御影の意志 ( No.2 ) |
- 日時: 2013/11/09 20:46
- 名前: みそ汁
- テーマB 「石」
「おーい、父さーん。」 「ん? おお、ヒョウタじゃないか。どうした? お前が自分からこっちへ来るなんて。」 「実はこの前地下通路で不思議な石を掘り当てたんだ。だけど、この石が一体何なのかわからないんだ。父さんならもしかしたらって思ったんだけど。」 「どれ、見せてみろ。」 「持ち上げるなら気をつけてね、なぜかは知らないけどこの大きさにしてはかなり重いんだ。」 「おっ!? 随分重いな……。こんな密度の石なんてあったか?」 「体積が大体6280センチで、重さが86キロ、86000グラムになるから、密度は……13以上だね。水銀と同じくらい。はっきり言ってこんなことありえないよ。」 「……むぅ、進化の石ではないみたいだし、化石とも違う。ポケモンに持たせるものでもなさそうだな……。だからと言ってただの石でもなさそうだが。」 「うん。こんなにしっかりした模様が入っているんだもの、なにか特別な石としか思えないよ。」 「成分の分析とかはしたのか?」 「してないよ。でもなんとなく、この模様はただ成分の違いからなるものだとは思えないんだ。証拠も何もないけど。」 「ふむ……。この模様、どこかで見たことがある気がするな。」 「ミオの図書館じゃないかな。あそこなら何があってもおかしくないし。」 「いや、図書館にもあるかもしれないが俺が見たのはそれじゃない。俺は図書館にはほとんど行かないし、行って見ていたとしても忘れているだろうからな。」 「ミオシティのジムリーダーなんだからそのへんはしっかりしなよ……。」 「今は別にいいだろ。ナタネだって自分じゃ森の洋館の管理なんてできんだろう。それよりもこの石だ。俺が図書館で見てないとすると一体どこで見たのか。それが検討もつかんのだ。」 「父さんは記憶力があんまり良くないからね。覚えてなくても仕方ないよ。」 「……で、この石、どのあたりで見つけた?」 「地下通路の、たしかノモセとズイの間辺りかな。何番道路だったかな?」 「209番道路だ。あの辺りにはこれといったものは……いや、ロストタワーがあるか。」 「ほとんど関係なさそうだけどね。」 「他はなにかないか?」 「思い当たらないけど……自転車で行ったり来たりする人をよく見るくらいかな。」 「ズイの遺跡は少し遠いから関係を見出すのは難しいか……。」
「あら、トウガンさんにヒョウタくん! こんなところで一体何をしてるんですか?」 「あ、シロナさん。お久しぶりです。」 「久しぶりね。ヒョウタくんがミオにいるなんて珍しいわね。」 「なんだ? 図書館で調べものでもしてたか?」 「はい、おかげさまで必要な情報は揃いました。せっかくミオまできたので少しでもトウガンさんに顔を出していこうかなーと思って立ち寄りました。」 「例なら館長に言ってくれ。俺は何もしてない。ちょうどいい、この石について話していたんだが、なんだかわからないか?」 「これは、かなめいしですね。」 「かなめいし?」 「ええ。重さはどのくらい?」 「昨日計った時には86キロでした。」 「そっか、だいぶ重くなってるのね……。」 「シロナ、あんただけで納得されても困るんだ。一体この石はなんなんだ?」 「これはかなめいし。怨念を集めると言われる石です。」 「怨念?」 「はい。死してなお現世に残り続ける魂を引き寄せ、それを吸収すると言われています。」 「だいぶ重くなっている、というのは?」 「かなめいしが吸収する魂は108個と言われていて、魂ひとつにつき大体1キロ重くなるらしいの。だから、86キロなら86個の魂を溜め込んでいるということよ。魂によって大きさは異なるから多少重かったり軽かったりはするけどね。」 「108個たまったらどうなるんだ?」 「それでも他の魂を引き寄せつづけて、吸収しきれない分の魂はどこへ行くこともできずその周りをうろうろしています。それで、飾っておいたりすると重くなりすぎて床が変形したり、幽霊を見るようになったりするので、呪いの石だと言われていました。」 「ほう。言われていた、というのはなぜ過去形なんだ?」 「それを説明するには少し昔話をすることになりますが?」 「構いませんよ。」 「はい。 昔、108の魂を吸い、呪いの石とされたかなめいしが神凪の地にありました。 その石はたくさんの人に忌み嫌われ、たくさんの地をまわり、たくさんの魂を引き連れていました。 そこでとある一人の祈祷師がなんとかお祓いをしようとその石を引き受けました。 祈祷師は自分の知っているお祓いをすべて試しましたが、効果はありませんでした。 あるとき旅人が祈祷師に、南東に不思議な塔があると伝えました。 祈祷師はそこへその石を運んで行きました。 その塔にはくぼみがあり、見てみると、ちょうどかなめいしが入る大きさでした。 祈祷師はかなめいしを入れ、浄化するように祈りました。 するとかなめいしがポケモンになったのです。 祈祷師はそのポケモンを退治し、呪いを解きました。 そのあとはかなめいしも残らず、ただの石の塔に戻りました。 人々はその塔をみたまのとうと呼ぶようになりました。 ここまでが昔話です。みたまのとうは今も209番道路にありますよ。」 「そのポケモンと言うのは何なんですか?」 「ミカルゲのことよ。」 「ああそうだ! ミカルゲの石の模様と同じなんだ! やっと思い出した。」 「なるほど、言われてみれば確かにそうですね。」 「今でもみたまのとうに魂の溜まりきったかなめいしをはめるとミカルゲが出てきますよ。そのままにしておくと何が起こるかわからないので、カンナギの巫女さんの所へ持って行ってみてはどうでしょうか。