「こんにちは、電柱です。よろしくお願いします」 ( No.13 ) |
- 日時: 2011/08/31 23:55
- 名前: 巳佑
- 【テーマA:ノンストップ】
どうも、電柱です。 デンチュラさんという黄色い電気ビリビリな蜘蛛ポケモンではないですよ〜。 家から出なくとも、窓から覗くことができる、ごく普通の灰色の電柱です。 ここ花田町の三丁目、会社などのビルが集まっている中心街から離れている、人通りが比較的少ない一本道にポツリと立っています。 ここから見える風景はいいですよ〜。 空にはポッポやマメパトが飛んでいますし、地上には軒並みに家がこの一本道に沿って林立していて、赤い屋根や青い屋根と色とりどりなところが素敵だと思います、はい。 あぁ、それとこの一本道を通っていく人やポケモンなどを観察するのも楽しいですね。 え? 電柱のくせに何か人間くさい? まぁ……長い間ここに立っていましたからねぇ……色々な情報が入ってきたりするんですよ。物知りな電柱さんとでも思ってくれたら幸いです。 ポッポさんやマメパトさん達が日の出を告げる声を上げている中、誰かがやってきました。 身長は百七十後半でしょうか、黒いパーカーの服を着ていて、頭のフードを目深に被っている為に輪郭を覗くことができません。 ……ん? 何か、手に持っていますね。ダンボール箱でしょうか……あれ? 張り紙みたいなものもありますね、どれどれ……。 『この子を拾って下さい』 ダンボールの中には真実を知らない一匹のイーブイさんが丸くなって眠っていますね……。 このお方に何か事情がおありなんでしょうか、というか事情がなければ捨てるなんてことはしないですよね。 その人間の方は一本の電柱の前に――私の前に立つとしゃがみこんで例のダンボール箱を置きました。 「ごめんよ……本当に……」 そんなしゃがれた声の後(声音から恐らく男性の方でしょう)その人間は走り去ってしまいました。 振り返らずにただ一心腐乱に走っていき、やがてその背中は小さく、そして見なくなりました。 ……地面には小さい黒い丸い跡、よっぽどの事情がやはりあの人にはあったのでしょう。 しかし……困ったものですね、私は見ての通り電柱ですから何も出来ません。 せめて、このイーブイさんが夢で遊び続けている間にどなた様かが拾ってくれると助かるのですが……。
先程まで、天気が良かったはずだったのですが、いつの間にか雨雲さんが全力疾走してきたのでしょうか、あっという間に空は灰色の世界になりました。 すると、ポツリポツリと地面が濡れていき――雨が降ってきました。 ざぁざぁ降りです。 これは通り雨でしょうか。 あ、それよりもあのイーブイさんは一体どうしているのでしょうか。 「きゅう……きゅ……きゅう、きゅう……」 このイーブイさん、いずれ大物になるかもしれません。 まさかこの大雨に体を打たれても起きないとは……。 しかし、問題がここで発生してしまいます。ダンボールの中には雨水が大量に入ってきて、このままだとイーブイが知らない間に溺れ死んでしまう可能性があります。 どどどどどど、どうしましょう!? 電柱の私にできることなんて……って言っている場合ではありませんって、私! 「…………」 軽く混乱状態になりそうだった私の前にいつの間にか一人の少年がいました。 身長は百六十前半で黒いボサボサ髪、顔つきはいたって……こう言っては失礼かもしれませんが、やる気がないというかなんというか……。 服は真っ黒の学ランを着ています。 あぁ! 混乱状態で忘れていたものを思い出しました。 ここから少々歩く場所にある中学校に通っている、確かユウキ君と呼ばれている少年です! この少年ならなんとかしてくれるだろうと信じていると……ユウキ君はダンボールを取って、まずイーブイさんを取り出しダンボールに溜まっていた水を全部流し、そして再びイーブイさんを元に戻しますと――。 「……とりあえず……これで」 ダンボールに水が入らないように、ビニール傘を私に立てかけますとユウキ君はそのまま雨に打たれながら走って行きました。 あらら……連れて行くことはできないようですね、せめてイーブイさんを濡らさないようにしてはくれましたが、ユウキ君の方は大丈夫なのでしょうか? 風邪を引かれないといいのですが。 そして、イーブイさんの様子といえば――。 「きゅう……きゅ、きゅ♪ きゅうきゅう……♪ きゅう……」 夢の中で楽しく遊んでいるようで、その寝顔の中にある口元がニヤっと上がっています。 やはり、このイーブイさん、きっと大物になると思われるのは私の気のせいではなさそうなんですが。
