変わったかたちの石 ( No.1 )
日時: 2013/11/09 00:14
名前: 天草かける メールを送信する


テーマB:「石」

「駄目だ! こんなのじゃ誰も私の芸術を認めてくれない!」
 私はそう叫びながら完成したばかりの画を床に叩きつけた。しかし、無駄に上等なカンバスを買ったせいか壊れることは無かった。
 けろりとした顔をするカンバスを見た後、私はため息をついて自分のアトリエを見渡した。
 360度、どこを見ても壁に、床に、天井に、ありとあらゆるところに私の『ボツ作品』が飾られてあった。
 どの作品も我ながら洗礼されていて芸術的だと思っている。しかし、これら全ては私の先生に認めてもらえなかったものばかりであった。
「君には芸術の才があるんだけどねぇ……。こう、君らしさが無いというか」
 新しく出来上がった作品を見せるたびに、先生は顎をさすりながら同じ言葉を繰り返していた。
 私らしさとはいったい何なんだ!
 どれも完璧だと思って提出した作品だというのに、先生は気まずそうな顔をするばかりだ。
 私は怒りのままに目の前の絵を踏みつけようとするが、寸前で止めた。
 いくらボツでも私が描いた作品には違いない。私はため息をつきながら壁の空いているスペースに無理やりそれを飾った。これで186作品目。どれも世に出していない代物だ。
 私は芸術家だ。――といっても、前述のとおり今は先生に教えを乞う素人の素人である。
 私の同期のほとんどが先生の元を離れ、有名画家の仲間入りしている。残ったのは私とごく限られた生徒だけだ。
 今の先生との波長が合わないのだろうか。私は諦めて別の先生に教えを乞おうと考えたこともあったが、今の先生は私の中で一番尊敬する人物であり、そんな人から認められずに離れていってしまうのはどうにも歯切れが悪い。
 絵を学ぶために芸術の都、ヒウンシティへ上京したというのに、ここ数年私はいったい何をしているのだろうか。
「……どうすればいいんだ」
 私は思わず心に思ったことを呟いてしまった。
 それを聞いた私のポケモン、クルマユは私を心配そうな目で見つめてきた。
「クル……?」
「クルマユ……いや、大丈夫だ。ただ少し落ち込んでいただけさ」
 私は気を落ち着かせるためにクルマユの頭を撫でた。クルマユは気持ちよさそうな声で鳴き声を漏らした。
「クル〜」
「……ありがとう、クルマユ。君のおかげで少し気持ちが楽になったよ」
「クル?」
 クルマユは不思議そうな顔で私を見つめてきた。これを見るたびに私はこの子をパートナーにして良かったと思う。
 私は気を引き締めて、187番目となる作品を描き始めた。
 いつか皆に認められる画家になる。その日を信じて。

