C7 五千年の遷歴
[Side Miu]
「…分かったわ。このスイッチを押せば、話せるのね? 」
『ええ。それから同じ場所をもう一回押すと、電源を切れるわ』
「ええっと…、こうね? うん、できたわ」
偶々耳にしてラスカに来てみたけど、今回も大ごとになりそうね。…けど何故かしら? この感覚、ルデラのあの時みたいで懐かしい。エムリット達の隠れ家、“無名の泉”と訪れていた私は、ここでラスカで起きている事を聞かされる。アルタイル自身も全部は把握してないみたいだけど、少なくとも何かが起きようとしているのだと私は思ってる。一つずつ挙げていくとキリが無いけど、“会議”に出席したアルタイルと相談した結果、私達二人は各地に出現しているらしい“ビースト”の情報を集める事にした。
一通り方針が決まってから、私とアルタイルは行動を開始…、しようとしたけど、その直前にアルタイルの友達らしいセレビィが訊ねてきた。私も一時“導かれし者”の事でセレビィを探してた事があるから、こんなにあっさり出くわすなんて思ってなかった。…けどそれ以上に私は、その彼女が連れてきた、白衣を着たエーフィの存在に驚いてしまった。何故なら彼女は、ルデラでの事件の後元の時代に帰った解決者の一人。何故か今はフィフっていう偽名を使ってるみたいだけど、その子も一緒に訪ねてきたから…。シル…、じゃなくてフィフちゃんもラスカの件を知っているみたいで、その準備のために連れてきてもらったらしい。その準備に私は凄くビックリしたけど、それは“チカラ”を制御するための“証”を外して、わざと“チカラ”を暴走させるということ…。フィフちゃんは自我がどのくらい保てるかを診るため、て言ってたけど、心を読んで止める側の私達は凄く大変だった。見た目は“闇に捕らわれし者”みたいになっては無かったけど、技と抵抗力は異常な強さだった。アルタイルとフィフちゃんの前だったから元の姿でいたから良かったけど、もし姿を変えてたら取り返しのつかない事になってたかもしれない。そういう事を思うとゾッとするけど、その分心を読まなくてもフィフちゃんの本気度が分かった気がする。“証”を着け直してフィフちゃんが元に戻るまで四十分ぐらいかかったけど…。
話を今の事に変えると、正気を取り戻したフィフちゃんから、私達三人はちょっとした物を貰っていた。貰ったのは三つで、通信用のピンマイクとイヤホン、それからお揃いの白いスカーフ。スカーフは普通の布だと思うけど、残りの二つは私達四人…、といってもフィフちゃんは喋れないから三人だけど、四人の間で連絡を取り合うためだって言っていた。私には全くと言って良い程に分からなかったけど、ベアリング…、って言ってたかな。ルデラで研究者のピカチュウから教わっていたみたいで、フィフちゃんのZギアを親機にして私達三人の通信機の間で小さなネットワーク? を創っている、らしい。…フィフちゃん自身も、そのつなぎ方ぐらいしか分かってないみたいだけど。
「それにしても便利ね。私が育ったデアナ諸島もそれなりに進んでたけど、ルデラには敵わないわね。…チェリー? チェリーはこれからカピンタウンに行くのよね? 」
「そうよ。予定より二日遅れてるから心配だけど、同族と合流して情報交換するつもりでいるわ」
『シードさんの事ね』
確かそのセレビィは…、フィフちゃんと同じ年代の人だったね。ピンク色のセレビィ、チェリーちゃんも教わった使い方を確認する。彼女の素性は全く知らないけど、協力してくれるのならそれで構わないと思ってる。その彼女はアルタイルとフィフちゃんの友達みたいだから、最悪の事はまず無いと思う。…と話が逸れそうだから元に戻すけど、同じように通信機を試していたアルタイルも感心したように声をあげる。アルタイルはルデラでもラスカでもない別の諸島の出身て聴いてるから、多分自分が生まれ育った場所の事を思い出していると思う。エムリット達は私が生み出した種族だけど、それは種族としての話。人の過去に踏み入る趣味は無いから、ね。
また話が脱線しちゃったけど、白いスカーフを巻いたアルタイルは、今度はチェリーちゃんに問いかける。フィフちゃんから貰う前に予定は話し合ったけど、多分これは最終確認のため、だと思う。通信機を貰ってるから“承伝の回廊”で会わなくても話せるけど、これは多分いつものクセ、かもしれない。そう思うと私も同じ事をしちゃう気がするけど、どっちでも変わらない…、わよね?