さて、激しい通り雨はいつの間にか降り止みまして、空には太陽が眩しい顔を覗かせています。 すると、今まで寝息を立て続けていたイーブイさんが目を覚まし、眠そうに前脚で目をこすった後、辺りを見渡し始めました。 恐らく、イーブイさんにとっては何も知らない土地、初めての場所、きっといつもいたところではないという不安感がイーブイさんの中に広がっているようで、その顔色が徐々に雲っていきます。 「きゅ〜い…………きゅ〜……きゅ〜きゅ〜」 左を向いて一鳴き、右を向いて一鳴き……主の名前を呼んでいるのでしょうか? 「きゅ……きゅ、きゅ、きゅ〜い〜!!」 あらら、遂にイーブイさんが声を上げて泣いてしまいました。 ど、どうしましょうか? 私はただの動けない、声をあげることもできない電柱ですし――。 「おやおや……これはこれは、めんこいイーブイじゃのう」 そう言いながら、しゃがみこんで、イーブイさんに穏やかな微笑みを向けていますのは……パーマがかかった白髪に、顔はたくさんのシワを刻み込んだ女性――確か、梅田さんというおばあさんです。 「ほほほ、そんなに泣かんでええ、泣かんでええ。よしよし」 「きゅ……きゅ……? きゅ〜、きゅ〜」 「ほほほ、よい子じゃな♪ よしよし」 「きゅい。きゅ……きゅいきゅい♪」 梅田さんが抱き上げられて頭を撫でられたり、首を指でかいてもらったイーブイさんはあら不思議、泣き顔から一変、気持ち良さそうな顔になり、なんと梅田さんの胸に頭をすり寄せているではないですか! 「お主、行くところがないのならワシのところに来るかえ?」 「きゅい、きゅ……きゅい、きゅ〜い♪」 イーブイさんは梅田さんに笑顔で一鳴きして応えます…………あ、れ? なんかあっという間に問題が解決しているのですが。 こういうのはなんか警戒して反抗してくるイーブイさんから梅田さんが(大げさかもしれませんが)傷つきながらも信用を得て……よろしいのでしょうか、この展開……まぁ、結果オーライですし、それに越したことはないのですけど。 「それにしても……この電柱には何か運命的なものを感じるのう……ありがたや、ありがたや」 「きゅ〜い」 ちょ!? なんかいきなり、梅田さんがイーブイさんを一旦、地面に置いたかと思えば、唐突に手を合わせて崇めるような行為を私にしてくるのですが!? イーブイさんも梅田さんの真似するよろしく頭を下げていますしっ。 「これは、感謝の気持ちですじゃ、ほれい」 そう言って、梅田さんがダンボール箱の中に投げ入れたのは……これは……赤い毛糸玉、ですかね……? 「それじゃあ、行くかのう、イーブイ」 「きゅい♪」 運命的なものって、そんなこと……って、ちょ!? ちょっと待って下さいよ! 赤い毛糸玉をここに置かれても困りますよ〜! ポイ捨てで訴えますよ〜! ……そんな私の主張など、もちろんどこ吹く風。梅田さんとイーブイさんは楽しそうな背中を見せながら去っていきました。
さて、真上の太陽が傾き出して来た昼下がり、私こと電柱の手前にはダンボール箱と、その中に入っている赤い毛糸玉……なんとまぁ、シュールな光景なんでしょうか。 この赤い毛糸玉をどなた様か回収してはくれないでしょうかと、考えていますと……おや、噂をすればなんとやら、誰かが来ましたね。 えっと、確か……体格がよく背の高い青年がシゲさんで、小柄で肌を褐色に染めている女性がユイさんでしたね。 「おい、オスラン! メスラン! いい加減にケンカを止めないか!」 「メスラン〜ちょっと落ち着いてよ〜。そりゃあ、大事にしていた木の実を食べられたのはショックだけどさ〜」 なにやらお困りの様子ですね……どうやら、彼らのパートナーである紫色の体をしたニドランオスと水色の体をしたニドランメスが仲違いを起こしてしまっているようです。 オスランと呼ばれたニドランオスは相手に『にらみつける』を常に送っており、対するメスランと呼ばれたニドランメスは「くー! くー!」と攻撃性をたっぷりと含んだ鳴き声を上げています。 「……………」 「くぅー! くー! くー! くー! くぅ、くぅー!!」 片や無言の睨み、もう片や激しい抗議。険悪なムードが消える気配など、どこにもありませんでした。 「全くさぁ……シゲの育て方が悪いんじゃね? さっさと謝ればスグに終わる問題じゃん」 「お、俺のせいにするのかよ!? だ、大体、ユイの方はどうなんだよ!? お前の方こそいつまでも食べ物のことでネチネチと……ペットは飼い主によく似るっていうことはまさにこのことだよな!」 「な、なんですって!?」 「大体お前は昔から――」 オ、オスランさんとメスランさんの険悪なムードは飼い主であるシゲさんとユイさんにまで及んでしまったようです。 昼下がりの一時、電柱の前では一組の人間のカップルとポケモンのカップルが火花をバチバチ燃やしあい、ケンカが繰り広げられています。 そして、遂に怒りの臨界点が突破したのでしょうか、ユイさんが例のダンボール箱から、あの赤い毛糸玉を取り出すと「ふざけんなよ! こんにゃろお!!」と乱暴に言葉を吐きながら、シゲさんに投げつけました。 