もふだね。 ( No.17 )
日時: 2012/05/28 00:01
名前: 巳佑 メールを送信する

テーマA:タネ

【0】
 ちゃいろい タマゴ が ころころ と
 こおか を くだって
 さぁ たいへん
 ディグダ が でてきて
 ごっちん と
 あたま に ぶつかり こんにちは


【1】
 大きな赤い鼻を持った一匹のディグダがある日、拾った茶色いタマゴから産まれたのは一匹のイーブイでした。
 ディグダの住みかであります広い地中の中で、イーブイは大事に大事に育てられ、すくすくと成長していきました。地中の中は暖かいですし、食べ物はいつもディグダが木の実を拾ってきますし、イーブイの生活に不便はありません。
 しかし、イーブイはディグダと一つだけ絶対にやぶっちゃいけない約束を持っていました。
 
 それは地面の中から出てはいけないこと。

 偶然にも育て親になったとはいえ、ディグダにとっては大事な我が子。
 その大事にしたいという気持ちは年月とともに大きくなっていき、その結果、イーブイを失わないようにディグダが考えたのが先程あげた約束だったというわけです。約束を交わす前までは、外の世界は広くて、小さいイーブイなどいずこかへさらわれてしまうのではないかと、ディグダは内心ハラハラしていましたが、約束を交わした後はいくぶん落ち着きが見られるようになりました。なぜならもちろん、イーブイがちゃんとその約束を守ってくれているからです。
「いいかい、坊や。外の世界には決して出てはいけないよ? 外の世界にはこわーいものがいっぱいあるからねぇ」
「……うん、わかってる」
 笑顔で応えるイーブイにディグダはよしよしと……いきたいところでしたが、手がなかったので、おでこでよしよしとイーブイのおでこをなでていました。
 このような感じでイーブイがディグダとの約束をいつまでもちゃんと守っているかと言われますと、実はそうでもなかったりします。普段は大人しいイーブイですが、年をとる度に外の世界に対しての好奇心がプクプクと膨らんできていたのです。
 
 外の世界ってどんなところなんだろう?
 本当に怖いのかな?
 実は楽しいところだったりして?
 例えばいっぱい木の実があったりとか?

 食べられるだの、さらわれてしまうだの、外の世界はとても怖いところだとディグダから何べんも聞かされていたイーブイでしたが、その恐ろしい言葉たちとは裏腹にいったん外の世界を想像してみるとあら不思議、イーブイの心をくすぐらせるようなものばかりが展開していきます。今はなんとか保っているというところですが、いつイーブイがディグダとの約束をやぶってしまうのか分かったものではありませんでした。
 怖いところのはずなのに、どうして体がウズウズしてくるんだろう、なんで尻尾を楽しげにフリフリしているのだろう。ディグダが作った約束はいわば、イーブイにとっては夢の世界に続く扉みたいなものでした。今、自分がいる世界とは違う世界、一目だけでも見れたらいいのにとイーブイはため息一つもらします。
 外の世界に行ってみたいなぁ、でも約束をやぶっちゃダメだし。
 そんな二つの気持ちがイーブイを夢の扉の前であっちこっちブラブラさせていました。
 
