02
「よく来たなアキト君。君の挑戦、楽しみに待っていたよ」
ジムの中のバトルフィールド、そこで腕を組みショウブは仁王立ちをしている。
「ありがとうございます!」
アキトはその場でお礼を言い、腰のボールに左手を伸ばす。
「見ただけで成長が分かるよ。じゃがそれは君だけの力じゃない。分かっておるな?」
「もちろんです! 僕の旅に嫌な顔一つせずに付き合ってくれたカナエ。口ではなんだかんだ言いつつも付いて来てくれたダイスケ。
そして、僕を信じて一緒に戦ってくれたポケモン達。
みんなの支えがあったから、僕はここまで来れたんです!」
彼の問いに、カナエの顔、ダイスケの顔に目をやり、最後にモンスターボールを前に突き出しアキトは答える。
「それが分かっておればいい。手加減はせんぞ!」
彼はその答えを聞くと、モンスターボールを構える。
「当たり前です! 僕はみんなの信頼に応えるためにも、絶対あなたに勝ちます! 勝って、必ずジムバッジを手に入れてみせます!」
アキトもモンスターボールを突き出したまま、自分の意志を告げる。
「ルールは3対3、交換は挑戦者のみ認められる!
先に全てのポケモンを倒した方の勝ち!」
「最後のジム、絶対に勝つぜ! 行け! サンダース!」
アキトは審判の説明が終わると、待ちわびたようにボールを投じた。
「ゆけ! フライゴン!」
ショウブもフィールドにボールを投じ、とうとう最後のジム戦が幕をあけた。
「フライゴン! じしん!」
ショウブの指示で、フライゴンはしっぽを地面に叩きつけ、周囲に衝撃を起こす。
「跳んでかわせ!」
サンダースはすぐさま高く跳躍し、攻撃を逃れた。
「りゅうのはどう!」
しかし空中にいて身動きの取れないサンダースに、フライゴンが口から巻き起こした衝撃波が襲いかかる。
「10まんボルト!」
だが当たる一歩手前で、強い電撃を放ち、その攻撃を相殺して難を逃れた。
「続けてめざめるパワー!」
さらにフライゴンに向け白に近い水色のエネルギー球を放ち、それがフライゴンに直撃する。
サンダースのめざめるパワーのタイプはこおり。じめん、ドラゴンタイプのフライゴンにはかなりのダメージだ。
「むう……」
「でんこうせっか!」
続けてものすごい速さでフライゴンに突っ込む。
これを食らい、フライゴンはややのけぞる。
「行け! めざめるパワー!」
その状態で水色の光球を放たれ、フライゴンは避ける術が無く直撃をしてしまい大きく後方に吹き飛ばされた。フライゴンが地面に落下した衝撃で、辺りに土煙が舞っている。
「フライゴン!」
ショウブが心配し声を掛けるが、煙が晴れ見えたのは目を回し倒れているフライゴンの姿だった。
「よくやったな。戻れ、フライゴン」
「フライゴン、戦闘不能!」
「よし! よくやったぞサンダース!」
「おお、すごいなアキト君! ショウブさんのポケモンを無傷で倒すなんて!」
「アキトもポケモンも、リンドウさんに会った時からうんと強くなりましたからね!」
ショウブがフライゴンを戻し次のモンスターボールを構え、アキトはサンダースを労い、カナエとリンドウはそれを見て話している。
「ゆけっ! オノノクス!」
次はオノノクス。先ほどのフライゴンもこのオノノクスも、リョウジとショウブが戦った時と同じポケモンだ。
「オノノクス、ドラゴンクロー!」
「サンダース、かわしてめざめるパワー!」
迫ってくるオノノクスの攻撃を後ろに跳んでかわし、光球を放つ。
「ボルトチェンジ!」
効果抜群の技に怯んでいる隙に電気を食らわせようとしたが、オノノクスはすぐに持ち直し、電気を当てると同時に爪を食らってしまう。
だが、体力はまだ残っている。サンダースは素早くボールに戻った。
「行け! ピジョット!」
「いわなだれ!」
「かわせ!」
オノノクスは岩を降らせるが、ピジョットは素早くそれを避ける。
「ブレイブバード!」
「もう一度いわなだれじゃ!」
ピジョットが翼をたたんで突撃しようとした直後、目の前に岩が落ちてくる。なんとか横にかわして食らわずにすんだが、間一髪だった。
「ピジョット、後ろに回りこめ!」