ボスっと殴られたかのような音と同時に「イテッ!」とシゲさんの悲鳴が上がり、そしてシゲさんのお腹に当たった赤い毛糸玉は二人の足元で同じくケンカしていたオスランさんの頭に、可愛い跳ねる音に続いてメスランさんの頭にもぶつかりました。 そして、地面に落ちた赤い毛糸玉はコロコロと軽やかに転がっていき……ようやく止まった頃には…………あの、その、皆さん黙ってしまったのですが。 ………………もしかして、聞いたことがあるのですが、あの赤い毛糸玉はただの糸ではなくて、もしや。 私がそう考えている間にもシゲさんとユイさん、オスランさんとメスランさんがお互い見つめあい続けていて、そして徐々に、各々の顔が赤く染まっていて……私の仮説が当たっていれば、その赤色は怒りの意味ではなく――。 「ユイ……悪かったな……その言い過ぎたよ」 「シゲ、いいのよ、別に。ワタシも悪かったわ……」 「……クゥ、クゥクゥ……クゥ」 「くぅ〜。くぅ……くぅくぅくぅ……くぅ」 ……(一応)説明しておきましょうか。 あの赤い毛糸玉の正体は『あかいいと』と言いまして、相手をメロメロに魅了することができるアイテムだと聞いたことがあります。 「ユイ、愛しているよ」「シゲ……チョー大好きっ」 「クゥ……クゥクゥクゥ」「くぅー!」 シゲさんとユイさんが抱き合い、オスランさんとメスランさんがお互いの体をすり寄せ合いました。 ……昼間から見せつけてくれますね、このカップル達。 しかし、まぁ、なんでしょうか一言だけよろしいでしょうか? ベタな展開すぎません? これ。 ……まぁ、何ごともなくケンカが終わり、結果オーライなのですが、こう目の前で見せつけられると、なんと言いますか、恥ずかしいというかなんというか……なんとなくなんですけど、こうモヤモヤした気持ちが膨らむと言いますか。 「それにしても……この電柱、縁結びかなんかあるんじゃないの」 「確かに、そうかもな」 イチャイチャタイムが幾分続いた後、赤い毛糸玉――『あかいいと』を拾いながら、シゲさんとユイさんが口を開きました……って、ちょ!? 「このダンボール箱に、いやお賽銭箱にお金でも入れようっと」 「いくら入れる?」 「そうねぇ……」 そう言いながら、ユイさんが可愛らしいチュリネ柄のサイフをポケットから取り出し、そしてダンボール箱に投げ入れましたのは――。 「ご縁がありますように!」 お約束すぎます! それよりも私に向かって二礼二拍一礼されても困りますよ? 何も出て来ないですよ? ……と主張したいのに、できないこのもどかしさ、どうしてくれましょう。 やがて、去っていく二人と二匹の背中は幸せそうでしたが、私のどうしようもない、もどかしさは去ってくれる気配はなさそうでした。
昼下がりの時間も過ぎていき、やがて夕方になっていきますと、学校帰りの学生さんや、もう一花井戸端会議を咲かせようと婦人達が集まったりと、この一本道が再び賑やかさを増す時間帯でございます。 ここから見える夕焼け空はまさに特権ですよ。広がる橙色の空に雲間から覗く夕日はまるで神秘的な光で惚れ惚れします。時間が更に経過していくと、夜へと近づいていくことを示す群青じみた色が空にかかり始め、見事なグラデーションを描いています。ここもまた惚れ惚れします。その幻想的とも言える空の中を飛んでいくヤミカラスなどの鳥ポケモン達……絵になりますねぇ。 …………。 ……。 まぁ、せめて今だけはダンボール箱の中に鎮座している五円玉のことについては忘れましょう、そうしましょう……なんか泣きたい気分にかられるのは気のせいでしょうか。
休息の時間といいますか、心休まる時間ともいいますか、とにかく平和な時間はあっという間に過ぎ去ってしまったと思ったのは夕日が落ち、この一本道に人がまた通らなくなる夜の時間帯のことでした。 私の前に、白いフードを目深に被って表情を覗くことができない……あ、胸の方が膨らんでいるようなので女性ということは分かりましたが、それ以外は素性が全く分からない人で……どう見ても、また一波乱起きそうな予感しか伝わってこないのですが。 「おぉ!! これは五円玉! キラリ輝く五円玉! 金色の穴あきフォルムに稲穂を刻み込んだ見事な五円玉!!」 やっぱり! と叫びたい一心でございます。 その目深に被った白いフードのお姉さん……長いので白いお姉さんとしておきましょうか。その白いお姉さん拝むように頭を何度も上げたり下げたりしています。だ、だから! 私はただの電柱で神様的なご利益は何もないと何度思えば――。 「今日のラッキーアイテム、電柱にダンボールに五円玉!! まさしく、これだ! これに違いない! これの他にないのだ!」 なんか話がうますぎやしませんか!? この展開!? というより、白いお姉さんのテンションがやかましい程に高いことは分かるのですが、話の核が全く見えてこないのは困りものです。 