アクロアイトの鳥籠 を読んだ感想 | ||
![]() |
投稿者:早蕨 2020/12/15(火) 00:25 | |
[表示] 更新分まで読了です! 凄く良いものを読ませていただいているなあ、という満足感でいっぱいです。 それぞれのキャラクター達の心の機微が一人称という形で事細かに書かれていて、ずぶずぶと入り込んでしまいました。この感覚って小説を読んでいる上で一番楽しい事の一つだと思いますし、いつもあるものではないので嬉しくなりました。 更新分8-1まで読み切って気付いたのですが、物語の根幹に触れていくに連れハラハラドキドキというスリル感を味わっていたというよりは、とにかくキャラクター達を心配していたなあと思います。 ルノアもラウファもアシェルも誰も彼も皆心配になってしまって、皆幸せになって欲しい……とそう願いながら読んでいました。 何故だろうなって考えると、単純にキャラクター達皆が心優しいからなんですよね。単純に善と悪、友と敵に分けない話の作りが、本当に上手いなと思いました。構図を作る時に敵と味方に分けるのは非常に簡単なのですが、誰も彼も悪意なく、誰かの事を考えている事が良く分かって、誰も責められない。だからこそ心苦しく、切なさもあり、お話が深く深くなっていくんだと思います。 勧善懲悪はスカっとしますしそれはそれで面白いものだと思うのですが、そうではないもっとジワっとくる面白さというか、色々考えたくなるというか、ちゃんと最後まで読みたいと思えるお話でした。 このお話は最初、主人公ラウファがそもそも記憶喪失で、ルノアは何者か全然分からなくて、アシェルも突然出て来て、誰も彼もどこの誰だかよく分からないキャラクター達が登場しました。構成上仕方のない事なのかもしれませんし、後から考えれば物語のピースが一つ一つ着実に埋まっているんだなあというのが良く分かるのですが、正にアクロアイトのように透明な状態でこの物語に向き合っていた私は、最初物語に放り出された気分でした。分からなくて読みづらいとかそういうお話ではないんです。普段は提示される情報に裏があって意味があるのではと考え、どうなるんだろうこんな展開なのかな、ほのぼの物語が続くのかな、と色々手探りで読むのですが、今回本当にただただ物語を追っていた気がします。これはラウファの視点から書いているからこそだと思いますし、これが後に生きているような気がします。記憶がまったくない、生まれたてのラウファの一人称から書く事で(0章は導入なので置いておくとして……)、本当に透明な状態で物語に入り込む事が出来ました。 この書き方、難しいだろうなあとも思います。後から考えれば自分の事情を話す気のないルノアと、自分が分からないラウファと、何も知らないアシェルで話を進めるのは大変で、それを読ませる森羅さんが単に凄いんだろうなあ。 一章、二章、三章、その後も少しずつ物語の全貌が見えていくに連れて、透明な部分に色がついて来るとこれはもうやめられませんね。追わないと気が済まない。森羅さんは茶番劇、とおっしゃっていましたが、まさに私は劇の観客であったんだなという感覚がどんどん湧いて来る。劇の裏側まで見えるようになって来ると、プロレスのリング外で闘っているのを見ているような気分です。まったく分からなかった劇の内容が明かされて行き、裏側を見せられると、世界がどんどん広がる。”世界”は鳥籠で、その鳥籠の外にも”世界”があった。読者である私は外から見ているはずなのに、鳥籠の中の鳥の気分です。ドラクエで船を手に入れた時の世界の広がり方とは違うんですよね。世界があると分かっていて広がるのと、思いもしない世界があると見せられる時の驚きはまた別種でした。 アクロアイトの鳥籠、というのは本当に良いタイトルだなと思います。透明で、何も覚えていないラウファがルノアと旅する世界は鳥籠である。タイトルはラウファの事を指しているんだとは思っているのですが、どうなんでしょう……。