しかしオノノクスは素早く反応し、すぐに後ろを向く。ピジョットは、攻めるに攻めれずにいた。
「だったら、上からだ!」
「ドラゴンクロー!」
上なら岩を飛ばせないかもしれない。そう思って指示を出すも、ドラゴンポケモンの中でもトップクラスの攻撃力の前に弾かれてしまう。
「くっ、一旦戻れ! 行け! サンダース!」
ピジョットでは分が悪い。一度戻して、再びサンダースを繰り出す。
「サンダース、めざめるパワー!」
「ドラゴンクローじゃ!」
放った光球は、爪撃によりたやすく打ち消されてしまう。
そして、間近に迫ってきた。
「でんこうせっか!」
目にも留まらぬ速さの一撃も対した効き目はなく、オノノクスに比べ小さなその体に爪が降りかかる。
「オノノクスを蹴って、反動で離れろ! めざめるパワー!」
だがギリギリで腹を蹴り、当たりそうで当たらない微妙な距離から光球を放った。効果は抜群、オノノクスは前のめりに倒れた。
「オノノクス、戦闘不能!」
「よし、やったぜサンダース!」
アキトの声に、サンダースは鼻を鳴らして返した。
「……まさか、1匹も倒せずに出すことになるとはな」
「アキト君、予想以上だ……!」
ショウブとリンドウは、予想外な展開に驚愕を見せている。
「当たり前だ! アキトはつえーんだからな!」
「……ああ。彼のポテンシャルは、もしかしたら俺の想像以上かもしれない……!」
彼、リンドウは、アキトを見て驚きとも喜びとも取れる表情でつぶやいた。
「じゃがアキト君、ここからが本当の勝負じゃ。さあ……、ゆけっ! カイリュー!」
「へへ、出たな……!」
出て来たカイリューは、楽しみにしていたかのように大きく吠える。殺気を放っているが、アキトは怯んでいない。リストバンドで汗を拭って、笑っている。
「行くぜサンダース! めざめるパワーだ!」
サンダースの放った光球は、鼻を鳴らしながら弾かれた。
「だったら10まんボルト!」
「りゅうのはどう!」
続けて放った電撃も、衝撃波にどんどん押されていく。
「危ない、かわせ!」
このままでは食らってしまう。電気を放つのをやめ、素早く右に避けた。
直後、衝撃波が地面を削る。
「あ、危なかった……! でんこうせっか!」
「かわらわりじゃ!」
「かわしてめざめるパワー!」
目にも留まらぬ速さで接近するサンダースに、腕を振り下ろし迎え撃つ。だがそれを予想していたアキトはすぐに指示を出し、右にかわして光球を放つ。
「よし!」
ガッツポーズをした彼だったが、ぬか喜びに終わった。カイリューは腕を大きく薙いで、それを弾いた。
「りゅうのはどう!」
「かわせ!」
跳んで避けるが、技が地面に当たった衝撃でサンダースは宙に投げ出されてしまう。
「くっ、10まんボルトだ!」
「ドラゴンダイブ!」飛ばされながらも放った電撃を浴びても気にも止めず、カイリューは殺気を放ちながら突撃する。
「サンダース!?」
サンダースは避ける術が無く、直撃してしまう。それを食らって、無抵抗に落下した。
「サンダース、戦闘不能!」
「……ありがとう、サンダース。良くがんばったな、ゆっくり休めよ。……よし、次はお前だ! 行け! ピジョット!」
倒れているサンダースをモンスターボールに戻し、ピジョットが現れた。
「ピジョット、ブレイブバード!」
「りゅうのはどう!」
翼を折りたたみ突撃する。放たれた衝撃波も、右斜め上に回避し接近する。
「ならばかわらわりじゃ!」
「宙返りだ!」
腕に当たる直前に、ひるがえる。そして宙に輪を描いて再度突撃する。
「よし、離れろ!」
作戦は成功。腹に技を食らわしたピジョットは、反動を受けながらも攻撃される前に素早く距離を取った。
「もう一度ブレイブバード!」
「かわすんじゃ!」
再び突撃するも、半身を切ってかわされた。
「りゅうのはどう!」
そしてすれ違いざまに衝撃波を食らってしまう。
「ピジョット!」
心配したが、一撃ではやられないようだ。衝撃波を食らって飛ばされても、すぐに体勢を立て直した。
「よし、だったらこれだ! ねっぷう!」
近づいたら攻撃を食らってしまう。ならば、と羽ばたいて熱風を起こす。