しかし物言えぬ電柱という存在の私、そのような注文はできっこありません。さて困ったなと私が思っていると、白いお姉さんがポケットの中から一個の赤と白に染まったボール――モンスターボールを取り出しました。 「ふふふ、選ばれた勇者にしか開けないモンスターボール! 今、ここに! 来たれ勇者よ! そなたが世界を救うのだぁああ!」 はい!? なんかいきなりスケールが広大な言葉が白いお姉さんから出てきたのですが!? 一体、何ごとなんですか!? 勇者って、世界を救うって、一体どこの世界の話をなされているのですか!? 「これで、我の使命は果たした。後は未来の勇者に託した……………………済まぬが五円玉はもらっていくぞ、これで定食代足りる……………………」 なんか、最後の方に気になる呟きがあったような気がしますが、気のせいですか? とりあえず、ダンボール箱の中に件のモンスターボールを入れて、代わりに五円玉を取り出し、自分の懐に入れた白いお姉さんは去っていきました。その背中は嬉々としたもので、本当の目的はどちらなのでしょうかと小一時間程、問いたい気分です。 それにしても……このモンスターボール、どうしましょうか? 仮に、仮にですよ? もしあの白いお姉さんの言う通り、世界を救う――つまり世界崩壊の危機みたいなことになったら、このモンスターボールが唯一の救世主ということになるんですよね……そんな物騒な話の始まりをここに置かれても正直、困ります。例えば、ここに勇者が現れて、救世主のポケモンと出逢うとして……その場で一波乱がありそうな感じがするじゃないですか!! お、お願いですからその騒動で私を折らないでくださいね。よろしくお願いしますよ、本当に!!
夜も更にふけていき、所々の電灯が闇夜を少しばかり照らすこの一本道もなんだか寂しげな風景に変わる頃……茶色の髪をツインテールに縛り腰まで垂らしている身の丈が百四十台程の一人の少女が現れました。 もうこの時点で嫌な予感しかしないのですが、どうしてくれましょう。いや、どうすることもできないのが現状です。一人の少女は徐々に私の方に近づいてきます。あぁ、何も起きませんように、起きませんように! そう願い続ける私、そして近づいてくる少女。 少女が私の前まで来て、そのまま通り過ぎようと――。 「おや、お嬢さんが一体、こんなところで何をやっておいでかな?」 「ん?」 私の前には一人の少女と、茶色と白い毛並みを持ったポケモンの一匹のイーブイさんがいました。 あれ? 今、イーブイさんから人間の言葉が出ていませんでしたか? なんか、貴族っぽい感じの声音がイーブイさんの方から響いた気がするのですが……? 少女の目が丸くなっていく様子にイーブイさんの方がニヤリと口元を上げて――。 「ほわぁああ! 可愛い! 可愛いイーブイでありんすーー♪」 「ななな!? 何をする!? コラやめろぉぉお!!」 「もふもふな毛並みなのじゃ〜! もっふもふにしてやんよでありんす〜♪」 「や、やめろ! コラ! 変なところを触るでは……アハ、ハハハハハッ!」 「うきゅう〜♪ ポケセンはどこかと迷っておったでありんすが、まさかこんなところで生イーブイに逢えるとは! わっち感激でありんす〜!」 なんだか可愛い声音だけど老獪なしゃべり方をする少女にいきなり抱き上げられたイーブイさんは、思いっきり撫でられていきます。しかし、イーブイさんの方もやられっぱなしというわけではなかったようで、力強く自分の身を少女から離しました。 「く、おのれ……我輩にここまでの仕打ちをやるとは……貴様」 「おおう!? イーブイがしゃべっているでありんす〜♪ しかもなんかキザっぽい感じでありんすな〜。うみゅう、是非ともゲットしたいでありんす〜」 ……ポケモンがしゃべっていることには驚いたものの、他にはこれといって全く動揺を見せることなく、むしろ興奮しまくりの少女はポケットからモンスターボールを一個取り出しました。捕まえる気満々のようです……って、ポケモンがしゃべるという話は風の噂で聞いたことはありますが……まさか目の前で見ることになるとは……初めて見た私も興奮してって、そうじゃなくて! た、頼みますからドンパチやらないでくださいよ、お二方! 「我輩を捕まえるだと……? アハハ! 阿呆め、我輩は幼女に興味はない! そうそうに立ち去るがよい!」 「なら、捕まえたら、わっち色に染めてやるでありんす〜」 「ぐ……退く気はないのか。我輩が世界を滅ぼす魔王だということを聞いても、まだ捕まえる気が保てるかな?」 「野望に燃えとるイーブイさんでありんすな〜。まぁ、そういう野心家、わっち、嫌いではないでありんす……ということで捕まってくりゃれ?」 「やはりこの姿のせいか……おのれ……あのニンゲンめ、我輩をこんなところに閉じ込めおって、おかげで威厳が出てないではないか!!」 