運命の流れ星 ( No.5 ) |
- 日時: 2012/01/15 23:46
- 名前: BoB
- テーマB 「門」「結晶」「教えて」
一人のポケモンが、この町の高台にやってきた。ちょうど、後ろにはきれいな夕日が出ている、絶景ポイントだ。しかし、彼の目的は景色ではなかった。 「とうとう来たぞ……」 彼の名はマグマラシ。この高台にあるギルドで、探検家を目指して修行するために、はるばる遠い町からやってきたのだった。 彼は大きく深呼吸をすると、大きな門を叩いて声を張り上げた。 「たーのもー!」 全く反応がない。今度はさらに大きな音を立てようと、体当たりすることにした。何度かぶつかり、その後、助走をつけて思いっきりぶつかろうと、少しずつ後ろに下がり、走り出した。しかし、走り出した瞬間に、門が開き、親方が出てきてしまったのだ。もちろん、急に止まることはできず、勢いよく親方にぶつかってしまった。 「いたたた…… あんた、なかなか才能あるみたいやな」 「は、はぁ……」 吹っ飛ばされておきながら、文句一つ言わず、むしろ何故かほめられてしまったことに、彼はもやもやした何かを感じた。 「ところで、なんでわざわざこんなとこまで来たんやな?」 「ギルドに入門するために……」 「ホンマか!? じゃ、さっそく中入って、まずは探検家登録せなな!」 そういうと、親方は早足で、ギルドの建物の中へ、入っていった。マグマラシも後に続こうとしたが、ここでふと違和感を覚えた。何だろうと振り返ってみると、門が開きっぱなしになっていたのだ。 「ここの親方、大丈夫なのかな……」 これからの修行に一抹の不安を覚えながら、そっと門を閉め、親方の後を追った。 親方の後に続いて到着した部屋は、広い円形で、木造の素朴な作りだった。部屋の右の棚に、なにかきらきらした物が大事そうに置かれている以外は、特に目を引く物は無かった。 「それにしても、よう来てくれたなぁ! あんたがこのギルドに入門した初めての弟子や!」 マグマラシはずっこけそうになった。始めに感じた予感が、こんなにも早い段階で当たってしまったからだ。 「あのー、さっきの門、ずいぶんと古そうに見えたんですが……」 「ああ、それは、もともとここに別の建物が建っとって、その時の門を使い回してるだけやから心配せんでいいで。……あんたまさか、何十年もギルドやっときながら誰も入門してへんのちゃうかとか思ってたんちゃうやろなぁ? まだ半年しか経っとらんわ」 結構経ってると思うのだが、と、マグマラシは思わずツッコミを入れたくなった。想像以上の不安を前に、さっさと出て行きたいとも思ったが、一度入門しに来たと言ってしまったことと、親方の嬉しそうな様子を見ていると、なんだか引くに引けなくなって、固まってしまっていた。 「じゃ、そろそろ登録しよか。あんた、一人やんな? そしたら、名前は{マグマラシ}で登録してええな? 別に違う名前にしてもええで?」 「いえ、そのままでいいです……」 「ほな、それで登録するで! ちょっと危ないから伏せとき!」 「へっ!?」 何が何だか分からないまま、マグマラシは言われた通りに地面に伏せた。次の瞬間、大きな音とともに、強い光が放たれた。 「ふぅ、登録完了! ほな、これからよろしくな!」 「ええ!」 こうして、マグマラシの修行の日々が始まった。ギルドに届く依頼を持ってダンジョンに行き、依頼を達成して戻ってくる。そして、夕方にはギルドに帰ってきて夕食。そして就寝。これが彼の日常となっていった。他の弟子がいないので、親方とマグマラシはどんどん仲良くなっていった。始めに感じていた不安が、まるで嘘だったかのように。 「今日の探検はどんな感じやった?」 「なかなかいい感じでしたよ。まぁ、最後の詰めが少し危なかったですけどね」 「まあまあ、これからがんばってったらええし、あんまり気にせんときや。