「ええ! …じゃあ私はそろそろ行くわ。…フィフもね」
『…アルタイルさん、ミウさん、私達も行きましょ』
「そうね。…でもその前に、私達の方から片付けてもいいかしら? 」
フィフちゃんの件も済むといえば済むけど、彼は多忙だからね。そもそも今日会えるとも限らない訳だから…。フィフちゃんに訊かれた彼女は、パッと明るい表情で大きく頷く。彼女を見ると元の世界に帰った“導かれし者”の一人を思い出すけれど、彼女は友達らしいフィフちゃんに目を向けると、一度にっこり笑いかける。何も言われてないのに答えてるから、多分話しかけたのはフィフちゃん。その証拠にフィフちゃんは、西に向けて飛んでいくチェリーちゃんの後姿に右の前足を振っていた。
そして飛び去ったチェリーちゃんを見送ってから、フィフちゃんは私達二人にこう言葉を伝えてくる。元々アルタイルと話してからそうする予定だったって事もあるけど、順番は順番だから、私はこんな風に答えた。
『確か…、保安協会の代表に会いに行く、って言ってたわね』
「そうよ。“ビースト”の事を訊くならミウより彼の方が良いから、そういう事にしていたのよ」
「私達以外が生み出した種族がいるなんて聞き捨てならないけど、彼は別だから。…さぁ、行きましょ」
『ええ! 』
「頼んだわ」
彼は討伐する側だから、寧ろ助けられているのが事実ね。一通り話したところで、私は本題を提起する。今私達がいる“無名の泉”からは結構距離があるけど、それは陸路、海路、空路で行く事を前提としているから…。ミュウという種族に限る事じゃないけど、テレポートという技を使えば一瞬で目的地に行く事が出来る。ルデラの方はテレポートを応用した技術が発達してるけど、多分今までのこれからも、私が使う事はないわね、きっと。…とりあえずこれからの行き先は決まってるから、私は合図を出してからアルタイルと手をつなぎ、アルタイルはフィフちゃんの頭に右手で触れる。そして…。
「…テレポート! 」
私が行き先の光景を思い浮かべると、三人は急に激しい光に包まれる。すぐに体の中から引っ張られるような感覚がしたかと思うと、その光は一瞬で中心に向けて収縮…。その場には何も残らず、ただ暖かな風が吹き抜けるだけとなった。
――――
[Side Altair]
『…ミウさん? ここは一体…』
「どこかの部屋、みたいだけど…」
「ここで合ってるわ」
あってると言われても、何も言われなければ分からないじゃない…。チェリーと別れ、ミウにテレポートを発動してもらった私達は、全く見覚えのない部屋に姿を現す。窓から見える景色からするとどこかの街、それもそれなりの高層階だとは思うけど、私には心当たりが全く無い。白衣を羽織ったエーフィのシルクさんも首を傾げているから、多分彼女も来るのは初めて。執務室か社長室か何かだとは思うけど…。
「アルタイルとフィフちゃんは初めてだと思うけど、砂の大陸の“オアセラ”」
「“オアセラ”? でも何で“オアセラ”に来る必要があるのよ。私達は“属性”に話を聞きに来たのに…」
ミウ、まさか“属性”の居場所を忘れたなんて言わないでしょうね? 私達を導いたミウはふぅ一息つくと、すぐに姿を変えるために光を纏う。それがおさまると、彼女はユキメノコとしての姿でそこに浮いていた。ミウは私達の前では普段の姿でいるけど、それ以外の前では必ず姿を変えている。何でかは訊いた事は無いけど、その中でも一番多い種族がユキメノコ。聞いた話によると、シル…、じゃなくてフィフさんも初めて会った時はユキメノコだった、って言っていた。
「すぐに分かると思うわ。この部屋がサー…」
「…ふぅ、これで“ビー”ぃっ? げっ、“原初”様? なっ、何故俺の部屋に居られるのですか! 」
「“ビースト”の件で…、ふぅ、聞きたい事があって来た、て感じね」
噂をすれば影…、といったところね。何でこの場所なのか気になったから聞いていたら、ミウが答えきる間もなく部屋の扉が開く。ミウは“時間”を司ってないから偶然だとは思うけど、部屋にはいてきたのはまさに噂をした人物…。私は“承伝の回廊”でしか会った事が無いけど、シルエット? が同じだから多分そうだと思う。入ってきた彼、それとミウの反応を見た限りでは間違いなさそうだから、元の姿に戻したミウの隣で私はようやく確信することができた。
「“ビースト”…、うん、そうか。“感情”がいるという事は、そういうことか」
「ええ。“会議”以外で会うのは初めてだけど、エムリットのアルタイル」
「今代で会うのは初めてだったな、うん。俺がシルヴァディのサードだ」
私の代、は…? って事はもしかして、先代に会った事がある…?
