第一章
第4話─宰相の陰謀─
暗闇に支配された世界。

その世界を、ユウは雄一の灯りである一筋の光を目指し、走っていた。

しかし、走れど走れどその光には届かない。逆に、遠退いていく気がする。

尚もその光に向かって走るユウの耳に、柔らかな女性の言葉が突然聞こえてきた。

『ユウ。来ちゃ駄目。貴方がこの世界に留まれば、ファルドシア大陸から希望の光が消えてしまう。だから、来ちゃ駄目………』

その言葉は、何処か懐かしい声だった。

ユウは声の主を探す様に、漆黒の空間に向かって声を張り上げる。

「貴方は一体、誰なんですか?どうして、僕の名前を知って………」

そんなユウの言葉を遮る様に、その女性の声がユウの耳に入る。

『ユウ。今貴方に私の正体をばらしてはいけないの。ユウ、貴方には妹がいてね、名前をユリカって言うの。ユウ、どうか、ファルドシア大陸の何処かに居るユリカを守ってあげて……』

「妹って、僕にはいない筈………」

ユウが声の主に疑問をぶつけようとしたが、突然、視界が白い光に覆われ、意識が遠退いていった。

彼の意識が完全に消える直前、女性の声がユウの耳に滑り込んできた。

『ごめんね。ユウ。どうか、ユリカを守ってあげて……』

その言葉を最後に、ユウの意識は闇に落ちた………
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「──っ!」

突然、ユウのお腹に激痛が走り、彼を夢から引き戻した。

恐る恐る瞼を開けると、そこにはユウのお腹に馬乗りになったマナの姿が在った。

「マナ王女?!どうして僕のお腹に乗っているんですか?!」

疑問にまみれたユウの言葉に、マナ王女は理由を述べた。

「だって、中々貴方が起きなかったから暴挙に及んだまでよ。それに……」

マナはいたずらっぽい笑みを浮かべ、言葉を紡いだ。

「こうやって人のお腹に馬乗りになるなんて、王宮じゃ絶対無いから、してみたかったのよ。人のお腹に馬乗りになるって、意外と面白いのね。」

その言葉に、ユウは嘆息を吐いた。

彼女は意外とお転婆らしい。

世話が焼けるな………

ユウは、この先波乱に満ちている事を感じた………
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「大丈夫かい?」

リサの耳に、アレス王子の声が聞こえる。

リサは身を起こし、言葉を紡いだ。

「はい。大丈夫です。王子こそ、お怪我は有りませんか?」

その言葉に、アレス王子は「大丈夫だ。」と言った後、周囲を見渡し、苦虫を噛み潰した様な顔になった。

「どうやら、私達は倒壊に巻き込まれ、宿屋から離れた場所に叩きつけられたらしいな。怪我が無いところを見ると、床に敷かれていた絨毯が緩衝材になった様だな。」

アレスの冷静な分析に、リサの頬が赤く染まった。

なんて冷静なのかしら。

ぼんやりしているユウと違って、冷静だし、顔もイケメンだし……

アレス王子の長所を挙げていたリサの脳裏に、ふとマナ王女とユウの顔が浮かんだ。
マナ王女とユウはどうなったのかな。

あっちにも絨毯が敷かれていたから、二人は死んでいない筈。

ふと、ユウとマナ王女が楽しげに話している姿が思案していたリサの脳裏に浮かんだ。

ユウとマナ王女、なんか仲良さそうだったしな。

まさか、あっちの方でマナ王女とユウが付き合い始めて……

「どうしたんだい?」

アレスの一言で、リサはハッとした。

やだやだっ。
どうして私ったらユウの事考えているんだろう。
あっちはあっちで、上手くやってるよ。

自身の胸に抱いたモヤモヤとした感情を吹き飛ばす様に、リサはそっと深呼吸した。

そんなリサを心配そうに見ながら、アレスは言葉を紡いだ。

「とにかく、ここに居てもメリットは無いから、城下町へ向かおう。」

アレスの言葉には正当性が感じられたので、リサはアレスに従う事にし、二人は城下町へと向かっていった。
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「ふふふ………私の計画は、着々と進んでいる。数日と持たず、ユーラ王国は私の手中に収まるだろう………クックック」

狡猾な笑い声が、謁見の間に響く。

王座に腰を下ろしているのはユーラ国王ではなく、国王に最も信頼されている宰相のグェーヘンだった。

国王は猿轡をされ、獰猛なポケモンを入れる為の檻に入れられている。

捜索隊に大人数の兵士を割いていた王宮は、外国へ貿易をしていた筈のグェーヘンに奇襲され数日も持たず陥落した。

国民達はグェーヘンの敷いた圧政と重税に苦しんでいた。

国王はグェーヘンを睨み付け、怒りの言葉を綴った。

「グェーヘン……貴様は私を捕らえ、国民を苦しめて何がしたい!?」

国王に向けて軽蔑するような視線を向け、グェーヘンは言葉を綴った。

「何がしたい?答えは無論、この王国の国王になり、この王国を私の理想の国にする事だ。だから……」

そう言いかけ、グェーヘンは手下の兵士に向かって命令を下した。

「お前ら!彼奴の王冠を剥ぎ取れ!それさえ取れば、彼奴も大人しくなるだろう。」

数人の兵士が国王の王冠を剥ぎ取らんと国王に群がる。

そしてとうとう、グェーヘンの手に王冠が渡ってしまった。

「おのれ……グェーヘンめ……」
国王の恨む様な言葉も聴かず、グェーヘンは狡猾な笑い声をあげた。

「とうとう、国王に私はなるのだ……クックック……クハハハハ!」

王宮の上空では、不吉な何かを孕んだ暗雲が、立ち込めていた………

■筆者メッセージ
漸く書き上がりました。姉に、編集の仕方を教わりました。姉に頼りきりというのも自立が出来なくなる要因の一つに成りかねないので、一人で何らかの物事に打ち込む際はなるべく姉の手を借りない様に心掛けようと思います。明日、学校があるので、今回はここまでにしようと思います。それでは。
ライナ ( 2016/01/01(金) 22:40 )