質問に男は苦笑しながら答えた。

「【悪戯小僧】っていうのはこの村で悪戯ばかりしている村長の息子のジルだよ。しょっちゅう悪戯をしていて、最近人のポケモンを盗り始めたんだ。こっちとしてはやめて欲しいよ。」

その言葉に、二人は絶望を滲ませた嘆息を吐いた。

これは大変な事に成ってしまったかもしれない───

二人はそんな思いを空しく胸に掻き抱くのだった────


下に続く。






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■筆者メッセージ
第2章にとうとう突入しました。今まで見てくださった読者の皆様、真に有り難う御座います。今回は上と下に分ける事にしました。「中途半端に切るな。」と不愉快に思う御方も居ると思いますが、次回もどうか閲覧していって下さい。
ライナ ( 2015/12/31(木) 05:28 )