銀色の季節 ( No.8 )
日時: 2011/02/11 16:55
名前: 粉雪

Bコース「氷」



「寒い」
言い捨てた僕は、室内だと言うのに分厚いコートを羽織っていた。
シンオウ地方キッサキシティ、僕は今、この街に来ている。
雪国シンオウの中でも最北端に位置するこの街は、僕が想像していたよりもずっと寒かった。
一歩踏み出せば膝まで雪に埋まり、寄せられた雪がまるで壁のようにそそり立っている。
まさしく一面銀世界と言う奴だ。

そんな銀色の世界の寒さに耐え兼ね、慌てて飛び込んだポケモンセンター、そこは外に引けを取らないくらい寒かった。
「暖房が故障してしまったみたいなの、少し寒いけど我慢してね」
これは少しどころじゃない。
言ったジョーイさんはさすがと言うべきか、いつもの制服にカーディガン一枚と非常に寒そうな格好をしていた。
さすが雪国の育ち、いやこのジョーイさんがキッサキ出身かはわからないけど。
とにかく温暖なホウエン育ちの僕には耐えられなかった。
昼間はフレンドリィショップに避難していたが、夜になって閉店、仕方なくポケモンセンターに帰ってきたのだ。
最初は相棒、炎ポケモンのヒコザルを抱いて暖を取っていたのだが、窓の外の雪景色に誘われ飛び出していってしまった。
寒さに凍える主人を置き去りにして行くのだから質が悪い。
なんて薄情者だ。
そんなわけで、外で跳ね回るヒコザルを窓越しに眺めながら震えていたのだった、今ここ。

「あいつは寒くないのかねぇ」
「炎ポケモンは体温が高いですから、寒さには強いんですよ」
知ってる、だから湯タンポ代わりにちょうど良かったのだ。
「ジョーイさんは寒くないんですか?」
「えぇ、慣れてますから」
なんと逞しい。
僕なら何年この街で暮らしたって慣れる自信はない。
等と考えていたら……
「制服の下には腹巻き巻いてますし、これカイロ入れるポケットが付いていて暖かいんですよ、ストッキングは耐寒素材で血行を良くする効果もある……」
なんだ、慣れているのは寒さではなく寒さ対策か。
それなら真似できるかも知れないが、残念ながらお店はもう閉まっている、今夜は大人しく重ね着に重ね着を重ね、ダルマのようになって耐えるしかない。

そろそろ眠ろうとヒコザルを呼びに行く。
室内も寒かったのだが、やはり外は段違いに寒かった。
「おーい、ひー坊、帰ってこーい」
呼んでみたが返事はない。
夢中になると周りが見えなくなる奴だ、少し遠くまで行ってしまったのだろうか。
世話の焼ける奴だ、寒いから早く戻りたいと言うのに……
どちらに行ったのかと辺りを見渡す。
はて、昼間は雪の壁があったと思うが?
目を向けた先には、まるで乱雑に積み上げられたような雪の坂である。
そこは、ちょうどヒコザルが遊んでいた辺りだ。
「……おい?」
僕は一つの可能性を思い付いて雪山に駆け登る。
「まさか、埋まったのか! いるなら返事!」
遊んでいたヒコザルが、勢い余って雪の壁を崩してしまったのだ。
崩れた雪山も、いなくなったヒコザルも、すべて辻褄が合う。
「ジョーイさん! ジョーイさーん!」
ジョーイさんはただ事ではない叫び声にすぐに飛び出してきてくれた。
「ヒコザルが居なくなったんです、もしかしたらこの下かも知れない!」
「それは大変、すぐに助けなきゃ」
ジョーイさんは慌ててポケモンセンターに駆け込むと、二人のトレーナーを連れてきた。
「レントラー、探して! 見破るよ!」
女の子がレントラーを繰り出すと見破るを指示する。
眼光ポケモンのレントラーには、透視能力があるのだ。
レントラーが一声高く鳴く。
ヒコザルを見つけたのだ。
「行け、ドリュウズ、穴を掘るだ」
続けてもう一人の少年が繰り出したのはドリュウズだった。
ドリュウズはドリル状の腕を振り上げ……
「は? なに、これじゃあ穴を掘るじゃなくて雪を掘るだ? 雪穴でもなんでも穴は穴だろ、いいから掘れー!」
少年に叱責され慌てて雪を掘り進むドリュウズ。
そしてドリュウズは五秒も経たない内にヒコザルを抱え飛び出してきた。
「ひー坊、無事か?」
「大変、氷状態になってるわ」
僕達は急いでヒコザルをセンターに運び込む。
「急いでお湯を沸かして! 後毛布も!」
ジョーイさんがテキパキと他の職員達に指示を出していく。
だが、それを悠長にまっていられない。
少しでもヒコザルを温めようと、僕は素手でヒコザルを抱き締める。
ヒコザルの身体は驚くくらい冷たかった。
身体が凍り付いているのだから当たり前だ。
「こんな時に炎ポケモンが居れば……」
「炎ポケモン?」
少年が呟き、女の子が問い返す。
「炎タイプの技で温めるんだ、他にも火炎車とかは自分の状態異常氷を回復する効果も望める」
……。
「あ」
使えるじゃん、火炎車……

翌日、僕の両手は霜焼けになって、ヒコザルは雪を怖がるようになっていた。