なおも全く動じない少女に遂に堪忍の袋が切れたのか、イーブイさんがそう愚痴を放ちますと、なんかイーブイさんの体から黒いオーラみたいなものが出てきます。なんでしょう、あのオーラ……まさか、魔王なんて言ってましたけど、嘘だって思っていましたけど、まさか本物ってことはないですよね? まさか――。 直後、少女の後ろ百メートル先で爆発めいた音が鳴り響き、煙が立ちました。 「どうだ。この我輩の悪の波動は。怖いか? 恐ろしいか?」 口元をニヤリと上げてその言葉を放った後、イーブイさん、いや魔王イーブイさんが高笑いをあげました。ああああ! 嫌な予感が的中してしまったのは的中しちゃったのですが、まさかの内容違いに驚きでいっぱいです。少女の方は後ろを向き、その爆発現場の方を見やると――。 「ほへ〜。中々やるでありんすなぁ。流石は自称魔王でありんす」 「本物の魔王だ!!」 この少女、きっと大物になるような気がします。 「ほほほ。なんか騒がしいと思って来てみれば、イーブイ、ここにおったか」 のほほんとそんなことを言いながら少女の隣に現れたのは、午前中にあの捨て子のイーブイさんを拾った梅田さんです……って今、なんか大事なことを言いましたよね!? あのイーブイさん、梅田さんが拾ったあのイーブイさんなんですか!? 「おいおい、なんだアレはユイ!?」「ワタシに言われても困るわよぉ、シゲ」 「くぅ!? くぅ、くぅくぅー」「……クゥ、クゥ」 その後に慌てながらこちらに寄ってきたのは、シゲさんにユイさん、オスランさんにメスランさん。 「……なんか、すげえことになってる」 続いて眠そうな顔をしながら髪をかいて現れたのはユウキ君です。 な、なんでしょう。今日この電柱前で色々あった方々が集まったのですが……あははは、まさか本当に梅田さんが言うような運命的な電柱……って、そんな馬鹿な。 「く、貴様らは一体なんなんだ!?」 「なんなんだ……って言われても、なんつーか、こんな夜中に近所でドンパチやられたら迷惑ってこっちが言いたい気分なんだけど」 うん、ユウキ君。君が一番、正論だよ。 「クソ……! あの男が下手な召喚術をしたせいで、こんな弱いヤツの体に! おまけに暫くは表に出て来られんかったし! 仮にも魔王であるこの我輩にこのような恥辱を……許せん!」 あ、という言葉がそのまま出てきそうな感じで私はハッとしました。なるほど、今朝ここにイーブイさんを置いていった男の人は何かオカルト系なものに手を出し、魔王を出そうとして、それがイーブイさんの体の中に入ってしまった……そして、手につけられないと感じた男は泣く泣くイーブイさんを捨てることにした、といったところでしょうか? と言いたくても言えないのがもどかしいところですよね、本当に。 「こうなったら、手始めに貴様達を落としてやる! 覚悟しろ!!」 そう言うや否や、魔王イーブイさんが身震いを始めたかと思うと、いきなり――。 「あぁ……魔王様、マジかっこいいんですけどぉ」 「やべ、魔王様、無礼をお許し下さい!」 「ほほほ、魔王様、さまさまじゃな」 「わっち、一生ついていくでありんす!」 「くぅ! くぅー!」 「……クゥ」 ウィンク一つ、って、メロメロ攻撃ですか!? なんか、先程の悪の波動なるものを放つかと思ったのですが……まさかの予想外な技に私、唖然としています。まぁ、確かに今の容姿で考えるならその技はてき面だと思いますが……仮にも魔王としての威厳はどうなのかと小一時間程、問いたいのですが。 それにしても、このメロメロ、同姓であるシゲさんやオスランさんにも効いているのですが、成程……魔王所以のカリスマ性というものは高いようです。 「ハハハ!! 我輩に跪き、平伏し、崇めるがいい!!」 「は、は〜」 一見、イーブイさんに皆さん頭を下げているこの場面はシュールと言いますか、何と言いますか……。 「……メロメロっつっても、効果は一生じゃねぇし……なんかよく分からないけどさ……アンタ、アホだろ」 「なっ!?」 この場にいる殆どの皆さんが魔王イーブイさんに魅了されている中、ケンカを売る人が約一名――ユウキ君が面倒くさいと言いたげな顔で魔王イーブイさんを見やります。どうやら魔王イーブイさんのメロメロはユウキ君には効果がなかったようです。 「栄枯盛衰、諸行無常……そんな夢気分もいつかは泡のように消えるっつうの…………」 何か悟ったような言葉を放ちながらユウキ君がポケットからモンスターボールを出すと、膨らんだ筋肉を蓄えた四つの腕を持つポケモン――カイリキーをこの場に出しました。 「カイリキー、メロメロになっている奴に『めざましビンタ』あのニドラン二匹と、老人には多少加減しとけ…………他はどうでもいいや」 「リキッ!!」 この後、断末魔のような鳴き声が真夜中の空を裂くように響き渡りました……ユ、ユウキ君、容赦なさすぎです。