ぼくの空 を読んだ感想 | ||
投稿者:海 評価:感動した! 2020/03/08(日) 05:30 | ||
[表示] こんにちは。Twitter等でいつもお世話になっております。海です。 「ぼくの空」、読ませていただきました。この作品の初出である企画のタイミングにおいては、実は未読でした。ですので、本当の完成品であろう今回のこの「ぼくの空」が私にとっては初対面です。そのうえでの感想として受け取ってくだされば、幸いです。 以下、自己解釈も多分に混ざった感想です。 すごく好きでした。 空というのは、時間ではなく、季節や地域によって様々な顔を見せます。刻々と移り変わる姿に決まった形はありません。だからこそ魅力的で、美しくて、時に猛々しく在ります。 12.天空よりを除き、他全ての章で「空を飛んでいた。」とシンプルな文章で始まって、その後、それぞれの場所でそれぞれのポケモン達が生きており、「ぼく」は彼等に出逢い、触れて、話し、別れていく。出だしが統一されているからこそ、その後の世界の変化が明確化して、良い味を出しているんだと思います。最初にはただの「空」としてしか提示しないけれど、そこから舞台はどんな世界なのかどんなポケモンがいるのかを掘り下げていく、一見、この物語はその繰り返しです。しかし、そこで出逢うポケモンも、景色も、まったく異なります。それは当然のことで、生き物は十人十色でありそれぞれの経緯があって、この小説でも訴えているように住む場所(あるいは住みたい場所)に順応していて、未来に向けて生きているんですよね。一つ一つを丁寧にこしらえようというのが、伝わってきました。これはskyをはじめ多くの作品に影響されながら、円山さんの心と混ざって、まさしく自由な発想で円山さんご自身の手によって「へんしん」した、たったひとつの「ぼく」の物語なのでしょう。恐らく、字数はそんなに嵩んではいないという印象なのですが、シンプルで、静かに、ささやかな出逢いの数々と、壮大な旅を演出していく、その構成が、ものすごく好きです。 自在にへんしんできる主人公は、確かな形を持ちません。本来の自分すらどこか見失って、自分の帰るべき場所を求めてひたすらに世界を旅します。読者としては、ずっと、果たして彼はどこを目指して旅をしているんだろう、という疑問と共に読み進めていきました。その間に、家族であったり、夢であったり、主人を待ちわびる忠義と寂しさであったり、損得を超えた助け合いであったり、逆に誰も手をさしのべてくれない絶望であったり、似たように居るべき場所を探す存在であったり、生死の境であったり、果ては宇宙まで飛んでいってその先でも生命体に出逢って、宇宙空間での繋がりであったり、様々なものを「ぼく」は知り、出逢い、そのたびに自分を顧みて自問自答を繰り返していました。「砂漠の空」の章で、読み手は読んで追い続けてきた「帰るべき場所」が実ははっきりとしていないものだということに気付いて、これは目的地が明確に決まっているわけではない物語なのだと察しました。いわば、目的地を探すための旅、であり、彼自身すらもわからない、彼の求める何かを探すための旅、でもあるのかもしれません。それは、あとがきに書いてあるように、「何になりたいのか迷っている最中」である円山さんの心理を反映しているのかもしれません。読みながら、これは円山さんの物語でもあるような気がする、と思っていました。 とはいえ、これはあくまでメタモンであるぼくの物語。 定まらない目的地、自分の帰るべき場所を探してあらゆる空の下を飛び続ける中、出逢うポケモン達。そこでの生き方に触れていき、少しずつ明かされていく彼の心理。不安。この小出しにしていく感じがまたお上手だと思います……。 彼(メタモンであれば無性別だとは思いますが便宜上彼といいますね)は、孤独なキャラクターだという印象でした。出逢いを繰り返しながらも必要以上に浸ることはなく、別れていく。それは「ここではない」という予感の繰り返しでもあり、「この世界にいられる存在ではない」というある種の自信の無さも表れているんでしょうね。 