ルノアもまた鳥籠で生きる少女であり、エルグもまた呪いという鳥籠に囚われている気がしますし、でもアクロアイトのように透明ではない。難しい……もっと何か意味があるのでしょうか。 ルノアはセレスが亡くなった事で、崩壊してしまう精神を繋ぎ止めるためにセレスになったと見える気がします。セレスを演じる事で、精神が崩壊せずともルノア自信は空っぽになってしまった。空っぽで空虚なルノアの鳥籠、と言えばアクロアイトの鳥籠と言える気がしなくもないんですかね。もしかしたら何も分からないアクロアイトのような状態で物語を読む私の鳥籠なのでは……! と色々考えると楽しいです。 上で書いた通り、この物語に私は悪はいないのだと思っています。悪意として書かないようにしている、と言った方が良いのでしょうか。 ラウファは何も分からないが故に悪意がなく、自分を省みれない。ルノアも身の上を考えればもうどうしようもなくなった最後の選択肢を選んでいる気がする。エルグもまた自分のおかれた運命において、ラウファを殺してしまったという意識が強くそれを追いかける。皆追い込まれてどうしようもなくなった状態が描かれているので、凄く辛くて、悲しい。どうしようもない、というのが良く分かります。 ただ、ゾロアークはなんだかそれとは違うなあという気がしました。追い込まれてどうしようもない、というよりは、自分の意思でエルグに付き、人間に化け続ける事でその感情や文化を学んでしまったが故の7章でのラウファに対する怒りのシーンが、私はとても好きでした。エルグのために怒りラウファにぶつけるその感情は、あまりに純粋にエルグを想う故なのかなと思います。アシェルがどうしようもなくなったラウファ、ルノアに対して疑問を抱いたり怒ったりするシーンが好きなのと同じです。最初は別にどうでもよかったかもしれないのに、一緒にいる内に情が湧き、ただただ純粋に他者を想って怒れるゾロアークとアシェルがとても好きです。鳥籠の中に入れず、中から出してやる事も出来ず、ただ周りから怒るしかない、想うしか出来ないその切なさはグっと来る……! 鳥籠、というキーワードが本当に良い意味で生きているなあと思います。アシェルの役割は、何もわからないラウファへの道標であり、ルノアの謎に対して疑問を投げかける事で物語を揺らしていくところにあると思うのですが、もしかしてアシェルにもまた秘密があるのでしょうか……。これ以上ひっくり返されてまだ外側に世界があったら……と思わされるくらい色々考えたくなるお話です。 最初から暗に提示されている通り、ラウファはルノアが好きで、ルノアもまたラウファに好意(?)があるのだと思っているのですが、その事に気付けた時二人は鳥籠から出られるのでしょうか。ラウファが自分、というものを再度見つけなおす様子が描かれれば、エルグもまた報われるのでしょうか。エレコレもまた、セレスに託されたルノアが幸せになる事で、何か吹っ切れる(?)んですかね。 他者の好意を受け入れる事で世界が広がるのは、とても素敵だと思います。自分だけが考える自分の世界よりも、他社の感情に寄り添えた事で広がる世界の方が、もっと広がりがあると思うんですよね。 ルノアに会いたい、と言ったラウファの言葉がとても嬉しく、私も最後まできちんと物語の結末を見届けたいなあと思うばかりです。 全てが繋がり、ここまで読めばもう大団円が来ると信じています! 他にもいろいろ書きたい事がある気もしますが、一先ずここで締めさせていただきます。 また続きを読ませていただいた時、書かせていただけることを願っています。 [06]
|
||
![]() |
投稿者:森羅 2021/01/18(月) 00:07 | |
