第3話─決別─
「成る程……その様な経緯があった訳ですか。」
宿屋の一室に、納得した様なユウの言葉が響く。
ユウとリサは二人が宿泊した部屋にマナを招き入れていた。
同い年の少女とはいえ、ユーラ王国王女だ。
下手に私語でも使ったら、重罰を下されるかも知れない。
否、それだけで済まされるとは到底思えない。
名誉毀損で極刑が下される可能性がある。
その事態を考慮し、ユウとリサは敬語を使用した。
言葉使いも選ばなくてはいけない。
面倒臭いな……
ユウは王族と会話出来るのは良いことだけでは無いと実感した。
*
*
その頃、ユーラ国王は数時間経っても帰らない娘を心配し、息子のアレスにマナの捜索を命じた。
アレスとしては数時間前に捜索をするその本人と喧嘩した為、気が進まないが、父王の命令に逆らったら国外追放に成りかねないので渋々引き受けた。
アレスは五百人程の捜索隊を編成すると、捜索隊を率いて王国中を隅々まで捜索したが、マナは見つからなかった。
日も暮れ、父王の苛立ちは頂点に達し、捜索隊を千人に増やす事をアレスに命じた。
さすがのアレスも周りの家臣達と共に父王を宥めた。
千人を捜索隊に割くという事は、城に待機する兵士達千五百人を五百人に減らすという事だ。
万が一何かが起こったら対処の施し様が無く、この行為は自殺行為にも近い。
しかし、国王はまるでその事を気にしていなかった様子だった。
マナを溺愛している国王は何が何でもマナを城に連れ戻そうとしている。
諦めたアレスは捜索隊千人を率い、中断していた捜索を再開した。
しかし、何よりも怯えたのは国民達だ。
鎧を着用している兵士達を見て不安を覚える事は当たり前だ。
そんな国民の心境も知らず、アレスは西方面の森林に面した場所を捜索していた。
アレスはふと立ち止まると、一つの宿屋に視線を固定した。
その数秒後、アレスはまるで何かに引き寄せられるかの様に宿屋の扉を叩いた。
扉を開けた店員が驚愕に顔が彩られているが、アレスはまるで気にしていない様に宿屋に捜索隊を率いて入る。
一方その頃、今最も顔を合わせたくない兄が来ている事に気付いたマナは絶望的な表情で呟いた。
「どうしよう……御兄様と会ったら間違いなく王宮に戻されるわ。御兄様と顔を合わせたくないし、あんな堅苦しい王宮なんかに戻りたくもないし……どうしましょう……」
その言葉にユウとリサは顔を見合わせた。
この場でマナ王女と共に居れば、マナ王女がどんな弁明をしても間違いなく監獄送りだ。
しかし目の前で嘆いている王女は、船が転覆して救出ボートに助けを求めている乗客の心境と同じだろう。
救出ボートに乗るユウとリサの前には、助けを求める乗客……マナ王女の手が延びている。
そんな彼女の助けを求める手を払い除ける等到底出来ない。
ユウとリサは顔を見合わせ、決心した。
二人はマナ王女の手を自身を冤罪から守る為に振り払うのではなく、濡れ衣を着せられようともマナ王女の手を引っ張るのが人の在り方だ。
二人はマナ王女に向かって力強く頷いた。
その時だった。扉が開かれ、アレス王子の姿が現れた。
マナは顔をひきつらせ、視線を下に落とした。
アレスは嘆息を吐くと、マナに向かってを掛けた。
「おい。マナ。帰るぞ。父上が心配している。」
その一方的に押し付ける様な言動にマナは憤怒に彩られた言葉を紡ぐ。
「煩いわね。指輪が見つかったら帰ってあげても………」
マナの言葉は最後まで紡がれる事は無かった。
突然床が激しく揺れ始めたのだ。
「きゃあっ。なにこれ?地揺れ?」
マナの疑問は直ぐに解消した。
窓硝子が突然割れ、窓硝子の隙間から茶色の毛に覆われた巨体が覗いた。
まるで駄々を捏ねた子供の様に、その巨大な怪物は、宿屋にその巨体を叩き付けた。
木造である宿屋が堪えられる筈が無かった。
床が二つに割れ、一つはユウとマナ王女、もう一つはリサとアレス王子を乗せ、ゆっくりと倒壊し始める。
リサは辛うじて残っていた椅子を掴み、砂埃で見えないユウに向かって叫んだ。
「ユウ!?大丈……」
しかし、リサの言葉は届かず、リサは自身の意識が薄れていくのを感じた………