けれど、彼は出逢うポケモン達になんの干渉もしなかったわけではありませんよね。会話は勿論のこと、ヒトカゲを助けたり、ポッチャマの刹那の飛翔を導いたり、ジュペッタの主人にへんしんして現れてみせたり。彼は飛翔しながら、世界に馴染むというより、寄り添いながら生きていたのだなあと思いました。彼は孤独ですが、孤独の寂しさを知る存在は、孤独に寄り添う優しさがあるのだと。 暴風域ではカイリューに助けられながらも、忠告を無視したがゆえに今度は誰にも助けられず彼は命を落として(これ一読した時は精神の死に近く形容かと思ったんですがあとがきを読んでやっぱりこれは肉体的に死んでいたのか……と……)、自分という形を取り戻した(という解釈)後、ギラティナにいざなわれ宇宙へと。彼は宇宙にも適応するようにへんしんし、地球を振り返った時、あの場所そのものがずっと探していた「帰るべき場所」なのだと理解しました。宇宙空間でデオキシスと出逢って、デオキシスはデオキシスの仲間と、メタモンはメタモンの居るべき場所へと、それぞれはっきりと行くべき場所を見つけてまた旅立っていきました。 > ぼくの意識の先で、何かと何かが出会った。見たわけではない。ただ、そうだと「わかった」。それは彼とその仲間かもしれないし、別の誰かかもしれない。ぼくにはそれが誰なのかを判別する力までは備わっていなかった。けれど、誰でもよかった。誰かと誰かが出会ったのならば、それはとても素敵なことだからだ。 メタモンの優しさというのか愛情というのか……。多種多様な生き方や生命の繋がりを目の当たりにしてきた彼の、一つの終着点というか、彼なりの真理がこれなのかな、と……。出会いを重ねてきた彼が言うからこそ輝きますよね……。悩ましい自問自答を繰り返してきたからこそこういうストレートな結論がぐんと刺さります。 デオキシスと別れてはっきりと自分の「帰るべき場所」を見つけたメタモンが、広大な空そのものを蹴って、新しい生命として大地に戻ってくる12.天空より。 >欲したものを全て詰め込むと、わけのわからない生物になった。 なんか、好きな文だな〜と思います。メタモンは旅の中で憧れや焦燥を抱いてきたと思うのですが、その中で溢れた欲を全部叶えようとすると得体の知れないものになる。だから、最適化する。 それで、最後、タイトルにもあります、「ぼくの空」。 何にでもなれる、それゆえに、何にもなれない。自分の形を見失いそうになった。でも、ぼくは何にだってなれる。どこへだっていける。どこへだって飛んでいけるし、だからこそ様々な生き物にまた出会える。彼はずっと、確固たる「帰るべき場所」を求めて旅をしていたけど、彼にとっての「帰るべき場所」とは彼の「生きていく場所」とも言い換えられるのかもしれない、と思いました。彼はあまりにも自由であるがゆえにその大きさをもてあまして、どこにでも居られる自分がどこに居るべきなのか帰るべきなのかをずっと迷って旅を続けていたのでしょうか。でも、彼は迷い続けてきたこの世界そのもので生きていくのだと帰結した……。この物語、文章はシンプルで情景描写もきれいなんですが、一種の「生きるとは」「自由とは」を問いかける、壮大な物語だと思います……それでいてくどすぎない空気で訴えかけてくる……凄い……。 空は確固たる形無く変容し、どことでも繋がっている。「ぼく」もまたどんな姿にだってなれるし、どんな場所にだって飛んでいける。 ぼくの空。それは彼の自由な居場所であり、なんにでもなれる、繋がっていく、ぼくそのものでもあるのだなあ……。 そして、「空を飛んでいた」を重ね続け、その次行から広がる物語について読み終えた時、読み手もまた、メタモンと一緒に広大なる空を飛翔し、メタモンと旅をしていたという没入感に浸っていたことに気付くのです……素晴らしい……面白かった……。 はい。 などと、すいません、なんか、感想らしい感想になりませんでした。あとがきで熱くリザ―ドンのくだりとかを言ってくださっていたのに、全然、リザ―ドンに触れていなくて、すみません。