第六十九話 時と闇
ユーレを道連れに、未来へ帰ってしまったリード、そんな絶望的な中シルガが倒れてしまって――?
〜☆〜
「お、おい! シルガ!?」
「どうしたの、ラルド?」
「いきなりシルガが倒れたんだよ、一体どうなってるんだ!?」
さっきまで健在だった憎たらしい顔も、今じゃ弱々しくなっていた。
一体どうしたんだろう? ……本当に、どうしちゃったんだ?
「体力の消耗しか考えられないね」
「ふぃ、フィリア!? なんでそんな事が解かるんだよ?」
「シルガは解放を使ったんだ……後は、解かるね?」
「で、でもラルドは最初に使った時は倒れ……」
「ラルドとシルガ、どう違うのかは解からないけど現状思うにこれしかない、寧ろラルドの方が異常なんだ」
どういう……事だ? 俺が異常って、今まで俺が異常っぽいことしてきたっけ?
「まず初めに、その普通のポケモンじゃ考えられない“驚異的な回復力”前、シルガと転送されてきたとき、帯電器官や発電器官……主に電気袋がそうだけど、焼ききれてたんだ……なのに最善の処置を下したとはいえ、たった一晩で治ると思うかい?」
「思……わない」
「しかもグラードン戦で、マッドショットで受けたダメージ。あれも解放を使って、桐の湖に辿り着いたときにはもうほとんど治っていたんだ、超帯電≪ボルテックス≫の乱用や骨が折れるほどの威力の衝撃電流≪インパルス≫そのどれもが、二日もあれば治ってた」
……これだけ訊けば、俺は異常だ、異常すぎる。
その時は「ああ、早く治ってよかったな」ぐらいにしか思っていなかった。でもどうだ? 実際、ミル達のように通常なポケモンに比べたら『異常』なんだ。
「……この話はもういいよ、で、シルガの容態だけど……オレンの実を食べさせれば治る、体力を回復すればいいんだからね」
「ほ、本当!? 良かった……」
「……気付かないかい? 今、シルガのでこを触ってみたけど……かなり、熱い。熱だろうね」
「ね、熱!?」
なんでそんな物がシルガに、というかなんで今更症状が出たんだ!?
「シルガは休憩の時間がなかったんだよ、夜も警戒して眠らず、加えてこの戦闘に解放……普通なら瀕死の渋滞だ」
「……それでも弱音を吐かなかったのは、世界の為?」
「そうだろうね、シルガは他の事に関しては無関心、でも世界を救うとなれば……」
「多分、いや絶対に、世界を救いたかったんだろうな。今まで頑張ってきたんだし」
「……話が反れたね、それで何が言いたいのかというと……一人はここに残らないといけない」
「「えッ!?」」
……いや、当たり前か。
シルガが熱を出して体力も減っている、このままだと不味い。だとすれば誰かが傍らにいなきゃならないのは当然だ。
「驚かないでよ、ラルドは理解したと思うけど熱を出して体力も減っている、このまま放置すればいずれは……なんて事にならないため、僕がここに残る」
「「えぇッ!?」」
「なにに驚いているの? この中で一番連携を取れるのは君達だ、逆に僕とラルドで行くとしよう、どうなると思う?」
「お前の動きについていけない、もしくは……俺の動きにお前がついていけない」
「平たく言えば動きが合わないんだね。まぁ、ミルの方が僕より強い、しかも連携も取れる、更に言えばもっと深いところで繋がってる……どうだい? 反論はあるかい? ……無ければもう行ってくれないか、時間が無くなってしまうよ」
……相当、辛い。
フィリアの心はわからない、でもこれだけは解かる……こいつは無理をしすぎている。
こんなに俺達を説得する為に喋って、こんなに俺達の為を思って……解からなかったら、チームメイトを名乗る資格なんて無い。
「……解かった、私達は行くよ……後、ごめんね。フィリア」
「な、なんでミルが謝るんだい? 僕が弱いんだから、僕が悪いんだ。理解不能だよ全く……じゃあね、行ってらっしゃいミル」
「……行ってきます、フィリア」
フィリアの思い、シルガの思い、リードの思い、それぞれ違うが根の部分では同じ。
必死に自分の思いを押し殺して、世界の為に効率が良い方法を考える、ジレンマだ。
「行くぞ、ミル」
「うん、解かってるよラルド」
ミルを連れ、階段を走って駆け上る。ミルも考えは同じらしい、一緒に走っている。
「……じゃあな、ラルド」
その時、シルガの声で聞こえてきたのは空耳だろうか。
〜☆〜
ここは遺跡頂上。
そこには、遺跡から離れる境目らしき場所から強烈な青い光を出す“虹の石舟”があった。
私とラルドは急いで階段を駆け上ってきたため若干息が切れてるが問題は無い。
「わ! 早く乗ろ、ラルド!」
「解かってるって……っと」
隙間から漏れる青い光には何の害も無いらしい、少しほっとした。
「なんか明るいね……」
「まぁそうだろな。光が強いんだから、当然明るくなってくるだろ」
当たり前、そう思う。
けど、この光に何の害も無いことは少し気になる、なんでだろう?