……あと、お願いなんやけど、誰か弟子になってくれそうなポケモンがいたら、また教えてな?」 「あ、はい、考えときます……」 マグマラシは順調に修行を進め、力をつけていった。ちょうど同じタイミングで、彼は、探検のやりがいも見出し、探検への熱意をさらに強く燃やしていた。探検隊連盟主催のテストにも合格し、有名になることで、徐々に来る依頼も増えてきた。彼の探検隊生活も順調に見えていた。そんなある日、事件が起こった。 「あれ、あれ、あらへんがな、あらへんがな!」 「どうしたんですか!?」 「わいの宝物があらへんねん! ここにちゃんと置いてあったはずやねんけど……」 「宝物って何なのか、教えてくれませんか?」 「ああ、まだ言うてなかったなぁ。あれは、{星の結晶}って言うて、わいが探検家を始めるキッカケになった、大事な物やねん……」 そう言って、親方は、自分の過去を話し始めた。 ――わいはその日、いつものようにのんびり星空を眺め取ったんや。その日は流星群の日でなぁ、そりゃあたいそうきれいやったんや。そんで、ぼーっとしとったら、やけに低いとこまで落ちてきた星があってなぁ、目で追ってたら、そのまま地面に落ちてもうたんや! びっくりしたと同時に、落っこちた星を見てみたくなってな、たいした準備もせんと、勢いだけでその星の落ちたとこへ走り出したんや。そしたら、思ったより遠くて、しかも、洞窟を抜けなあかんかってん。すごい怖かったけど、星を見たかったから、強引に突入したんや。案の定、ポケモンたちに襲われるわ、罠には引っかかるわで、散々やったわ。でも、なんとか星が落ちた場所までたどりついたんや。月の光が反射して、この世の物とは思えへんぐらいきれいやったんや。それで、世界には、こんなきれいな光景がいっぱいあんのかなと思って、探検家になろうと決めたんや。―― 「その時に拾ったのが、無くなった{星の結晶}なんですね……」 窓から差し込む朝日に似つかわしく無いくらい、雰囲気は暗く沈み込んでいた。しばらく沈黙が続いた後、マグマラシは突然こう言った。 「俺が取り返して来ます」 「そんなんできるんか? どこ行ったかも分からへん状況やのに……」 今分かっていること、それは、星の結晶が突然無くなったこと。そして、他には何も変わっていないことだけだった。犯人像も、結晶の消えた先も、何も分かっていないのだ。おそらく、どんな名探偵でも、この謎は解けない。そう思って、親方はあきらめようとしていた矢先の言葉だったので、親方は自分の耳を疑った。 「どっかありそうな当てでもあるんか?」 「さっき話してた、星の結晶を見つけた場所に行けば、何か分かると思います! どこなのか、地図で詳しく教えてくれませんか!?」 「……しゃあないな。他に手がかりも無さそうやし」 マグマラシが差し出す地図に、親方は印をつけた。その地図を丸めると、マグマラシは大急ぎでギルドを飛び出して行った。 「大丈夫かいな……」 親方の不安とは裏腹に、空には雲一つ無い青空が広がっていた。 親方が言っていた場所へ行くためには、ギルドから草原を越え、そして洞窟を抜けなければならなかった。結構な長旅だ。それでもお構いなしに、マグマラシはひたすら前に進んでいった。 草原にたどり着いた。草原といえど、立派な不思議のダンジョンとなっている。ここて初めて、マグマラシは何の準備もしてきていない事に気が付いた。しかし、今更戻れないと、そのまま進んでいった。草原は主に草タイプのポケモンが多い。炎タイプのマグマラシにとっては戦いやすい相手のはずだった。しかし、ここで災難が起きた。モンスターハウスに足を踏み入れてしまったのだ。 「ちくしょう! 何だってんだよ!」 相性的には戦いやすくても、数で来られると対処しにくい。そのことは、マグマラシも数々の探検の中で、感覚的に分かっていた。だが、いざとなると、どうしていいか分からなくなってしまうのだ。