感想を書いているつもりなんですが、あんまり作品に沿った感想というより、勝手な自己解釈を好き勝手に展開してしまって……。読み切った勢いのまま打鍵し、ちゃんと推敲してから投げるべきだとは重々承知ですが、意味が解らない文章になったと自覚していながらそれでも壁打ちのごとく投げる愚行を、どうぞお許しください。 だらだらと書いてしまったんですが、結論を言うと、好きです。なんかもう、ほんわかとした感想になりましたが、好きです。私は誰がなんと言おうと、この物語を全肯定したいです。きれいごと、いいじゃないですか。 というか企画の本文を読んでいないので解りませんがあとがきを見た感じ、砂漠の空までが企画文……??だとすれば、そこまでは積み重ねでその先にある展開あってこの物語は真価を発揮するという印象が企画文を読めていない愚者(もうほんと失礼ですみません)の印象としてはあるので、完全版を書いてくださって本当にありがとうございます。 ついついだらだらと書き連ねてしまう悪癖が出ていますので、ここらで失礼します。素敵な文章を読ませてくださり、ありがとうございました。お疲れ様でした。今後とも、円山さんの自由な創作活動、心より応援しております。 ……最後に、もう一回だけ。 ぼくの空、好きです!!!!!!! [02]
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投稿者:円山翔 2020/03/08(日) 08:06 | ||
[表示] へんしん 海さん、読了とご感想、ありがとうございます。じっくり噛みしめながら読ませていただきました。 この作品について語りたいことは、ほとんどあとがきに書いてしまいました。なので、いくらか書き忘れた部分に関して書かせていただき、返信とさせていただきます。 >字数はそんなに嵩んではいないという印象なのですが、シンプルで、静かに、ささやかな出逢いの数々と、壮大な旅を演出していく、その構成が、ものすごく好きです。 ありがとうございます。 Google documentのツールで数えて、21.816字です。誤字脱字等で変動するかもしれませんが、そのくらいです。一つ一つの物語は長くても3.000字とちょっと、短いものは数百字程度です。こういうお話をいつか書きたいと思っていたので、一つ達成できたのではないかと思います。 >これは円山さんの物語でもあるような気がする、と思っていました。 私もそう思います。旅するメタモンに、自分の良いといわれるところも、自分でよくないと思うところも詰め込んだつもりです。とはいえ、感想にも書かれている通り、これはメタモンの物語。……と、私自身割り切れていなかった部分もあるのかもしれません。 >>欲したものを全て詰め込むと、わけのわからない生物になった。 あとがきに書き忘れましたが、小さい頃に読んだエリックカールの絵本「ごちゃまぜカメレオン」が参考になりました。体をいろんな色に変えられるカメレオンが、いろんな生物を見て自分の色を様々に変えていくのですが、不思議なことに体の形も変わり(キリンを見て首が伸びたり、他は忘れましたが色々)、どんどんわけのわからない生物になっていきます。そして最後に、目の前を飛んできたハエを捕まえられなくなったことに気づくのです(カメレオンはハエを長い舌で捕まえて食べる)。 色だけでなく姿かたちも自在に変えられるメタモンなら、なおのことすごいことになるんだろうなぁと思いながら書きました。 >砂漠の空までが企画文……?? 企画時は1〜7+終章「ぼくの空」という形でした。実際に追加したのは火山地帯、深淵二つ、宇宙と天空の五話、そして終章の振り返り部分(追加章に関する記述)です。書き方がわかりにくくて申し訳ありません。 最後に。 この物語を好きだと言ってくださって、ありがとうございます。とても嬉しいです。 [03]
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