特別短編集“とくせい:かたやぶり” を読んだ感想 | ||
投稿者:はやめ 評価:とても良かった! 2013/06/04(火) 21:45 | ||
[表示] 「かたやぶり」といえば、ご存知ポケモンの特性。では何がかたやぶりなのか? そう思い開いて、納得しました。9人もの作家が織り成す短編集。これはそうそう実現出来るものではないと。 製作に携わった方々の都合や苦労も何も考えないで失礼なことを言うようですが、機会があるならばまたこのような特別短編集をぜひ! お願いしたいと思いました( さて、感想は長くなりそうです。言いたいことを上手く纏められない語り病なので、ご了承ください。とりあえず感覚の新鮮な内に残しておこうかと思います。ネタバレ全開につき注意。 後やたら偉そうですみません。これ文章書く時の性質なのです。生暖かい目で見守ってくだされば幸いです。 ●逆さまの世界 現実にポケモンがいたらという発想は自分も考えたことがありますが、いかんせん日本の地理をろくに理解していない者に書けるような題材ではない。しかし、わたぬけさんは奈良であるとか、當麻寺であるとか、細部に渡るまで書き記しておられました。後書きで実体験を少々交えたということで納得です。ポケモンがいる日本というのも不思議と馴染むものですね。 ところで、フワンテフィーバー第一弾ですね。皆さんフワンテがお好きなのですね。フワンテ可愛いですよね。あんな顔して設定ブラックなのがゴーストポケモンの良さだと勝手に思ってます。9人の共同制作だからこそ、それぞれ作家さんによってフワンテの描き方が違うのが面白いというか醍醐味ですよね。わたぬけさんの描くフワンテはどこか不思議でありながらも主人公を時に導いてくれるような印象を受けました。 ●モイストロトム 最初は普通に女の子とロトムがワイワイガヤガヤ、仲良くなったねで終わるのかと思いきや、いや、とんでもない。 歩道橋から落ちて死んだ? そんな馬鹿な、と思ったんですよ。おかしいなと。自殺にしても何か不自然でしょう。つまるところフワンテは……おっと誰か来たようだ。 この作品の味は、読了後に謎の全てが紐解かれる恐ろしさにあると思います。図鑑説明を「ひとや」で区切っているのがより演出を不気味にしていますね。あれ? と思ったので調べました。すいません、忘れていたので。そして繋がる。ちょっとヒヤっとしましたね。夏なんかに良さそうですね、このホラー作品。 というわけで、こちらのフワンテはゴーストの凶悪さをそのまま隠さない冥界の刺客そのものでした。ごちそうさまでした。 ●テキトーさん家冒険録 二人目 テンゲルかっこいいですね。娘が父を嫌いながらも、やっぱり親は子供のことを常に想ってくれているものなんですよね……。そして、素直ではなくとも愛情を受け取るエレルへも可愛い子ですね。 教え人という職業は、ポケモン小説の中でも見たことが無い設定でした。ぱっと浮かんだイメージは伝道師? のような。ちょっと違うかも分かりませんね。 ドードリオに焦点を当てたのが面白かったです。川越えの儀式も雰囲気が出ていて良いですね。空を飛びたい。しかし自分では無理なことも理解した上で、それでも飛びたいと願う。エレルへの強い気持ちが文章を介して伝わってきました。人間はやはりどこかで本能に従う生き物だと考えます。己にけじめを付けることも必要ですけどね。 ●ぼくとカレン 心温まりました。プラスルとカレンの友情、美しいですね。途中でハジツゲからラルースに移ってびっくりです。どうでもいいですが立地にも興味を持ちました。なるほどヒワマキとミナモの前。 友達が出来るきっかけというのは、ほんの些細なものです。声をかけたい、でもかけられない。誰しも経験する葛藤だと思うんですよね。きっかけを作ってくれたプラスル。これが悲しい小説であればカレンは最終的にプラスルのことを忘れてしまうのかもしれないと(もはや自分は病気の領域)何故か意味も無くひやひやしたのですが、そんなこともなく、カレンとプラスルの繋がりは未来永劫堅く結ばれた関係性で読了後の余韻も爽やかなものでした。 ●きらわれもの 警察の内部構造を緻密に描ける人というのは羨ましいです。自分はまだ社会人に到底満たないものですから、本当に知っている人でなければ書けない領域にある。このようなものが書ければ良いなと思うのですがね……。 ただの私的見解で恐縮ですが、ポケモンとは血の通った生き物だと考えています。よって、この作品のようにポケモンを脆く描写するのは個人的な好みでもあります。いや、決して変な意味はありませんよ。ごく真面目にそう思うわけです。 ももが亡くなってしまったシーンは痛ましかったですが、幾度となく死体を見ながら処理を行ってきた主人公の淡々とした心情にも現実味を覚えます。少々大袈裟ではありますが彼なりに過去と決着をつけ、前を向いて歩き出すことが出来たのは必ずしも好転までは行かずとも、彼にとって喜ばしいことではないでしょうか。 ●李徴は虎になったのだ 爆笑の一言に尽きます。なんでしょうね、この爽快感と疾走感。たまりません。にやにやしながら読めました。大真面目にギャグかますってのは個人的に大好きなのです。シュールさとギャップが良いですよね。ただでさえ色々と面白いのに、まさかのスマトラですよ。「そうだ、スマトラに行こう」。そして始まる引用(ウィキペディア)。