ガラスの器 ( No.3 )
日時: 2013/04/07 21:52
名前: RJ メールを送信する

テーマ:A「ガラス」

ボクのソバにいるキミ・・・
ボクが小さい時から一緒にいるキミ・・・
ココはボクの居場所・・・
そのはずだったのに・・・

ボクが生まれた時、気付けばガラスのケースの中にいた。何もかもが分からない事だらけ、全てがコワくて見えていても触れられず、ここがドコかも分からない・・・ボクでさえも
ボクの心はこのガラスのケースよりも繊細で脆かった。傷つく事を恐れ、一歩を踏み出す勇気が無かったボクは臆病で自分の尻尾に灯る熱い炎でさえも怖かった。
周りは知らない子ばかりだった。それでもそんなボクに近付いてきた友達に最初は怯えながらも頼りになる物が少なかったソコでは友達のソバでしか安心できず段々と一緒に遊ぶようになっていった。
ある日、水色した友達と緑色した友達と遊んでいると白い服を着た人間によって小さなボールに入れられた、その時はされるがままで抵抗すら知らなかった。
ガラスのケースから出されたのは初めてだった。ボクにはガラス一枚挟んだ世界なんて関わらなくていい知らなくていい世界。でももしそのガラス一枚でさえ取り外されたら?
どうなるんだろう?何が起こるんだろう?不安でしょうがなかった。誰か助けてほしい!
そんなボクの入ったボールをまだ小さかったキミの手が掴んでくれた、温かい小さな手で。
・・・初めてキミに会った時、キミは笑っていた!ボクに会いたくて仕方がなかったとばかりに抱きしめてくる。ボクはただ戸惑っていた、何と無く傷つけたくなくて尻尾の炎を隠した。他の二匹の友達は出会った人間に嬉しそうにあいさつしていた。ボクもああしておけばよかったのかなぁ。
「博士!この子にします!何て言うんですか?」
「その子は炎タイプのヒトカゲじゃよ!その子は元気が良いぞ!ニックネームを付けてみんか?」
「キミはそうだな〜…ホカゲ!尻尾の炎を隠しているのが可愛いし!」
今になって思えばもう少しいい名前を付けてほしかった、尻尾を隠したばかりに。
その後、水色のとじゃれていた少年がボク達を戦わせようとしていた!
キミは受けて立った!ボクは水色の友達と向き合った。既に友達は身構えていた。
ボクはどうすればいいのか訳が分からなかった。だけどボクの後ろからひっかく攻撃を指示する声が響いてきた!たった一言でボクは体が動いた!この人間はボクにやれる事を教えてくれる!何をすればいいか教えてくれる!
その時からキミはボクのご主人様。
戦いの後初めてのバトルに勝利した瞬間だった!ただ少し友達に悪い事したかなと思った。
「チェッ!何だよお前のポケモンにすりゃよかったよ!」
水色のを選んだ少年は悔しそうに地団太を踏んでいた。ボクはご主人様に選ばれて本当に良かったと思った。ご主人様の話を聞くとどうやら今後は別々に旅をするらしい、せっかくできた友達と別れるのが残念でしばらく友達がパートナー達と去って行くのを見ていた。
そしてご主人様と様々な町や道路を練り歩いて世界の広さを知った!不安で満ちてあふれた淀んだガラスのようなボクの心はたちまち澄んでいった!ご主人様のソバなら何だってできる気がした!今までにない自信と誇りがつき、そのガラスは分厚くなっていった!
勝利すればお互いに喜び、時には負けて悔しがり、新たな仲間に出会っては共に旅し更に強くなった。
そんな時、ご主人様はかつてボクが一緒に遊んでいた友達と同じ種類を仲間に加えてくれた。どうやらご主人様はボクが旅立つ時、友達と別れるのを寂しそうにしているのを覚えていたらしく、苦労して仲間にしたらしかった。ボクはそんなご主人様の心遣いが嬉しくて思いっきり抱きついた!ご主人様も嬉しそうに笑っていた。
リザードに進化して体付きも変わっていっては仲間と競い合った。たまに苦戦して勝利するたびに強くなるのが分かった!更にジム戦など様々な事に挑戦していった。自分の弱点を仲間と補い合って勝ち進んでいく事に喜びを感じていた!
・・・でもその中でご主人様に一番大事にされていたのはボクだっていうのは密かな自慢だった。
やがてリザードンになり、大きな翼が生えてご主人様よりも体が大きくなったらご主人様はカッコいい!と言って、はしゃいで抱きついてきた!首に抱きついてきた小さく見えるご主人様にボクは嬉しいやら気恥ずかしいやらで火炎放射を浴びせてしまった!それでもご主人様はアチチ!と言いながら笑っていた。
ゴメンナサイ・・・
空を飛べるようになってご主人様の役に立てる事が増えたのは嬉しかった!知っている場所ならドコへでも連れて行った。バトルでも大いに活躍し、誰よりも一番に信頼されていた!ヒトカゲの頃今にも割れそうだったガラスの心は今や仲間達を支えられる程にまで強固な物になっていった!
そうして大きな組織の野望を阻止する事に成功し、またポケモンバトルの最高峰である四天王達とバトルして勝利し、その時のチャンピオンだったのがかつての友達でボク達と頂点を目指して戦う事になったのには驚いた!チャンピオン殿堂入りの肩書をご主人様と仲間で一緒に苦労の末その栄光を手にいれた!
ご主人様はよくやった!と誇らしげに笑いかけてくれた!
他の何よりも幸せだった・・・
その後様々な場所へ行き、多彩な技やバトルの幅が広がっていった。
そんなある日ご主人様と人通りの少ない山の麓で修行していると、突如大きなポケモンが飛んできてご主人様を抱えて連れ去った!一瞬何が起こったか分からなかったが、気付いたら怒りでいてもたってもいられず直ぐにご主人様を追いかけていた。
ボクのご主人様を返せ!そんな咆哮と共にブラストバーンを喰らわせた!・・・つもりだった。そのポケモンはボクが攻撃したと分かるとこちらに向き直り、周りの空気を覆い尽くす今まで見たこともない大きな空気渦を喰らわされた!あまりの威力に攻撃が打ち消され、もろに急所に当たり翼がボロボロになり無様に落ちて行った。
「ホカゲ〜〜〜〜!!・・・」
その言葉だけが薄れるボクの意識に響いていたご主人様の声だった・・・
気が付くとボクは体中が痛んで、空は夕闇に淀んでいた。
ああ、ボクは負けたんだ・・・ご主人様をどこぞの知らない奴に連れ去られ、助け出す事も出来ずに・・・
ボクのガラスが音を立てて崩れ去っていくのが分かった。ヒビ割れる鈍い音と鋭く軋み砕けて行く破片の数々を体中に感じていた。強さや自信や誇り、大切な仲間とご主人様、ボクの居場所・・・いきなり何もかも奪われ、自分の存在を粉々に打ち崩されて立ち上がる事が出来なかった。尻尾の炎は弱弱しく煙を出しながら揺らいでいた。
やがて煙に気付いた山男達がボクを見つけ、近くのポケモンセンターに連れて行ってくれた。治療用のガラスのケースに入れられ、介抱されて体が回復したが心のガラスは元に戻ってくれそうになかった。どの破片がドコとくっ付ければいいのか分からなかったのだ。
その夜どうしようもない気持ちを当てつけるようにガラスのケースを打ち砕き、ポケモンセンターから逃げ出した。
どこへ行けばいい?ボクに何ができるんだ?・・・
そしてリザードンはかつてヒトカゲだった頃いた研究所の近くまできました。ここならご主人様の事について何か分かると思ったから。ですが、博士はポケモンの研究に勤しんでおり、ご主人様の行方を知っていそうになかった。仕方なくご主人様の家に行ってみたが、ママさんはいつも通りに過ごしていた。
ご主人様に何が起こったのか知らないのかなぁ、ボクはママさんを呼ぼうとして、ハッと躊躇った。
もしご主人様に何かあったと知ったら何をどう伝えればいいのだろう。見た事無いポケモンに連れ去られたご主人様を助けられなかったボクをどう思うのだろう?そんな風に迷っているとママさんと目が合いました!ママさんは喜んで迎え入れてくれた。居心地悪そうにしているボクにママさんはご主人様がいない事を少し残念そうにしていましたが、
「便りが無いのは元気な証拠!でもたまには顔を出すように言っておいてくれないかしら?」
そう優しく話かけてくれた事が嬉しくて、力強く頷き大きく翼を広げ飛び立った!
この世界でもう傷つくのは怖くない。誰も分かってくれなくてもいい!でもせめてもう一度ご主人様の下に、ボクに笑いかけてくれたご主人様の場所を誰か・・・
その後あちこちで彷徨う強力なリザードンの噂がたちました。ある者は勝負し、ある者は捕まえようとし、またある場所では追い出されたりしました。けれど誰の物にもならず、その強力な技であらゆる攻撃を跳ね返すリザードンに挑戦する者は段々減っていきました。