 ある日のことでした。
 いつものようにイーブイが夢から目を覚ますと、おいしそうな木の実がころころ転がっています。桃色で甘そうな木の実や、群青色で甘酸っぱそうな木の実など、見ているだけでよだれがぽたぽたと垂れてきそうです。おなかの虫を鳴らしながら、よく見てみると、その木の実の数がいつもより多いことにイーブイが気が付くと同時に、ディグダが現れました。
「おはよう坊や」
「……おはよう、ママ」
「昨日もぐっすり眠れたかしら?」
「……うん、おもいっきりね、かけっこするゆめをみたんだよ」 
「まぁ、それはとても楽しそうな夢ねぇ」
「……うん、とってもたのしかった」
「それは良かった良かった。ところで坊や、今日ママね、ちょっと用事があって帰りが遅くなってしまうんだけど……ちゃんとお留守番できるかしら?」
 ディグダの問いかけにイーブイはこくりと一つ、うなずきます。
 その返事にディグダはとりあえず一安心しました。普段から大人しい子であるし、これまで何度も外の世界が怖いことも教えてきましたし、これ以上は何も言わなくても大丈夫だとディグダは判断しますと、もう行かなければいけない時間のようで、最後に一言だけイーブイに残しました。
「今日はいっぱい木の実を置いておくから、いっぱい食べてちょうだいね。それじゃあ、行ってきます」
「……うん、ありがと。いってらっしゃい」
 用事に向けて前進していくディグダの背中をイーブイは左前足を上げて、ゆっくりと振りながら見送りました。ディグダの背中が小さくなっていくたびにイーブイはちょっと寂しい気持ちになります。このような形で一匹ぼっちになるのは珍しくありませんでしたが、やっぱりまだまだ育て親に甘えたい年頃ですから、留守番なら任してと口では言っていても、心の中では早く帰ってきてね、とイーブイは呟いていました。
 やがてディグダの背中が見えなくなりますと、イーブイのおなかからまた虫が早く木の実を食べさせろと鳴き始めます。とりあえず、まずは木の実を食べよう。おなかいっぱいになれば、寂しい心もぽかぽかに温まってくるはずだよと気持ちを切り替えたイーブイは早速、木の実を食べることにしました。桃色の甘そうな木の実を前足で持って、かじかじ、ぱくぱく、ごっくんと食べていきます。みずみずしい甘さがとてもすっきりとした感じでおいしいとイーブイは笑顔を浮かべます。あっという間に一個目の木の実が終わり、イーブイはすぐさま二個目に入ります。二個目も同じく桃色の木の実。いただきますとイーブイの口が開き、木の実をかじったときのことでした。
 がりっとなにか固いものをかみました。
 一体、なんだろうかとイーブイは口の中からそれを取り出して前足に乗せてみせました。それはちっちゃい一粒の種。その種を見ながらイーブイはそういえばと思い出します。
 昔、イーブイはディグダにある一つの質問をしました。

 木の実はどこからやってくるの?

 いつも食べている木の実は一体なんなのかと興味を持ったイーブイの疑問に、ディグダが教えてくれたのが種の話でした。
 木の実というのは、種というちっちゃい粒から産まれて大きくなったもののことを言うんだよ。ちょうど、坊やがタマゴから産まれてきて大きくなったのと同じなようなものさとイーブイはディグダから聞きました。
 その話を思い出したイーブイは大事そうにその種を首もとのもふもふした毛の中に入れました。ここで大事に育てたら、いっぱいの木の実がぽんぽん出てきたりするのかなと期待を膨らませながら、イーブイはうふふと笑います。早く出てこないかなと考えながら、イーブイは寝そべり始めました。けれど待てど待てど、中々出てきません。
 
 鼻歌を奏でながら自分の首元に向けるイーブイの視線。
 何も起こりません。
 じぃーっと自分の首元に向けるイーブイの視線。
 返事はありません。
 
 そんなに早くは出てこないものなのかなとイーブイは待つことを止めて、立ち上がりますと、その辺の土の壁を掘り始めます。
「……ママのまねっこってね」
 尻尾をふりふりしながら、イーブイは適当に掘っていきます。最初は軽い気分から始めたことでしたが、いつのまにかイーブイを熱中させていました。ディグダのようにはいきませんがそれでも少しずつ前進していきます。前足を使ってガリガリと、自分で道を作っていくその作業が楽しいなとイーブイが更に掘り進めていきます。
 そのときでした。
 イーブイが掘った先からちょろちょろと何か流れてきます。
 そのなにかをイーブイは前足に触れてみると、それは暖かいものでした。なんだろうとイーブイが軽くかしげながら、もうちょっとだけ掘ったら分かるかもしれないとワクワクしながら、もう一堀ざくっとな。

 壁が壊れて大量の暖かい水が溢れ出してきました。

 あわわと驚いてもときすでに遅し。
 イーブイの体はあっという間にその大量な暖かい水に飲み込まれてしまい、流されてしまいます。ごぼごぼごぼごぼと息を吐く中、イーブイは目を強くつむっているので、なにがなんだかもう分かりません。
 どうしてこうなっちゃったんだろう。
 それよりもこれからどうなっちゃったんだろう。
 頭の中をグルグルと思いっきり回しながらイーブイの意識が途切れてしまいしました。
  

【1.5】
 ここ ほれ ぶいぶい
 ここ ほれ ぶいぶい
 でて きたのは あったかい おみず
 じゃぶ じゃぶ のみこまれて 
 ぷか ぷか ういた
 ここ ほれ ぶいぶい
 ここ ほれ ぶいぶい 
 ほって でてきて こんにちは おんせん さん


