このスレッドは管理者によりロックされています。記事の閲覧のみとなります。
ホームに戻る > スレッド一覧 > 記事閲覧
2011年春企画 ★結果発表
日時: 2011/04/15 22:44
名前: 企画者

☆ごあいさつ
各地で桜が満開の季節を迎えております。
新年度をおむかえして、皆様いかがお過ごしですか。 春は何事も新しくなる季節。皆様もこれを機になにか新しいことを始めてはいかがでしょうか。
そういった気持で今回の企画も気軽に参加して頂ければ幸いです。

☆企画概要
◇主旨

短編の小説作品を投稿し、その完成度を競います。

◇日程
・テーマ発表日  :4月16日(土)
・作品投稿期間  :4月23日(土)0:00〜5月14日(土)23:59
・投票期間  :5月15日(日)0:00〜5月24日(火)23:59


☆参加ルール
※前回からの変更点はありません。

・企画作品は必ず企画用掲示板の2011年春企画スレッドへと投稿してください。

・一作品につき必ず一レス(30,000字)に収まる長さにしてください。

・投稿作品はテーマに沿ったものにしてください。テーマの説明は後述。

・Aテーマを一次創作可、Bテーマをポケモン必須のテーマとします。お間違いの内容お気をつけください。

・参加のための申請などは一切ありません。気まぐれでのご参加もドンと来いです。

・作品投稿の際のHN(ハンドルネーム)は自由です。複数投稿してそれぞれ別のHNを使用しても構いません。

・過度に性的、および暴力的な文章はご遠慮ください。また、それらの判断基準は運営側で判断させていただきます。

・お一人様につきの投稿数は三作までです。

・投稿の際の記事には以下の内容を必ず記入してください。
@作品タイトル(※掲示板の仕様上、必ず“題名欄”にご記入ください)
Aテーマ
B本文
 なお、あとがきなどの本文終了後の文章のご記入は任意です。

・以上の内容が守られない場合、投票の凍結、最悪の場合は作品を削除することがあります。



☆テーマ


A「リスタート」
 春は始まりの季節、とよく言われていますがたまには振り返ることも大切です。
 振り返った上での再出発、リスタートはいかがでしょうか。この春企画で物書きとしてのリスタートも兼ねて。


B「鐘」
 鐘と一口いっても種類は様々。お寺の梵鐘、教会のベル、はたまた学校のチャイムなどなど。個人的な見解ですが、鐘の音というのはいつなんどき耳にしても心安らぐものです。



☆目次


>>1
B:「ばいばい、」 by ¥0

>>2
B:「Once Again Sound of That Bell... 〜 あの鐘をもう一度…… 〜」 by ドクターペッパー

>>3
A:「シンクロケーシィ」 by 緑坂 美波

>>4
A:「散りゆく桜が蘇るなら」 by 奥野細満

>>5
B:「鐘の唄」 by 命の担い手

>>6
A:「蔵」 by スパイダーマン

>>7
A:「檻の中の小さなはらっぱ」 by 北里ミカ

>>8
A:「偽心真心」 by プラネット

>>9
A:「魅了入門」 by Rと名の付かない

>>10
B:「無音の世界」 by ニシカミ リザード

>>11
B:「みそか成長記」 by ファンシー至上主義

>>12
B:「夢の野原」 by 古今東西

>>13
A:「Midnight Mansion」 by ファイルケース

>>14
A:「MONK」 by 乃響ぺが

>>15
B:「きらきら」 by (´・ω・`)