 〆

 先生に提出する187品目の作品をどうするか悩んでいる時、友人が久しぶりに私のアトリエにやってきた。
 アトリエにやってきた友人は、最初に自分達の周りにある私の作品を見渡した。
「前見たときより、また作品が増えたな。しかもどれも上手じゃねぇか」
「そんなことはないさ。どれも先生からボツを貰った作品さ」
「お互い大変だな」
 私たちはこの部屋にいると必ずする会話をした。
 彼は私と同期で、先生の元で絵を学んでいる。私が心を許せる、数少ない友人でもある。
 そして、彼もまた先生の元から卒業できないでいた。
 彼は私とは反対の理由で世に出ることができなかった。
「君は個性的な絵を描くんだけどねぇ……。こう、もう少し基本的なものをというか」
 先生の言うとおり、彼の絵は独特である。しかし、とてもじゃないが彼の絵は下手だったのだ。
 性格も絵の表現も正反対の私たちだったが、いつしか時々酒を飲むような仲になっていた。
 しかし、今回は私のアトリエということでアルコール類は飲まないことにしている。酔っ払って、せっかくの作品を壊したからじゃ後の祭りだからだ。
 友人は作品の置いていない床に座り込み、私はその近くにコップを置いた。友人はコップの中身は確認してからそれを少し飲んだ。以前抹茶と間違えて溶かした緑の絵の具を飲んでしまい、それ以来彼はそんなことをしないと私のアトリエで出された物を飲めなくなってしまった。大丈夫だ。私が出したのは確実に麦茶だ。
 私達はしばらく苦労話を言い合って互いに互いの愚痴を聞いては零した。話に一区切りして、再び麦茶を口にしていると、友人はふと近くにある棚を見始めた。そこには、昔作った私の彫刻や工芸品が置いてあった。
「――それにしても、お前の作品って色んな物があるな。よく見たら彫刻や陶器まであるし」
「単なる趣味でやったものだよ。今じゃ飽きてそんなことはしていない」
 友人は棚に置いてあったそれらを鑑賞し始めた。――なぜだろう。絵ならそれほど思わないが、趣味で作ったものを見られると何だが恥ずかしい気がする。
 私の作品を見ている彼は突然眉を顰めて私に質問をした。
「――これも、お前の作品なのか?」
「え?」
 友人の言葉に、私は彼が指を示す方向に目を向けた。
 指の先にあったのは、棚の隅に置かれていた石ころだった。
 どこにでもありそうな、ゴツゴツとした石ころだ。
 これを見て、僕はああ、と声を漏らした。
「それは僕の作品じゃないよ。地元の河原で拾ったただの石さ」
「ほぉ、なんでそんなものが棚に置いているんだ。風水か何かか?」
「特に意味は無いさ。ほら、よく見るとクルマユみたいな顔をしているだろ? それが可愛くて可愛くて」
 クルマユ――私のパートナーである方のクルマユは自分が呼ばれたのかと思って台所から私たちの様子を伺った。しかし、自分ではないことに気づいたらすぐに昼食のポケモンフードの方に目を戻した。そうか、もう昼なんだな。あとで彼を食事にでも誘おうか。もちろん割り勘で。
「確かにそう見えるな。この石から見ると、お前の地元は川の中流付近にあるんだな」
「よく分かったね。私の町は山のふもとから少し離れた場所にあるんだ」
「石を見れば分かる。上流付近にあった、角ばった石が流されて、下流へ流されていくと角がとれて丸い石になるんだよ」
 彼の話を聞いて、私は少し感心しながら頷いた。そういえば小さい頃にそんな話を聞いたような気がする。覚えても豆知識程度にしかならないと思っていたため特に気に留めていなかったが。
 友人はクルマユのような形をした石を手にとって、しばらく眺めたあと呟いた。
「――まるで、俺たちみたいな石だよな」
「え?」
 彼は私の方へ振り返った。少し明るい顔だが暗い一面も匂わせるような、そんな顔だった。
「ほら、俺たちもさ、色んな波に呑まれて丸くなるんじゃないのかなって思ってさ。どんなに辛い波が来ようとも、もがいていればいつかは角がとれて丸い石になる。――俺たちってさ、今その途中なんじゃないのか」
 友人の言葉が不思議と私の心に響いた。言われてみればそうかもしれない。
 なるほど、私たちより先に行ってしまった同期は先に丸い石になってしまっただけだということか。
「……つまり、私たちも頑張れば丸い石になれる、ということかい」
「まぁそういうこと」
 友人はそう言ったあとその石を元の場所に戻した。
 そうだ、私達はまだ変わったかたちの石なんだ。
 今は歪な形をしていても、流されていつかは丸くなる。そうなることを夢に見ながら流されればいいんだ、と私はその時思った。

 〆

 友人が私のアトリエに来てから数週間後、私はたまにはと思って近くの店から新聞を買ってきた。缶詰状態の私は当然社会情勢や世間に疎くなりがちになり、知りたいことすら耳に届かないのがよくあった。
 ふむ、トップモデルのカミツレさんがポケモンジムリーダーになったのか。まぁ趣味程度にしかポケモンバトルをしない私にとって関係ない話か。私はそう思って次のページをめくった。

