モモナリですから、ノーてんきに行きましょう。 を読んだ感想 | ||
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投稿者:はやめ 2018/01/08(月) 12:37 | |
[表示] こんにちは。 以前チャットでお話させていただいた『したっぱの俺がうっかり過去に来たけれど、やっぱグズマさんとつるみまスカら!』をきっかけとして、風さんの作品に色々と興味を持ちました(『ナギサシティ。絆のお話。』等も元々好きなのですが)。モモナリは読んだ事はあるのですが、数年前だったので記憶が薄れていまして、改めて読みたいと興味を持った次第です。 割とがっつりした感想を書きますが、性分なので受け取っていただければと思います。 エッセイ形式というのが斬新でした。最初は一人称での語りに近いかな、という印象を受けましたが、モモナリ完結後は短編小説的な書き方に移行したことで、そこでの地の文や語り口と見比べるとやはり大きな違いがあるように思います。話の随所にも読者に語りかけるような文章が挟まれており、普通の小説でやると逆に楽屋裏的な印象を与えがちではありますが、この形式だからこそ違和感なく為せる業なんだなと感じます。モモナリが楽しんでエッセイを連載しているという心象が、彼の筆致や文章越しに伝わって来るようでした。 (あくまでも個人的に)ゲームメタ目線での戦闘だったり解釈は、実はそんなに得意ではないのですが、モモナリの場合ゲームメタを逆手に取って、そこにポケットモンスターという生物らしさを加えて描写する(主人の腕を案じるガブリアスやトサキント等)ことで、「生き物」としてのポケモンと信頼を築く人間の関係性が明確に照らし出されている気がして、読んでいてとても気持ち良かったです。その辺りは作中でも「信頼」という形で非常に強調されていたので、大事になさっているのかなと拝見しました。 この小説が何故ハーメルンポケモン小説で最上の評価を得ているのかな、と流行した当時、人気の秘訣に対して色々自分なりの見解を立てていました。読んでみて感じたのは、ポケモン世界の様々な側面に触れられているということです。 ポケモン小説と一口にいっても色々ありますが、『モモナリ』の場合にはポケモンという四文字しか知らない人であっても導線がしっかりとしていて、丁寧な説明から魅力に浸かることが出来るのではないかと思いました。単刀直入に言うと読みやすくて、それもサクサク読めます。私自身読了に二時間ほどしかかからなかったので、サクサク読める+分かりやすい+面白い+ポケモン世界に触れるお得感! みたいな(何の宣伝だこれ)、そういうのを一本でまとめて味わえる快感があると思います。 バトル小説的な印象を読む前は抱いていたのですが、そうではなく、モモナリという男の目線から語られるリーグトレーナーそれぞれの哲学・姿勢・在り方や交流、ポケモンとの関係構築、ポケモン世界の要素を余すことなく利用したエピソードの数々、そしてメイン分野であるリーグトーナメントの切磋琢磨によって綴られる奮闘記。これだけの要素を全48週(でいいのだろうか)のエッセイ連載という形で、メタ的に言うと全48話分に落とし込む技量には心底敬服致します。話毎にテーマが変わり、どの分野にも興味を持って読み進めることが出来ました。 有体に言えば、とても面白かったです。名作になるのも納得だ……。いやー……勝てないなぁ。 モモナリという男。不思議なキャラクターではありますが、大変高い社交性とコミュニケーション能力を誇り、広い人脈を構築して維持する術に長けていますね。近くにいて親交を持ちたいタイプの人間だなあと思いました。クシノもそうですが、こういう人達と付き合ったらすごく楽しいだろうなと思います、疲れそうですが。『モモナリ』で面白いのは、上記の勝手に分析させていただいた点だけではなく、風さんの思考や哲学を感じさせるような息吹を吹き込まれた独自のキャラクター陣による魅力であるとも感じます。実際、モモナリは読むごとに面白くなっていく感触が自分の中ではありまして、キャラが揃ったり増えたりしていくことによって、よりその面白さが上がって行く感じがしました。 また、ワタルやイツキ、カリンといった原作のリーグトレーナー達もアレンジを加えられることによって風さんのキャラクターとして完成しており、特にカリンは私の好みで「神の信じた日」での活躍や、最後モモナリとバーで語り合う場面等が印象に残っています。