梅田さんやオスランさんメスランさんはともかく、他の皆さんのほっぺたには見事な紅葉が刻み込まれています。あぁ……これは見ているだけで痛そう。皆さん、どうやら目が覚めたようで自分は一体何をやっていたのだろうかと目を丸くさせています。でも……確か『めざましビンタ』って眠っている相手を起こす技でしたよね? メロメロで魅了された者の目を覚ますという目的で使うというのは聞いたことがないのですが。 「く、おのれ! あくまで我輩に逆らおうというのか! この愚民め!!」 「……んなこと言われても、成り行き上しょうがないじゃん……それよりアンタ、魔王ってことは悪タイプとかあったりするのか?」 「ぬ?」 「悪タイプにノーマルタイプ……『ばくれつパンチ』かましたら……どうなるんだろうな?」 指をポキポキ鳴らしているカイリキーの横でユウキ君がなんか恐ろしいことを呟いています。ユウキ君が魔王様を殺る気満々な気がするのは気のせい……ではなさそうですね。 「フッ 戯言はいい。喰らえ! 我輩の――」 「カイリキー、ばくれつパンチ」 直後、「ぷぎゃうあぽぎゃうわう!?」とワケの分からない悲鳴と同時に重い殴打音が鳴り響き、魔王イーブイさんが上空に飛ばされました。効果抜群、これはあっけなく決まってしまったようです。 「た〜まや!」 「か〜ぎや!」 「ほほほ、可愛い花火が上がったものじゃのう〜」 な、なんというマイペースな方々なんでしょうか。というより梅田さん! 仮にもあの魔王イーブイさんの現飼い主なんですから、魔王ですけど少しぐらい心配をしてあげてください……メスランさんとオスランさんも夜空を見上げて鳴いています。恐らく主人達の真似をしているかもですね。た〜まや、か〜ぎやってね。 やがて魔王イーブイ様が落ちてきて、地面に叩きつけられますと、虫が潰れたような音――悲鳴を上げました。しかし流石は魔王スペックがあるのでしょうか、ダメージはあるものの命に別状はないようです。 「く……我輩の陰謀もここまでか……フッ煮るやり焼くなり好きにしろ」 なんか諦めが早い魔王様なような気が……まぁ、引き際も肝心と言いますけど。一方、魔王イーブイさんのその言葉を聞いた少女の目がキラキラと輝き始めたかと思うと素早く魔王イーブイさんに駆け寄り、抱き上げます。 「じゃあ、わっちの手持ちになってくりゃれ? おばあさん! この子、わっちがもらってもいいでありんすか〜!?」 「ほほほ、もちろんじゃ♪ 可愛がってあげてのう」 「ありがとうでありんす〜! えへへ、よろしくでありんす! 今まで手持ちなしの旅であったけど、これからが楽しみでありんす〜!」 「こ、コラ! 確かに煮るやり焼くなり好きにしろとは言ったが、決して何でもしてもいいという意味では――」 「えへへ〜♪ まーおさん、まーおさん♪」 「勝手に名前を決めるなぁーー!!」 魔王イーブイさん改め、まーおさんは嬉々としている少女に振り回されています。なんでしょう……緊迫とした場面は一瞬しかなかった闘いだったような、そしてこの名も有名ではない場所で今宵――。
「……ここで世界を救った、なんて話、信じてもらえねぇだろうな……チッ」
ですよねー! ユウキ君とは中々気が合いそうな感じがします。いや、本当に。
「今日はもう遅い。ポケモンセンターも閉まっておろう。わしの家で休んでいくがよい」 「わぁ! ありがとうでありんす。それじゃあ、お言葉に甘えさせてもらうでありんすよ〜」 「シゲ〜。なんか終わったみたいだし? ワタシたちも帰ろうよ」 「あぁ、そうだなユイ」 「くぅくぅ!」 「クゥ」 それぞれ、何ごともなかったかのように帰路へと歩いていきます。今宵、この電柱の前で世界を救ったと言ってもいいのですよ!? 皆さん! もう少しその辺について語っても……! という私の主張はもちろん声になること叶わず、徐々に皆さんの背中が小さくなっていきます。 「…………」 あれ? 皆さん帰ったと思ったのですが……ユウキ君だけがまだ私の前に残っていました。も、もしかして私の想いが届いたとかそういう類の奇跡が起こったのでしょうか!? 「モンスターボール……これ、中身あるのかな……」 面倒くさそうにユウキ君がダンボール箱から一個のモンスターボールを取り出しました。そういえば……あの白いお姉さんが言っていた勇者とか救世主って……先程の魔王イーブイさんに関係しているとかそういうことじゃないですよね……肝心の闘いの最中にまさかの空気化、なんて笑い話にもならないのですが。 ユウキ君がカチっとモンスターボールの真ん中の開閉スイッチを押しますと、そこから光を放ちながら現れたのは筋肉の盛った黄土色の体に大きな赤い鼻のポケモンでした。 「へぇ……ローブシンか……」 「ん? ここはどこでござるか? そなたは勇者なのでござるか? そうでござるか?」 「……しゃべれるのか、最近のポケモンは。それになんか勇者って……またワケありポケモンかよ」 「は、そうだ! 魔王が何処にいるか分からないでござるか!? 少年よ!」 「あぁ、魔王なら――」 そう言ったところでユウキ君は一瞬、梅田さん達が去って行った道を見やると……面倒くさそうに頭をかきながら答えました。 「……もう死んだよ」
