嵐の夜に
「うぉっ。大丈夫か! ?は、離してはダメだ! もう少し。何とか頑張るんだ! このままだと……。うわぁぁぉぁ……」
一匹のポケモンは必死な表情で、今にも限界を迎えそうな少女に呼びかける。
「ごめん……」
力なく少女は、苦しげに呟いた。
その声を最後に少女の意識は闇へと落ちていく……。
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空は少し薄暗くなり、もうすぐ日が沈みそうな頃、顔を緊張で強張らせているポッチャマが穴の上にある格子の側に立っていた。
「こんなんじゃダメだ。今日こそ勇気を振り絞らないと」
振り絞るような声で、自分を勇気付ける。
そしてぎゅっと目を瞑りながら、恐る恐る格子の上に乗る。
大丈夫、今日こそは。
恐怖を押し込むように、大丈夫と何度か自分に言い聞かせる。
「足型発見! 足型発見!
誰の足型? 誰の足型?
足型はポッチャマ! 足型はポッチャマ! 」
しかし格子の下から聞こえてきた大きな声で、ついつい飛び退くように格子から距離を取ってしまう。
「びっくりした……。ダメだ。結局入る踏ん切りがつかないや。この宝物を握り締めていれば勇気も出るかもって思ったんだけど」
そう悲しげに呟き、自分が握り締めていた宝物を見つめる。握り締めた宝物をしばらく見つめると、小さな溜息を吐いて、宝物をしまった。
「やっぱり僕って何をしてもダメなのかな」
頬に寂しい自嘲のような笑いを漏らしながらそう呟いた。
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草陰に隠れるようにして、ポッチャマの様子を観察していた二匹のポケモンが、悪い笑みを浮かべながら話していた。
「おいズンク、今の見たか? 」
「おお、もちろんだぜ。チタ」
怪しい笑みを浮かべながら話しているポケモンはズバットのズンクとドガースのチタの二匹だ。
「さっきうろうろしてた奴、何か持ってたよな? 」
「ああ。あれはきっとお宝か何かだぜ」
「狙うか」
「おう」
二匹はニヤニヤと悪い笑みを浮かべながら、ポッチャマの後を付けていく。
草陰などに隠れ、本人にバレないように気を付けながら……。
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憂いを帯びた表情を浮かべながら、茜色の空に浮かぶ夕焼けを見つめ、佇むニンフィアにゲッコウガが近付き声をかける。
「ミルキィ、こんな所で何をしてるんだ? 」
ミルキィ、そう呼ばれたニンフィアは振り返り、ゲッコウガの姿を見つけると微笑む。
「ちょっとボーーッとしてたの。そうしたい気分だったから」
何となく一人で考え事をしたい気分だった。
「そうか。夕飯前には戻れよ」
私の気持ちを察してくれたのかは分からないが、私に特にそれ以上何か言うでもなく元来た道を引き返していく。
私とゲッコウガのジークはプリメルという名のプクリンが親方をしているギルドに所属していて、尚且つキャンディクラウンという探検隊チームの仲間でもある。
「はーーい」
明るい声で返事をすると、茜色の夕焼けの方を再び向く。
お兄ちゃん……。
夕焼けを眺めていると、自然に兄の事が思い出される。……ぬくもりを感じる暖かい手、眩しい笑顔、優しげな瞳。
幼い頃は二人並んでよく夕焼けを眺めたものだ。
お兄ちゃんの思い出とともに、会いたいという衝動も沸き上がってくる。
お兄ちゃん、どこにいるのか分からないけど、必ず会いに行くからね。
私はどこにいるかも分からない兄に心の中でそう伝えた。
風は少し冷たい。けれども今はそれが不思議と心地良かった。