原作キャラクターがオリジナルキャラを下す、という構図も好みなので、その点本音を言うとクロセに負けた時はモモナリのようにショックを受けました。 さて、モモナリの方に話を戻します。なんだろう、この……強い者に噛み付いていくと作中で語られて、エッセイを連載する程度には人格が研磨されて丸くなっていった? 感、なのか……? 分かりやすい明確な個性が際立っているかというと別にそうではないんだけども、人のよさを感じるというか、一緒にいることで少なからず一緒にいる人は安心感を得るだろうみたいな。でも昔はとがっていて、強者に噛み付いていくが勝利に対する執念はそれほどない。というと、勝ち負け自体よりも噛み付いていく自分に恍惚を得るタイプでの尖りだったのでしょうか。モモナリのキャラクターは面白くて、なんというかそういった反骨精神的なものが自分の中にも無いわけではないので、他人事とは思えませんでした。 彼の流儀で好きなのは「天候パが流行ったけど、始動員を自滅させる戦法が気に食わないから、俺がぶっ潰してやる」っていうポケモンを尊重した解釈ですね。ポケモンが可哀想だから、といった気持ちからメタ戦法を張る、みたいな、これはリアルにポケモンが息づいてトレーナーと一緒に戦う世界だからこそ生まれる考えだなと感じます。ポケモンへの労りから来る怒り、みたいなのが凄く良かったです。 あと、カリンと共有する「戦うことでしか生きられない」みたいな狂犬? バーサーカー……? 的な、その内部で静かに滾り火を燃やすバトルへの想いとか。エッセイを連載している一方で、ポケモン育成を欠かさない。色々な人々の激動人生を一番近くで観られる特等席のようなポジションに彼はいて、辞めて行ったり結婚したりする知り合い・友人が出て来る。その中で色々と思うことがあって、しかし最終的にはカリンがほのめかすように私達はバトルで生きるんだ、といった最終回の帰着が見事でした。 もう一つ自分が思ったのは、プロ世界の実情と、ファンや世間の目線から見る選手への印象のギャップとか、ですかね。モモナリは直接トレーナーたちと交流の場を持っているし、彼等の持つ独特な哲学や人格に触れることが出来る。しかし、世間はテレビ越しや掲載誌、メディア等の情報媒体、会場で彼等がポケモンと共に戦う様子といった手掛かりを伝手にして、そのトレーナーを知るしかない。だからモモナリは何度か近くで観る自分だからこそ、この人は葛藤していて〜といったくだりはあったかと思うのですが、当事者として人物に想いを寄せるからこそプロ世界の内部を偏見無くエッセイの文面に興すことが出来るのだなあとしみじみ感じました。モモナリへの印象は大体こんなところです。 後は、印象に残ったお話について感想を述べて行こうと思います。 ●19-大人のバーで神を語る このお話が「神を信じた日」に繋がるんですよね。「神を信じた日」はすごく反響がある回だと事前に何度も見かけていたので、どんな話なのかなあとワクワク期待しておりました。しかしこのイツキは格好良いなあ……確かに「美少年」が成長したら「バーが似合う大人の男」になりそうですよね。「そのいけ好かない神の作ったシナリオをぶち壊すのが僕達の存在意義でしょ、少なくとも僕とカリンさんはそう思ってるよ」ってリーグに潜む勝利の女神に認められるか否かみたいな審議の話を散々したあとで、やっぱりその神のシナリオを打ち破ってやろうぜっていうのが痺れます。自分は神とかそういう観念的な話が好きなのでツボでしたね。 ●22-僕のとても長い一日 これ好きです、めっちゃ好きwww(素) ラジオでタマゴが孵っちゃうっていうハプニングの回なわけですが、コミカルな流れと台詞回しが本当に愛おしい。元々こういうポケモンと一緒に暮らす生活描写を切り取った回、みたいなのがポケモン小説における大の楽しみな部分がありまして、楽しませていただきました。 クルミさんの天然っぷりが笑いを誘いますね…… 「構いませんよ! うわー凄い! 孵化ですよ孵化! 私初めて見ます!」(略)この一言でこのスタジオ内で孵化をさせるというのは決定事項となったのである って、じわじわ来る。クルミさんの生放送における強さがうかがい知れるっていうかそんなんでいいのかみたいな。こうしたユーモアに溢れた筆致の数々も『モモナリ』の魅力ですよねえ。 ●29-美しいということ この話は凄く印象的でしたね。