>>16
A:「飛び出す○○○と地を逝く×××」 by プロジェクトMのやおい系

>>17
B:「ダルマッカの為に鐘は鳴る」 by the lost bell

>>18
B:「ハガネイロ」 by 鹿渡 功労

>>19
B:「アラブルアブソル、主人ト離レテ、ブル ブル ブル」 by 鹿渡 功労

>>20
A:「クソ親父」 by 外野の人

>>21
A:「全てが君の力になる」 by フォルテシモ



・結果発表 >>22
・運営総評 >>23
メンテ

Page: 1 | 2 | 全部表示 スレッド一覧

ばいばい、 ( No.1 )
日時: 2011/04/30 13:16
名前: ¥0

Bコース



 遠くの方から、僕の名前を呼ぶ小さな声が聞こえる。
 気のせいだったのかもしれない。あまりに小さな声だったから。けれど僕はその声に引かれるように空を泳ぐ。太陽がまばゆく光り、空はこれ以上無い程鮮やかに青い。どこまでも突きぬけていきそうだ。爽やかで、心を強く叩くその青の下を僕は真っ直ぐ飛んでいく。嗚呼、何と気持ちの良い飛行だろうか。飛ぶことで風を受けるこの感覚は慣れたものだが、いつもより冷たく身体中に少し痛いほど突き刺さる。それがなんとも心地良い。こんな高い位置で僕は未だかつて飛んだことがない。何しろ辺りに散っている真っ白い雲さえ掴めてしまいそうな高さなのだ。下に視線を落としてみると、世界の小ささに感嘆の溜息すら零れそうになる。気分は膨らみ高揚し、少しだけくるりと回ってみたりしながら、方向は変えずに突き進んだ。
 こんな上空に僕以外の誰かがいるはずもなく、少し身体を前に傾けて下降体勢に入る。
 また耳に一つ紡がれた声が聞こえてきた。――いや、声じゃない。これは音だ、鐘の音だ。静寂の広がる中で遠方の空にまで突き抜ける、優しく強く洗練された音。幾度も幾度も鳴り響き、その度に僕の心は静かに洗われる。遥かなる空に心が躍ったが、それをそっと撫でるように静めていく。初めて聞いた音なのにどこか懐かしく胸が締め付けられる。
 少し目下の景色が細やかに分かるようになってきた頃、一際高い真っ白な塔が目に止まった。それこそ空に突き抜けんばかりの高さだ。一層大きくなる音を耳に入れる。間違いない、音はあの塔からやってきてる。そうと分かった途端に僕は大きく広げていた翼を少し畳んでスピードをあげる。受ける風が一層強くなる。
 更に塔に近づく。塔の上に視線を向けてみると、そこに誰かいることがようやく確認できた。女の子がいる。その正面にある鐘を鳴らしている。
 あの女の子は僕の知っている人だ。根拠は無いけど反射的に分かった。鐘がまた一つ鳴る。一層分厚い波動となって音は僕にかかり、世界中の隅まで届けとばかりに響き渡る。
 僕はだんだんとブレーキをかけていき、そのうちに停止する。ぎりぎり女の子の様子が分かるほどの距離がある。そして鐘の創り出す世界に浸り彼女の表情を上空から伺おうとする。けれど彼女は俯いていて顔色など全く分からない。僕は気になって更に近づく。あっという間に飛んでいき、一分もしないうちに彼女の隣にまでやってきていた。ゆっくりと羽ばたいて床に久々に足を下ろすと、改めて彼女の顔を見た。瞬間、僕は息を呑んだ。