[表示] 読了ありがとうございます!! わーー!! 満足感ありますか!? そう言って頂けて嬉しいです。 彼らは非常に、心情を書くのが難しくて(こちらが下手なだけなんですが)、なので入り込めたと言って頂けてほっとしました。なんというか滅茶苦茶褒めてくださっているので、こちらはもうすでに五体投地状態なんですけど、このテンションが永遠続くと思いますすみません!! ルノアたちを心配してくださってありがとうございます。自分のことしか考えてない奴らの集まりなのに、心優しいなんてそんな恐縮すぎますよ(震)でもみんな幸せになってほしいですね……。敵味方・善悪に分けないで、というのはアクロアイト書くうえで気を使った部分になりますので、気づいていただけて嬉しいです。(ルノラウから見て)悪役的な人たちは勿論いるのですが、それを彼らの向きから見ればちょっと違う見方ができる、というところ、うまく読んでくださってありがとうございます! 最後まで読みたいと思ってくださって本当にありがとうございます。どうぞ最後までお付き合頂ければ幸いです。 誰も彼も誰だかよくわからないキャラクター! まさにおっしゃる通りです。これは本当に「読む側からすると滅茶苦茶読みづらいのでは……?」「最初を読むだけで疲れ切ってしまうのでは……?」という不安が拭えずにいたものですので、早蕨さんの感想はごもっともだと思います。本当に本当にすみません。そして、それが後々に生きてきていると、透明な状態で物語に入り込めたと言ってくださり、こちらは安堵の息を吐くばかりなんですが、それは早蕨さんが飽きずに読んでくださったからこそで、本当に飽きずに読んでくださってありがとうございます。もう本当に、この一言に尽きますm(__)m ええ、本当に、愚痴になってしまいますが(笑うところ)、早蕨さんがお察しの通り、何の事情も知らない一人と一匹と、何も話す気のない一人だったので本当に彼らを書くの、面倒くさかったんです……!(笑ってやってくださいね 読み進めていただいて本当に嬉しいです。書いてよかったなあってほわほわしてきてしまいますね( *´艸`) 観客席に座ってくださってありがとうございます(*´ω`*)早蕨さんはドラクエの船で例えてくださっていますが、ドラクエユーザーの自分としてはすごいわかりやすいんですけど、今後このたとえ使っていいですか?? ……冗談はさておき。劇の裏側の話とか、世界の広がり方とか、本当に早蕨さんがめちゃくちゃこちらの意図をわかってくださっているので、もはやこちらとしては「そうなんです! 仰る通りなんです! わかってくださってありがとうございます!」と震えながら頭下げることしかできないのですが、言語化の力に差がありすぎますね……。 タイトルの方にも言及頂きまして、ありがとうございます。仰る通り、「鳥籠」は「世界(舞台)」の象徴です。ただ、その中にいる「鳥」は早蕨さんのご想像通りラウファでもありますし、お察しの通りルノアのことでもエルグのことでもあります。8−1まで読んでくださっているので、この程度はネタバレにならないと思ってしゃべってしまいますが(本編であえて言及する部分でもないので)、タイトルの「鳥籠」の中にいるのが誰を指すかはその時々で変わってくるんです。 この物語はひっくり返りというか立場の成り替わりというかが都度都度起こっておりまして(『従者』であったルノアの『主人』化とか、『主人』格であったラウファの『従者』化とかですね)、“鳥籠の外側の人間で、囚われていないと思ってた人たちがそうじゃなかった”ってことがあります。透明で見えてなかったけど実はそこにあったってやつですね。それがタイトル由来です。ルノアなんて象徴的ですけど、1章とかでの彼女の自由奔放さは、6章でエルグに「演じているだけ」と指摘されています。早蕨さんが「ルノアもまた鳥籠で生きる少女であり」と言ってくださっているように、彼女は自分の演じている舞台である「鳥籠」から出ることはないのです。自由自在に歩き回っているようで、舞台のセットには終わりがあり、次に話す台詞は決まっていて、天井までしか飛ぶことができない。エルグも同じくですね。