トサキントの尾びれに関する見解は大変興味深く、参考にしたい見地だと思いました。 生物として誇れるであろう巨大な尾びれとその美しさ、しかし短所もあり、他のものにいじめられてしまうというのは、生き物としてのアンバランスというか生き方の難しさを感じる点でありました。また審美眼を人間の勝手な都合だと割り切っている老人の台詞も好感を持てます。 モモナリはゴルダック、アーマルド、アズマオウといった比較的マイナー寄りのポケモンを使っているのも面白いですね。 そして「38-好きなポケモン」に繋がって、ガブリアスの誕生によって、ポケモンの能力差ではなく一個体としての尊厳を尊重することで仲間にしようと考えを改める展開も素晴らしいと思います。一緒に書いてしまいますが、ガブリアスを可愛いと感じたのは初めてでした。 ●37-僕が神を信じた日 タイトルで一発で『モモナリ』の話だ、と分かるぐらいに刻まれた回でもあります。話の中身も面白かったです。 いやぁ……ドンカラスを活躍させてくださってありがとうございます(謎の感謝)。推しポケが勝つのは嬉しい。 カリン勝つんだろうなとは思って読みましたが、途中ハラハラしましたね。やっぱり原作キャラに勝って欲しいので、それが尚更劣勢に立たされているとあれば巻き返しを応援したくもなりますもの。 最後の一節が良いですよね 「この日セキエイ高原には神が居た、自分勝手でいけ好かない神だが、間違いなくそこには神が居た。 しかし、カリンと言う神から見放されたあるトレーナーが、その才能によって神をもねじ伏せ勝利を得たのも見た。 そこには信頼があった。誰がなんと言おうと、そこには信頼があった」 信頼があったって繰り返すフレーズが泣ける…… 神のシナリオや命運といった、あらゆる不利条件を跳ね除けて、最後に勝つのは人間の執念や才能、そして信頼なんだな。話の運び方が自分好みというか、やっぱり頑張っている人が報われるのを見るのは気持ち良いですね。ポケモンとトレーナーの信頼こそが最後に肯定される展開は最高です。 ●41-魔境 ジバコイルとの出会いのお話。ハナダ在住の子どもたちは自然と水ポケモンと触れ合ったりゲットする機会が土地柄多くて、ジム対策に無人発電所を頼りに電気タイプのポケモンを手に入れる、っていう解釈が面白いなと思いました。 「恐らく全世界で最もピカピカで強いジバコイルだ。自慢である」モモナリってポケモン大好きですよね、自分のポケモンに対する愛が深い。 ●48-モモナリですが、ノーてんきに行きましょう。 最後は表題でもあるこの回ですね。締めくくりにふさわしい話だったなと思います。 ここで良いのは憧れで在り続けたがゆえにさして親交も無かったカリンと飲む、というシチュエーション。二人はお互いをあまり知らない者同士に見えて、意外とお互いを深く、遠くから観察していたんじゃないかと感じましたね。近いようで遠く、遠いようで近いと。 「たまに、本当にたまにだが、このままどうなってしまうのだろうと怖さを感じることがある」 この気持ちは何となく分かります。私なんかも二次創作ひたすら書き続けてどうなってしまうのかとか(そっち?)、そういうことをぼんやり考える時ってのはあると思います。そこでカリンが「そういう人種なのよ」と返すところは台詞回しやシチュエーションがより渋さと大人の雰囲気を演出し醸し出していて、場面のビターで甘い空気が醸成されているなと感慨に耽りました。 やはり長くなってしまいましたが、御作に関して抱いた感想を一通り書かせていただきました。 グズマの方もそうでしたが、モモナリも非常に面白く、この世界観が好きになりました。今回は『モモナリ』を総括したい想いからこうして48話までの感想を書きましたが、また『セキエイに続く日常』の方ものんびり追いかけて行きたいと思います。 また、短編集等も、風さんの作品をもっと読みたくなりましたので、そちらもまた読んでみたいと思います。 チャットでもお伝えしましたが、多くの人から愛される素敵な作品を書かれる作家さんという印象がありますので、これからも頑張ってください。また新連載など始められましたら追ってみたいと思います。それでは。 [05]
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投稿者:来来坊(風) 2018/01/11(木) 20:31 | |