 涙が一滴二滴と頬から零れ落ちている。
 大きな目は充血していて、鼻水も少しだけ覗いている。けれど僕の存在にまるで気付いていないのか、気にする様子は全く無い。拭こうともせずに嗚咽を数回しゃくりあげる。ショートカットの黒色の髪は少し強い風に流れる。青を基調とした軽やかな服装は爽やかだけれど、元気娘を彷彿させるような見た目とは裏腹になんと暗く哀しい表情をしているのだろう。
 僕は彼女の少しずつ変わる皺の動きさえも目に焼き付けんとばかりに凝視していた。その時、ふっと脳裏に記憶が走り込んでくる。僕の物心がついた頃から今の瞬間までの道がモノクロでまず甦り、すぐに一気に朝日に照らされたように色づいて映像となる。たくさんの思い出が眩く光る。僕の視線で描かれたスケッチブックの上にはいくつもの笑顔があって、それらの多くは今目の前に居る人と重なっている。ああ、君はやっぱり僕の知っている人。無限に奥まで続いていく大空よりも、好物のチーゴの実よりも、今迄会ってきた人全員よりも、誰よりも何よりも大切なひと。
 風が大きく吹いてきて、短い彼女の髪もなびく。垂れていた前髪が払われておでこが露わになり、泣き顔が太陽に照らされる。僕はふと彼女の足元に視線を落とすと、乾いているはずの床に大きな円を描いたしみができていた。
 もう一度彼女の顔を見る。
 ねえ、気付いて。
 僕は君の隣に、いつものように君の隣にいるよ。
 鐘の声が僕を叩く。それは、君の声が遠い空には聞こえないから代わりのように僕を呼んだ声だったんじゃないかと思う。そして思わず戻ってきてしまったんだ、懐かしさに惹かれて。
「ヒナ」
 彼女の口から僅かな声が出てきたのを僕は聞き逃さなかった。本当に懐かしい、最後にそうやって呼ばれたのはいつ頃だったのだろう。はっきりと思い出すことはできないけれど、今彼女が僕の名前を呼んだという事実が今はかけがえのないくらい大切なこと。単純だと思う、こんなことだけで嬉しくなるだなんて。でも同時に哀しくなる。僕は試しに彼女の名前も呼んでみた。ああやっぱり気付く様子は欠片ほども無い。胸が苦しくなるけれど心臓の鼓動は自分でも分からない。分からないのでは無くて、心臓はすでに息をしていないのだ。
 僕はもう、彼女と全く同じ世界にはいない。
 僕が高い空を飛んだことないのはずっと彼女と共に旅をしていたからだ。陸を歩く彼女の傍を離れないようにしていた。今、こんな風に死に別れることで彼女の元から解き放たれた。見た事の無いような空の世界に心は存分に踊ったけれど、その要因は彼女から離れたからだったんだ。僕の身は軽くなって自由を手に入れた。自由という言葉の響きは妙に心地良いのに、その代償を考えると皮肉に思える。
 記憶を呼び起こしてみると、僕はどうも病死だったようだ。何度も嘔吐し、決して下がらない高熱に押し込まれていたら、いつの間にかもう飛べないと思っていた空を飛んでいた。解放感に満ちた飛行の舞台はこれ以上のものは無いほど楽しかった。全く何も知らずに何も思い出せずに、お気楽なものだ。
 いつの間にやらもう大分鐘の音は小さくなっていた。美しくしんみりとした重い余韻が上空に残っている。いつ音が本当に消えてしまったのかあやふやなのは静寂の中で僕の心に響き続けているからだろう。