【2】
 ここはどこなんだろう?
 そんな言葉がイーブイの頭の中に出てきて、ゆっくりと目を開けますと、イーブイの目に飛び込んできたのは青色と白色の天井でした。
「……まぶしっ」
 普段、地面の中では見ない輝きにイーブイは思わず目をつむりましたが、おそるおそるともう一度だけ目を開けると、確かに青色の中に白色がまざった天井でした。初めて見る色にイーブイは興味しんしんです。
「……うわぁ、すごいきれい……」
「そうだな、すごい綺麗だな」
「……え?」
「よっ! 目が覚めたみたいだな」
 イーブイが声のする方に目を向けると、そこにはオレンジ色のもふもふとした毛を持った赤いポケモンが一匹いました。額には王冠のマークが入った金色のハチマキが巻かれています。そのポケモンはイーブイに向けてあいさつ代わりに片方の前足を上げました。
「……おじちゃん、だれ?」
「おじちゃん!? ふぅ、おれさまもいよいよ渋さを取り入れたいい感じのブースターになってきたということか、そうか、それは喜ばしいことだな!」
 勝手に一人でしゅべり進めて、笑っているポケモン――ブースターにイーブイは不思議そうな視線を向けます。その視線に気がついたブースターは笑うのを一回止めました。
「まぁ、ともかく。おれさまはブースターっていうんだ。またの名をさすらいのキングスターと呼ばれているぜっ」
「……わたしはイーブイっていうの」
「ふふふ、見れば分かるぜ」
「え、わかるの?」
「世界をさすらっているおれさまに知らないものはない!(タブンネ)」
「……さいご、なにかいってなかった?」
「いや、なんにもないぜ?」
 とりあえず自己紹介を終えたブースター――キングスターがゴホンと一つ咳ばらいを入れますと、話し始めます。
「まぁ、とりあえずな。お譲ちゃん、あんたすごいことしたなぁ」
「……わたし、なにかしたの?」
「なにかって、覚えていないのかい? ここだよ、ここだよ」
 ここと言われてイーブイはようやく気がつきました。そういえば、なんだかポカポカすると思ったら、先程の暖かい水の中に自分がいるではありませんか。澄んだエメラルドグリーンの暖かい水がどこまでも広がっていて、もくもくと湯気が登っていっています。 
「……そういえば、ここはどこなんだろう?」
「え、どこって、温泉だよ、温泉! いやぁ、たまたまここの近くに通りかかったときにはビックリしたぜぇ? いきなり温泉が湧き立つわ、そこからお譲ちゃんがぽぽぽぽーんって出てくるわ。分かっているかい? お譲ちゃんは温泉を掘り当てたんだよ!? すごいことなんだよ!? まさにラッキースターガールなんだよ!!??」
 興奮しながら語ってくるキングスターでしたが、全くなにも知らないイーブイにとってはぽかーんと、なに一つ心に響いてきませんでした。むしろクエスチョンマークがイーブイの頭の上で大量生産されています。その様子に気がついたキングスターが納得いかないような顔を浮かべます。
「温泉を掘り当てるなんて、滅多にないことに喜びもしないポケモンも珍しいなぁ」
「……わたし、しらないから」
「へ?」
「……おんせんとかしらないし、よくわからないし、それにあのいちばんうえののきれいなものはなに?」
「え、あの一番上のって……空のことかい? え、え、お譲ちゃんは一体、何者なんだい?」
 キングスターに尋ねられたイーブイは自分のことを話し始めました。

 自分がずっと地面の中でディグダに育ててもらったこと。
 地面の中から出たことがないこと。
 外の世界を知らないこと。
 今回、掘り遊びをしていたら、こんなことになっていたこと。

 イーブイの話を聞くたびに、キングスターはふむふむなるほどと表面では納得したという顔を浮かべていましたが、心の中ではイーブイの暮らしやこれまでの経緯に驚いていました。まさか、そういうポケ生を過ごしているポケモンもいるのかと。
 やがてイーブイの話が終わると、キングスターはイーブイに置かれている状況を整理しました。
「つまり、だ。お譲ちゃんは偶然、温泉を掘り当てて、ここまで来ちゃったと。ママのところに帰りたいところだけど、外の世界を全く知らないので困っている迷子ちゃん、ということかな?」
 首を傾げるイーブイに、ブースターは困りながらもストレートでかつ分かりやすい言葉をなんとかのどからしぼり取りました。
「大丈夫! おれさまがお譲ちゃんをママのところに帰してあげるから、任して!」
「……ありがとう、きんぐすたーさん」
 ようやく笑顔を浮かべたイーブイに、キングスターもホッと一安心しました。


