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月蝕 を読んだ感想
投稿者:竜王 2020/04/15(水) 20:43
感想欄では初めまして。一気に読ませていただきました。長くなりそうですが感想を述べさせていただきます。
まず世界観について。
ポケモンに対する考察の深さにまず驚きました。これは個人的な意見ですが、ポケモンの二次創作とはいかに原作にない部分を、想像で紡ぐかで作品が構成されると考えています。例えば最初のハガネールとイワークの設定で一気に物語へと引きこまれました。他にも「綿草」という本当にありそうな設定や、テッカニンの公害といった社会問題など、野生のポケモンが社会にどんな作用をもたらすのかがしっかりと書かれているのがすごかったです。本当に設定資料があれば読ませてもらいたいくらいです。そのくらい、この世界のトウヤたちがいない場所では何があるんだろう?と思わせる吸引力がありました。カントー地方のトレーナーや、存在は示唆されているが作中に姿を現さないチャンピオンについ想像を巡らしてしまいます。なにより、そう考えさせてしまうとらさんの、一話一話にかける熱量と一文たりとも捨てないという愛が作品に現れて尊敬します。

次に描写について
一個一個の描写に対するこだわりがすごかったです。ポケモンバトルも、アニメではカジュアルな描き方をするのに対して、『月蝕』ではその凄惨さを丁寧に表現しようとしていた点に惹かれました。特に、グロテスクなまでの戦闘描写。血と肉が通った、まさに「モンスター」が命がけで闘争している焦燥感が伝わってきます。強いポケモンと出会った時の絶望感もすごいです。アサギ相手に全く勝てる気がしませんもん。
さらに小説で忌避されがちな「死」と「性」という二つのテーマに向き合うのがすごかったです。特にポケモンはゲームから「死」と「性」が(表向きは)徹底的に排除されているので、その要素を組み合わせて『月蝕』という作品を作り上げ、キャラクターの描写に厚みを持たせる技巧がすごいです。「死」については、ポケモンの生態系にある「食う/食われる」の残酷な自然を淡々と書いていくことが、世界がまるで虚構ではなく本当にあるかのように錯覚してしまう力があると思いました。「性」については、直積的に書かずに匂わせることで、読者の想像を駆り立てるあたりが読んでいて惚れ惚れしました。トウヤの性癖設定を知ってから読み返すと、なるほどーとなりました。
一話一話を読んで思うのが、一つ一つのモチーフや伏線を丁寧に書いており、書きたいシーンが先走ってしまいがちな自分は、本当に見習いたいと考えています。

最後にストーリーと、展開を支えるキャラクターについて
ストーリーはまさにジェットコースターのように感じました。一章から六章の「ココウ」という暗い舞台で、何かが起こりそうでも起こらない。例えばエイパムがリューエルに捕まるあたりは、子供の無力さが出ていて、読了後に虚無を見ました。そして、六章でミソラが豹変して、一気に展開するかな?と思わせてからの七章のほのぼので肩透かしを喰らい、その後八章でどんと一回突き落とされました。チコリータという可愛らしいポケモンがひどい怪我を負い、エトの心境と合わせて絶望していました。からの、本領発揮と言わんばかりの八章。ミソラとトウヤはもしや……と嫌な予感がしていたので当たってしまったことを呪いたいです。それでも、希望が僅かに見えてから、また絶望に突き落とすあたりが本当にきついです。十三章は読み終わった後、長々とため息をつきました。再三になりますが、そのような鬱展開を支えるのはストーリーを浮かべる想像力と、一話一話に対する愛がなければ、鬱展開を読んでこんなに暗い気持ちにならないはずです。

トウヤは本当に怖いです。トウヤ視点で作品を眺めると、いい人のように見えるのに、毒を盛るエピソードや、実の姉に両親を殺したと断言されること。時折見せる「異常」さがあるのに、普段は温かい兄貴分という二つのイメージが乖離しすぎており、トウヤを見るたびに「誰だお前」って言ってしまいます。

ミソラは可愛いです。僕はミソラの記憶が戻りトウヤを殺そうとしていきいきとする可憐な殺意、作中で最も「殺す」という言葉が似合うキャラなのではないでしょうか。初期のトウヤについていく存在よりも、殺意を隠さずに罵倒するミソラは本当に魅力的です。悪い聞こえ方になるのを憚らずに言えば、ゴミの中に咲く毒々しくて綺麗な花のイメージがミソラにあります。