「カイリュー。ドラゴンダイブ!」
「まずい、かわせ!」
カイリューは熱風の中を殺気をはらんで突撃してくる。ピジョットは技を中断して避けようとしたが、その勢いに怯んでしまい動けなかった。
「ピジョット、どうしたんだ!?」
アキトの声と、衝撃音が重なる。ピジョットはその攻撃で、力無く地に落ちた。
「ピジョット、戦闘不能!」
「ピジョット……。ありがとな、ゆっくり休めよ。……へへ」
思わず、笑みがこぼれる。さすが最強のジムリーダーだ、すっごく強い。けど……。
「絶対に勝ちますよ! 最後はお前だ! 行け! ウインディ!」
再び汗を拭って、ボールを軽く放り、キャッチして勢い良く投げる。フィールドに、ウインディが姿を現した。
「ウインディ、かえんほうしゃ!」
「りゅうのはどう!」
火炎と衝撃波がぶつかり合う。しかし火炎もじょじょに押されていく。
「しんそく!」
ウインディは炎を放つのを止めて衝撃波の左を駆け抜ける。
「受け止めるんじゃ!」
「飛び越してアイアンテール!」そして両腕を体の前で交差させるカイリューの後方に跳び、後頭部に硬いしっぽを叩きつける。
「りゅうのはどうじゃ!」
だがすぐに振り向き、ウインディは衝撃波を食らってしまう。
「ウインディ!」
吹き飛ばされても、すくに着地して体勢を整える。
「よし、かえんほうしゃだ!」
だがそれは交差した両腕に防がれてしまう。
「だったらしんそく!」
目にも留まらぬ速さで接近したが、それも防がれる。
「りゅうのはどう!」
「しんそくでかわせ!」
近距離からのその技を、目にも留まらぬ速さで避ける。
「カイリュー、ドラゴンダイブ!」
「もう一度しんそくでかわせ!」
は殺気とともに突撃してきたカイリューを、なんとか左にかわす。
「よし、アイアンテール!」
そして真横を通り過ぎたカイリューに、跳んで後頭部にしっぽを振り下ろす。
「しっぽを掴め!」
しかしカイリューはすぐに振り向いて、しっぽを掴んでウインディを宙づりにした。
「上に投げ飛ばして、ドラゴンダイブ!」
そして頭上に投げ飛ばし、そこに殺気とともに思いきり突撃する。
「ウインディ!」
カイリューはゆっくりと地に降り、ウインディは未だ宙に投げ出されている。
アキトが叫び、カナエとダイスケもやや遅れて名前を呼ぶ。
「……決めるぜ! フレアドライブ!」
だがアキトはただ叫ぶだけでなく、続けて技の指示を出した。
ウインディは弧を描いて落下に入っていたが、目を開いて空中で炎の鎧を纏った。
「なんじゃと!?」
「なんだって!?」
今度はショウブとリンドウが叫ぶ。2人とも完全に終わったと思っていたようだ。
カイリューも慌てて頭上を防御する姿勢を取り、そこにウインディが突撃する。衝撃で、辺りに砂煙が舞った。
「くっ……!」
皆が、顔を両腕で守る。
「やったか……?」
アキトは目を細めながら、顔を守る腕と腕の間からフィールドを見る。
砂煙はじょじょに晴れていき、やがて倒れている巨体と立っている四足の影が浮かび上がった。
「な、まさか……!」
「や、やった……!」
立っているのはウインディ、倒れているのはカイリューだ。
「……カイリュー、戦闘不能!」
ジャッジは驚愕しながらも、審判を下す。
「やったぜ、ウインディ!」
「まさか、ショウブさんが負けるなんて……!」
「……お前を倒すトレーナーが現れようとはな。……よく頑張った、カイリュー。ゆっくり休むといい」
ショウブは、微笑みながらカイリューをモンスターボールに戻した。
そして、アキトに歩み寄る。
「……確かに、リンドウの言った通り、いや、それ以上の少年じゃ。
アキト君、これはこのジムに勝った証、ドラゴンバッジじゃ。受け取ってくれ」
「……はい!」
差し出されたバッジを、アキトは受け取る。
「よぉし! 最後のジムバッジ、ドラゴンバッジ、ゲットだぜ!」
アキトはそれを高く掲げ、ウインディも彼の後ろで元気に吠えた。
これでアキトの手に入れたジムバッジは8つ。とうとう彼も、ポケモンリーグ参加への切符を手に入れることができた。
「……アキト君」
リンドウはその様子を見つめながら、彼の名前をつぶやいた。