【2.5】
 あるひ おんせん の なか
 ぶーすたー に であった
 あれている とち の みち
 ぶーすたー と あるいた
 
 おじょうちゃん おしえましょう
 そと の せかい の こと
 いーぶい の しらなかった こと
 いっぱい おしえて あげましょう


【3】
 温泉から上がったイーブイとブースター――キングスターはイーブイのママであるディグダを探しに荒れている土地の中を進んでいました。
「それで、あの上にある青は空って言うんだ。それであの流れている白いものは雲って言うんだぜ」
「……へぇ、きんぐすたーさんってなんでもしってるんだね」
「なにせ、さすらいのキングスターだからよっ!」
「……どういうこと?」
「えぇっと、つまりだな、おれさまは外の世界をいろいろと歩き回っているんだよ。だからなんでも知っているんだよなぁ」
「……へぇ」
「でもなぁ、そんなおれさまにもまだ知らないことがある。それが世界っちゅうもんなんだぜ」
「……どういうこと?」
「世界は広いってことさ! それがおれさまをさすらいにさせた源になっているんだぜっ」
「……?」
「まぁ、お譲ちゃんにもいつか分かるさ」
 分からないと言うような顔を浮べるイーブイに、キングスターはにかっと笑いながら前足でイーブイの頭をぽんぽんとなでました。

 二匹が歩く道はどこまでも荒れている土地でした。
 なかなか歩きにくく、外の世界に慣れないイーブイが疲れて立ち止まることもしばしばありました。しかし、立ち止まる度に時間はどんどんと過ぎていってしまいます。ディグダに会えない寂しさも重なり、イーブイが泣きそうになりました。
「……わたしがママのいうとおりにるすばんしてたら、こんなことにはならなかったんだ……ごめんなさいママ……ママぁ……」
 ついに我慢しきれずにぽたぽたと涙をこぼすイーブイに、キングスターはひょいとその小さな体を自分の背中に乗せました。いきなりのことにイーブイの目が丸くなります。
「とりあえず、お譲ちゃんはここで休んでな。ここからはおれさまがなんとかするから」
「……え、え」
「気にするなって! 初めてのやつにはここのデコボコした道はやっぱりキツかったんだよ」 
 そう言いながら再び歩き出すキングスターの背中にイーブイは身をゆだねます。もふもふとしたキングスターの赤い毛がまるで揺りかごのようにイーブイを包んでいきます。体も心も不思議とぽかぽかになってきたイーブイに笑顔が戻ってきます。それを感じたのでしょうか、キングスターが再び語り始めました。
「おれさまは逆にお譲ちゃんにありがとうって言いたいぜ。温泉にも入れたし、こうやってお譲ちゃんにも会えたし、やっぱ世の中には色々なポケモンがいるんだなぁって勉強にもなったしな」
 確かにイーブイはとんでもないことをしてしまったかもしれません。でも、その代わりに外の世界のことを知ることができたし、面白いポケモンにも出会えることができました。ディグダのところに帰れたら、まずは謝って、それからキングスターと旅してきた今回のことを話して、それから――。
 これからのことを色々と膨らませながら、イーブイは夢の中に落ちていきました。その寝顔はとても楽しそうなもので、もしかしたら、夢の中で外の世界に対して色々と想像を膨らませて、冒険しているのかもしれません。
「ねちゃったかな。まぁ、いろいろ初めてづくしで疲れたんだよな」
 イーブイの寝息を聞きながらキングスターは呟きました。
 先程までは悲しんでいたイーブイの心をこんなにもポカポカと暖めたキングスターはまるで魔法使いのようです。そんなキングスターは歩を進めながら、ふいに疑問を感じました。
 どうして、イーブイは地面の中でずっと育てられてきたのだろうかと。
 今まで外の世界に出なかったのはどうしてなのだろうかと。
 そんな疑問を浮かべながらブースターは更に歩を進めていきました。