袋だたきに遭いながらも、どうにか階段まで逃げてきたが、もうマグマラシはへとへとだった。やっとの思いで草原を抜けたマグマラシの前に、小さな村が現れた。 「(意外と、ここまでが長かったな……)」 そう思いながら、町に入り、この先に待つ洞窟へ向けての準備をすることにした。 「おぅ、いらっしゃい!」 「リンゴ2つと、モモンの実1つ頼む」 「あいよ、そういえば、おまえさん探検家みたいだが、これからどこに行くんだい?」 「ここから北に行ったとこの洞窟だよ」 「ああ、あそこは謎が多いからなぁ。一回隕石が落ちてきたんだが、その頃からかなぁ。あの洞窟の先には何かあるって騒がれてるんだ」 「へぇ……」 何となく、行くことを引き留めているかのように、マグマラシには聞こえた。それはまるで、そこが危険であると言うかのようだった。 「お待たせ。代金は110ポケだ」 「ありがと」 店員の話が気になりながらも、マグマラシは町を後にした。何かあるのは確かなようだが、もうちょっと詳しく教えて欲しかったなと、彼はもやもやしたまま、洞窟へと向かって歩き出した。 洞窟に入る頃には、夕日が辺りを照らす時間になっていた。出発から思った以上に時間がかかってしまったことに焦りつつも、深呼吸して落ち着いて、洞窟の中へ入っていった。 洞窟の中は、凶暴なポケモンの巣窟となっていた。しかし、マグマラシは、それをさらりとかわしつつ、軽快に奥へと進んでいった。洞窟という場所だけあって、マグマラシにとっては苦手ないわタイプやじめんタイプとも多く遭遇したが、それもさほど問題にせず突き進んでいった。その時、彼はなにやら怪しい影が後をつけてきているように感じたが、気のせいだろうと、無視して進んだ。 洞窟の奥の方に来ると、突然広い空間が現れた。時々水が落ちる音が聞こえる。何の気無しに通り過ぎようとしたとき、今まで後をつけてきた影が、突然前に飛び出してきた。 「おまえ、誰だ!」 「俺はグラエナ、この奥にある宝目当てでやってきた、トレジャーハンターさ」 「道を塞いで何のつもりだ?」 「……お宝は渡さないぜ」 「やっぱりそうか……!」 二人はこれ以上、言葉を交わさずに、すかさず臨戦態勢に入った。 先に動き出したのはグラエナの方だった。素早い動きで、マグマラシに迫る。マグマラシは難なくかわして、【かえんほうしゃ】で迎え撃つ。それはうまくグラエナに命中した。 「ふん、どうやらその辺の腰抜けとは違うようだな」 いきなり一撃を食らったグラエナは、またしてもマグマラシに向かっていく。 「一回やられてんのに、また同じ手でくるつもりか? 返り討ちにしてやるぜ!」 しかし、グラエナは避けてどんどんマグマラシとの距離を詰めてきた。さすがに少し焦ったマグマラシは、後ろに下がりつつ攻撃を続行した。しかし、グラエナは攻撃をことごとくかわして、間合いを狭めてくる。とうとう壁際まで追い詰められてしまったマグマラシは、グラエナの攻撃を間一髪でかわし続けるものの、反撃のチャンスがつかめず、完全に防戦一方になってしまっていた。 「ちくしょう、反撃のチャンスが掴めない……」 「この勝負、もらったな」 一方、グラエナの方は、完全にペースをつかみ、マグマラシを追い詰めていた。グラエナの攻撃が、だんだんとマグマラシに当たるようになっていた。グラエナの持ち味である、スピードでたたみかける接近戦は、確実にマグマラシにダメージを与えていった。 「降参すれば、見逃してやってもいいぜ」 「誰がそんなこと……」 マグマラシは【ふんえん】でグラエナをはじき飛ばし、体制を整えた。お互い、相手の出方をうかがって、じっとしている。このままでは、らちがあかないと思ったマグマラシは、小さな炎で牽制を始めた。相手は少しずつ間合いを詰めてくる。相手の攻撃が当たるか当たらないか、ぎりぎりの距離で、マグマラシは渾身の力を込めて【かえんほうしゃ】を放った。グラエナは、避けきれずに直撃し、大きく吹き飛ばされた。 