[表示] 感想ありがとうございます。 いやー、こんなに素晴らしい感想を書いていただけるのならもっと積極的にチャットinするべきですね。 あのチャットは自分でも楽しかったです、随分と自己語りした記憶がありますが。 エッセイ形式というものは、自分自身も書きながら「こりゃあ来とるぞ」と思いながらやっていました。もともとポケノベ内のタグに『エッセイ』と言うものがあったのを発見したのが始まりでしたが、大きい世界観を小さく表現できることや、文字数が少なくて書くのが超楽ちんなど、もっと流行ってもいい形式だと思っています。 結局は世界観の中で表現したいことが多くなりすぎて後の短編小説路線になりましたが。 この話を書くに至って、『とにかくわかりやすく』と言うのはかなり意識したポイントでした、それを実行するために、『手練のポケモントレーナーが、戦闘におけるポケモンをよく知らない読者のために書くエッセイ』という設定を作りましたが、上手くハマってくれて良かったです。 モモナリというトレーナーは、初期段階ではもっとしょぼくれたトレーナにする予定でした。何かの間違いで一回だけAリーグに入ることの出来た人くらいの、ただ設定を作っていく上で『上位トレーナーと雑談できるくらいの格』『それでいてある程度上位トレーナーに認められる格』『でも強すぎず』『でもその勝敗で相手トレーナーの力量を図れる程度には格がある』というややこしい要素を一つづつ潰していく中であの設定を作ることが出来ました。 話が大きく脱線しますが、自分はプロレスが大好きで、そのプロレスの中には『高級ジョバー』という概念が存在します。『ジョバー』と言うのはつまり負け役のことで、上手に負けて相手レスラーの強さを観客に知らしめるという役割があります。 しかし、もっと上級格のレスラーの強さを示す場合に、ただの『ジョバー』ではあまり役に立ちません。いつでも負けてるレスラーに勝ったところで、観客は特に驚かないからです。そこで出てくる概念が『高級ジョバー』で、『ある程度強くて、中堅どころではまあまあの戦績だけど、強いやつには負ける』という役割なんですね。ですがこの『高級ジョバー』にもある程度格が必要なので、意外と戦績は良かったりするのです、人気次第では最高位に絡むことも出来ます。漫画で言えば『愚地独歩』や『ブロッケンjr』みたいな感じですね、こいつらが負けると、お、これは強い敵が出てきたなとなるわけです。 モモナリを作る時に強く意識したのは『高級ジョバー』であることでした。そもそも彼は主人公格の人間ではないのです。むしろクセのある脇役タイプで、この作品自体『ある主人公の物語のスピンオフ』というノリではじめようとしていました。だから『昔は強くて尖ってた』『今でも変わり者』というキャラクターなのです。ところがこの彼がキャラクターとして愛されるキャラになったのはいい想定外でした。 モモナリは戦いそのものを楽しむタイプで、これはHELLSINGの少佐というキャラクターの大演説から浮かんだ発想でした、彼はトレーナーに勝つこともトレーナーに負けることも好きなキャラクターなのです。だから気楽に負けさせることが出来ます。原作キャラにここまで負けてる主人公は珍しいんじゃないでしょうか。 カリンに関して。 実はカリンはめちゃくちゃ好きといったキャラクターではなくて、気持ちとしてはカルネのほうが好きです、めちゃめちゃ好きです。 ですけどカリンってものすごく愛されてるキャラクターなんですね、あのセリフがあるから当然だとは思いますが。だからあの話ではカリンのあのセリフを全面的に押し出すような構成にしました。もともと滅びの歌のアイデアがあったので、あとに合わせるのは簡単でした。 でも書いていく内にカリンそのものに愛着のようなものが湧いてくるんですよね、好きをそのまま押し通して結果を出すのってめちゃくちゃ難しいと思います。だからこそ作中で彼女に憧れるトレーナーは多いだろうし、才能系のキャラであるモモナリは、強く彼女に心酔しているのであろうと思います。この話をかけただけでこの作品を書いてよかったなと思います。 この作品はモモナリを描くというよりも、モモナリがいる世界観そのものを書くことを意識していました。ですからはやめさんのように、作中のトレーナーたちに愛着を持ってもらえると、しめしめと思います。 ありがとうございました。これからもいい関係性でありましょう。 [06]
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