 身体が硬直した。

 ページを開いた時、見たことのある顔があったためその見出しを見たときに私はゾロアにつままれたような気がした。
 見たことある、と思ったのはこの前私のアトリエにやってきた友人の顔だった。
 彼の写真とともに新聞にはこう書かれてあった。
 【『鬼才の画家現る!』○月×日、ヒウンシティで開催された絵画コンクールにおいて、同所在住のヒューゴさんが金賞を獲得しました。絵の題名は「スワンナの雫」で、審査員は『十年に一人の逸材だ』と好評し……】
 ヒューゴとは友人の名前だ。まさかこんな形で彼の名前を見るとは思わなかった。
 私の中で、何かが崩れ去った。
 まるで彼に裏切られたような、そんな絶望感が重くのしかかった。
 たしかに彼はこの前私のアトリエに来た時、コンクールに新作を出すと言っていた。だが、まさか金賞を手に入れるとは思いもしなかった。
 彼はどうして金賞までとれるような実力になったのだろうか。私は停止した頭を何とか動かして考えた。そして、ある結論に至った。
 簡単なことだ。彼は絵の実力を向上させたのだ。
 先生が言っていることが正しければ、彼に足りないものは絵の基本的なもの。つまり、彼はそれを習得することが出来たということか。
 それでも私の絵の実力は、彼以上だと思っている。なのに、彼の方が先に世間というライトに浴びてしまった。
 もはや私は立ち上がることすら出来なくなった。
 私は皆よりも絵が上手だ。それは先生だって言っていた。なのに、皆は私よりも先にプロのアーティストへとスタートダッシュしていったのだ。それだというのに、私はまだスタートダッシュすらしていない。まるで速く走れるのにフライングをしてしまい、失格になってしまった陸上選手みたいじゃないか。
 悲しみと怒りにくれる中、私は数週間前に友人が言った言葉を思い出した。

『ほら、俺たちもさ色んな波に呑まれて丸くなるんじゃないのかなって思ってさ。どんなに辛い波が来ようとも、もがいていればいつかは角がとれて丸い石になる。――俺たちって今、その途中なんじゃないのか』

 そうか、友人が波にもがいて角がとれてしまった石なんだ。
 ああ、私は流れなくなった石なのだろう。きっとどこかで引っかかってしまい、波にもがくこともできず角がとれることが出来なくなった石なのだ。
 私は次に、先生がいつも口にする言葉を思い出した。

『君は芸術の才能があるんだけどねぇ……。こう、君らしさが無いというか』

 先生の言う自分らしさとはいったい何なんだ!
 教えてほしい! 私とはいったいどんな存在だというのかを!
 私は自分のことが分からない! 何をしようともしないそこらへんに落ちている石ころとなんら変わらないじゃないか!
 私らしさとはいったい何だ!
 私はいったい何者なんだ!
 私は本当に――

 本当に、絵を描きたいのだろうか

 その時、私の頭の何かががプッツリと切れる音がした。
 そうだ、もう絵なんて描かなくてもいいんだ。いつ絵を描かなければという義務を課せられていたと思っていたのだろうか。
 他にもっと道があるに違いない。今の年齢なら雇ってくれる会社がわんさかあるだろう。
 私はそう決意して、アトリエにそこいらじゅうにある絵を捨てることにした。芸術を辞めるためにはそうした方がいいと思ったからだ。
 描きかけの187番目の作品や、今まで大事に保管していた186枚の絵を処分しているところを見て、クルマユは不安そうな顔をしている。
 そんなの知ったことじゃない。これは私が決めたことだ。お前に言われる筋合いはない。
 一つ、二つと絵を燃えるゴミ用の袋に詰める私を見て、クルマユはとうとう行動を起こした。
 クルマユは口に虫ポケモン特有の糸を作り出し、それを私の顔面めがけて発射した。
 突然のことに、私は手に持っていた処分品を落としてしまった。
「……何をするんだ」
 私はクルマユを睨みつけた。クルマユは若干怯えながらも何かを訴えかけるような目で見つめていた。
「――もう私は絵をやめるんだ。悪いが邪魔をしないでくれ」
 私がそう言うも、クルマユは再び糸を吐いた。私の顔面は糸まみれになった。
「――いいかげんにしろ!」
 怒りに震える私はクルマユをひっつかんで玄関の外へ放り投げた。クルマユは悲しそうな目をするが、私はそれに構わずドアを閉めた。
 ……これで邪魔者はいなくなった。
 私は絵をゴミ袋の中に入れながら、そういえばカンバスは燃えるゴミに入るのだろうかと思ってしまった。しかし、まぁ燃えるのだからいいだろうと思い大小かかわらずそのままぶち込んだ。
 あらかたの絵をゴミ袋に入れた後、今度は棚の方を見た。そこには私が趣味で作った工芸品が所狭しと並べられていた。
 いっそのことこれらも捨てようか。私はそう思って手を伸ばした時、あるものが目に止まった。
 この世に二つとないであろう、変わったかたちをした石。
 友人が手にとっていたそれを見て、私はふとあることを思い出した。目の前に、昔の記憶が鮮明に映り込んできた。