「形勢逆転だ。さあ、道を開けてもらおうか」 「……覚えてろよ!」 グラエナは、あっさりと引き下がり、逃げて行ってしまった。 「なんだ。えらそうにしときながら、度胸はたいしたことないじゃねぇか」 マグマラシは、少しのいらだちを覚えながら、地面を強く蹴って歩いて行った。 グラエナと戦った場所を抜けると、洞窟の中であるにも関わらず、空が見える場所に出てきた。空はすっかり暗くなり、たくさんの星が瞬いていた。 その場所の真ん中に、星の結晶がたくさん積まれていた。一番上には、親方の部屋にあった物と同じ形の結晶があった。マグマラシは、すぐに駆け寄り、結晶を拾い上げようとした。その時、突然、結晶が輝きだした。突然のまぶしい光に、マグマラシは思わず目を閉じてしまった。そして、光が収まり、目を開けると、見知らぬポケモンが浮かんでいた。 「……ふぁあ、まだちょっと眠いや」 「……あんたは、誰だ?」 「ん? 僕はジラーチだよ。君は?」 「お、俺はマグマラシ、親方が持ってた星の結晶が無くなったから、ここに来たら、何か分かるかなと思ったんだ」 マグマラシは、突然現れたジラーチに対して、驚きを隠せずにいた。無意識のうちに、少しずつ後ろに下がっていた。 「これを探しに来たの?」 「あ、いや、そうなんだけど、何か、大事な物だって言うんだったら、別にいらねえよ……」 「別に持って行ってもいいよ。もともと、僕が勝手に持って行ったのが悪いんだから」 「……持って行った?」 「うん。実は、ある目的の為に、星の結晶を集めてたんだ」 「ある目的……?」 「そう。空を見てみて。もうすぐ始まるよ」 言われたままに空を見上げると、大きな彗星が見えた。しばらく眺めていると、突然、光が強くなった。それと同時に、星の結晶も光り出した。そして、その二つをつなぐように、太い光線が放たれた。 「これは一体……」 「エネルギーのやり取りをしてるのさ。この大地に豊かにするために必要なエネルギーを、彗星からもらってるんだ」 「へぇ……」 しばらくすると、光はおさまり、元の星の結晶に戻った。 「なぁ、こんな大事な物、本当に持って行ってもいいのか……?」 「いいよ。それは君にとっても大事な物なんでしょ?」 「ああ……」 「でも、少しだけ、約束してもらってもいいかなぁ?」 「ん、何だ?」 「このことは、誰にも話さないで欲しいんだ。何かに悪用されると困るから」 「ああ、もちろんだよ」 「それと、僕のことを、ずっと覚えていて欲しい。僕は、1000年に一度しか目覚められないから……」 そう言ったジラーチの目には、うっすら涙が浮かんでいた。マグマラシは、あえてほほえみかけながら、声をかけた。 「1000年に一度、か。さみしかった、なんて言葉じゃ片付かないよな…… うん、お前の事、絶対忘れない。口にすると、軽々しく聞こえるのが歯がゆいけどな」 「ありがとう。僕も忘れないから……」 そういうと、ジラーチは光に包まれて、地面に溶け込んでいった。それを最後まで見届けると、マグマラシは、星の結晶を持って、洞窟を去って行った。 ギルドに戻ると、門の前で親方が待ち構えていた。マグマラシは、持って帰ってきた星の結晶を、親方に手渡した。 「おお、ホンマに取り返してくれたんか!? 正直期待してへんかったけど、すごいなぁ」 「期待してないはないでしょう……」 「いや、状況的にな! 別にあんたに期待してへんかったわけちゃうで!」 「分かってますよ」 マグマラシは、親方と話す間、終始にこにこしていた。 「ん、えらい楽しそうやけど、何かええことでもあったんか?」 「何でもないですよー」 「何やなそれ! 隠さんと教えてーな!」 ギルドの前に、大きな笑い声が響いた。星の結晶の中で、ジラーチも一緒に笑っているような気がした。
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