タケヒロについては……以前は世界が残酷だと言いましたが、それよりもとらさんは鬼だな!と今は考えています。『月蝕』を読んでいて感じたのは、丁寧に伏線を張ってはそれを回収するという形だと考えており、だからグレンとアズサについては何かがあるという覚悟ができていました。なので、フラグがないキャラは無意識的に大丈夫と思わせてからの13章……こんなのあんまりじゃないですか……誰かが絶対に死ぬだろうな→これはトウヤかな?残念!タケヒロでした!の流れは鬼じゃないと考えないと思います(暴論)主人公の親友ポジション、それも微妙に物語の核心から外れた存在の唐突な死は、『月蝕』の世界がいかに残酷かをよく理解できました。でもせめて、イズと再会してからでもよかったじゃないですか……

本当は他のキャラについてももっと話したいのですが、あまりに言いたいことが多すぎるので、この三人について書かせてもらいました。(ハリが方向音痴なの可愛いです)
witterで見るとらさんは偽物で、実はマッドサイエンティストだと信じています(目ぐるぐる)
この唐突な悲劇を、いかにミソラとトウヤが超克するのか(するのかな?)底がないジェットコースターの果てに何があるのかを知りたいと考えています。
それでは、長々と拙文失礼いたしました。
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投稿者:とらと 2020/04/19(日) 21:53
 竜王さんこんばんは!! 一気読みしていただいただけでなくご丁寧に感想まで頂き、感激の極みです。しばらく無人島開拓に明け暮れてキーボードで文字を打つことすらほとんどないような状況でしたがお陰様でPCの前に座って文字を打つことができています。マジで感謝です。ありがとうございます!!

 世界観について!
>ポケモンに対する考察の深さにまず驚きました。
 お褒め頂き光栄です。仰られているように、二次創作ってゲーム原作だと見れない部分が見れますし、そのために二次創作を書いてる/読んでると言っても過言ではありませんよね。原作に与えられた材料をどう膨らませるか、っていうのが二次創作の楽しい部分なんだと思います。膨らませ方は人それぞれでしょうが、私に関して言えば、ポケモンという作品に対してどれほど知識量があるかと言われると結構ライトファンなのですが、生物系の専攻だった(太古の昔ですが)こともあり、ポケモンをキャラクタよりも「生物」として捉えている面が大きいです。人間主軸の物語の展開上、どうしてもヒトと住んでるポケモンたちの描写中心にはなりますが、野生で息衝いているポケモンたちの生き様やそれが人間社会に与える影響を考えてみるのは楽しいですし、それを描くことでこの世界・舞台そのものに命を吹き込めるという点もありますよね。 >この世界のトウヤたちがいない場所では何があるんだろう? こういう風に世界そのものを本編より外に広げて目を向けてくださっているのはすごく嬉しいしありがたいし、竜王さんには月蝕の物語だけではなく世界ごと受け入れていただけたんだなと思うと、大変幸せな気持ちになります。こういう感想ってあんまり頂いたことがなかったのでうわ〜すご〜!!って思いました。嬉しい!! 

 描写について!
 お褒め頂き光栄です!!(二回目)描写をどれだけ一生懸命書いても結局はやっぱどれだけ読んでいただけるかだと思うので、焦燥感とか絶望感とか、そういうものをキャラに寄り添って感じていただける読み手さんありきだなっていつも思います。丁寧にお読みいただきありがとうございます。戦闘描写は結構自分でも気に入っているシーンが多いので、取り上げていただけるの凄く嬉しい!!
>特にポケモンはゲームから「死」と「性」が(表向きは)徹底的に排除されているので、その要素を組み合わせて『月蝕』という作品を作り上げ、キャラクターの描写に厚みを持たせる技巧がすごいです。
 ありがたや〜!! 「キャラクターの描写に厚みを持たせる」っていう竜王さんのに表現になるほどなあと思わされました、そうなのかもしれません。死、というよりは、命、と言い替えさせていただきたい気もします、生きていることと死んでいくこと。前半トウヤとか殺す殺す言い始めたあとのミソラみたいな、生きることや死ぬことにリアリティのないひとたちが、まわりと関わって影響されて一生懸命生きて自分や他人の命を大事にできるようになったら、それは究極的な成長だなと思います(なるのかな……)。性については本当に私も「厚み」だと思っていて、そういう描写がひとつ匂わされるだけで、物語に一段階奥行きが出るような気がしてるんですよね。どちらもポケモンという年齢層のジャンルであんまり軽率にやらないほうがいいのは確かなんですが、一応主人公の片割れが成人済みということを免罪符として、誰かに怒られやしないかとビクビクしながら書いています。笑 挙げていただいたどちらも諸刃の剣でありますし、うまく使いこなせてる自信はありませんが、スパイスになっていたらいいな……!!
>一話一話を読んで思うのが、一つ一つのモチーフや伏線を丁寧に書いており、書きたいシーンが先走ってしまいがちな自分は、本当に見習いたいと考えています。
 恐れ多いです……! 私は逆に自作のテンポ感の悪さがいつも気になります。もっとサクサク書ければこんな長い小説にはならないんですが……!笑