今、ユウキ君が最高にカッコイイと思えたのは私の気のせいでしょうか。
「何!? あの魔王を我抜き……でござるか!?」 「……まぁ、そうだな」 「そんな馬鹿な……なら我は一体」 「時代ってもんじゃねぇの? 昔と今を一緒にされても困るし」 ユウキ君がローブシンに手を伸ばし、声をかけます。 「行くとこないなら……オレと一緒に来るか? 今、格闘ポケモンを集めて育ててるんだが、六匹集まって強くなったらジム挑戦の旅でも始めようかと思ってたんだけど……来るか?」 ユウキ君にそのような夢があったとは! もしかして今朝イーブイさんを拾わなかったのは、そういう事情があって……? という考えは野暮でしたかね。すいません。 「うぅ、もう魔王がいない世界で我を必要としてくれるとは……! 我の背中! そなたに預けるでござる!」 「…………ま、アンタがやる気あんなら、それでいいよ。よろしくな」 ここでユウキ君とローブシンがお互いに握手を交わしあいます。おぉ……! なんかこれから伝説が始まりそうな、素敵なシーンですね! 格闘無双で駆け抜けるユウキ君とローブシンさん達に期待大です! 「あ、そういえば気になってたんだけど」 「ん? なんでござるか?」 「ローブシンって、あのコンクリの棒を持ってるじゃん……アンタはそれを持ってないのか?」 「あぁ、それならば、永き闘いの終結を打ったときに壊れてしまったでござるよ」 そう言うや否や、ローブシンは私に思いっきりパンチを繰り出して――って、え? 「いいコンクリでござるな。このコンクリ、我がもらうでござるよ!」 メキッという亀裂音が一瞬鳴ったかと思いきや、あれ? 私、浮いている……いや、倒れてる!? 私が横倒しされて、豪快な落下音と同時に煙が立ち上がり――。 「うむ。できたでござる!」 「はやっ」 満足そうに言うローブシンさんの手の中には折られた電柱の一部分――私が、って意識はどうやらここにあるようです。あら不思議……じゃなくて! なんで折ってしまうんですか!? というより、魔王イーブイさんの件が終わり、ローブシンさんの件も丸く終わりめでたしめでたしじゃないんですか!? あぁ……私が折られたことによって、電線が切れちゃってますよぉ……言うまでもなく周りの電灯は消えうせ、ユウキ君はユウキ君でいつの間にか懐中電灯を出して明かりをつけていますし。近隣の皆様、本当にご迷惑おかけします。誠に申し訳ありませんです。うぅ……。 「……これは早くズラかった方がいいな。ローブシン」 「なんでござるか?」 「…………次、いきなり電柱折ったら、クビな」 「ハッ……! 我としたことが……! つ、次からは気をつけるでござる!!」 とりあえず、一旦、ローブシンさんを戻したユウキ君はその場を急いで去っていきます。ほほう、モンスターボールから外の世界が少し見えるようですね……これは助かります。それにしても……まだ魔王イーブイさんの方が可愛かったものだなと思うのは私だけでしょうか? うぅ……今日も最終的には平和、で終わるかと思っていた私が甘かったのですか、神様。あぁ、そうですか。そうなんですね! …………。 ……。 すいません、なんかヤケになっていたようです。 だって、もうここにはずっといましたから……動けないと言えども、声を上げてどなた様かとコミュニケーションを取ることもできなくとも、それでもここで見てきたもの、聞いてきたもの、電柱には電柱なりの色々な想い出が詰まっているんです。なんとここから伝説のポケモンと呼ばれている者が飛翔していく姿も拝めることができたんですよ! あの長くて綺麗な蒼い尾が風になびく姿、暁に生える蒼い翼……とても惹かれましたね、確かフリーザーさんという名前だったはず……今頃、どこを飛んでいるのでしょうかね? それと、ホウオウさんが飛んでいく姿も拝むことができたんですよ! あの通り過ぎた後に現れた虹がとても印象的でした。 後は、梅雨時期になると喜んで現れるカラナクシさん達が私によじ登ってきたりするんですよ。時々、ドジを踏んで落下したりするカラナクシさんもいてハラハラしながら見守った記憶もあります。 あ、そうそうこういうのもありましたね。ある日、一匹のトランセルさんとコクーンさんが私のところに止まっていましてね……雨が強い日も、風が強い日も離れまいとピッタリと私にくっついていたんですよ。