やがて月日は流れ、ドラゴンの集まる土地に修行と情報収集している時にたまたま現チャンピオン達がその地を訪れていました。チャンピオンはボクの事を見ると懐かしそうな顔をしていました。ボクは訝しく思いましたが、チャンピオン達の話に耳を傾けました。
「・・・あのリザードンかつてボクを打ち負かしたトレーナーのリザードンに似ているな!私も彼にならってリザードンを育てているぞ!彼らのような絆を持てるか自信ないがね!そう言えば最近ここで一番高い山の奥で彼に会ったような気がしたよ!・・・」
それを聞いてボクは喜びやら切なさやらがない交ぜになり、全身が震えだしました!確証はない、だけどどうしようもない胸騒ぎがする!今すぐに会いたい!会って確かめたい!
そこからはもう山を目指して飛び立っていました。
天辺が雪で白く彩られた山、ここにいるかもしれないボクの探していた人
早速踏み入れようとするとそこにはたくさんの強力なポケモン達が潜んでいました!どうやらこの山にはドンファンやバンギラスなど相当強いポケモン達が住んでいるようです。でもボクはどうしてもこの奥へ行ってみたいんだ!会わなければいけない人がいるんだよ!そう吠えるとたくさんの猛者達の中を突っ込んでいきました!!

・・・多くの猛者達の倒しながらも崖を乗り越え、だんだん周りに雪がチラつき始める場所まで登りつめました。まるでヒビ割れたガラスのようにいつ壊れてもおかしくない体を引きずるように進んでいましたが、この奥にあの人が・・・ご主人様がいるかもしれない!ただそれだけの希望がボクを暗い山の奥へと歩ませていく。尻尾の炎の灯は消えかけていました。
すると、目の前にぼんやりと人影が見えました!引きずる体を一瞬だけ止め、その姿を確認します。その後ろ姿に見覚えがありました!懐かしくそして温かな気持ちが満ちていきます。
ああ、ご主人様!ボクです、ホカゲです!やっと会えました!!
ボクが吠えると彼はゆっくりと振り返り、昔と同じように嬉しそうに笑いかけました!

ボクのガラスの器は安堵で満ち溢れてこぼれていきました。