 私がまだ少年で、クルマユがまだクルミルだった頃、私は生まれ故郷の森で虫ポケモン達と戯れていた。
 キャタピーが構ってくれとばかりにすがりついて、コロトックが上手に笛を吹き、アリアドスが綺麗な蜘蛛の巣を作る。アメタマは近くの湖からシャボン玉を吐いてテッカニンそれをヒュンヒュンと割っていった。
 私にとって、そこは楽園だった。
 様々な虫ポケモン達のようすを見て、触れて、楽しんでいるといつの間にか日が傾いて家の人に怒られることがしばしばあった。
 そんな毎日を送っていたそんなある日、学校の図工の時に虫ポケモンを描いたら皆が注目してくれた。
 こんなポケモンがいるんだ。凄い。自分もこの子達と遊びたい。
 皆が私の絵を見ているところを見た時、当時の私は胸に熱い何かが込み上げてきた。
 絵というのは凄い力がある。色々な人に見てもらい、その思いを感じさせることができる。
 私はそれから少し経って、絵で虫ポケモンの素晴らしさを伝えようと思うようになった。それは大人になっても変わらなかったことだ。

 本格的に絵を勉強しよう。そう思いヒウンシティに上京しようとした前日、私は既に進化したクルマユと共に河原にやって来た。
 都会へ行くという好奇心があった反面、私は不安でいっぱいあった。
 たしかに、都会にはここにはないものが沢山あるに違いない。だが、その代わりに何かを失うような気がしてならなかった。
 もしかしたら、都会に行っている間に自分が変わってしまうかもしれない。自分の夢を忘れてしまうかもしれない。
 私が今更行こうか行かないか悩んでいると、クルマユはある石を拾ってきてくれた。
「クルっ」
 私は口に加えたそれを貰うと、よく見えるように近づけた。
 それは何の変哲もない石だった。ゴツゴツとしており、変わったかたちをしている。見方によってはクルマユにも見えなくはない。
 なぜだが、私はそれを持っていきたくなってしまった。もしかしたら、私は変わってしまうかもしれないことに不安があったから、近くに"変わることのない物"を置いておきたかった持っていったのかもしれない。
 次の日、私はクルマユとと共にヒウンシティへと向かった。懐に変わったかたちの石を忍ばせながら。

 昔のことを思い出したあと、私は近くにあった鏡を見つめた。周りには絵の具が付着していたが、反射する私の目はかろうじて見えた。
 そこに写っていたのは、疲れきって光を失くした目だった。
 少年の頃、あそこまで輝いていた目はそこには無かった。
 そうだ。私は変わってしまったのだ。ただ皆に認められそうな絵だけを描くことに没頭してしまい、大切なことを忘れていた。
 私は、ただ絵を描くんじゃない。
 私から溢れ出る虫ポケモンの愛を、皆に伝わるような絵を描きたかったのだ。
 私は作品の処分を一時中断して床に座り込んだ。果たして、どうすれば皆にそのことを伝えられるのだろうか。忘れかけていた夢を思い出し、私は夢中で考えた。
 やはり思いつかない。そう思いかけた時、手にネットリと何かが張り付く感触がした。手を見ると、そこには先ほど追い出したクルマユが吐いた糸があった。顔に付いていたそれは重力に任せて落ちてきたようだ。
 どうやら彼に邪魔された後、顔を洗うことを忘れていたらしい。それにしても、なんて丈夫そうな糸なんだろう。これらを集めて固めたらきっといいカンバスになるに違いない。

 ……

 ……?

 …………!?