ルノアから見ればエルグは自分で何でも決めて動き回る「鳥籠の外側」の人間でしたが、エルグに言わせれば彼もまた「別の舞台の登場人物」でした。補完するなら「ルノアが演じている」ことを知っていたラプラス姉妹から見ればルノアはまさに鳥籠の住人でしたし、エルグもルノアからは当初そう見られていなくても(透明で、ないものとして思われていてものゾロアークから見れば呪いやしがらみという鳥籠の中の住人です。登場人物たちが互いに「隣の芝は青いなあ」な状態といいますか、「透明な宝石でできた鳥籠の中」の人々が主人公たちなので、こんなタイトルでした。なので、早蕨さんのコメントは滅茶苦茶的を射てます。 そして、観客席に座ってくださった早蕨さんももしかして……! ……という意図はすみません、なかったのですが、早蕨さんの方が僕よりよっぽど読み込みがすごくて、今「なるほど確かにそういう考え方もありますね」って膝を打っているところです。駄目な作者ですみません……。 さらに「ルノアはセレスが亡くなった事で、崩壊してしまう精神を繋ぎ止めるためにセレスになった」とコメントいただいた部分ですが、こちらについては今後のネタバレとなりますので伏せさせてください。 はい、仰る通りです。この物語の登場人物たちはだいたいどうしようもない状態で、「それが最良だと思った」選択肢を選んでいるつもりの人たちです。早蕨さんにつらい、悲しいと言わせてしまうなんてそんな! すみません、そして本当に彼らに対してそう思ってくださってありがとうございます。 ゾロアークとアシェルは本当に本当に、僕も大好きなキャラなんですが、7章のゾロアークが怒るのが好きだと言ってくださってありがとうございます!! 7章の件のシーンは結構不安で(1章以降登場人物たちが誰も彼も本心がわからない・本心を隠していたやつらばっかりでそのまま来ていたので)、さらにゾロアーク自身の話が少なかった問題で唐突感が拭えずいたのですが、それをおいておいてもがっと感情をあらわにするゾロアークが僕も大好きでして。そうなんですそうなんです、仰る通り「最初は別にどうでもよかったかもしれないのに、一緒にいる内に情が湧」いてしまったゾロアークがエルグを想って、だからこそエルグの境遇を嘆き、過去に唾を吐き、ラウファに対して激昂しています。アシェルもそういうところありますよね。早蕨さんのご想像の通り、ゾロアークとアシェルは「鳥籠の外側」の生き物たちで、『観客』です。手出しできないけど何かせずにいられない、そういうのグッときますよね……! こういう部分はとても書くのが楽しかったのですが、グッと来たと好きだと言ってくださって本当に嬉しいです、ありがとうございます!! アシェルに秘密は……! 最後まで黙っていますね。 そうですね、ラウファはルノアが好きですし、ルノアもラウファに好意はあります。恋と呼ぶには幼いものですので、恋愛系な意味ではないですが。この二人が出会ったことで、鳥籠から出れるのか、エルグは報われるのか、子爵は吹っ切れるのか。これがもう、本当に早蕨さんにご納得いただける結末になるかどうかは保証できないのが恐縮で、小さくなって震えているのですが、頑張って書きます! 他者の好意を受け入れたことで、世界が広がる。他者の感情に寄り添えたことで広がる世界。なんて素敵な言葉なんですか……。え、これ感想でいただいていい言葉なんですか……本当に……?? ルノアは手を伸ばしました、ラウファはそれを掴みました。なのでもうあとは後片付けばかりですよ。先ほど申し上げた通り、本当に早蕨さんにご納得いただける結末になるかどうかは不安でたまらないのですが……! よければあと少しお付き合いいただければ幸いです。 感想を頂いて、本当に滅茶苦茶嬉しいです。ありがとうございます!! こちらのコメント返事が「ありがとうございます!」「仰る通りです!」「嬉しいです!」製造機になっていて本当にすみません。ありがとうございました!! [07]
|