僕は、ポケモンを燃やした を読んだ感想 | ||
投稿者:照風めめ 2020/09/14(月) 22:19 | ||
[表示] 完結おめでとうございました! サクサク次のページに捲れてとても読みやすかったです。 早蕨さんの十八番である内省的な感じが余す事なく発揮されていてとても良かったと思いました。 我々は今でも蚊を殺したりゴキブリみたいな害虫を殺したり、それこそ人によっては幼少期に虫を溺死とかさせる人もいるかもしれないけど、ポケモンの世界ではキャタピーだろうとケーシィだろうと等しい命だというのが改めて重さを感じます。 貫太はキャタピーを燃やしてしまったことをずっと胸の内に抱えて生き続け、自堕落的になんとなくで生活していたにも関わらず、街を賑わすポケモン焼殺事件をきっかけにふとケーシィを手にする事で、彼の生活は少しずつポジティブなものになっていったと感じました。 ポケモンに不慣れで不器用ながらもケーシィを愛し、ケーシィを中心に彼の周りも少しずつ広がっていく。 ずっと停滞していた貫太の人生にバイト先だけでない繋がりができていっただけでなく、彼自身に他者への関心が出来ていったのはとても大きなことだと思いました。 とりわけずっと近いようで遠い関係だった綾子とも話をするきっかけができたり、今まで気にしなかった綾子のことを気にし出したりと目に見える変化が出ていたと思います。 しかし物語中編で綾子からの吐露で物語の流れは一気に不穏な方に傾いていきました。 貫太がケーシィを入手するきっかけを遠回りに作った店長がポケモンを燃やしたかもしれない。それまでどこか遠巻きだった日常に潜む狂気、焼死事件がぐいと眼前に現れて、みるみるページをめくるスピードが上がりました笑 特にキャタピーの焼死体を見つけてしまうことは二人にとって非常にショッキングだったと思います。 実際にキャタピーを燃やした貫太にとっては当時の記憶を再起させるものであり、後に明らかになる綾子の過去から考えるとトラウマでしかない。なのにそこからきちんと立ち上がって犯人を突き止めようとする綾子は本当に強い子だなと思います。 そしてついに焼死事件の犯人との対面。その中で明らかになる綾子の過去。クライマックスに相応しい緊迫感でした。 まさか長い間同じ場所で暮らしていた相手が、かつて貫太が殺したキャタピーを捕まえようとしていた女の子だったとは想像の外でした。 その事実を知ってこれまでの話を読み返すと、綾子は当初から強い嫌悪感を持っていましたね……。 >「ひどいね本当に。早く捕まればいいけど」 > 綾子は露骨に不快そうな顔を浮かべていた。あまり感情を表に出すこともないので、その表情は珍しかった。 >「なんか、思うところあるの?」 >「ちょっとね」 ちょっとどころではない! ただ、貫太に殺意を覚えておきながら、結局自分も罪を犯すことになると迷い、そして懊悩する貫太を知ることで踏み切れなかった綾子はとても優しい子だなと思いました。 その反面、殺したいほど憎かった相手と共に生活していた日々を送るのはクレイジーとしか思えませんし、そういう中で生きている心の強さ(という表現は正しいのか?)も感じました。 ポケモンを燃やしたという同じ立場でありながら、命の重さ、尊さを知った貫太と、命を蹂躙することで全能感に満たされる里中。 貫太にとってはある意味でifの自分と向き合わされる恐ろしい罰だったかもしれません。 静かな狂気というのは中々表現が難しい印象で、口先だけになりがちだったのですが、里中は本当に狂気と称するにふさわしいキャラクターでした。実際にポケモンを燃やしてきた経歴に加え、最終的に人を燃やしたいこと、やがて自分は捕まるだろうと理解しつつも、限られた時間の中で自らの絶頂に至ろうとしているところが信じられない邪悪でした。 この作品のキャラクターはそのほとんどが何かしら罪や罪の意識を持っていましたが、その中で罪を肯定し、進んで罪を重ね続けているのは里中くらいだったと思います。 しかしそんな里中の狂気が結果的に、貫太は急死に一生を得たと思います。里中が貫太を嬲らず、それこそ毒の攻撃を受けていれば……。 ケーシィや綾子を守るためと体を張る貫太はある程度罰を受けたと思います。そんな虫の息だった貫太達を救ったのが、テレポートが使えなくなっていたケーシィだというのも胸が熱くなりました。 そして事件が終わってからのエピローグもとても満足させてもらいました。 >「あなたの罰は、私と暮らして行く事。私の罰は、あなたと一緒に暮らして行く事」 >「……なるほど。それは酷い罰だ」 このオチがめちゃくちゃ好きです。最初は苦い出会いだったけど、長い時を経て、共にふれあい、生死をかけたあの日を越えたことで、きっと二人の繋がりは彼らだけの特別なものになったのではないかなと思いました。 最後まで読み終えたときの幸福感がとても満ち溢れて、読んで良かったと思えた素敵な作品でした! 改めて完結おめでとうございます、そして読ませていただきありがとうございました! [04]