 私はそこであることに気づいた。
 これだ。これならきっと私の虫ポケモンへの愛が皆に伝わるはずだ。
 私はそのまま玄関を出て、がむしゃらに走り続けた。
 先ほど追い出してしまったクルマユを見つけるために――

 私はいつの間にか近くの公園に来ていた。創作意欲が湧かず、リラックスするために、時々クルマユと一緒に来ていたところだ。そこは都会にしては自然でいっぱいだった。辺りにはレディバやガーメイルが飛んでいて、空気が比較的澄んでいる。
 誰もいない、静かな公園で私は叫んだ。
「クルマユ! いるのなら聞いてくれ! 私が悪かった! だからすぐに戻ってきてくれないか!」
 遠くのビルに反射して、私の声が返って来た。しかし、クルマユが出てくる気配がない。それどころか近くにいたポケモンすら私の声に驚いてどこかへ行ってしまった。
 私はそのまま膝を折り、頭を地に付けた。どうせ周りに見ている人はいないが、もしいたら何もないところで土下座をしている変態としか思われないだろう。
「この通りだ! 私はようやく思い出したんだ! どうして私は芸術家を目指していたのか。どうしてあの石を近くに置いていたのかを! 私は都会に行くことで自分が変わってしまうんじゃないのかと怖がっていた! そして、私は変わったことすら気づいていなかった、 だけど、あの石を見て思い出したんだ! 私は虫ポケモンを愛している! それをみんなに伝えたいがために絵を学んでいたということを! だから頼む! 私の夢のためにお前も協力してくほしい!」
 実に横暴だと私でも思った。そんなことを言っても誰もはいとは言わないだろう。
 ――しかし、私の頭に誰かがさすっている気配を感じた。私は顔を前に向けた。クルマユがいた。
「クルー」
「クルマユ……私についてきてくれのか?」
「クルッ」
 クルマユの元気な声に、私は目に熱い物を感じた。それをクルマユに見せないように私は彼を抱きしめた。クルマユは突然のことに動揺していた。それでも私は抱きしめることを止めなかった。
 クルマユのためにも頑張るんだ。
 私と彼とならきっとやれる。
 たとえ売れなくてもいい。ただ、一人でも私の愛が伝わればいいんだ。
 誰のためでもない、私にとっての最高作品を作ってやる。そう天に誓った。

 〆

「これだよ! まさにこれだ! これこそ君らしい作品なんだよ!」
 数週間後、私は久しぶりに先生からお褒めの言葉を頂いた。周りにいる後輩もどやどやと私の作品を見ていた。
 彼らの目の前にあったのは無骨なカンバスだった。
 クルマユの糸を丹念に折りたたみ、乾かしてとても頑丈なカンバスを作り上げた。
 その上には虫ポケモンの体液から採取した自然の色が塗りたくられている。どこにも売られていないような、独特な色を表現していた。
 カンバスに描かれていたのは一匹のクルマユだった。しかし、クルマユにしてはゴツゴツとしており、色も若干暗かった。
 作品のタイトルは『変わったかたちの石』。無論、これは私が持っている石を表現して作った作品である。
 自分にとって最高だと思う出来だった。それを皆に認めて貰えることはとても嬉しかった。
 友人は流れることで自分達は丸くなると言っていたが、私は違う。
 私は尖っていた頃を自分を見つめ直し、これを作り上げたのだ。
 そういえばあの記事を見てから、彼とは連絡をとっていないな。
 彼のことだ。賞を取った喜びの反面、私への後ろめたさから敢えて連絡しなかったのかもしれない。今度お祝いも兼ねて飲みに誘おうか。もちろん、賞金を手にしただろう彼持ちで。
「それにしても、突然どうしてこんな作品を作れたのだい? 何かきっかけでもあったのかい」
 先生がそう質問するため、私は平然とした顔で答えた。
「見つめ直しただけですよ。尖っていた頃の自分を」
「? ――まぁとにかく、やっと君も芸術家へのスタートを切り出したというわけだね。アーティ君」
 先生の言葉に、私は自然と微笑んだ。
 先生としばらく談笑しながら、私は今度どんな作品をクルマユと一緒に作ろうかと胸を踊らせていた。