第2話─兄妹喧嘩─
アルク村から旅立ってから数週間。
最初こそ慣れなかった宿泊施設での宿泊や野宿もすっかり慣れ、旅も順風満帆だった。
道中、ユウとリサの二人はとある王国に立ち寄った。
主にこの大陸では指導者によって統治されている所を王国と呼ぶ法律が作成されており、大陸は様々な王国によって構成されている。
無論、王族も存在しており王朝という、王族やその側近により固められた政府組織により王国の政事がされる。
しかし、王国は脆く、儚い。
ちょっとしたことが切っ掛けで、呆気なく崩落することがある。
例えば肉親同士の争い事や家臣の陰謀等。
しかし、最も多いのが兄弟同士の喧嘩だ。
意見の食い違いから喧嘩になり、それが王国という船の転覆に繋がる事もある。
二人が立ち寄ったユーラ王国にも、その問題を抱えた兄妹が存在した………
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「もうっ!御兄様なんて大嫌い!」
荘厳とした雰囲気の漂うユーラ王国王城の謁見の間。
そこに、そんな雰囲気を引き裂くかの様な少女の怒鳴り声が響いた。
怒鳴り声の主は、王位継承権第二位であり第一王女であるユーラ王国王女のマナ。
桃色の髪に紫色のドレス。
黄緑色のパッチリとした瞳は見る者を魅了するが、今では怒りに彩られている。
端整な眉を吊り上げ、マナは自身の兄であり今最も嫌悪している青年に向かって憤怒の言葉を浴びせる。
「私の大切な指輪を無くしといて、どうして王族で居られるの?!もう絶対に許さない!お父様に言い付けて、国外追放してやる!」
その言葉を受けたマナの兄………王位継承権第一位であり第一王子のユーラ王国王子のアレスは蒼眼を怪訝げに細め、反撃の言葉を綴った。
「何だよ。偉そうな口訊いて、お前こそ俺の大切な腕輪を壊したじゃないか。壊しておいて、偉そうにしやがって。」
「何よ!もう怒ったわよ。失踪して、責任を御兄様に擦り付けてやる!」
怒りが爆発したマナは、謁見の間を飛び出した。
「おい!………どうなっても知らないからな。」
怒りに任せて謁見の間を飛び出したマナに向かって、アレスは言葉を綴る。
その瞳には呆れた様な表情が宿っていた………
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一方ユウとリサは、ユーラ王国の城下町に存在する一つの宿に宿泊していた。
既に夕食は済ませており、二人は宿の一室で就寝の準備をしていた。
ベットに腰掛け、ユウは一つのペンダントを眺めていた。
そのペンダントには鹿の様な、樹の様な紋様が刻まれており、所々に錆があった。
そのペンダントはロケットであるが、錆のせいか蓋が開けられず中に何が入っているのか分からなかった。
しかし、何故かこれを見ると父親についての情報が分かるような気がする。
そんな感慨に浸っていたユウは、外から聞こえる悲鳴に一気に現実へと引き戻された。
咄嗟にペンダントをベットに置くと、相棒のエルレイドの入ったモンスターボールを掴み、リサと共に宿を飛び出した。
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宿の向かいには山に隣接した森林があり、そこからここに迷い込んだと推測できる二匹のジグザグマが、一人の少女を襲っている。
少女は顔が青ざめているが、気高い雰囲気は失われていなかった。
ユウは咄嗟にモンスターボールからエルレイドを呼び出し、叫んだ。
「エルレイド!『サイコカッター』だ!」
それと同時にエルレイドの腕の先端から光の刃が放出され、二匹のポケモンを一瞬にして撃退した。
恐怖から解放された少女は吐息を吐き、二人に御礼と自己紹介をした。
「助けて頂き、誠に有り難う御座います。私はユーラ王国の王女、マナと申します。」
この自己紹介が後に、二人をユーラ王家の兄妹の【兄弟喧嘩】に巻き込む事になるとは、未だ誰一人として知らなかった……………