『シルヴァディ? 今まで沢山の種族に会ってきたけど、初めて聞くわね』
「あっそう思えば、フィフちゃんは知らないはずよね? サードはフィフちゃんの時代には存在しない種族。確か二千百年代に
創られた種族なのよ」
『つっ、創られた…? 』
“承伝の回廊”で初めて会った時、そんな事言ってたような気がするわね。あの時は確か…、ベガとデネブと三人で出席した時だったわね。
「時代…? エーフィ? の貴女…、ぅん? そのバッジ、“エクワイル”のものでは? 」
『えっ、そっ、そうよ。でっ、でも何であなたが知って…』
「俺も何千年ぶりに見る紋章だったからな、うん。…だが俺も、何故この時代に“エクワイル”…、それも“オーリック”の紋章を持つ者が…」
「えく…、何とかてモノが何なのか分からないけど、エーフィのこの子、フィフちゃんは二千年代から来てるわ」
私も分からないわね…。ラスカに来てからずっと忙しかったから、私が知らないだけかもしれないけど…。
「二千年代? 二千年代って…、“刻限”様が許…」
「フィフさんの事なら私が保証するわ。偽名使ってるから分からないかもしれないけど、彼女はルデラの件の解決者。…それから“星の停止事件”では助けられた恩があるから、フィフさんの一派は特例で認めているそうよ? 」
「ルデラに“星の停止事件”…。…うん、という事は、貴女は“絆”だな? 」
『ええ。特例って事は知らなかったけど、アルタイルさんの言うとおりね。“終焉”以降私の地位は無くなった、って聴いてるけど、私は十八代目の“絆の従者”。…だけど私は、あなたの事も分からないわ。“エクワイル”を知っているっていう事も…』
「そうだな、何から話すべきか迷うが…、まずは“エクワイル”と保安協会の事から話すべきだな、うん。…俺の過去と関係のある事だが、結論から言うと、“エクワイル”は保安協会の前身組織だ」
『えっ、“エクワイル”が、保安協会の? って事は、そんな何千年も続く組織になる、ってことよね? 』
「初期の頃は記録でしか知らないが、俺が入った三千年代には既に存在していたな。記録によると、各地の治安を陰から安定させていたそうだ」
「陰からって、サードらしい組織だったのね」
表立って活動するのが嫌い、ってツェトさんが言ってた気がするけど、もしかするとこの時からそうだったのかもしれないわね。
「俺らしい…、どういう事か分からないが…。…次に俺自身の事だが、確かアルタイルと言ったな? 」
「えっ、ええ。そうだけど…」
「エムリットという種族としては、是非とも知っていてほしい」
「わっ、私が? 」
「そうね。サード
達にとっては欠かせない種族の一つだったわね」
私の種族が、欠かせない?