「……光、か」
「なに言ってるの? そろそろ動き出すよ、しっかり掴まってなきゃ。えっと……あれ?」
「掴まる所ないんじゃねぇか……ほらよっ」
私が掴まる所を探していると、ラルドは自分の腕を私に向けて差し出す――って、えぇッ!?
「な、ななな、なにしてるの!? ラルド!」
「掴まる所がない、って言ってるから腕差し出してんだろうが、早く掴まれよ」
「……恥ずかしくないの?」
「お前相手になにを恥ずかしがると言うんだ、何を」
「……馬鹿ラルド」
「今のは聞き捨てにならないぞ?」
馬鹿だから馬鹿なんだよ? って言いたいけど……私のほうが馬鹿だから言い返せないぃ!
「デリカシー無さピカチュウ!!」
「なんだと!?」
「馬鹿馬鹿馬鹿!!」
「なんという文字の羅列……じゃなくてなんだよ、デリカシー無さピカチュウって。語呂悪すぎだろ」
「五月蝿い五月蝿い!!」
「その言葉、丁寧に包んでリボンで結んでお返しするよ!」
余談だけど、これは前に誰かが言ってた言葉の使いまわし。
……私は気付かなかったけどね。
――その時。
何か並大抵の力では剥がれない物が剥がれた時になる音が辺りに鳴り響く。いや、鳴り響いていたのではないだろうがラルド達にはそう思えた。
「おっと!」
「ひゃぁッ!?」
そう、剥がれた……というより外れたのは“虹の石舟”で当然、衝撃も強く……。
「っ!?」
「痛ッ!?」
思わず私はラルドを押し倒しちゃって……私がラルドに、乗っかかっていた。
「ふぇっ!?」
「おーい。何、俺の上に乗ってるんだ? 重いぞー?」
「重っ……やっぱり、ラルドはデリカシーが無いね」
「いやいや、重いから。いつも俺の上に乗ってるくせに、俺が重いって言ってるの聞こえな――ぐぼぉッ!?」
「馬鹿ラルド!!」
デリカシー無さ過ぎる! ……だから、倒れてる所に思い切り“体当たり”をしてやった。これはラルドが悪いからね、うんうん!
「なに一人で自己完結でしてやがる……それよりも、前を見てみろ」
「え? なにかあるの?」
「まず見てから言え。まぁ、強いて言うなら、俺達の目的だ」
「……確かに、そうだね」
前を見てみると、そこには――“時限の塔”があった。
「崩壊しかかってるし、しかもなんか不気味だね」
「……あの赤い雲は気になる……なんだろうな」
「……あ! 見てラルド、後ろ!」
「何が? ……これは、虹?」
後ろを見てみると虹がかかっていた、それも、どんな虹より輝いて見え、長さも遺跡からなので最長だろう。これを創ったポケモンは凄いと思う。
「もうすぐ着くぜ、しっかり掴まっとけよ……俺以外にな」
「お、お、落ちちゃうー!?」
結局、岩で出来た道に虹の石舟がくっついた衝撃で、虹の石舟から落ちかけたミルであった。
〜☆〜
ここは――時限の塔前。
時限の塔は、思ったとおり表面でも壊れているのは丸分かりで、外見は紫色で、赤い矢印のような物が昇るようにしてあり、入り口はディアルガの胸に似た創りだった。
「やっとここまで来れたんだ……ここまで来たら、絶対に世界を救えるよね!」
「おいおい、やる前からなに成功を確信してるんだー?」
張り切るミルを、ラルドは突っ込む。油断は探検において命取りだからだ。
「大丈夫だって、ラルドがいるし、もう怖いものなしだよ!」
「俺を過信しすぎだ、俺だってユーレにやられかけたんだぞ?」
「あれは……ほら、パワーより回復の方が強かったからさ。きっと回復方面に能力を伸ばしたんだよ」
「……だと、いいけどな」
「私は準備万端だけど、ラルドは?」
私はもう準備が出来た、でもラルドはなにやら手が込んでるような……道具はオレンの実やピーピーマックスなどなど、フィリアやシルガ、リードが持っていた道具を貰っているので道具の心配はない。
「ふぅ、準備完了だ。お前も出来てるよな?」
「だから声かけたんでしょ? ラルド、もう物忘れが酷くなったの?」
「違う、聞こえてなかったんだよ……出来てるなら早く行くぞ、時間が無くなる」
