雨河童 を読んだ感想 | ||
投稿者:オンドゥル大使 評価:とても良かった! 2013/08/30(金) 17:27 | ||
[表示] 感想欄でははじめまして、オンドゥル大使です。 このたび、ずっと気になっていた586さんの『雨河童』を拝読いたしましたので、ここに感想を書きたいと思います。 まず、クオリティが高い風景描写と、効果的な台詞回しに圧倒されました。 志郎の複雑な家庭環境による逼塞しかけた感情をチエとの出会いがうまく絡まって、切なく、それでいて自分の中で何かが揺り動かされる感じがありました。 「切ない」だけで流すのはもったいない気がしたのですが、どうしても言ってしまいますね、「切ない」。これはこの物語が子供時代を思い起こさせるものだからでしょうか。 箱庭のような世界。志郎の、子供に与えられた小さく切り取られた世界。その中で輝きを放つ「チエ」との邂逅。しかし、その出会いは決して結ばれることのない運命と言う大きな力に左右される――。 一部では救われないエンドかもしれませんが、その一方ではこれは幼少時代との決別の物語であると思います。 チエの小指と親指と共に、「人間」との繋がりは途絶えてしまった。チエはポケモンの世界に生き、志郎は人間の世界に生きる。曖昧な世界は子供時代の時だけだった。曖昧な世界に、曖昧な嘘。でも、チエと志郎の思いは本物だった。本物だからこそ、その輝きは何よりも儚い。ポケモンと人間の隔たりは二人を引き裂き、無情にも雨は降りしきる。雨が二人を隔たる壁として何万歩よりも遠い距離となる――。 様々なことを考えさせられましたが、これはヒトとポケモン、相容れぬ二つの種族が「生きている」ことを自覚させられました。二つの種族は同じレベルで――いや、もしかしたら崩れた均衡と世界の中で――生きている、ということが描かれていてよかったと思います。 ただ一つ。私がこの作品に不満と言うか、物申すとすれば始点と終点だけでも話が成立することでしょうか。実際、私は初見で、「長っ!」と言ってしまい、この物語を第一話と最終回だけを読んでしまいました。(すいません、本当にすいません) だからチエとの日々を読んだのはつい最近なのです。チエと志郎が絶対に結ばれない運命だと言うことや、伏線や、始まり方に「目覚め」を効果的に利用していることもつい最近知ったのです。 ただ私の印象としては一話と最終回だけである程度物語が分かってしまうのはもったいないと言うか、「もう少し」と思った点です。一話の時点でチエの正体は多分……、という予感がありましたし、最終回が予想通りで少し拍子抜けです。 ただそれを補って余りある展開と描写の見せ方、台詞の組み方だと感じたので、私の言葉など気にせずにこれからも頑張ってください! それでは [01]
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投稿者:586 2013/09/03(火) 23:51 | ||
[表示] > オンドゥル大使さん お世話になっております。586です。返信が遅れてしまって、大変申し訳ありません……(´・ω・`) 何よりもまず「雨河童」をお読み頂き、ありがとうございます。 > 一部では救われないエンドかもしれませんが、その一方ではこれは幼少時代との決別の物語であると思います。 これはもうまさに仰るとおりです。志郎が幸せだった時間を回顧し、そしてその日々との永遠に決別するまでの物語が「雨河童」なのです。 > チエの小指と親指と共に、「人間」との繋がりは途絶えてしまった。チエはポケモンの世界に生き、志郎は人間の世界に生きる。曖昧な世界は子供時代の時だけだった。曖昧な世界に、曖昧な嘘。でも、チエと志郎の思いは本物だった。本物だからこそ、その輝きは何よりも儚い。ポケモンと人間の隔たりは二人を引き裂き、無情にも雨は降りしきる。雨が二人を隔たる壁として何万歩よりも遠い距離となる――。 志郎は純然たる人間で、チエは人とポケモンの間の子です。これまた仰るとおり、種族の違いが二人を引き裂いたのです。