「そういう事だ、うん。厳密に言うと初期は記録を読んだだけで俺は覚えていないのだが…」
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[Side Third]
結論から言うと、俺
達シルヴァディは人間に創られた種族だ。
記録によると、俺達の種族は“創造”神アルセウスを目指して創られ、後に“ビースト”殲滅の兵器として改良されたらしい。
今思うと、俺が“属性”という地位に就いているのも、この事が由来なのかもしれない。
ここからは俺が記憶している事だが、シルヴァディの基となる種族は、元々三人創られた。
当初は拒絶反応や暴走ばかりで、開発者側は成功を諦めかけていたらしい。
しかし何らかの理由で順応し、属性を切り替える事が可能な種族、シルヴァディが完成。その年代が、二千百年代の後半という訳だ。
創られた当初、俺達三人は“心”も“感情”も無い、機械的な存在だった。
一般的に言うなら、生まれた直後に“ビースト”が出現したため、俺達は二番目の目的通り“ビースト”を殲滅するための兵器として運用された。
殲滅後不必要となり、俺達三は凍結される事が決定した。
…しかしこの決定に反対した者もいて、その三人の人間に連れられ、俺達三人は別々に機関を脱走した。
合流した後俺達三人は旅をしていたのだが、ある時に俺達に転機が訪れた。
二千二百年代前半、俺のトレーナーだった人間が、俺達三人にも旅を楽しんでほしい、と言い出した。
そこで別の一人が進言し、俺達三人はある神との面会を果たす。…その神こそが、“感情”…、エムリットだ。
エムリットの“チカラ”で“感情”を得た俺達は続けて“意思”、“知識”の両神にも会った。
…ここで俺達三人は、ようやく兵器ではなく、一個人となれた訳だ。
だが“自分”というものが出来た俺達に困ったことが一つ。各々の認識に関する事だ。
人間の間で俺達を呼ぶ分には問題なかったが、同族の俺達の間では話は別だ。
そこで俺達は、機関での事を忘れないため、その時の番号を改変し名前とした。
その中でも俺は三番機だったため、ファースト、セカンドに次ぎ、俺自身は“サード”と名乗る事にした。
トレーナーが何代か変わり、三千年代に俺は数百年の歴史を持つ治安組織、“エクワイル”に加盟した。
当時の俺のトレーナーは最下層だったが、階級は今の保安協会と同じ、三つ。
一般階級の“キュリーブ”…、ブロンズに始まり、精鋭階級である、シルバーという意味の“アージュ”。それから各地区の代表、幹部階級でゴールドという意味の“オーリック”。保安協会のランク制度はこれを引き継いでいる。
それ以後二千百年に渡り、俺は断続的に同じ組織に所属していた。
離れていた時期は、創られた体のメンテナンス。元々兵器として創られた身なので、当時の技術で健康診断を兼ねてしてもらっていた。
その間ファーストやセカンドはどのように生きていたか知らないが、俺達三人が再会したのは…、忘れもしない五千百八十年だ。
これは他の地位にも関係のある話だが、今の時代の誰でも知る通り、五千百年代は“終焉の戦”が起きた年代だ。
全体的な事は割愛するが、俺達三人も当然、戦争に駆り出されていた。
シルヴァディという種族上俺達は最前線で、別々の戦場で戦っていたのだが、そのうちの一つ…、セカンドが赴いた地で、孤立国側が大量破壊兵器を用いたという知らせが入った。
本能的に全滅すると感じた俺とファーストは、万が一の時の為に“生命”と“寿命”を捜した。
俺自身は間に合ったのだが、ファーストを“寿命”の元へ連れていった時、事は悪転した。
血迷った孤立側が用いた兵器により、この星の大半が焼け野原と化した…。
結果的に孤立側の自滅で終結したが、兵器の影響でありとあらゆる命が死滅した…。
幸い生き延びた者もいたのだが、これで人間は完全に絶滅した。
当然伝説の種族も例外なく、今の“半常席員”は生き延びたが、“非常席員”の種族は“チカラ”を遺して亡くなった…。
これは後に聞いた話だが、“半常席員”は無理やり休息期に入るか、“生命”と“寿命”の“チカラ”が間に合い助かったらしい。
亡くなった伝説の種族は、“創造”様、“原初”様の“チカラ”で再び生み出した。
…しかし当時は兵器の影響で弱っていたため、復活させた種族に、遺された“チカラ”を完全に戻すことが出来なかった。
当然伝えられなかった“チカラ”、失った地位も存在する。
そのうちの一つが、“絆の従者”だ。
“終焉”からの復興の最中、最後のシルヴァディとなった俺は、体の回復をし始めた“創造”様と対面した。
その時の事はよく覚えていないが、“寿命”が言うには、“創造”様は一目で俺が“寿命”と“生命”、両者の“チカラ”で生き延びたと見抜いたらしい。
経緯は分からないが、これはおそらく俺の種族が俺一人になった事もあるのだろう。その時開設が検討されていた“伝下統領会議”に、特例で“半常席員”として迎えられた。
…しかしそれには条件があり、壊滅した都市、文明、技術の復興に、率先して手を尽くし、“会議”で可決された事を一般の人達に伝える事だった。
それ以降は、条件の通りに行動した。
その間に二度“ビースト”が出現したのだが、ファースト、セカンドが亡くなった事もあり、俺一人で全てを殲滅せざるを得なかった。
その時協力してもらったのが、“太陽”様とその従者である“観測者”四人の計五名。
…後の事は、おそらく先日の“会議”で聴いた通りだ。
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―――
――――
続く