きっと安全に処理してもらえますよ。」 「しかし随分詳しいな。うちの図書館にはその話の書いた本もあるのか? よく覚えていないんだ。」 「ミオの図書館にもあったと思いますよ? 目立たない場所に置かれているので知らない人がほとんどだと思いますけどね。」 「図書館に入ってくる本はひと通り読んでいるはずなんだがな……。」 「そういえばシロナさんはカンナギの出身でしたよね。」 「ええ、そのせいもあって子供の頃巫女の修行をやらされて、ちょっとした占いくらいならできるようになったんだけど、あんまりいい思い出じゃないわ。」 「ならシロナにその石頼めばいいんじゃないか?」 「そうですね。」 「あ、いや。私は巫女の資格持ってないから……。」 「おっと、もうこんな時間か。じゃあ俺はこうてつじまに行くから、あとは知らん。」 「いってらっしゃい、父さん。」 「いってきます。」
「それで、その石はどうするの?」 「シロナさんには頼めませんか?」 「私じゃお祓いもできないし、はっきり言ってどうしようもないわ。」 「じゃあやっぱりカンナギまで持っていったほうがいいですかね……。」 「それもひとつの選択肢ね。でも、ひとついいかしら。」 「なんですか?」 「かなめいしは意思を持つ石なの。人を選ぶのよ。自分に合う人間を探して、その人間の前に突然どこからともなく現れる。あなたは彼女に選ばれた。それを考えて行動を決めて欲しいの。」 「彼女?」 「え? ああ、そのミカルゲ、メスよ。」 「ミカルゲって性別があるんですか!?」 「知らなかったの? ちなみに私のミカルゲもメスなの。」 「へぇ……。それで、人を選ぶというのは?」 「言ったでしょう? かなめいしは魂の集合体。命として存在していなくても心が生まれてしまう。」 「そうか……。じゃあ、ミカルゲとして命を持つとどうなるんですか?」 「かなめいしが少しずつ怨念を浄化していき、やがては無に帰るわ。」 「えっ? それならシロナさんのミカルゲはどうして存在しているんですか?」 「ミカルゲは自分の最高のパートナーを見つけると、そのパートナーの魂の一部ごくわずかな量を吸収するの。そうすることで浄化されない魂を作り上げ、命を留める。もちろんパートナーが死ぬとミカルゲもいなくなるけど、逆に言えばパートナーが死なない限りはミカルゲも生き続けるの。」 「へぇ……。パートナーがいない場合はどうなるんですか?」 「何もせずとも浄化は進むけど、浄化の速度は戦いによって加速するわ。周りに好戦的なポケモンが多いとすぐに浄化されてしまう。温厚なものが多ければ消えるまでに時間がかかる。場合によっては生まれて数時間で消えるものもいれば、数年経っても生きているものもいるわ。それと、かなめいしは取り込んでいない周りにある魂も浄化するから、怨念の多い土地にいるものはなかなか消えないわ。」 「……それで、どうするべきなんでしょうか。」 「選択肢ならいくつかあるわ。カンナギに持って行くもよし、みたまのとうに持って行って、戦って倒せば浄化も出来るし、捕まえれば多分あなたのパートナーになってくれると思うわ。あなたがどうしたいか、よく考えることね。」 「…………。」 「……私は、かなめいしを自分で探して、やっとの思いで見つけて、彼女を目覚めさせた。私はなかなか彼女に認められなくて、随分と四苦八苦していたわ。バトルではさっぱり言うことは聞いてくれないし、すぐにどこかへ行っちゃうし……。かなめいしに選ばれる人間はごくわずかなの。あなたはその一人だから、よく考えて欲しいの。」 「と、言われましても。」 「もちろん、それをどうするかはあなたの勝手だけど、私から見れば羨ましいくらいだもの。後悔はしないようにしてほしいの。……なんだかこの言い方じゃ強制してるみたいね。」 「……僕は……。」 「別に、今すぐに答えを出す必要はないし、それを私に教える必要もない。ごめんなさい、迷わせるようなこと言って。私はそろそろ行くわ。その石はあなたの自由に決めて。私が決めていいことでもないし。」 「でも。」 「それじゃあね!」 「あっ、シロナさん! ――行っちゃった……。」
「結局どうしよう……。」 『おね……わた……め………せ…』 「――? 今のは?」 『おねが……たし……ざめさ……』 「まさかこの石が……?」 『お……い……しを………さ…て』 「声を聞かせてくれ! 君の気持ちを!」 『おねがいわたしをめざめさせて』 「……わかった。君の望みを叶えよう。時が来たら君をみたまのとうへ持っていき、君を捕まえてみせる。それでいいかい?」 『はい』 「じゃあ、君のことはしばらく倉庫にでもしまうことになると思う。魂がいっぱいになるその時までだ。」 『わかっています』 「最後に一つ、いいかな?」 『なんでしょうか』 「君は、目覚めたあとの君は、ずっと僕についてきてくれるかい?」 『もちろんです』
「大体、一ヶ月くらい前かな? 君と話をしたのは。 今では君は完全なポケモンになって、僕には君の言葉がわからない。 それでも、気持ちはわかる。きっと、前に話した時と変わらない気持ちで、きっと、ずっと僕についてきてくれる。 僕は、君にミカゲという名前をつけようと思う。 あまりひねりもなくて、他の誰かが同じ名前を付けているかもしれない。 でも、きっと、君はそんな名前を気に入っている。 だって、君は今とても嬉しそうだ。僕も嬉しいよ。 こんな運命みたいな出会いをしたんだ。これから、きっと、君とはずいぶん長い付き合いになる。 だから、僕が君の最高のパートナーになってみせるよ。」
「よろしくね! ミカゲ!」
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