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投稿者:早蕨 2020/11/15(日) 21:34 | ||
[表示] 遅くなってしまいすいません! お読みいただき、ありがとうございました! 内省的な話を書くのに一人称って凄く便利なんですが、書ける範囲が圧倒的に限られるんですよね。 あちこち書けて、いろんな状況を見せられた方がきっともっとダイナミックな様子を描けるのかもしれません。 今回は、一人称で書いた事もあって異様にキャラクター達のいる場所が限定的でした。それが良かったのか悪かったのか、これから自分でたまに読み返したりして、うだうだまた考える事になるのですが、今のところは、一人称でやって良かったなと思っています。 ポケモン世界における殺しの重さを考えるにおいて、小さな生き物というのは微妙な話だと思います。価値観も全然違いますし、細かいところ詰めると書くのって本当はもっともっと難しいだと思っています。 今回は、主人公がポケモンを燃やした過去を持つという設定を入れる事で、ひたすら、もう最初から最後までその命題を考え続けるように書きました。そこから見えて来るのは、結局向き合わないと何も見えてこないという部分だと思います。 綺麗に忘れて何もなかったことにする、というのは確かに簡単なのかもしれませんが、人間生きていればそうじゃないという状況もある。貫太にとっては到底忘れる事の出来ない事ではあったものの、なんとなく逃げ続けて自堕落な生活を続けていました。 それでは何の広がりもなく、貫太自身の人生もだんだんとぐずぐずになって行く事だったと思います。 そう考えると、やっぱりきちんと向き合って考えるという事がなにより大事なんじゃないかなあって思います。 向き合う事で広がる世界があるなら、きっとその方が良いし、そうやって生きて行きたいなと思うばかりです。 里中は今回行き切ってしまった人間として描きましたが、貫太だって綾子だって、そして店長だって一線を越えてもおかしくありませんでした。それぞれのifが里中だとは限りませんが、良心捨てて人間を止めると、それは多分邪悪なんだと思います。自分でやっていて、最早理由なんて忘れてしまって、ただ快楽や愉悦に身を預ける存在に成り果ててもらいました。 里中は貫太にとって憎悪の対象でしかないですし、貫太以外にとっても恐怖や憎悪の対象である事は間違いない。その理由や背景をまったく書かなかったのは、一つは他者を殺す事に理由も何も書く必要はなく、ただ忌み嫌われる行為であるからという事が一点と、貫太のifを書く場合に、単なる邪悪でないと貫太と並べる上でメリハリがないなと思ったからです。 形上、貫太は虫の息となるほど殴られ、罰は受けたのだと思います。簡単に気絶する事も許されず、自分の大切な者のために耐え続けるという一点で意識を繋ぐという行為は、彼にとって十分な罰と言えるでしょう。 それでも、死よりはきっと重くない。 貫太自身は罰を受けたと感じるところはあっても、これからも考えたり、反省するのをやめる事はない。綾子がいて、ケーシィがいるからこそとも言えますし、自分が受けた痛み以上の事を、自分がやってしまったという確認にもなったはずだからです。 エピローグでの、互いに暮らすという罰は、上記のような事も言いたかったんだろうなあって今になって思います。 どういう形で最後セリフを書くかはかなり苦しんだところではあるのですが、特に違和感もなく、満足いただけるようなものになっていたら嬉しいです。 ご感想いただき、ありがとうございました! [06]
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