第二話 この世界の現状
「ここだ」
キモリに転生してしまった私を助けたミズゴロウ、ラックに案内された場所は特に変哲のない。特徴のない建物であった。助かった。てっきり木の中とかに住みつかされるものかと思っていたがそれはなかったので一安心だな。
「入りな」
そう言ったラックは先に建物に入り、私も彼の後を付いていった。中はきっちりと整理整頓され想像以上に綺麗な一室であった。その部屋には2人ほどのポケモンがいた。一人がもう一人のポケモンを治療している。
「あら、おかえりなさい」
怪我人(?)怪我ポケを治療していたポケモンが私達のことに気がついてこちらに近づいてきた。"嗚呼"と返事したラックの様子から知り合いなのだろうか。
「アレ?そのヒトは?」
当然のごとくそのポケモン、ツタージャが私を指差してきた。
「こいつはキモリのグラスだ。記憶喪失で迷い込んできたんだとよ」
「ふむ……」
「んでこいつが……」
「ラックの妻のリンよ♪」
な、なにぃ!?言っては何だがラックとリンというツタージャは見た目からして相当年が離れてるようにも見受けるが……。また何か言うと面倒だから黙っているか。
「それよりこいつがちょいと火傷を負ったから治療するんだが……」
「それなんだけど、今は……」
「わかった」
明らかに先客がいることを察し、ラックは承諾した。
「なら俺も手伝おう」
「ありがと」
と、この2人が怪我ポケの治療にとりかかった。ラックが入ったことによってあっという間に治療が進んでいった。凄い……。
「さて、次はお前さんの番だな」
「嗚呼、頼んだ」
〜〜〜〜〜〜
「なぁラックよ」
「どうした」
「お前さんの仕事って……医者なのか?」
しばらく沈黙が続き私が他愛ない会話をしようと口を開けた。
「そうだが……。だが」
「----??」
なんともバツが悪そうなラックの顔つき、ふっと視線を移すとリンの顔つきも思わしくなかった。どうしたんだ?
「俺は元々は救助隊の仕事がやりたかったんだ」
「救助隊?」
「不思議のダンジョンで遭難したりしたポケモンを助けたりする仕事よ。不思議のダンジョンは入るたびに地形が変わったり、そこで力尽きるとお金や道具も失うからこの世界では救助隊は重宝されてるのよ」
「ほぉ……」
なんだかよくわからないが……これ以上聞いてもこんがらがるだけだからわかったことにしよう……。
「今の俺はこうして医師の仕事をつとめているが、このご時世には待つだけの医者なんて大して欲されてないことに気がついたんだ。だから俺は救助隊を初めて、困った時に頼りになるような医者、そして救助隊になる……。と思ってたんだ」
「ならばなぜなろうとしない?」
ラック程の腕なら救助隊でもそこそこはつとまるだろう。私は思ったことを率直に口にした。
「俺ももう若くない。こんな年食った親父がダンジョンに潜ったって、すぐにばてて足手まといになるだけだ。だからな--」
「本当にそれでいいのか?」
「何っ!?」
唐突に私が口を挟んだことでラックもリンも驚愕の表情へと変わっていた。
「お前にとってのその言動は誰かに迷惑をかけない最善の行動。そう思っているだろう。だが私には今のお前は踏みだすことを怖がっている臆病者にしか見えない」
「…………!!」
「あんたねぇ……!!いくらなんでもその言い方は……!!」
「--私は初めて出会ってから助けられた時、ピンチになった私を救おうとフライゴンをおっぱらった時に感じた。大丈夫だお前なら救助隊はきっとつとまる」
出会って間もない相手に対してこの言い方。根拠などないが私は心の底からこの男なら救助隊も十二分につとまると思っていた。そんな矢先だった。
「……けて……」
「ん?今何か言わなかったか?」
外から聞き覚えのない小さな声が聞こえてきた。と、その声を耳にしたラックとリンの表情が強張る。
「俺が様子を見る!リン!!グラスを看ていてくれ!!グラス!!お前は怪我してるからじっとしていろ!!」
そう叫んでラックはけたたましく扉を開け。去っていった。なんだ……妙に変な気分がするが……。