ここで話自体にはそれほど関係ないスマトラの説明を詳細に書き記すところがまた笑いを誘いますね。 >「あとはー、うーん、自分らしさを大事にすること? 虎だからこうあらなくちゃ、なんて窮屈な考えに縛られずに。ていうか君、虎っていうよりはどっちかっていうとライオンだよね。ハハ。鬣って。ライオンじゃん」李徴は激怒した。 この流れは反則ですわ。小説で笑うって、久々な感覚でした。 ●パロとセカイと春の風 正直に申し上げますと、文章が好みです。必要な表現だけを拾って書き記しているので、情景がすっと入り込んできます。 ローブシン先生がさぞかし良い人のようで安心しました。人の嫌な所って簡単に目につくけど、良い所を見つけるのは本当に難しいんですよね。表面だけで判断するのは駄目だと言われますが、内面はきっかけがないと見えないものでもある。パロの葛藤って誰もが通るような、割と身近なものではないでしょうか。 この作品ではフワンテ・フワライドを、夢の世界の象徴として描いてありました。空想から抜け出し大人への階段を踏みしめるのもまた成長には必要不可欠。そういった諸々の過程を着実に描き、展開の核心を急がないところに好感を抱きます。非常に丁寧だな、というのがこの作品に対する一番の印象です。 ●虹に願いを、かけて これは凄いですね。何が凄いかというと、短編の中で少女とアチャモがどれだけの絆を培ってきたかという流れが手に取るように伝わってくる点だと思います。短編小説は一作限りで全てを表現しなければならないという制約がありますが、少女の願いやアチャモの頑張るひたむきさが切迫して感じられる。もはや文章力が圧倒的です。登場人物は少女とアチャモだけに焦点を絞り、徹底して二人の関係を掘り下げていますね。アチャモの体に関する表現の多さが一つ印象に残りました。 アチャモがひたすら加速を繰り返す。もう後には戻れないと知りつつも、それでも少女のために走り抜く。彼を待つ結末は悲しいものかと思いましたが、報われた形になったようで良かったです。 ●写真の中で私が笑う。 最終的にかけがえのない友達が出来る、という点で「ぼくとカレン」とは共通点がありますが、話の展開は全く似て非なるものです。友達絡みの話は心が温まるし、読み終わった後思わず笑顔になってしまうものです。少なくとも自分はそうです( ルージュラは嫌われているのかなと思いましたが、ある程度関係も良い方向に改善されたようで良かったです。自分のポケモンってやっぱり何だかんだで信頼しているのは、現実にいる友達へ持つ感情と似たようなものかなと思います。 あとキャラの名前と個性が強烈で頭に残りますね。学校でエンブオー繰り出すってかなり危険な気がするんですが、それはさておき。写真の中で笑顔を浮かべる主人公。これから楽しい出来事が彼女を待っていると思います。 というわけで、目一杯楽しませていただきました。 拙文ですが、これを自分からの感想と称して送らせていただきます。ありがとうございました。 [02]
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特別短編集“とくせい:かたやぶり” を読んだ感想 | ||
投稿者:きとかげ 評価:感動した! 2013/06/04(火) 19:07 | ||
[表示] ・逆さまの世界 なにこの空気感。作者天才やん、と思いながら読みました。 ・モイストロトム ロトムかと思って油断してたらフワンテホラーでした。そっちのロトムは大丈夫ですよね……何もしませんよね……? ・テキトーさん家冒険録 二人目 テキトーさん再来。劇中劇の面白さもさることながら、お話をつくるほんのとっかかりみたいなのが「そうだ、それでよかったんやー」みたいなことを思ってドキリとしました。つまりテキトーさん読んだら不覚にも物語を作りたくなりました。まる。 ところでテキトーさんの速筆が羨ましい。 ・ぼくとカレン このプラスル反則なほどかわいい。ラストまで全てが美味しい。 ・きらわれもの 仕事人間というと人間味とか温かみみたいなのが欠けてる印象があるのですが……これは仕事に生きることでちょっとだけ人間ぽくなるラスト。別にハッピーエンドって感じじゃないのに、苦いのに、でもこれが最良の選択なのだと思いました。この物語はコーヒーの味。 ・李徴は虎になったのだ 最後にもっていかれました。イーブイ→ニンフィア(スマトラで進化) ・パロとセカイと春の風 前に紹介された漫画のことをちらりと思い出したりしました。セカイを肯定しつつ不器用に踏み出すラストに安堵を感じるのは、私自身パロにとってのセカイにのめり込んでいた子どもだからだろうなあ、なんて。 ・虹に願いを、かけて アチャモの『加速』連打やばい。『加速』連打が本当にやばい。落とされたと思ったら最後上げられてうわあ良かったあ。病気の少女ものかあと思ってたら加速の熱さと切なさがフルスロットルでとにかくすごかったです。 ・写真の中で私が笑う。 青春だった。写真のくだりとかいいわーこんなん好きやわー。あとルージュラが素晴らしい。 感想量にムラがありますが、別に好きとか嫌いとかじゃないです。私の感想レベル低いだけです。 では、雑文ですが失礼しました。 [01]
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