あ、でも、ある日トランセルさんが落ちそうになったときがあって、それをコクーンさんが糸を吐いてキャッチしたんですよ! そこからまた二匹仲良く私のところで離れることなく隣同士でいて……そしてそれから数日後の朝日が昇る時間と共に二匹一緒に進化したんですよ! 朝日の光を受けながら、羽をはためかし二匹は恥ずかしそうに寄り添いながら、飛んで行っていきましたよ。さなぎの中からの進化の瞬間も素敵でしたが、あの顔を赤らめた初々しい感じも……とても素敵でしたね。 ふぅ……ちょっと想い出にに浸りすぎていましたかね。 もう、こうなってしまった以上、元に戻ることは叶わないのですが、諦めて、ローブシンさんと共に闘わせてもらうことにしますよ。頑丈さなら自信ありますから、私。そして……これからは色々な世界を見て回させてもらうことにしましょう……! ……それにしても、旅の途中であの魔王イーブイさんとあの少女に再会することがなければいいのですが……はてさて。再会したら一触即発は免れそうにないですよね、それが一番気がかりなんですが。 まぁ、ともかく。旅はもう始まるのですから! 切り替えていきましょう! そうしましょう! 置いていかれないようにと、私はローブシンさんに掴まれながら、新たな世界に飛び込んでいきました。
その後……言わずもがな私はユウキ君とローブシンさん、それとユウキ君の仲間達と共に旅をしました。ローブシンさんの闘い方はとても豪快で私も活躍させてもらいました。ただ豪快すぎて、思ったよりも一緒にいられる時間は短そうだなぁと感じました。旅の途中で道行くトレーナー相手に格闘無双をするユウキ君はとてもカッコよかったですよ! 指示も正確ですし、場を利用した闘い方もしびれましたね! このようにユウキ君はエスパータイプ使いや飛行タイプ使い、そしてゴーストタイプ使いにも屈することなく、次々とジムリーダー達との勝負に勝ち、リーグ戦にも出場を果たしベスト4などの好成績を残したこともありました。 あ、そうそう。あのローブシンさんなんですが、恋に落ちたんですよ! 相手はユウキ君の手持ちの一匹であるコジョンドさん――白と紫の美しい毛並みを持っている可憐で強い大和撫子さんで、とても物腰の柔らかい姿にローブシンさんったらいつも顔を真っ赤にして、セリフも噛みまくりでしたね。そういえばユウキ君も感づいたのでしょうか、ダブルバトルでもローブシンさんとコジョンドさんをよく選んでいた気がします。最終的に無事、結ばれましたよ……二匹とも末永くお幸せに。 え? 今、私はどうしているかって? あははは……やはりローブシンさんの闘い方があまりにも豪快でしたので、遂に折れちゃいました。 草原広がる場所での対人戦のときに、ローブシンさんが放った渾身の一撃で見事にバラバラになってしまいましてね……まぁ、その一撃のおかげで勝負には勝てたのですが。 その後、私は破片になって……その辺で転がっている石と変わらない姿に……って、あれ、不思議ですね。まだ意識が残っていましたか。もうてっきりなくなると思ったのですが……本当に世の中、不思議なことがあるものなんだと改めて思います。緑色の草の先に広がる青い空、その青い世界にゆっくりと流れる白い雲……はぁ……なんだかものすごい平和ですね。風もとても穏やかですし、このままここでのんびりするというのも悪くないですねぇ――。
「がう!?」 「ん? どないしたんや? ゾロア」 「がう! がう!」 「なんや、綺麗な石を拾ったんかいな……ん? それ、もしかして『かわらずのいし』かいな」 「が〜う?」 「ん、あぁ、『かわらずのいし』っちゅうのは、それを持っていると進化できへんようになるんや」 「が〜う……」 「ゾロアちょうどええやんか、おんどれ、進化したくないみたいやし。それ持っていたらどうや?」 「がう♪」 「どこかの街でペンダントにしてもらって、つけてもらおか」 「がう、がう♪」 ……いつの間にか、私は『かわらずのいし』になったのでしょうか? この地に何かしらそういう力とか影響とかあるのですかね。 まぁ、そんな疑問はともかく――。
「ほな、いくで? ゾロア。 はよせんと街に着く前に日が暮れてまうわ」 「が〜う♪」 「おわ!? こら! いきなり頭に飛びつくなゆうてるやろ?」 「がう、がう♪」 「……ったく、甘えん坊さんやな……まぁ、ええわ。行くで?」 「がう♪」
『浪速伝説』と筆文字タッチで書かれた赤い半袖のシャツに黒いジーンズを履いている少年と、その少年のリーゼント頭に乗っかった狐ポケモンのゾロアに風が一つ吹き抜けていきます。
……やれやれ。 まだまだ、騒動は終わりそうにないですね。 けれど――。
「今日の晩飯はモモンジュースが待ってるで!」 「がう♪」
なんだか今、楽しい気分です。
――続く――
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