#45 秘密の滝へ
「で、来たけど」
目の前を流れ落ちる滝と、申し分程度しかない道のような足場。ラペットの言う『秘密があるらしき滝』だが、これは本当に普通の滝だ。どうやってその『秘密』を暴き出して行けばいいのか、皆目見当も付かない。
「うわあ、すごい!すごい滝だね、シズク!」
そしてケンジは何故かテンションが高い。おかげで私が疲れてくる。
「ふざけてないで。さっさと謎解くわよ。どこから手を付けていけばいいかあんたも考えて」
「あ、ああ……ごめん。なんか興奮しちゃって……」
「はぁ……」
えへへ、とはにかみ笑いを漏らすケンジに私は思わず溜め息をついた。初探検で興奮するのは勝手だが変に周りを巻き込まないでほしいものだ。邪魔だし、迷惑。
「ねえ、この滝ほんと勢いが強いよ!ほら見てよ!」
完全に上がってるケンジは滝へ手を伸ばしその凄まじさを私に伝えようとした。しかし、まあ案の定その手は滝に当たり、バチッと音がしてケンジの手が跳ね返された。当の本人はこんなつもりではなかったらしく、痛そうに手を振っていた。
「いたぁ……ほんとすごいよ。ねえシズクもこの滝触ってみて!!」
「はあ?馬鹿言わないでよ。なんで私がそんなことを……」
「いいから!!」
言うが早いがケンジは私の手を掴んで引っ張り、滝の前へ連れてくる。私は少しばかり抵抗したが体格の差もあってか全く敵わなかった。引っ張られるがまま滝に手を付けると、その勢いのまま下へ飲み込まれそうになった。よろっ、とふらつくがケンジが受け止めてくれる。
「だ、大丈夫?」
「……平気、だけど」
素っ気なく呟くと急いでケンジから離れた。心なしか顔が、熱い。
「こんなとこに巻き込まれたらバラバラになっちゃいそうだよね……」
「さらっとグロいこと言ってんじゃない、わ……よ……」
急に、グラッときた。
立っていることが辛くなり地面に座り込む。この感覚は、知っている。かつてルリアを助けに、そしてギルナを逮捕したあの時に感じたものと同じだった。微かに頭痛も感じ、気持ち悪いその感じを必死で抑え込む。そしてやがて、目の前の全てが消え別の光景が目の前に浮かび上がる。
目の前に滝が流れるその場所に、一匹のポケモンのシルエットが辿り着いた。辺りを見回しながら数歩下がり、流れ行く滝を睨み付ける。そのシルエットは助走をつけて滝に飛び込む。その巨大な滝はシルエットを飲み込み、姿を隠してしまった。
それからすぐ、滝の裏側と思われる湿り気が蔓延した洞窟の入口に転がり出た。シルエットは少し不思議そうに思ったようだが、これも想定内だったようでさして戸惑う様子を見せずに奥へと進んでいき姿を消した。
「シズク?シズク!?大丈夫?」
ケンジの呼ぶ声に我に返った。しばらく呆然とするがすぐに、今見えたことをケンジに説明する。するとケンジは驚きながらもこのことについて私の意見を求めてきた。
「滝の裏側に洞窟があるって?でももし本当は裏側がただの壁だったら……うぅ……シズクはこのこと、どう思うの?」
「私はやってみる価値があると思ってるわ」
「でももし、失敗したら俺達……」
「ぐだぐだ言ってんじゃないわよ。もし失敗したら、その時はその時。いちいち先の事を考えてたら疲れるわ」
「……そっか、そうだよね。じゃあ、俺はシズクのこと信じる。確かに怖いけど、シズクがいるなら大丈夫……だと思う。だから飛び込もう、あの滝に!」
ケンジに向かって頷いて見せ、助走をつけるために一、二歩下がる。
「いい?行くよ……三……二……一……行けえっ!!」
滝を見据えて勢いよく飛び込む。水が体を濡らし、私達は一瞬虚空に浮いた。