 ストーリーについて!
 本作はほのぼの日常小説を名乗っている作品なんですが、実態は「ほのぼの日常と言えるものを積み上げていって、破壊されて再建されてを繰り返す小説」なんですよね。ジェットコースターは本当に自覚あります仰る通りです笑 1章〜8章までは、(6章くらいからじわじわと狂っていくのですが)つみきを積んで日常を作っている段階なんですよね。この積み上げたつみきが高ければ高い方が、9章でぶっ壊していくカタルシスが大きい。そのカタルシスを楽しんでいただくための1〜8章のなんもなさと言えばまだ聞こえはいいですが、本当にテンポ感が悪いというか展開が遅いと言いますか……笑 でも私は日常風景が大好きなので、1〜8章のなんもなさも大好きですし、1〜8章があるからこその9章以降だとも思います。そういう風に受け取っていただけているととっても幸せです。
>十三章は読み終わった後、長々とため息をつきました。
 す、すまねえ……!!笑 13章のラストは私としても本当に決定的で決断の要るシーンでした。ほのぼの日常が好きなんですよ!!本当なんです!! 暗い気持ちになっていただいてありがとうございます(変な日本語だな……サイコパスみたいだ……)。本当に、溜息をついていただけるのは、心を痛めていただけるのは、キャラクタに寄り添って読んでくださっている読者さんの優しさの所以なんだと思うんですよね。ありがとうございます。

>時折見せる「異常」さがあるのに、普段は温かい兄貴分という二つのイメージが乖離しすぎており、トウヤを見るたびに「誰だお前」って言ってしまいます。
 ツイッターでも言いましたがここが本当に嬉しすぎて……!!笑 確かに父親の血を引いているトウヤの異常性と、うだつのあがらない普通の青年の二面性。また、前半のトウヤの後ろをひっついてまわる無垢な子供のミソラと、後半のトウヤを殺さなければならない事実と向き合い汚れていくミソラの二面性。ルリコなんかも完全にそうですし、「誰だお前」っていうキャラを書くのが大好きなんですよね……!!笑 

>初期のトウヤについていく存在よりも、殺意を隠さずに罵倒するミソラは本当に魅力的です。
 あ〜嬉しい!!!私も後半の覚醒ミソラ(覚醒???)が大好きです、罵倒系ミソラを書けはじめたときああやっと本当のミソラを書けるようになったなあ!!と喜んでいたものです。(前半のミソラももちろん本当のミソラですけどね!!)ゴミの中に咲く毒々しくて綺麗な花!!なんて素敵な表現なんだ……!!ありがとうございます。

>とらさんは鬼だな!
 13−11は私も鬼になったつもりで書きました。私ほんとうに自キャラを痛めつけて喜ぶタイプの作家ではないので鬼にならないと書けなかったとも言えます。タケヒロに関しては仰る通り本筋の物語に直接かかわってくるキャラクタではないんですけど、13−9のミソラパートトウヤパート二人の決意と進捗のどちらにもタケヒロの存在や彼の言葉が影響を及ぼしているように、この物語に立ち向かう彼らにとって居なくてはならなかったキャラクタでもあります。タケヒロがこういう結末を迎えたことがのちの物語にどういう影響を及ぼしていくのか、まさしくこれからなんですが、見守っていただけると幸いです。
 イズと再会してたじゃん!!!!!!!!!!!(鬼の作者

 実は私はこの世界は残酷だと思ったことがありません。このお話は、私が「作った」というよりは、私の中に「勝手に生まれている」お話で、私はそれを追いかけているだけなんですけれども、やっぱり残酷というような雰囲気ではないんですよね。ただ、私の中の「月蝕」と、読者さんが読んで受け取っていただいた「月蝕」は、必ずしも同一のものではないと思います。そしてどの読者さんの中にある月蝕の世界もどれも正しい世界なのです。読み手の数だけ月蝕がある……すごいな……(?)今、竜王さんの中にある月蝕の残酷な世界が、これからミソラとトウヤが何をしてどう感じるのかを追いかけていただく中で、どういう風に変化するのか、あるいはしないのか、すごく興味深いですし、もし読んでまた教えていただけるのであれば、それは本当に幸せなことだなと思います。今後ともお暇つぶし程度にお付き合いいただければ幸いです。
 頑張って書きま……す!! 丁寧なご感想、本当にありがとうございました!!
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