 再びイーブイが目を覚ました頃はちょうど夕暮れどきでした。
 どうしちゃったんだろうときょろきょろするイーブイにキングスターが気がつき、声をかけました。
「よう、お譲ちゃん。よく寝てたな」
「……なんかそらがへん」
「あぁ、これは夕暮れっていうんだよ。空は青以外にも、こんな風におれさまみたいな色になることもあれば、まっくらになることもあるんだぜ!」
「……へぇ」
「それとな、空がまっくらなときもすごいことがあってな――」
 話を続けようとしたキングスターでしたが、いったん、その口を止めて、前をじぃっと見つめます。いきなりのことでイーブイはどうしたんだろうとキングスターから降りて、隣に立ちます。不思議ともう疲れは残っておらず、元気です。
「きんぐすたーさん?」
「なにかこっちに来る。お譲ちゃん、おれさまから離れるなよ?」
「……う、うん」
 キングスターの緊張感が伝わってきたのでしょうか、イーブイもドキドキし始めます。
 二匹の前方からなにやら地面を掘るような音がしてきて、それがだんだんと大きくなっていきます。やがて、その音が二匹の前に止まったかと思いきや、地面の中から一匹のポケモンが現れました。茶色の顔に赤い鼻を持っています。
「ぼうやぁぁぁぁああ!!」 
 それはディグダ――イーブイのママでした。
 ディグダの声にイーブイも「ママぁぁぁああ!」と叫びながら、ディグダに近寄りました。
「まったく、探したのよ! 本当に本当に心配したんだからぁ!」
「ごめんなさい、ごめんなさい、ママ!」
 ようやく出会えたという気持ちが爆発したイーブイがわんわんと泣きながら、ディグダにすりよります。そのイーブイをよしよしとなだめながら、ディグダはキングスターの方を見ました。彼がイーブイをここまで連れてきてくれたというのを理解するのに時間はかかりませんでした。
「坊やを……ありがとうございます」
「いやいや、おれさまはやることやっただけさ。気にしないでくれ」
 口ではそう言いながらもキングスターは尻尾を揺らしています。
「わたくしはディグダです。えっと、あなたは……? あぁ、なんとお礼をすればいいのだか」
「おれさまはブースターさ。またの名をさすらいのキングスターと呼ばれているぜ……さてと、それでディグダ。ちょっと聞きたいことがあるんだけどさ、いいか? お礼はその答えでいいからさ」
「はい、なんでしょうか?」
 そこでキングスター尋ね始めました。
 
 どうしてイーブイは今まで地中暮らしを続けていたのか。
 外の世界に行かせなかったのはどうしてなのか。

 ディグダは少し困ったような顔を浮かべると、答え始めました。
「ここの土地……荒れているでしょう? ここまでくるのも一苦労だったと思います」
「まぁ……世界中を旅しているおれさまにとっては、平気だったけど。確かに並みのやつじゃ、たいへんだわな」
「それですね……なんといいますか。外の世界を初めて見るとなったら、この子にはこんな殺風景なところは見せられないと思いまして……外の世界は美しいところだと見せたくて、ここに花をいっぱいにするまでは、坊やに待って欲しかったんです」
「なるほど」
「まぁ、今となってはその夢も終わってしまったのですが……坊やにとって、今回のことがいい経験になれば幸いと、今は思います」
「……ママ」
 ディグダがしてきてくれたこと、それは自分を育ててきたことだけに限らずに、自分の為に素敵な場所を作ろうとしていたこと。
 そのディグダの想いがイーブイに伝わってきたのでしょう。また、イーブイがぽろぽろと涙をこぼし始めます。ディグダの想いがとても優しくて、それが嬉しくて。 
「……ごめ、んなさい、ママ、わたし、わたしっ」
 ディグダのやってきたことはもちろん嬉しかったのですが、今までなにしらなかった自分がとてもなさけなくってきて……そんなイーブイにキングスターは静かに前足をイーブイの頭の上に乗せました。
「……きんぐすたー、さん」
「お譲ちゃん。こういうときはありがとう、だぜ。ディグダはイーブイの為に頑張ったんだから、それに応えるのはありがとうじゃなきゃ、おれさまはだめだと思うぜ」
 ディグダがくれたものをもう一度、思い出しながら、イーブイがうなずくと、泣きながらもイーブイはディグダに伝えました。
「……ありがとう。ママ」
 
 ぽろぽろとイーブイが涙をこぼしたときでした。
 イーブイのもふもふとした首毛から花がぽんっと一輪。
 また一つ、もう一つ、ぽんぽんと現れては花が咲いていきました。

 その花にはもちろん、ありがとうが込められていて、外の世界を知ったイーブイの新しい始まりを示していました。