そしてチエは、人間にもなれず、ポケモンにもなれず、そして大人にもなれぬまま、ただ一人で消えていくさだめにあるのです。 > 様々なことを考えさせられましたが、これはヒトとポケモン、相容れぬ二つの種族が「生きている」ことを自覚させられました。二つの種族は同じレベルで――いや、もしかしたら崩れた均衡と世界の中で――生きている、ということが描かれていてよかったと思います。 「雨河童」の一つのポイントと言いますか、重要になる部分は、まさにそこにあります。人とポケモンは根本的に違う存在で、交わるべきではない。禁忌を犯した結果がチエで、チエはその身に咎を背負って一人で生きていくことになった。 上記も含めて、この作品「雨河童」というタイトルには、チエの「大人になれない」という悲哀が込められています。 > ただ一つ。私がこの作品に不満と言うか、物申すとすれば始点と終点だけでも話が成立することでしょうか。実際、私は初見で、「長っ!」と言ってしまい、この物語を第一話と最終回だけを読んでしまいました。(すいません、本当にすいません) ええ、書いている方も長かったです……(2011年6月〜7月当時を振り返りながら これもまたまた仰るとおりで、最初と最後だけでも話が見えるというのは間違いないと思います。構成的に、第二話から第九話にかけては「志郎とチエの交流」と「志郎の家庭環境」をそれぞれ描いた二つのサイクルを延々と交互に繰り返す形になっていて、先の読めた人にとっては冗長に感じる可能性は大いにあると感じています。 それでもこの形式を採用したのは、最終話で志郎の”プレゼント”が拒絶されるシーンの意味を最大化し、より印象的なシーンにしたいという思いからでした。 元々本作品は同人誌である「プレゼント」に収録する新規の作品というポジションで書き下ろしが行われたのですが、同人誌の名称である「プレゼント」は、表題作である「プレゼント」(※このタイトルの小説があります)を際立たせると同時に、収録した全作品で”プレゼント”(贈り物)がキーワードになっている、というダブルミーニングから来ています。「雨河童」もそれに倣って、贈り物をするシーンを鮮烈に印象付けたいという思いがありました。 > だからチエとの日々を読んだのはつい最近なのです。チエと志郎が絶対に結ばれない運命だと言うことや、伏線や、始まり方に「目覚め」を効果的に利用していることもつい最近知ったのです。 そう、そうです、そうなんです!(強調 チエと志郎は、絶対に結ばれない運命にあったのです。 これは、物語中の健治さんの台詞をよく読むと分かるようになっています(そうでなくても、第九話でほとんど全部答えが出てきますが)。一見すると人とポケモンという種族の違いが二人を引き裂いたように見えるのですが、全体をつなぎ合わせてみると、実はそもそも二人が結ばれることはなかったのです。 チエと志郎は、本人たちの知らないところで、まったく望んでいなかった形の「赤い糸」で結ばれていた――というのが、「雨河童」の一番核になる部分です。 > ただ私の印象としては一話と最終回だけである程度物語が分かってしまうのはもったいないと言うか、「もう少し」と思った点です。一話の時点でチエの正体は多分……、という予感がありましたし、最終回が予想通りで少し拍子抜けです。 仰るとおり(何度目だろう)、最初と最後でほぼ全体像は見えてしまうのですよね……。 もう少し捻ったというか、テクニカルな描き方を身につけられるように、さらなる精進を重ねて参りたいと思います。 > ただそれを補って余りある展開と描写の見せ方、台詞の組み方だと感じたので、私の言葉など気にせずにこれからも頑張ってください! 我が身には過分なお言葉を頂き、恐縮することしきりです。大いに励みとさせて頂き、今後の創作に繋げていきたいと考えています。 丁寧な感想、誠にありがとうございました。今後ともよろしくお願い致します。 [02]
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