 カナ。

 僕はもう一度名前を呼んだ。
 その時横風が僕の背後から吹いてきた。偶然にしてはできすぎている風がやってきて、彼女は初めて大きく首を回すと風の在り処を探るように僕の方を見た。
 久方ぶりに真正面から彼女の顔を見る。その視界に僕の姿は決して入っていないと分かっているけれど、まるで僕の存在に気がついてくれたように思えて身を硬直させる。本当に涙が溢れていてぐしゃぐしゃでひどい顔だった。可愛い顔が台無しだなんてくさい台詞だけれどそれがぴったりとパズルのように当てはまっている。お願いだ、泣かないで。色んな人を明るくさせる力がある君の笑った顔も戦いに負けて悔しい顔も仲良くなった人と別れる時の寂しい顔も全部僕は知っているけれど、やっぱり笑顔が一番なんだ。僕だけの記憶のスケッチブックの最後のページに泣き顔を描くことになるなんて、そんなのちょっとあんまりだよ。曲の一番最初と一番最後が同じ音で締めくくるように僕は色を塗りたいんだ。
 彼女はしばらく呆然と空を見つめていた。
 ふと彼女は目を瞑り、白いショルダーバッグからピンク色の彼女お気に入りのタオルを取り出す。それに顔を埋めると鼻をかむ音が聞こえてきた。荘厳な雰囲気とはまるでかけ離れている。また顔を再び現すと、涙は拭かれて鼻水は除かれ少しだけ綺麗になった。
「ヒナ」
 その声はまた今にも涙が出てきそうだ。僕は一歩彼女に近づいた。その額に僕の額を合わせて彼女の体温を感じたい。強くそれを願うのにもう叶わない。なんで病気になってしまったのだろう。僕以外の仲間は皆生きているのにどうして僕だけ? どうして仲間内の誰よりも長く一緒にいる僕が一番最初に死んでしまったのさ。運命の悪戯というのは随分と意地悪だな。
 彼女は数歩踏み出した。もう動きを止めてしまった鐘に触れる。鐘は彼女の華奢な身体には重たいだろう、それをゆっくりとひいて、少しだけ震えながら鐘を前方に押し出した。向こう側へ鐘が放られた時、はっと目覚めるような音が大きく鳴り響いた。今までで一番大きく一番僕の中に響いた。繰り返す音の波が揺れる僕を落ち着かせる。何故だろう、この音は魔法のように僕を引きこんで離さない。荘重な鐘本体の音を彼女の優しさが包み込んで僕を抱く。
「ヒナ……ありがとう」
 鐘の音の中で彼女の声ははっきりと聞こえた。
 もう一度タオルに顔をうずめて今度は先程よりずっと長く固まっていた。小さくなっていく嗚咽。鼻をかむ勢いも弱まってくる。少しずつでも彼女の心は落ち着いてきているんだろう。
 ありがとうだなんて、僕の台詞だよ。僕はそんなに強くなかったけど決して僕を手持ちから外そうとしなかったね。今迄君の隣にいることは当たり前だったのに、今はこうして隣に居ることは不思議なことに感じられるんだ。できるならこれからも共に旅をしていたいけど、でも分かったんだ。君がこの鐘を鳴らしたのは、僕を呼び戻す為じゃ無くて、僕の心を癒すためなんだろう? 証拠に僕の気持ちは哀しいけれど不思議なほどに落ち着いている。もう君の元から離れる決意はできたさ。今度はもっと高いところまで行くんだ。空を突きぬけ、無限の宇宙へと飛びだして小さな星となろう。僕は宇宙と一つになって、君の旅を見守ることにするよ。そんな決心はついたけれど、やっぱりちょっと寂しいんだ。だから再び羽ばたくことを躊躇ってしまう。
 彼女はタオルを折りたたみ鞄に無理矢理詰め込むと顔を上げ、太陽を見た。どこまでも青い空から風がやってくる。風は彼女の頬にある涙の跡を乾かす。
「ありがとう、もう、大丈夫だから」
 さっきよりもずっとはっきりと言い放った。
 鐘が鳴るのを止め、余韻に浸った後に彼女はちょっと哀しそうに微笑んで鐘に背を向けた。
 僕に向けられた君からの言葉は僕の中にしんと沁み込む。深く深く、どこまでも深く。きっとすぐに彼女はまた笑ってくれる。もう前を向いて進み始めたから。それをまた見る前に僕は行くことにしよう。スケッチブックの最後のページには君が僕に向けて送った言葉と鐘の音を描こう。最後には抽象画というのも良いかもしれないよ。君が僕にくれた最後の贈り物なんだから、ここで幕を引こう。
 彼女の足音はどんどん遠くなっていき、階段を降りていくと遂に姿は見えなくなった。
 少し溜息を吐くと、僕は大きな翼を広げた。未だに僕の耳には鐘の音が響いている。これからもずっと消えることなく、余韻として響き続けるだろう。
 ゆっくりと羽ばたき始める。地上から足が離れた。さあ、もう一度空へ向かおう。見た事の無い高みへ自由の証としてどこまでも。どんなに遠くにいこうと僕から彼女の姿が離れることは無い。だから、もう何も怖くないよ。
 真っ白な塔を後にし、僕は太陽が待っている遥か上空へと飛び立った。

 ありがとう、僕ももう大丈夫だよ。君が僕の背中を押してくれたから、もう大丈夫なんだ。
 ばいばい、カナ。
 大好きだよ。







 −
 4434文字。
 最初には暗いかなと思い避けていましたが、一向に投稿される気配がないので。
 これを期にどんどん作品が増えれば喜ばしいことです。
メンテ

Page: 1 | 2 | 全部表示 スレッド一覧