「あ、待ってよ、ラルドー!!」
四足歩行で走るラルドに、おいていかれながらも私も追いかけていった――。
あれから多分、三十分くらい。この“時限の塔”に入ってから三十分が経った今、私達は中間地点に居た。
中間地点は狂ったポケモンが現れない、絶対、とまではいかないらしいけど。
だから私達は、道具の量を確認兼ね休憩していた。
「オレンの実は……十個あるよ、五個使っちゃったね……ラルドは?」
「ピーピーマックス、オレンの実、共に十二個っと……復活の種も三つはあるな。ミルじゃすぐ使う事になるからな」
「な、なにを!?」
小悪魔っぽい笑みを浮かべて私を馬鹿にするラルド、何か言い返したいけど……弱いって事だけは否定できないよぉ〜。
「ミル、絶対に世界を救おうぜ。……未来世界にユーレと帰ったリードや、倒れたシルガ、そのシルガを看病するために残った皆の為にも……頑張ろうぜ!」
「……うん!」
皆の思いを背負って、ラルドと一緒に居ると言う希望を感じれた……反面、皆がいないという現実を強く突きつけられ、私がどれだけ甘く、弱かったのか。
中間地点から頂上までの道のりで思い知らされたのは言うまでも無かった。
――時限の塔 頂上――
ここは“時限の塔頂上”、ディアルガが鎮座すると言われる場所だ。
だがそこに闇に囚われた神の姿は無く……空には赤い雲があるも何の支障もない。
「うわぁ、ここが……頂上」
「はぁ、疲れたな」
「私も……周りは白くて、なんか闇って感じじゃないね」
「でも所々に立ってる柱は殆ど崩れてる、良い状態じゃないのは明らかだ」
「むぅ、怖くさせないでよ。それよりも時の歯車はどこにはめるの?」
「……先の進まないと解からないな」
ラルドに言うとおり、私達は前へ進む。
すると、奥に青い石版みたいなのが立っているのを見つけた、何も書いてなかったけど……ラルドは見えないらしい。
「ラルド、あれは?」
「はぁ? あそこって……なんだあれ?」
「石版みたいなの、文字は書いてないけど……なんか、窪みがある」
「それだ! 絶対にそれだ、早く行くぞ!!」
「ひゃあ!?」
ラルドは再び四足歩行になり急いで走る、その速さは正に“電光石火”だった。
技使わないでそんなに早いなんて……って、もう目の前まで行ってる!?
「ま、待ってよラルドォ!!」
私は正真正銘、技の方の“電光石火”で走る、じゃないとあの速さには着いていけないと思う。それぐらいの修行をしたらあんなになるんだろう?
「遅いぞミル、早く来い!」
……ラルドが早すぎるんだよ、と言い返したい。
「解かってるよ……で、なに? この窪みは」
「……五つの窪みで、しかも変な形だ。後は解かるだろ?」
「まさか、時の歯車をここにはめるの……?」
「多分な、じゃあ早速はめてくれ。厄介ごとにならない前に」
「う、うん……でも、急ぎすぎだよ」
私達イーブイという種族は四足歩行、だからなにかをはめようとすると前足を出すので不安定になりがちだ。
「っと、どこにあったっけ……?」
バッグに時の歯車が入ってるはず……と、探していた時。
――赤い閃光が、目の前を過ぎった。
「きゃあああぁぁぁ!?」
「うわあああぁぁぁ!?」
それを雷だと認識するのに、然程時間はかからなかった。
その時に発生した衝撃波により、私とラルドは吹き飛ばされる、今まで走った距離を戻された様だ。
「痛っ……なんで雷が?」
「それは目の前を見ると解かるぞ……ちっ、厄介な事になったぜ」
「目の前……え?」
そこにいたのは、紫色で、赤い矢印のような模様があり、特徴的な胸にある赤い宝石がついた、最強であり最悪の神――
ああ、馬鹿だ、なんて私は馬鹿なんだ。
なんでこんな凶悪で強力なポケモンに勝てると思った?
……きっと、ラルドがいたから、ラルドは強いって思い込んでたから。
ああ、なんて私は……馬鹿なんだ。
――闇のディアルガが、いた。
次回「絶望振り撒く闇の神」